慚愧のリフレイン

雨野

文字の大きさ
上 下
24 / 46
2章

カリアのこころ

しおりを挟む

 カリアは可愛い。
 カリアはお姫様。
 カリアは宝物。
 カリアは、カリアは…


 カリアは…



 わたくしのことが大好きな、お父さまとお母さま。いつも一緒のお兄さま。とっても優しい屋敷のみんな。そして…可愛いカリア!

「カリアはなんにもしなくていいのよ、私達の可愛いお姫様」
「好きなものに囲まれて、好きなことだけすればいいんだ」

 お母さまの、おひざの上が好き。わたくしを甘やかしてくれるお父さま、大好き!

「カリアー。きしだん、みにいこーよ」
「おにいさま!うん、いきた…」
「あらあら、駄目よカリア」
「そうだよ。男の子のカロンはともかく、カリアは女の子なんだから。剣なんかに興味を持たなくていいんだよ」
「え…じょせいのきしは…?」
「女性騎士かい?彼女達は騎士の家系に生まれたからね。カリアのようなか弱い女の子を守る為、鍛えているんだよ」
「ほら、甘いケーキを食べましょう?」
「綺麗なドレスも、キラキラな宝石も。好きなだけ買ってあげようね」
「………うん…」
「じゃあぼく、いってくるねー」


 お兄さまは1人、行ってしまった。

 ねえ、お父さま、お母さま。カリアね、可愛いものもキラキラなものも好きだけど。




「「公爵家はお兄ちゃんに任せて、いつもニコニコしていればいい。ご本を読んだり、お茶を飲んだり、ちょっとだけお勉強を頑張ろうね」」
「………うん。お父さま、お母さま…」




 本当はね…



「(お父さまとお母さまが好きなのは…ふわふわで女の子らしくて、可愛いカリアなんだわ…

 でも…)」




 女の子らしいものよりも。格好いい、剣が好きなの。







 カリアにはお兄さまだけでなく、お姉さまもいた。お顔をちゃんと見た時…すごくびっくりした。
 白い肌に桃色の頬、輝く髪と大きな瞳。柔らかい笑顔…ああ、そっか。

『可愛い』って、こういうことなんだ。
 わたくしはこの瞬間まで…可愛いというのは、世界でわたくしを指しているんだと思ってたの。




 お姉さまとおままごとをした日。お兄さまに聞いてみた。

「かわいいって、何?」
「え…(そんな、哲学的な話題を振られても)えっと…人それぞれ、違うから…」
「じゃあ、お姉さまってかわいいわよね?」
「うん」
「カリアもかわいい?」
「うん」
「同じかわいい?」
「ううん」

 ………うーん。何が違うの?どこが可愛いって思ったの?お顔?動物に対するのとはまた別?大人になっても可愛い?それとも…
 と質問していたら、お兄さまはお顔をリンゴのように真っ赤にした。


「も…もうっ!!!自分が「可愛い」って感じたら、それが正解なの!!」
「カリアはどこがかわいいの?」
「えー…妹だから…?」
「お顔は?」
「普通」

 む…わたくしのことこんな風に言うの、お兄さまくらいよ!


 お兄さまは、お姉さまにすっごく…なんて言うのかしら?ベタベタ?するようになった。いつも気にして、何度も会いに行って…
 わたくしのお兄さまなのに。カリアをほっといて……なかったわ。

 お兄さまはカリアのことも、同じくらい構ってくれた。何も変わらず、側にいてくれた。だからかな?「お姉さまに、お兄さまを取られちゃった!」とは思わなかった。


 でもお父さまとお母さまは、お姉さまを嫌いなんだって。理由はよく分からない。
 お兄さまは。怒られても、叩かれても。お姉さまのことが好きだって、笑っていてほしいって言ったわ。

 わたくしは?
 お姉さまのこと、嫌いにならなきゃダメ?それとも…


 お兄さまのように。自分の好きという気持ちに、素直になっていいかなあ…?





 悩んで困っていたわたくしの前に…全てを吹っ飛ばしてくれた、あのお方が現れた。
 今までお父さまに言われていた。「貴族とは、平民とは、男性とは、女性とは、大人とは、子供とは…」という。
『こうあるべき』という考えを、正面から否定してくれた。あのお方…ヴィクトルさまが剣を振るい、強い騎士を薙ぎ倒す姿に。わたくしの胸は、初めてのドキドキを感じている!!


「(平民でも、騎士より強くていい!!女の子だって剣を持っていい!!)」


 そういうことよね!?ヴィクトルさま……いや!


「ししょー!!!わたくしに、剣を教えてくださいませ!!」
「ま……って。頼むから…落ち着いてくれ…」


 ししょーはお兄さまのベッドの上で、亀のようにひっくり返った。



「わたくしは…剣を覚えたい!!でもこの家の人は、だれも教えてくれない。だから…ししょー!!」

 ししょーの足を引っ張ると、のろのろと起き上がり。右手でお顔を隠し、大きく息を吐いたわ。お兄さまはまだ床に転がっている。

「………まず。師匠はやめてくれ…」
「せんせー!!」
「先生もやだ…」
「…!?………コーチ!?」
「……名前で呼んでくれ」
「コーチヴィクトルししょーせんせーさま!!」
「お前さん、欲張りだな…」

 そうよ、カリアはとっても欲張りなの。だから、可愛くて強い女の子になりたいの!!
 その為にも、ヴィクトルさまに教えてほしい。大切なことに気付かせてくれたあなたに。


「……カリア。本気…なんだね?」
「ええ、わたくしは本気よ」

 お兄さまが床をずりずりと這ってきて、わたくしを見上げる。

「「……………」」

 目を見つめ…手を伸ばすと、お兄さまの手が重なった。引っ張って立たせて、もう1度見つめ合う。

 するとお兄さまが、ふっと小さく笑った。

「そっか。うん、僕応援する!」
「…!!うん!」
「オレは?オレの意思は???」

 ありがとう、お兄さまなら分かってくれると思ってたわ!ぎゅうっとハグをして、揃ってししょーを見上げる。

「「…………」」キラキラ…
「う…っ!?」

 必殺!おねだりビーーーム!!効果はバツグン、ししょーはたじろいだ。

「そ、そんな目をされても…オレは屈しない…ッ!」
「「…………」」きゅるるーん…
「ううぅ…!(抱き合う幼子2人が、染まった頬と下がった眉、極めつけに上目遣い…これ程の破壊力を持つとは!!)」

 ししょーはなかなかしぶとく。


「お…オレは…オレは…!!」



 数分後。



「………負け、た…」
「「かったーーーっ!!!」」


 がっくりと膝を突くししょー。やったわ!兄妹のキズナが勝ったんだわ!

「けどなあ。大事な娘を唆した!って、オレは下手すりゃ殺される。坊主、自称弟子。その辺考えてんのか?」
「……………」
「…?なんでししょーが死んじゃうの?」
「…そういうモンなんだよ。貴族にとって平民は、その程度の存在なんだ。ま、オレは余裕で逃げれるけどな」

 そうなの…?貴族は、平民を殺すものなの…?
 考えていたらお兄さまが「僕が両親を説得してくる!」と部屋を飛び出した。十数分後戻ってきて…



「許可貰ってきたよ!!」

 と。首から流血しながら、満面の笑みを見せた!?

「お兄さま!?血が…!」
「見せてみろ!!……深くは、ねえな…」
「うん!」

 ししょーは安心したお顔で、お兄さまの首に布を巻いた。そのお兄さまはわたくしの顔を見つめ、両手で肩を掴んだ。


「カリア。将来騎士を目指すとしたら…その手で人を殺める可能性もある」
「…………」
「だから約束して。決して、悪人以外を手に掛けないと。弱者に優しく、助けを求める者には手を差し伸べる。絶対に…手に入れた力を使って、善良な人を苦しめないで…」
「…………」
「今は理解できなくてもいい。代わりに…忘れないで、僕の言葉を。この先…何があろうとも」
「…うん」


 正直に言って…お兄さまの言葉は、半分くらいしか分からない。けど…
 悪いヤツをやっつけて、弱い人を助ける。そんな、物語のヒーローを目指せばいいのよね!?




 カリアは格好いい!
 カリアは強い!
 カリアは優しい!
 カリアは速い!
 カリアは…えーと…強い!!!


 そんな大人になるんだって…自分で!!決めたわ!!!
 そしていつか、ししょーのように…逞しい男の子と結婚する!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

年に一度の旦那様

五十嵐
恋愛
愛人が二人もいるノアへ嫁いだレイチェルは、領地の外れにある小さな邸に追いやられるも幸せな毎日を過ごしていた。ところが、それがそろそろ夫であるノアの思惑で潰えようとして… しかし、ぞんざいな扱いをしてきたノアと夫婦になることを避けたいレイチェルは執事であるロイの力を借りてそれを回避しようと…

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

【本編完結】若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!

はづも
恋愛
本編完結済み。番外編がたまに投稿されたりされなかったりします。 伯爵家に生まれたカレン・アーネストは、20歳のとき、幼馴染でもある若き公爵、ジョンズワート・デュライトの妻となった。 しかし、ジョンズワートはカレンを愛しているわけではない。 当時12歳だったカレンの額に傷を負わせた彼は、その責任を取るためにカレンと結婚したのである。 ……本当に好きな人を、諦めてまで。 幼い頃からずっと好きだった彼のために、早く身を引かなければ。 そう思っていたのに、初夜の一度でカレンは懐妊。 このままでは、ジョンズワートが一生自分に縛られてしまう。 夫を想うが故に、カレンは妊娠したことを隠して姿を消した。 愛する人を縛りたくないヒロインと、死亡説が流れても好きな人を諦めることができないヒーローの、両片想い・幼馴染・すれ違い・ハッピーエンドなお話です。

夫と親友が、私に隠れて抱き合っていました ~2人の幸せのため、黙って身を引こうと思います~

小倉みち
恋愛
 元侯爵令嬢のティアナは、幼馴染のジェフリーの元へ嫁ぎ、穏やかな日々を過ごしていた。  激しい恋愛関係の末に結婚したというわけではなかったが、それでもお互いに思いやりを持っていた。  貴族にありがちで平凡な、だけど幸せな生活。  しかし、その幸せは約1年で終わりを告げることとなる。  ティアナとジェフリーがパーティに参加したある日のこと。  ジェフリーとはぐれてしまったティアナは、彼を探しに中庭へと向かう。  ――そこで見たものは。  ジェフリーと自分の親友が、暗闇の中で抱き合っていた姿だった。 「……もう、この気持ちを抑えきれないわ」 「ティアナに悪いから」 「だけど、あなただってそうでしょう? 私、ずっと忘れられなかった」  そんな会話を聞いてしまったティアナは、頭が真っ白になった。  ショックだった。  ずっと信じてきた夫と親友の不貞。  しかし怒りより先に湧いてきたのは、彼らに幸せになってほしいという気持ち。  私さえいなければ。  私さえ身を引けば、私の大好きな2人はきっと幸せになれるはず。  ティアナは2人のため、黙って実家に帰ることにしたのだ。  だがお腹の中には既に、小さな命がいて――。

捨てられた中ボス令嬢だけど、私が死んだら大陸が滅ぶらしいです。

雨野
恋愛
母を失ったばかりの伯爵令嬢セレストは、自身を嫌悪する父親により森に捨てられた。 獣に襲われもう駄目だと諦めた瞬間、使い手の希少な魔法の力に目覚め、獣は砂となって消える。 同時に彼女の頭に「マリン」と名乗る女性の声が聞こえるようになり、マリンの持つ特別な力を授かった。 'セレスト〜!ほら構えて!' 「う、うん…そいやっ!!…やった今日のご飯ゲット!」 魔法とマリンの力を使い、魚を捕まえたり洞窟暮らしのサバイバルを楽しむ2人。 伯爵家に復讐を…と考えもしたけれど。 マリンとの暮らしが楽しすぎて、どうでもいいやとバッサリ断ち切り。 どうぞ私は抜きで、幸せな家庭を築いてくださいね。それより今日は町でお買い物!久しぶりにお肉食べたいな〜♪ ずっとこのままでもいいかな〜と思い始めるも、セレストの生活は多くの人を巻き込んで、度々波乱を起こすのであった。 異世界転生風の何かなお話。 逆ハーレムですが、最終的に1人を選びます。 シリアスにしたかったけど無理だった。基本コメディ、時々シリアス。 基本的に主人公視点で物語は進みます。時折三人称、タイトルに*が付いているのは他キャラ視点。 1章完結。 2章の青年期になると、ラッキースケベ的なイベント展開増えます。R-15程度ですが、主人公が色んな人とイチャコラするのが無理な方は逃げてください。

王太子殿下の執着が怖いので、とりあえず寝ます。【完結】

霙アルカ。
恋愛
王太子殿下がところ構わず愛を囁いてくるので困ってます。 辞めてと言っても辞めてくれないので、とりあえず寝ます。 王太子アスランは愛しいルディリアナに執着し、彼女を部屋に閉じ込めるが、アスランには他の女がいて、ルディリアナの心は壊れていく。 8月4日 完結しました。

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

処理中です...