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学園4年生編
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しおりを挟む「お願いします、フェニっ君様!!(この名前やだな…)
オレは全て自力で防ぎます、ぶっ放してください!」
「よし、参るぞ坊主」
火組はエリゼがディンシストリーの盾を構える事で、フェニっ君が特大の炎を展開した。討伐隊はフェニっ君が指定した範囲から遠く離れている。
「哀れな魔物達よ。次は…魂を持ち温かい身体で生まれ直して来るがいい」
「(激しく熱いはず、なのに…何故か優しい炎だ。焼かれる事が、救いにすら思える)」
エリゼは燃え盛る炎を眺めながら、そう感じたらしい。
この地区は全てエリゼが細かい指示をして、フェニっ君が焼く。魔術師達が延焼を防ぐ、騎士は炎耐性がある僅かな魔物を倒すという流れ。
数時間後、鎮火された跡には…大きな魔石のみが転がっていた。小さい魔石と素材は燃え尽きてしまったのだ。
焦土化してしまったが、よく見ると小さな芽があちこちに生えている。きっとすぐに、自然溢れる土地に戻るだろう。
だが、それだけでは終わらない。地中深く隠れていた…ミミズやモグラ型の魔物が姿を現したのだ。
フェニっ君は相性が悪いので、炎の結界で外に出さないようにして…エリゼ達の出番だ。
「行くぞお前ら!!精霊様に頼ってばかりいないで、オレ達の手で守るんだ!!!」
彼の号令と共に討伐隊始動!
エリゼは盾で攻撃を防ぎながら、得意の魔術で魔物を仕留めていく。ただし魔物の力は相当なものなので、騎士も魔術師も2~3人で一体を倒すのがセオリーだ。
それをエリゼは、1人で何体もの魔物を倒す。それは防御に気を取られなくて済むので、膨大な魔力量を攻撃に最大限回せる事が大きい。
「さあ掛かって来い!このエリゼ・ラブレーがテメエらに救いをくれてやる!!!」
*
ロッティは上空から森を見下ろしていた。
「わ、あの燃えてるの火組ね。負けないわ…!
偵察班、魔物の現在地は!」
「はい!!間もなくポイントに押し寄せて来ます!」
隣を飛ぶ魔術師が探索魔術で、魔物の位置を調べている。ロッティはにやりと笑い…バズーカを構えた。
「行くわよ、前人未到の最大火力!!10(ディス)!!」
その言葉と共に、高濃度の魔力弾が撃ち出される。着弾すると…轟音と共に煙が上がり、直径5kmのクレーターが完成した。
「次行くわ!魔力装填お願い!!」
「はい!重っ!?」
ロッティは地上に降り、魔術師達にバズーカを託した。
ドラちゃんは基本後方支援で、結界を張るのと植物を操って魔物を足止め。その植物ごと吹っ飛ばすのはロッティと…ジスランの仕事。
ジスランはヴィストーラの聖剣を目の前に真っ直ぐ静かに構えた。鞘は、ロッティの腰にある。彼女を守ってくれるようにと。
彼が立つのは誰もいないクレーターの手前。すぐに魔物第二波がやって来るだろう。
「この剣は…護るものが多い程力を発揮する。こうして窮地に立ち…その意味を理解出来た」
剣が…少しずつ輝きを帯びている。
「それは、数ではなく想いの強さ。俺には護りたい国が、人々の暮らしがある。
それら全てを敵に回してでも…俺の全てを捨ててでも護りたい人がいる!!友人、家族、使用人。何より…!」
剣の輝きが増していく。それは遥か後方に待機している騎士達すらも、直視出来ない光。まるで太陽のようだ…。
「俺の唯一…シャルロット。彼女を、彼女が愛するものを護る為!!
俺は…あらゆる敵を斬り払う!!!」
ジスランは強く強く柄を握り締め。渾身の力で剣を薙ぎ払った。ブオンッ!!という音が周囲に響いた直後、彼の前方…迫って来ていた魔物達を光が捉え。
—キイィィン……ガカァァンッ!!!と…視界に映る景色全てが爆発した…!先程のバズーカの全力にも匹敵する威力、この2撃で魔物の8割は消えただろう。
更に山脈もかなり削られている…これは流石に…強すぎるのでは…?
「ジスラン!!」
「…ロッ、ティ」
だが彼は反動からか青い顔で大量の汗をかき、剣を地面に突き刺し片膝を突いた。そして駆け寄って来るロッティに左手を差し出す。
「頼む、手を」
「え…?」
「俺は、お前とこうして触れ合って…肩を並べているだけで。とにかく、なんか凄い力が湧いて来るんだ」
「…ふふっ分かったわ!一緒に戦いましょう、私の旦那様!」
「ああ。俺の…愛するお姫様」
立ち上がったジスランは、ロッティの手をぐいっと引っ張り。慌てるロッティと唇を重ねた…!
彼女から元気を分けて貰うかのように、こんな状況だというのに濃ゆいキィッスを…いやん。
「!!?~~~…!!」
「ああ…やはり、力が漲ってくる…!
いくぞ!ドラちゃん殿、援護を頼む!!騎士も魔術師も総動員し、残党を処理する!!」
「あ、うん。やあねえ、情熱的ぃ!ワタシも張り切っちゃおうっと!上空の敵は全部締め上げてアゲル!!」
魂の抜けたロッティに代わり、ジスランが声を上げる。
ジスランは右手で剣を振るい、左腕でふやけたロッティを抱えて戦っている。そんな彼の援護をする騎士の中に…
「兄上~…今のジスランに勝てると思うか?」
「いやあ、勝負にならないよね。せめて…っと!あの剣でなければ、ギリギリ?」
「だよ、なっ!!」
ジェイルと、ブラジリエ家長男にして皇室近衛騎士団副団長であるギュスターヴ様の姿が。彼らは弟の成長を喜ばしく思うと同時に…兄弟喧嘩したら死ぬ!と慄いていた。
そしてその場の全員が、抉られ削られた山脈を見て思う。
この夫婦、死んでも敵に回しちゃなんねえ…と。
*
「さて…準備は出来たか?セレネ」
「もちだぞ。作戦開始!だぞ!!」
「それ俺が言いたかった!!」
セレネは、近接戦闘ならば最上級最強だぞ!と言っていた。だがこの作戦では広域攻撃のほうがメインとなるので…
「では一発…!」
セレネがカパっと口を開けて…魔力を集める。口の前に集積し…小さく圧縮し。コオォォォ…と渦を巻く。圧縮を繰り返し、超高濃度の魔力弾が形成されていく。
山を降りて来る魔物が彼らに迫る。セレネは充分に引き寄せ…そして。
「ゴオオオアアアアァァァァッッッ!!!!」
彼の口から、ビームのように発射された!!
ロッティのバズーカを大きく上回る大爆発が起き、衝撃波を防ぎきれなかった騎士達も吹っ飛んだ。ちなみに余波で、わたしの地域にも風が届いた。
「「「ぎゃーーーっ!!!」」」
「あ。やっちゃったぞ」
セレネに跨っていたパスカルと、真後ろにいた人々はピンピンしていた。山岳地帯だったのだが…完全に更地になっちゃった。テノーに行きやすくなったぞ。
拓けて見渡しが良くなったこの場所で、彼らは残党を処理していく計画だ。パスカルは空を飛び、セレネはいつもの狼形態が…ミリミリミリ…!と、更に大きく毛を逆立てている…!
「セレネの超本気モード。見せてやるんだぞ…!」
「俺は上空から弓で討つ!!地上はセレネが大暴れするから、決して彼の前に出ないように!!爪で引き裂かれるぞ!!」
魔術師はパスカルと共に上から攻撃。セレネに当ててもいいぞ、ダメージにならんから!と本人が言うので、皆遠慮なくぶっ放している。
本気モードのセレネは、象が虫を潰すレベルで次々と魔物を屠っている。魔物を一撃で倒す、魔術師の2人掛かり攻撃も毛皮でペンっと弾く…。彼の通った道は、魔石と素材しか残らねえ…最上級精霊の力を再認識したわ。
*
バティスト率いる闇組は、ヨミの指示に従い待機している。
「うわ、空が燃えてるう。さって、あたしらの出番はもうちょい先かな?」
「ジャンさん、僕達の仕事は…?」
彼らと共にバジルも待機。彼は指輪に魔力を通し、いつでも動けるように構えている。
「それねー。ヨミが「許可を出すまで、絶対にぼくの視界に入っちゃ駄目」って言うからね。
折角だし…神秘に包まれた死神の、力の一端を見せてもらおうか!」
人間を皆大きく下がらせ、ヨミは真体となり佇んでいる。
彼らの担当地域、丘陵地帯には木々が生えている程度で見晴らしもいい。そこで…ヨミは20m程浮かんだ。
「…うん、限界かな。これ以上は…余計なモノが入っちゃう。
さてと。これかなり疲れるから…5分が限度かなあ」
そう呟く彼の元に、魔物が大群で押し寄せる。予め魔術師が総力で結界を張り、ここに誘導しているのだ。
「魔物とはいえ、所詮生命体…ぼくの敵じゃないんだよなあ。
さあ…死神の力、とくとご覧あれ」
ヨミの目の色が…いつもの翠から、赤黒く変化している。瞳孔も開き、普段の穏やかな雰囲気は微塵も感じられない。
遠く離れているはずの人間達もヨミの殺気に当てられている。一般人であったらとっくに失禁なり気絶しているだろう。
「……!こりゃ凄いね。初めて会った時を思い出すよ~」
「そう、ですね。寒気が…治りません…!(とか言いながら、ジャンさんはいつも通りに見える。貴方も充分凄いですよ…)」
だが彼らを驚かせたのは殺気なんかではない。それは…何もしていないというのに、接近して来る魔物が悉く自滅しているのだ。
ある地点を過ぎると、突然糸が切れた人形のようにその場に沈む。飛んでいる魔物も墜落し、塵となって消える…を繰り返しているのだ。
「な、何が起きているんですか、ジャンさん!」
「………もしかして…」
ヨミは何もしていない。ただ…魔物を見ているだけ。
「残念だけど、逃れる術は無いよ。ぼくが認識していなくても、尻尾の先が視界に入った時点で君らの命は消える」
そうしてヨミは、瞬きもせずにただただ地上を見続けた。そこには魔石の山が出来上がり、突っ込むことしか能の無い魔物は踏み荒らす。
「…と、ここまでかな。これ以上はマズい、人間どころか空間にも悪影響が出る。ふふ、後は…地道に始末していこうか」
彼がスッと目を閉じ、開けると元の綺麗な翠色になっていた。そして振り向き、待機していた討伐隊に声を掛けた。
「もう動いていいよー。さあ、蹂躙の時間だよ。
………なんだか、大勢の人に囲まれていると。生前を思い出すなあ…」
彼はふふっと笑い…大鎌を振りかぶった。更に特別サービス!と言って、一瞬だが広域に魅了を発動させた。
駆け寄って来たバティスト達も、その光景に唖然としている。
「うお、魔物が同士討ちしてる?」
「魅了の効果でね。彼らは皆、ぼくの寵愛を受けようとライバルを蹴散らしてる、ってとこかな。掛かっていない奴らを優先的に始末しよう。いける?バティスト」
「もっちろん!若いモンばっかりに押し付けちゃいらんねーし」
バティストが取り出したのは一本の短剣。ヨミがそれに…一時的にだが即死の効果を付与した。
それにより、チクッと刺すだけでも対象を死に至らせるとか…怖っ!
「間違っても自分や人間を斬っちゃいかんねー。ふう…。
それでは作戦を開始する!向かって来る魔物を優先的に倒し、負傷した者は影の避難所に下がるように!!」
彼の言葉におおおおっ!!という返事が上がる。
「よーっし!ラウルスペード家の実力、見せてやろうじゃん!!」
「はいっ!!!」
彼らは同時に地面を蹴った。バティストは持ち前の身体能力に強化魔術を掛けて、一瞬で数体の魔物を始末する。
バジルは拳を超強化し指輪で能力を底上げして、一撃で急所を砕き魔石の山を築き上げていく。
更に大鎌で一瞬にして十数体を両断するヨミ。討伐隊は皆…ラウルスペード家には死んでも楯突かないと心に誓った。
*
「では行くか、ルシアン」
「はい、リヴァイさん!!」
リシャル王国の山中にある湖。リヴァイさんが…その水を全て空中に浮かべた。更に空気中の水蒸気も凝縮し合わさり、水量が増している。
「うわ、カサカサする…よっし!
それでは作戦を開始する!総員持ち場に着け!!」
「「「はいっ!!!」」」
彼らの作戦は至ってシンプル。圧倒的な水の塊で圧し潰す!!50人程の魔術師が結界に全力を注ぐ、水が外に出ないようにな。
「さあ…水の力を思い知れ!!」
結界の作動を確認したリヴァイさんは、山に向かって下から滑らせるように水を発射した。
木々を薙ぎ倒し、次々と魔物を飲み込んでいく。更に…飲まれた魔物はリヴァイさんの力が宿った水に水分を奪われ、ミイラのように干からびた。結果水流は激しさを増す。
中には魔術攻撃に耐性のある魔物もいるが、溺れてしまえば死に至る。中々エグいわ。
その時、鳥型と昆虫型が空を飛び襲い掛かってきた。
「ルシアン。教えた通りにやってみせよ」
「は、はいっ!」
ルシアンはリヴァイさんの背中に乗っていたのだが…頭のほうに移動して真っ直ぐに立った。右手を握り締め、腕を前に向かって水平に突き出す。
その手首には…なんと刻印が。彼はリヴァイさんに認められたようだった。
ルシアンがスゥ…と深呼吸すると…彼の周囲に水が集まった。
「ふっ!!!」
バシュッ!と高速でいくつもの水塊が発射され、魔物の頭部を貫く。しかし半分程外している、コントロールは要練習のようだ。
「狼狽えるな、即座に対応せよ」
「分かりました!」
ルシアンは慌てる事なく次弾装填する。動きが速く捉えにくいと判断して…次は二階建一軒家を包めそうな巨大な水塊を作り上げた。
それを薄く大きく伸ばして、突っ込んで来る魔物を網のように捕らえて包んだ。敵は水の中から脱出出来ずにもがいている。
大体の魔物を始末し終えたところで、リヴァイさんが水を浄化してから湖に戻した。そして僅かに生き残っている魔物を、騎士達が止めを刺す。
「ふう…なんとかなったぁ…!」
「…全て我ら精霊に任せておけばよいものを」
「それだと地形が変わるどころか、多分テノーとリシャル王国は壊滅しそうですし…。なんなら隣の木組の攻撃、こっちにまで届いてますし。
何より、この地に住まう人間として。大いなる力に頼り切りになりたくないのです」
ルシアンは晴々とした笑顔でそう言った。リヴァイさんもフッと笑い、小さくなってパタパタと飛ぶ。
「全く…人間とはか弱いくせに、なんとも強欲なものか」
「…リヴァイさんは、人間と契約していたと聞いています。理由を伺ってもよろしいですか?」
「……とある日のこと、粗末な小舟が大海原に浮かんでいた。気まぐれで覗き込むと…弱った少女が乗っていた。
我の生前…ただの鰐だった頃。生まれた時から人間に飼われていたのだが…遊んでいたつもりで、飼い主の子供を喰い殺してしまった。その子供に瓜二つだった。
気まぐれで近くの無人島へと連れて行き契約した。回復させて事情を聞けば、貧しい家庭だったので口減らしに捨てられたらしい。
暇だった我は、復讐でもするか?と提案した。だがその子は首を縦には振らなかった。それよりも、寂しいから一緒に暮らそうと言ってきてな。
…数年後、人里に連れて行こうと思った。しかし彼女は無人島で、我と2人だけの生活を選んだ。全く、最上級精霊を独り占めしようとは。強欲な娘だと思わんか?」
「……貴方は彼女を、愛していたのですね」
「そうかも知れんし、違うかも知れん。だが彼女を想えば…病に倒れた時、何がなんでも人間に助けを求めるべきだったのだよ。
ああそれと。『リヴァイさん』とは今だけの名だ。この仮契約が終わったら…今後は『アリン』と呼ぶがいい。我が愛し子が付けた名であり、奇しくも生前もそう呼ばれていた」
「…はい」
リヴァイさんはそれ以上語らなかった。わたしとの仮契約が終わっても、もう人間と契約をする気は無いらしい。
きっと…それ程までに彼女は大きな存在だったのだろう。ルシアンの頭の上で伸びをして、大惨事となった山を見つめている…やり過ぎぃ。
「……リヴァイさん、土砂崩れが起きそうです…!!」
「…………ベヒモスを呼んで来い。我は地面から水を抜いとくから」
「お願いしまーす!!!」
*
「いやあ、凄かったですねえ!リヴァイアサン、フェニックス、ドライアド…それぞれの戦いを見学出来て感無量です!!」
「…そうだな」
「あっれータオフィ先生!もう終わったの?」
「おー、姫に殿下!はい、他も手助けは必要無さそうですねー」
わたしも持ち場を離れても良さそうだったので、なんか助けを求めに来たルシアンと一緒に水組の地域に向かっていた。
するとヘルクリスに乗った先生と遭遇、急いでいるので挨拶だけして通り過ぎた。
…あれ。風組は魔術師も騎士も要らないからって、2人だけで対応してたんだよな。念の為後方に待機はしていたはずだけど。
持ち場を離れても平気って事は、殲滅完了を確認したって事よね?ヘルクリス凄いなー!
「……タオフィよ、お前は…何故力を隠す?」
「隠しているつもりはありませんよ?」
先生達は巡回しつつ、そんな会話をしていたらしい。
「今回の事ではっきり分かった。お前の魔力量は尋常ではない、3体の最上級精霊を従えるシャーリィよりも上ではないか。
更に魔術の腕も超一級。知識も豊富で、私が以前見た大賢者と呼ばれるクランギルにも匹敵する。お前…その気になれば、魔法も使えるだろう?」
「………買い被りすぎですよ、ヘルクリス様!」
先生はクスクス笑う。糸目のせいで…なんか裏があるようにしか見えないわ~。
わたしも知らない事だけど。風組はヘルクリスが竜巻やら風の刃やらで大暴れするだけで終わったらしい。
だが…周囲に一切の被害は無かった上に、自然への被害も最小限だったと聞く。それらは全てタオフィ先生が防いでサポートしていたから。
他の魔術師が数十人掛かりで行う術を、彼1人でやってのけたのだ。水晶の力があるとは言え、ね。
それどころか手が余り、早々に他所の手伝いに向かったらしい。しかしどこも安定していたので、こっそり見物してたとか。
「…本当に、隠している訳ではありませんよ?ただ此方には、膨大な魔力も魔法の適性も必要の無いモノなんです。
だって、此方はただ面白おかしく暮らせればいいんですから!…下手にお偉いさんに目を付けられたら嫌じゃないですか」
「…そうか。ならば私は何も言うまい。ただし今後お前は『タオフィ・クランギル』を名乗れ」
「………はい?」
「グランツで暮らすのならば、ファミリーネームが必要なのだろう。だからクランギル」
「えーーーと…拒否権は、ありません…よね?」
「当然だ。私がローランに言ってやろう」
「はは…」
どうしてヘルクリスがそう命じたのかは分からないが…この日先生は、クランギルの名を授かったのである。
*
さて!トッピーが山を整えて土砂崩れも防ぎ、最後の巡回の結果どこも沈静化したらしい!
複数の魔術師が空から地中までスキャンし、1体も残っていないのも確認済み。
「しかも犠牲者は0…怪我人は出たらしいけど、いずれも大した事はない。これは、もう…!
わたし達の完全勝利!!だよーーー!!!」
わたしが笑顔で拳を空に突き出せば、集まった討伐隊も「おおおおおっ!!!」と叫びながら拳を上げた。
夜明けと共に作戦が開始され、今はまだ昼下がりの午後。皆笑顔で作戦完了を喜んでいる。
そっか…終わったんだ。守れたんだ…そっか…。
「う…ううぅぅ~…!!」
「シャーリィ…」
情けないけれど、安心したわたしは涙がぼろぼろ出てきてしまった。だって、だって…。
歴史上、スタンピードで国が滅ぶ事など珍しくもなかった。それも今回は過去最大級に匹敵する規模だって言われてたから…。
絶対に犠牲者を出さないって誓ったけれど。それでも…もしも、と考えると怖かった。
パスカルに縋りわたしは泣いた。この温もりだって…失くしてしまうかもしれなかったんだから…!
「フェニっ君、リヴァイさん、ドラちゃん。本当にありがとうございました!」
「良い。人間の指示に従うというのも、たまには悪くは無かったぞ」
「ふふ、結構面白かったわ。また遊びに来るわね!」
「ふぁああ…ワシは眠い。ちょっくら千年程昼寝するわ…」
それ昼寝じゃねえ…けど、誰も何も言わない。
って、もう帰るの?彼らの身体が、少しずつ光になって消えていく。多分盛大にお祝いすると思うんだけど…。
首を傾げていると、ヨミが笑いながら教えてくれた。
「あー、精霊は人間の賛辞とか興味無いからねえ。ぼくらだって、シャーリィ達が喜んでくれるから頑張ったんだ。それ以外の言葉は雑音と変わりないよ」
「私はいつでもウエルカムだがな!!では凱旋といくか、私を褒め称える宴の用意をせよ!!」
「こういう考えはヘルクリスだけだからねー。でもま、帰ろうか」
「うん!皆も、本当にありがとう!!」
涙を拭いて消えていく3人にも沢山お礼を言って、山脈を後にする。ふふ、陛下褒めてくれるかな!魔石と素材は回収中、かなりの量になったと思うよ!!
疲れた身体で皆ヘルクリスに乗り帰路に着く。友人達ともお疲れ様!と労い合っているのだが…ロッティとジスランの様子がおかしい。
合流した時から手を繋いだまま離さないし、ジスランはロッティを膝に乗せている。幸せそうに見つめ合い、微笑みながら…時には顔が近付き…おっと見ちゃいけねえ!
ジェイルとギュスターヴ様…ガス様に何か知らない?と聞いても…
「あー…まあ、互いの存在を再認識したと言いますか」
「ほら、一緒に苦難を乗り越えて絆が深まった…みたいなね?」
「そういうもの…?」
木組は特に大暴れしてくれたみたいなんだが…まあ、仲良しならいっか!
「シャーリィ…いたたたたっ!!」
ただ影響されたのか、パスカルがやたらとくっ付いてくる。やめんか人前で!!!
彼の頬をぎううぅぅ…とつねっていたら、皇宮が見えてきた。ああ…帰って来たんだなあ。
わたしもパスカルとぎゅっと手を繋ぎ、微笑み合う。もう心配事は何も無い!
「パスカル。卒業したら…結婚しようね!」
「…!ああ、すぐにでも!!
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