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番外編

有り得たかもしれない道3

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「ごめんなセレス、お邪魔します」

「ランディ兄さん?あの…何が起きてるんです?」

 ぐ…ランドールとセレスタンは度々交流があり、かなり砕けている。私など、まだ皇太子殿下呼びなのに!まあいい、徐々に距離を縮めよう。
 という訳で、ランドールとルクトルも連れて来た。私だけでは…3人が萎縮するかもしれないし、盛り上がらないと思ってな。

 出迎えてくれたセレスタン。今日の装いはセーラータイプのシャツにハーフパンツ…可愛い。ルシアンにも似合いそうだ…と想像してしまう。しかし胸元が見えないな…困った。
 目をまん丸にしながらも(多分)「どうぞ…?」と招き入れてくれた。すでにブラジリエとリオもいた、私達の姿に呆然としている。

「すみません、突然来てしまって」

「殿下…それは…構いませんが…」

 彼女の頭の上に、疑問符が浮かんでいる幻覚が見える。混乱の極みにいるようで、椅子が足りない…と呟いた。
 ふむ。寮の備品は…2人掛けのソファー1つ、スツール1つか。

「あー…寝室にソファーセット運びますか。ベッドに2~3人座ればいいし…」

 何…女性の寝室だと…!?それは、色々とまずい。
 が、戸惑う私達などお構いなしに、ブラジリエがソファーをひょいっと持ち上げた。

「わあ、やっぱりジスラン力持ちだねえ」

「そうか?」

 セレスタンは力のある男が好きなのだろうか…弾んだ声でブラジリエの背中を見つめる。
 私だって鍛えてるぞ!と見せつける為、テーブルを運んでみせた。彼女はカップの準備をしていて見てなかった。私は無言で寝室に置いた…。

「「く…ふふ…っ」」

 いっそ笑え…。


 って、結局寝室に入ってしまった!?仕方ないので…こっそり観察。物は少なく、掃除の行き届いた部屋だ。
 誰がどこに座るか?話し合いの結果…ルクトルとランドールがソファー。リオがスツール、つまり…。


「「「…………………」」」


 ベッドの上でセレスタンを真ん中に、私とブラジリエが両側に座った。


「(今更だけど…何この状況?ランディ兄さんはともかく、どうして殿下2人が…?)」

「(殿下…セレスタンに近くないか…!?くそ、俺だって…!)」もぞ…

「(!?ブラジリエ、何故距離を縮めた!?この…!)」ずいっ…

「(近い近い近い!?やば、心臓バクバク!両側に聞こえませんように…!)」

「(うーん…側から見ると、男3人が密着してるなあ)」

「(セクハラですよ兄上…)」

「(なんで平民の僕が、殿下方と同席を…?でも立ったら坊ちゃんが悲しむし…)」


 こうして混沌とした茶会が始まった。






「それでな、ルキウス殿下が膝抱えて落ち込んでな」

「そうなんですね~」

「あの時は申し訳ないけど、笑っちゃいましたね。令嬢の絶叫がお茶会に響きまして」

 最初は怖々としていたセレスタンだが、段々と笑顔になってくれた。2人を連れて来てよかった。

「そういえば、僕も…入学式で皇太子殿下を初めて拝見して。
 怖くなっちゃって…ロッティの手をぎゅっと握って」

 う…私が生徒会長として挨拶した時か。笑顔になったら、新入生がパニックになったやつ。

「ごめんなさい、殿下。本当はとっても優しいお方だって、分かってますから」

「そうか…」

 なんだかくすぐったいが…頬を染めて笑ってくれて、つられて頬が緩んでしまう。



 あまり長居しては子供達、特にリオが気を使うと思い、早めに帰るつもりだったのだが。本命である…刻印の確認が出来ん!
 これはもう…本人に事情を説明する他無いか?会話を楽しみながらも、そう考えていたら。

「それでね~、ロッティってばぁ、ジスランに飛び蹴りしちゃってえ。
 バジルも巻き込んで、3人で転がって~。8歳くらいだっけ?」

「そんな事もありましたね…にしても坊ちゃん?なんか、テンション高くありません?」

 そう。彼女は陽気に膝を叩きながら、思い出話をしてくれる。だが…私の膝だぞ。リオがハラハラしているが、面白いので好きにさせておく。

「ねージスラン?きみ……わあっ!?」

「………………」

 なんだ!?さっきから無言だったブラジリエが…ふらりと後ろに倒れた!
 セレスタンがなんとか支えようとしたが、結局揃ってベッドに沈む。

「あじゃ~。何やってんの~」

「…………zzz」

「「「「……………」」」」

 これは、寝てる…?まだ夜の8時を回ったところだが。

 ブラジリエは真っ赤な顔で、セレスタンに腕枕されている状態。この距離はまずい!と思って急いでセレスタンを起こす。
 だが…この子もフラフラしている。先程よりも顔を赤らめ、私の手をぎゅっと握る…。

 この症状は…まさか?


「あ。俺が持って来た…ウイスキーボンボン…?」

 ランドールの呟きに、私はバッ!とブラジリエの手元を覗き込む。そこには…チョコの包みが2つ。
 これは私達だけで食べるつもりだったのに、子供達にも混じってしまったようだ…!

「…坊ちゃん?」

「なあに?」

「このお菓子…食べました?」

「ん~…?」

 セレスタンはよく見えなかったのか、前髪を上げて…カチューシャで留めて。眼鏡を外し、リオが差し出す包みを凝視する。そして「あ~!」と言って笑った。

「食べた~!ちょっと苦かったけど、おいしかったよ~」

「ちなみに…おいくつ?」

「んと…みっつ!」

 とか言いながら、指が示すのは4だ。完全に酔っている!
 

「んなっ!?」

「うへへへ。殿下、背中おっきい~。何食べたら、こんなに大きくなるの~?お肉?」

「坊ちゃーん!?」

「高いお肉かー!そうだろー!?霜降りってやつだー!」

 セレスタンが私にくっ付いたかと思えば、背中に回って抱き締めてきた!?
 ぐりぐりと肩に額を擦り付ける…これ、正気に戻ったら土下座されそうだ。

「ももも申し訳ございません!坊ちゃん、いけませんー!!」

「いいや、構わない。それより…悪いがもうお開きだな。
 リオ、ブラジリエの部屋は分かるか?」

「は、はい」

「じゃあ…セレスタンはこのまま私が見ておくから。彼を部屋まで運んでくれ、ランドールも手伝ってくれ」

「わかりました」

「はい…(そういえば殿下、いつから坊ちゃんを名前呼びに…?)」


 ブラジリエの懐から鍵を漁り、3人は部屋を出る。
 私はルクトルと頷き合い、セレスタンをベッドに横たわらせた。

「ぬぅ~…?」

「すまない、すぐに終わるから…」

 どうか彼女が酔っ払って、この事を覚えていませんように。
 そう念じながら…襟に手を掛けた。


「……ある」

「そう…ですか…」

 左鎖骨の下に…薄っすらと刻まれている。
 私はどうするべきだろうか。父に…報告すべきだろうが。

 上手くすれば…彼女を私の婚約者にできる。だがそれは…。


「……ルクトル。父上には私が報告する…お前は何も知らない振りをしてくれ」

「…はい」

 まだ、答えを出せない。襟を直そうとしたら…小さな手が重ねられた。

「…殿下。どうしてそんなに…苦しそうなお顔してるの?」

「苦しい…?私が?」

「うん…」

 彼女の金色の瞳は焦点が合っていないようだが、私を真っ直ぐに射抜いた。
 私は見惚れてしまい…彼女に覆い被さった体勢のまま、動けずにいた。


 どれほどそうしていただろうか。恐らく数秒だろうが…私には数時間にも感じられた。

「っ!?」

 セレスタンの細い両腕が伸ばされ、私の後頭部に触れた。引っ張られ…抵抗できず、彼女の胸に顔を埋める形になってしまった。

「よしよし。殿下、いつも頑張ってる」

 彼女は私の頭を抱き、優しくポンポン叩く…。誰かにこんな風にされるなんて…何年ぶりだろう。
 幼い頃…姉上と喧嘩して負けて。母の膝に乗せられて、慰められた日以来か…。ちなみに姉上は叔父上の家に逃げてた。


「小さい頃…お母さんがこうしてくれたの。両親に怒られた後とか、嫌な事があった時。ぎゅってしてくれて、嬉しかった…」

 お母さん…?伯爵夫人の事ではない口振りだ。

 ルクトルが頬を紅潮させながら、右往左往している姿が横目に見える。
 その間もセレスタンは、私の頭を撫で続ける。最初は恥ずかしかったのに、心地良さを覚え始めた。


「……セレスタン」

「んー?」

「私が、君の事が好きだと…言ったら。どうする…?皇太子妃になって欲しいと、願ったら」

 卑怯かもしれないが、そう訊ねてしまった。酔っている時の言動は、その人物の本性だと聞くし。


「………うーん…。嬉しい、けど。僕に…皇后様は務まらないなぁ~」

「…!大丈夫だ、あの母でも務まっているのだから。何せ学生時代、授業をサボりまくったり…父上の背中を蹴っ飛ばして、池に突き落とした事もある!(叔父上談)
 今でも仕事をサボろうとする父上を追う振りをして、一緒に逃げる事もあるんだ。すぐ捕まるが」

「んふっ」

 ルクトルの小さく吹き出す声が聞こえた。
 セレスタン・ラサーニュについて調べて分かったが。彼女は幼い頃から努力家で…心優しい人物だ。

 体を起こすと、セレスタンは寂しそうに眉を下げた。なので…今度は私が、彼女を腕に抱いた。
 2人でベッドに横たわっている形だが、生々しい感情は一切無く。ただ温かい…そう思う。


「確かに少なからず皇后としての教育はあるが…君なら乗り越えられると確信している。
 あらゆる困難から、必ず私が守る。私は出来ない約束はしない、それでも駄目か…?」

「でも僕は…伯爵になって。後継を産まないと…」

 セレスタンは沈んだ声で言い、私の背中に腕を回す。そうか…。

「それは、君が望んでいる事か?」

「………違う、やだ。逃げたい。僕もう、頑張るの疲れた…。
 どれだけ努力しても、結果が出ない。父上も褒めてくれない…ロッティに追い付けない。みんな僕を笑う…僕…僕、もう無理…」

 ぐす… と音が聞こえてきた。逃げたい…か。
 貴族に生まれた以上…責務は果たすべきだが…。

「なら皇后として、私を支えてくれないか?もしも伯爵が何か言うのなら…私が相手をする」

「……………本当に、守ってくれますか?僕を攫ってくれますか。幸せに…してくれますか?」

「誓う」

 間髪入れず答えれば、セレスタンはゆっくりと顔を上げた。
 目は潤み、唇をきゅっと結んでいる。


「……でも、僕。殿下の事好きなのか…わかんない」

「うぐ…」

「お話するようになったの最近だし。皇子様だし、お顔怖いし…」

「ぶふぅ…んっ」

 ルクトルめ…これがランドールだったら速攻ど突くのだが。

「貴方の事、よく知らないし…」

「これから知ってくれればいい」

「…?なんで、殿下は僕を好きなの?僕男なのに…本当は女だけど…」

 あー…それは追々。でも、そうだな。

「君の泣いている姿を見たくなくて。あと…小走りで私を追い掛けてくれるのが愛らしくて。
 たまに笑ってくれると…魂が震える程に嬉しくて。頑張っている様子を、応援したくて。君を想う理由など、挙げたらキリがない。
 だから…どうか私という男を、頭の片隅に入れてくれるだけでも、いいんだが…」

「…うんっ」


 彼女はふにゃりと笑った。その表情を、見て…。


「…………………」


 私はこれまでに無い程に、頭が熱くなり。呼吸が乱れて、心臓が激しく鼓動する。

 このまま…手放したくないと。強く思った。




 次第にすうすうと、穏やかな寝息が聞こえてくる。
 名残惜しいがそっと腕を外し、布団を被せて。額にキスをして、離れ……




「今のお話はなんですか?」

「「!!?」」

 突然、氷のように冷たく重い声がした。
 幸福感から一転、警戒態勢に入りルクトルの腕を引いた。声の主は…


「リ…リオ…?」

 私達に殺気を飛ばす、この少年は。本当に…先程まで微笑んでいた執事と同一人物なのか、と疑ってしまう。
 まるで心臓を鷲掴みにされているような、首筋に刃物を当てられているような悪寒。無意識にルクトルを背中に隠した。

「今の…とは。私が、セレスタンを好いている…という話か?」

 恐怖心を悟られぬよう、平静を装い対峙する。

「ええ、それと。坊ちゃんが…「本当は女だけど」と仰った事。事実なら…どうして…殿下はそれをご存知なのか。僕とシャルロットお嬢様ですら知らなかったのに…」

 まるで言葉が質量を持っているかのように、私に重くのし掛かる。
 それを答える、前に。

「ランドールはどうした…?」

「ご心配なく、ジスラン様の部屋で少々眠っていただいております。
「後片付けはしておくから、お前もこのまま部屋に帰れ」と…どうにも不自然でしたので。坊ちゃんの身に何か…と」

 リオはそこで言葉を切り、私をじっと睨む。次は…私の話を聞かせろ、という事か。


 嘘も誤魔化しも無く、私は全て語った。
 聞き終えるとリオは、顎に手を当てて考え込む。

「(嘘を言っている風ではない。本当に、偶然が重なった結果か…。
 しかし師匠がお嬢様の真実を知らないとは思えない。どうして僕にすら秘密にしたのか…問い詰めたいところだが。きっと何か考えがあるのだろう…)
 確認したいのですが」

「なんだ…?」

「セレスタンお嬢様を…皇太子妃に迎えたいというのは本気ですね?」

「ああ。伯爵についてはまだ調査中だが…必ずこの子を幸せにする」

「まあ相手にされればの話ですよね…」ボソッ

 今何か言ったか?まあいい。
 私の覚悟は伝わったようで、リオは大きく息を吐いた。その後数分間、誰も言葉を発さず…



「ん~~~…」

「「「!!!」」」

 静寂の中、セレスタンの間延びした声が響いた。
 全員ベッドに視線を向ければ…彼女はいつの間にか上体を起こして、半分開いた目で私達を見つめている。その視線に込められた感情が読めず、誰も身動きが取れない。

 もう…酔いが覚めたのか?会話を聞かれていたか…!?私はごくりと喉を鳴らし、どうするべきか思考を巡らせていたら。


「……きっつ…」がばっ

「「「ぶっっっ!!?」」」

 彼女はおもむろに、服を脱いだ!?私達の動揺などお構いなしに、続いてシュルシュルとサラシを解き…3人で一斉に寝室を出た。


「「「はあ、はあ、はあ…!」」」

 膝に手を突いて、乱れた息を整える。
 しかし寝室に戻る度胸はなく。まあ…夏だし。風邪も引かんだろう…と判断して。
 片付けは明日、リオがしておくと言うので帰宅の途についた。途中ランドールも拾って、馬車に乗る。




「ふわあ…俺いつの間に寝てた?」

「「はは…」」

 ランドールは呑気に欠伸をしている…何事も無くてよかったが。彼を自宅で降ろし、皇宮へ帰ってきた。
 ルクトルはすぐに休ませて、私はその足で父上の元へ。


「父上。不死鳥の刻印について…お話があります」

「見つかったのか?」

 本日の仕事を終えて、だらだら全開の父は顔だけキリッとさせた。
 私は…スッと背筋を伸ばし、深呼吸。拳を握り、覚悟を決めた。

「はい。1年生です」

「そうか…名前は?」

「……申し訳ございませんが、暫く伏せさせてください」

「なんだと…?」

 父上…いい加減起きてください。ベッドに寝転がった状態で顔を険しくしても、怖くもないですよ。


「その、子は。私が…好いている女性なので!!」

「「は?」」

 ソファーに座っていた母まで声を上げた。

「刻印とは関係無く、いずれ…求婚したいと思っています」

「……………アカデミーの、生徒なんだよな?女の子で…」

「はい」

「オーバンに聞いてもいい?」

「どうぞ」

 叔父上は彼女を男子と認識しているから、辿り着かぬだろうが。

「そうか…………頑張れ!」

 父上は思考を放棄したのか、親指を立ててみせた。母も同じポーズを…私も返す。


「ではこれで失礼致します!お休みなさいっ!」

「「おやすみ~」」

 両親の生温かい視線に居心地が悪くなり、ダッシュで寝室を出る。



「大変よ、あなた。お嫁さんだわ」

「とりあえず…恋が実ったパターンと、振られたパターンを想定しておこう」

「ええ!」

 縁起でもない事しないでください!!




 ※




 翌朝。私達は普段、生徒が溢れかえる前に学園に向かう。
 ルシアンも同じ馬車に乗るのだが…。


「……兄上達は昨夜、後輩の部屋を訪ねたそうですね」

「「!!?」」

 いつも、話し掛けても無視されるのに。ルシアンから…声を!?

「あ、ああ。少し用事があって…」

「そうですか」

「……えっと。次は、ルシアンも一緒にどうですか?」

「結構です」

 それきり黙ってしまった。く…!折角のチャンスが!!


「(………弟は、私なのに。ああそうですか、反抗的で不出来な弟はもう要りませんか。くそ…!)」


 なんだか、不機嫌顔になっていないか…?どうしたらこの子は、昔のように素直になってくれるのだろう。
 結局学園に着いたら、スタスタとどこかへ行ってしまった…。



「失礼致します」

「…入れ」

 生徒会室で待っていたら、リオが来た。それは普段の…穏やかな執事の姿だ。

「セレスタンは、酔っている間の出来事を覚えていないそうです。部屋の片付けは済んでいますので、ご心配なく」

「わ、分かった…」

「はい。それでは僕はこれで」

 それだけ?彼はにっこり笑い、本当に出て行ってしまった。
 つまり…私は試されているのか。


「兄上…」

「ルキウス…?」

「……いいだろう。絶対に…彼女を振り向かせてみせる…!」

 告白を覚えていないのは、少々残念だが!


「ランドール!ルクトル!」

「「へっ?」」

「若い女性が好む贈り物はなんだ!?」

「「………………」」

 甘い菓子か、宝石か?いやドレス…!?それとも男らしさアピール?さあ意見を出してくれ!!




 十数分後。


「…だから!まずは名前呼んでもらえっての!!」

「土地を贈る!?そんなもんドン引きされるだけです!!」

 話し合いはヒートアップ、拳を握って応戦する!


「どうして景色が綺麗な場所に誘うのがいけないんだ!?」

「そこ泊まりがけの場所じゃねえか!!」

「下心丸出しですか!!相手はまだ12歳ですよ!?」

「部屋は別にするに決まっているだろうが!!お前ら私をなんだと思っている!?」

「そういう問題じゃありません!!女性の気持ちを考えなさい!!」

「付き合ってもいない、ましてや友人でもない男にいきなり旅行に誘われるんだぞ!!」

「……………ナシ、だな」

「「当たり前だ/です!!!」」


 ふう…ちょっと一息。
 うん、冷静になってきた。

 そろそろ生徒達が登校する時間…よし。
 鏡を確認。髪型を整え…衣服を正し。部屋を出て生徒玄関が見える位置に待機。


 来た!シャルロット嬢とリオを連れたセレスタン…行くぞ、自然に挨拶!


「おはよう、セレスタン」

「あ…殿下!おはようござ……」

 ん?何故…固まる?昨日の記憶は無いんだろう?

「お兄様?」

「坊ちゃん…?」

「あ…あう?(なんで…?殿下の顔を見ると、胸がドキドキしちゃう…)」

 すすす…と妹の背に隠れ。

「昨日は…気付いたら寝てて…ごめんなさい。僕は何か、失礼をしませんでしたか…?」

 と、か細い声で言う。いや、失礼をしたのは…お互い様だが。
 真っ赤な顔でプルプルしているので、私の悪戯心が刺激され。


「……そうだなあ。霜降り肉が食べたい、と言っていたな」

「ファッ!!?」

「なのでランチに用意した。シャルロット嬢もリオも、昼は生徒会室に来ないか?」

「ひょええええっ!?」

 さて、急いで手配せねば。
 両手を頬に当てて絶叫するセレスタン。
 胡乱な目を私に向けるリオ。そして……


「お兄様、昨日…殿下と何か…?」

「えっとね、あのね…」

 シャ…シャルロット嬢が。全身からどす黒いオーラを撒き散らしている…!
 気付けばリオの姿が無い。逃げたか!?

 これは…前途多難だな、と思いつつ。なんとかシャルロット嬢を宥めて。
 別れ際、セレスタンの腕をぐっと掴んで引き寄せた。


「いつか必ず、君を攫いに行くから」

「え……?」


 今は分からなくていい。だが…私は諦めんからな。

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