慚愧のリフレイン

雨野

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2章

カロンの決意

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 僕は弱い。けれど…未来を知っているというのは、何よりも大きな武器になる。

 エリオット陛下は必ず姉上を迎えに来る。だからこそ、強気に『成人を迎えたら除籍する』という提案をした。その部分に関して、両親は諸手を挙げて喜んだよ。
 けどヴィクトルはそんな事を知らないから、子供の短絡的な行いとしか見えないだろうね。


「………嬢ちゃんよ。18歳になったらどうするつもりだ?」

 僕の部屋にやって来て、ベッドに並んで座る。彼の優しい心につけ込むのは良心がチクチクするけど、どうにかして味方になってもらいたい。
 だからこそ同席してもらい、僕の覚悟を示した。僕らを哀れな子供と思うなら…いつか姉上が窮地に立たされた時、助けて欲しい。

「嬢ちゃんがあの書類によって、今後は公女として何不自由ない暮らしを送れるのは理解したつもりだ。
 で…成人後の生活についても考えてんだろ?「それまでに結婚相手か仕事も見つかると思う~」なんて、不確かなモンじゃねえだろうな?(オレ子供に何聞いてんだろ…)」

 うーん…どう答えるべきか。「大丈夫、17歳になったらお兄さんが迎えに来るよ!」なんて言えん。ヴィクトルも納得させるには…


「その時は…僕と結婚してもらうつもり」
「…………………ん?」
「あくまで形だけ、ね」

 ヴィクトルは目を点にして固まった。


 いや、咄嗟に浮かんだにしてはいい案じゃない!?僕が年下だから、1年待ってもらう事になるけど。その間の生活くらい、17歳になった僕ならどうにでも支援出来る。
 僕の結婚に関しても、親の同意なんていらないんだからね。何も心配はいらない。

 姉上が誰とも結婚せず、やりたい事が見つからないのなら…僕が最後の逃げ場になる。その後好きな人が出来たりしたら、離婚してくれればいいし。
 だから僕は、誰とも婚約をしない。姉上の行く末を見守ってから考えるよ。


 という事を説明すると。


「……(いや最終手段が公爵夫人て…)もしかして。除籍云々も、結婚の為か?」
「いや…そうそう!!血が繋がっていなくとも、養子縁組された姉弟じゃ結婚できないもんねっ!!」

 ありがとう、そのアイデアいただき!!

「…嬢ちゃんがずっと坊主と一緒にいたいと願ったら?」
「え」
「形式だけでなく、本当の夫婦になりたいと言ったら?」
「……………」

 それは、あり得ない。だって姉上はアルフィー様と恋をするんだから。皇国に帰った後、皇女として王太子殿下に嫁入りするんだから。でもそれは僕しか知らない未来…


 だから、僕の答えは…


「…………いいん、じゃない…かな…?」

 姉上が、僕なんかを好きになってくれたなら。僕は大喜びで……なんだろ。胸が、ドキドキしてギチギチ悲鳴を上げている。顔が熱い…風邪かな?

「………?」
「(坊主のこの顔…ははーん?
 こいつ…自分の初恋を自覚してねえな~?)」

 わっ!?ヴィクトルはその大きな手で、僕の頭を乱暴に撫でた。いたた、首もげる!!てかそのにやけ面、ムカつくなあ!?

「こぉのマセガキがよ~。まあオレもガキん頃は、近所の美人なお姉さんに夢中になったしな~」
「?何言って…」
「逃げ道になるとか、後手に回ってんじゃねえぞ?他の男にかっ攫われたくなきゃ、今のうちにアピールしときな。はははっ!」

 ???

「なんか勘違いしてない?」
「はは…は?」

 手を止め、ポカンと間抜け面をしている。やっぱり…

「あのねえ。僕は姉上に特別な感情はないよ。全く、人をロリコンみたいに言わないでくれる?」
「………ん?」
「子供に邪な想いを抱く訳ないでしょ。もうっ」
「……(あれ?坊主のが年下、だよな?)」

 失礼しちゃうなあ!僕の恋愛対象は15歳以上です!!


 ………だよね?


「………???(なんだろ、心臓に矢が刺さってる気がする。病院行くかな…)」
「(今時のガキ、マジわかんねえ~…)」


 僕らは同時に大きく息を吐いた。


 その直後。


 ばたーーーんっ!!!

「たのもーーーっ!!」
「「!?」」

 びっくりした!!カリアが、ノックもせずに扉を開けたのだ。

「こらカリア!ノックしなさい!!」
「う…ごめんなさい…」

 シュンとし、一応反省しているようだ。で…用件は?ツカツカと歩いて来て…止まったのは。

 ヴィクトルの前?

「?オレに用事か?」
「はい!!…ヴィクトルさま!!」
「「ヴィクトル様!?」」

 呆気にとられる僕ら。カリアは意に介さず、その場に両手と膝を突いたと思ったら。声高に言い放った。


「おねがいします!!カリアを…わたくしを!!
 あなたの弟子にしてください!!ししょー!!!」


 と。

 ヴィクトルはひっくり返り、僕はベッドの上から転がり落ちた。


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