上 下
193 / 224
学園4年生編

その頃の男達

しおりを挟む

 少那視点


 ******



『男子チームも猥談とかしてるのかな』

『エラちゃんやめなさい!!』

「「「………………」」」

 開けられた窓から…女性陣の会話が聞こえてくる。
 こっちも自然と男性陣で集まっていて、お風呂上がりは暑いね~なんて窓を開けた瞬間だった。

「……窓、閉めようか」

 私はその手で、すぐに閉めようとしたのだが…。

「いやほら、暑いのを我慢するのは体によくありませんよ?」

 と、満面の笑みのパスカル殿に止められた。
 そのまま彼は、身を乗り出して完全に聞く体勢。私はルシアンと顔を見合わせ、なんだか笑ってしまった。


 だが…シャーリィは「わたしの話は今更でしょう」とシャルロットさんに話を振る。
 パスカル殿は頬を膨らませて不機嫌顔、名前を出されたジスラン殿は頬を染めた。

 そこで…学園を卒業するまで手を出さないと宣言されたが、たまに怪しい時がある…とか。
 嫉妬で口付けをしてしまったり、大きな手で触れられるとドキドキするとか言われてた。

「ロッティ…もう、勘弁してくれ…」

 ジスラン殿は大きな体を縮こまらせて、部屋の隅で羞恥に悶えている。が、シャルロットさんは止まらない。
 ある日突然ムカデが降ってきて、3階から窓を破り飛び降りて逃げたとか。(咫岐兄上が深く頷いていた)
 近くに誰もいないと思い、野良猫に対して「にゃー。にゃー?にゃにゃー、にゃん」と話し掛けていたらしいとか。(ジェルマン卿が普通に聞いてしまったみたい)

 暴露されている間何度も「可愛い」という単語が出てきており、ジスラン殿は真っ赤な顔を膝に埋めた。



 次にルネさん。ふむ…私はオスワルド殿とは、まだ2回しか会っていない。
 確か彼は、ルネさんがいない所では…すっごい惚気てたっけ。

 年上の彼氏、という流れから。木華とルキウス殿に話題が移行。これには私も、パスカル殿と並んで身を乗り出した。

 え、何。口付けしたいって言っちゃったの?あら…我が妹ながら、なんて大胆な。
 命兄上と咫岐兄上も、慈愛の目をして気まずそうに微笑んでいる。


『最後まではしてないわよ!?シャーリィと違って!!!』

「「「………………」」」

 部屋中の視線が、パスカル殿に集まる。


「………最後まで、したの…?」

「…………………合意の上です………」

 パスカル殿はやや赤い顔を逸らした。
 そっか…というか。女性陣は、意外と…その。そういう話を…するんだね?


「いや…なんか俺の態度が分かりやすかったらしくて。
 全員、察したようで…」

「ああ、分かりやすかったぞ。妙にスッキリした表情というか。
 隠しきれない喜びと余裕が、全身から溢れてたな」

 ルシアンのその言い方、なんか卑猥だな…。
 わ、私は当然、女性経験なんて無いけど。そっか、パスカル殿は…そっか。

「ど…どうだった…?」

「…………よかった、です」

 ごくり…具体的に、聞きたいような怖いような。
 どうしても想像してしまう…。ベッドの上で、2人が…!


「そうなんだ…。あの、シャーリィの反応は…」

「すみません後にしてください!友人の色事想像したくないんで!!!」

 ありゃ、エリゼ殿に怒られちゃった。
 命兄上もすっごい顔を顰めているので、ここでやめておこう…。


 上でもきゃーきゃー大騒ぎしている所為か、こっちの声は届いてなさそうだった。
 木華は布団にでも丸まってるのか、あれ以上何も聞けなかった。
 まあ、私も妹の恋愛事情に首を突っ込むのはやめておこう。

 ただシャーリィの声で、「やるやんルキウス様ぁ~っ!!フゥーーーッ!!!⤴︎」とか響いてる。
 ルキウス殿…妹に何をしたんですか?


 私が部屋に引っ込んだ頃、ペトロニーユさんに話が振られた。
 へえ、好きな人がいるのかな?4人が問い詰める様子が伝わってくる。

 すると、ルシアンが窓の外に身を乗り出した?

「どうしたんですか殿下」

「別に…彼女は私の秘書だ。誰か想う相手がいるなら、上司として把握しておく必要があるだろう」

 ああ…結婚とかなったら、秘書を辞めるかもしれないしね。
 と、私が1人納得していたら…パスカル殿が、すっごくニヤニヤしてる?
 命兄上と、バジルも同じ顔。え…何?


 しかし、いい加減彼女達が可哀想になってきたぞ。まあ私達が窓を閉めればいいだけなんだが、ね。
 通信機を取り出し、『シャルティエラ』にコールする。


 ピピピピピピ…


『『『『だあああーーーーーっっっ!!!!』』』』


 ふふっ。思わず笑ってしまう。
 それで、話聞こえてるよ~と教える。数秒後…。


「「あっ」」


 ん?身を乗り出していた2人が、慌てて引っ込んで左右から窓を閉めた。

「まずい、シャーリィに見られた」

「呆然としてて可愛かった…」

 あちゃ…。更に数秒後…上から複数の絶叫が聞こえてきた。
 何を言ってるかは分からないけど、声からしてシャルロットさん、ルネさん、木華だ。同時に、大きな足音が…。

 またまた数秒後。

 ドンドンドン!!!
「ちょっとおお!!全員いるの!?誰にも言わないでよっ!!?きーてんのーーー!!?」

「ど、どうしたんすか?シャルティエラ嬢?」

 来ちゃったか。パスカル殿が足取り軽く、扉を開ける。
 そこには…汗をかいたシャーリィと、びっくり顔のハーヴェイ卿がいる。


 で…彼女は部屋の中を覗き込み、「全員揃ってるじゃねーか!!!」と叫び。
 パスカル殿と言葉を交わし。腕を掴まれて…隣の、パスカル殿とエリゼ殿の部屋に連れて行かれて?


「ちょ、ちょちょちょ、パスカル?」

「……折角の恋バナなのに…俺の話題が無いなんて。じゃあ…沢山話題を提供しなきゃな」

「いや、ちが…ぎゃーーーっ!!!ば…っ!……う、んむぅ…!」

「……はぁ…可愛い、シャーリィ、シャーリィ…」


 ……部屋の外で、ハーヴェイ卿と一緒に聞き耳を立てていたんだけど。
 シャーリィは絶叫した後…くぐもった声を出した。
 そしてパスカル殿の、切なそうな声…。

 …私達はそっと離れた。




 たっぷり10分後。フラフラのシャーリィが出て来た。
 後ろを歩くパスカル殿は、対照的に元気そう…というか、肌がツヤツヤしてる。ナニしてたんだろう…?ごくり。
 彼女が上に戻り、私達も解散しようか?という流れに。


「ところで提案なんだが、部屋の交換をしませんか?
 俺とシャーリィ、ジスランとロッティ。それ以外は適当で」

「断る!!!」

 ジスラン殿はそう言って、部屋を出て行った。


「お前オレも泊まる部屋で何してたんだよっ!?」

「ええ~?別に、キス以上はしてないぞ?あとちょっと触っただけで…」

「ふざけんなお前っ!!バジル、オレと部屋交換してくれ!!」

「はあ…構いませんが…」

 エリゼ殿はブチ切れながら枕を投げた。それ私の!
 それから少しずつ解散し、部屋には私とルシアンのみ残る。


「もう寝るか…ん?」

 ん?カーテンを閉めようとしたルシアンが、その手を止めて声を上げた。
 なになに?外に何か…と、私も窓に近付くと。



「「………………………」」



 そこには…無言で庭を歩く、ジェルマン卿と薪名姉上の姿が…?ちなみにここは2階だよ。

「何してるのかな?」

「……まさか?そっか、そういう事か…」

 え、何?なんで納得してるの?


「少那。大丈夫、彼は影は薄いけど…それ以外は文句の付け所がまるで無い人物だ」

「あ、うん…」

 それは、なんとなく分かるけど。
 もう一度、窓の外に目を向ける。彼らは…暗闇でも分かる程、真っ赤な顔で…え?

「ま…まさか?」

「さ、寝るぞ」

 えーーー!?そ、そっか。姉上…そっかあ!
 2人はウロウロ同じ場所を歩く。互いを気にしつつ、会話は無く。
 姉上は…何度も手を伸ばして、高速で引っ込める。腕を組みたいんだね!

 うーん微笑ましい。彼らがうまくいきますように…と心の中で祈りながら。カーテンを閉め……



「ああもう、何してるんだ薪名は!!」

「もう少し、あと一押し…!」

 ぶっ!!! 噴き出しそうになったのを、咄嗟に両手で口元を押さえる。
 彼らの後方に…咫岐兄上と命兄上が!!コソコソと追っている…!私もっ!



「まーぜーてっ!!」小声

「「少那!」」

 えへへ~、間に割り込んでみた。
 兄上達は呆れながらも、私を追い返す事はしなかった。


「ねえねえ、あの2人いつから?」

「おれ達もさっき知った。けど…フェイテとバジルは気付いてたんだなあ…」

「まあ…ジェルマン卿だったら。きっと…大丈夫だ」

 おお…咫岐兄上すらもこの発言。普段はそっけないけど、実は誰よりも薪名姉上を大事に思っているんだ。



「「…………あの、あっ、どうぞ!……あ」」

 肝心の2人だけど。全然会話が弾まないなあ。
 じれったい!けど…楽しい。


「……くしゅんっ!」

「あ!寒かったですよね、中に入りましょう」

「す、すみません。あ…」

 今は3月で、まだまだ寒い。ジェルマン卿は姉上に上着を掛けて、反射だろうが手を繋いだ。


「「………………」」


 繋いだまま…さっきよりも身を寄せて歩き出し。
 ゆっくり、ゆっくり時間を掛けて歩き。

 姉上の部屋の前で…別れて。


「……マキナさん」

「…はい…」

「明日、帰る前に、ちょっと。ふ…2人で──…」


 私達はそこまで聞いて、そっと離脱した。


 なんかいいなあ、こういうの。3人で、誰からともなく笑った。
 …シャーリィ。彼女と結婚したかった、っていうのは本気。結ばれなくても、彼女を愛しく思う気持ちは変わらない。



 いつか…私の隣にも、誰かが立っていてくれるかな?
 そんな事を考えて、空を見上げる。


 ああ…今日は。月がとっても、綺麗だなあ。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

男主人公の御都合彼女をやらなかった結果

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,069pt お気に入り:8,445

変人魔術師に一目惚れされて結婚しました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:1,581

あなたに愛や恋は求めません

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:100,752pt お気に入り:9,141

転生令嬢、目指すはスローライフ〜イベント企画担当者ではないのよ!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:23,282pt お気に入り:2,483

軟派チャラ皇子はバケモノ王女を溺愛中!?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:103

好きが言えない宰相様は今日もあの子を睨んでる

BL / 完結 24h.ポイント:6,745pt お気に入り:1,692

処理中です...