【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野

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学園4年生編

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 屋敷に戻ったグラスを、皆いつも通りに出迎えてくれた。変に畏まる事もなく、普通に用事を言い付けて…彼はとても、嬉しそうな顔だ。

 エリゼもジスランも遊びに来るが、パスカルには来るなと言ってある。もう家でも男装は卒業するのでな!ん?ジスランはいいのかって?
 実は…以前ロッティが「ジスランはもう、気付いてるんじゃないかしら…」って言っててね。そんで試しに男装も何もせずに普通にしてたら…普通に対応された。
 わたしの膨らんでいる胸やらスカート姿にも無反応。なんなん…?露骨に女扱いも男扱いもしない、剣の相手もしてくれる。でも着替えとかはちゃんと別部屋に移動する。

 ロッティとエリゼと3人で首を傾げるが…まあいっか!!という結論に至った!




 さて…明後日は誕生日パーティー。男装は卒業するけど…最後に。きっちりとサラシを巻いて、眼鏡を掛けて…男物の服を着て。

 今までの自分に、お別れを言いに行こう。



「シャーリィ?急に呼び出してどうしたんだ?」

「ごめんねパスカル。少し…付き合って欲しいの」

「それは構わないが…手が冷えるだろう、ほら」

 パスカルはそう言って、僕の手を取った。そっか、手袋忘れてた。彼の手袋をそれぞれ右手と左手にして、空いている手を繋ぐ。温かい…側から見れば男同士で手ぇ繋いでるだけだが!

 さて…まず。少し歩こうかな。


「お父様、僕ちょっと出掛けてくるね」

「(僕…最近はずっとわたしだったのに…)おう、行ってらっしゃい」

 そうして2人で屋敷を出る。あ、違うわ。後ろに精霊がゾロゾロ付いてきて…セレスタンご一行だわ。まず…裏庭。


「ここがどうかしたのか?」

「ここは…ジスランとよく、剣を振った場所。1年生の時、彼にぶっ飛ばされてねえ。僕は頭を打って、半日くらい眠っていた」


 そうだ。その日前世を思い出したのが…全ての始まりだった。憤るパスカルの横顔を見つめる…怒ってくれてありがとう。


 その後学園で。フェニックス事件が切っ掛けで、エリゼと仲良くなった。同時にルキウス様、ルクトル様、ラディ兄様とも縁が出来た。
 それももう、何十年も前の出来事のように感じる。


 僕達は町に向かった。

「おじいちゃーん」

「おや…どこか具合が悪いのですかな?」

「んーん。おじいちゃんの顔を見に来ただけ」

 おじいちゃん。伯爵家からずっと一緒のお医者さん、マイニオ・カリエ先生。
 昔は彼を敵だと思っていた。伯爵の味方だと…でも実際おじいちゃんは、ずっと僕を守ってくれていた。だから漫画でも…きっと彼は、セレスタンの味方でいてくれたと思う。
 一度パスカルから手を離し、おじいちゃんにハグをした。

「おじいちゃん…長生きしてね」

「ほっほ。まだまだ死にはしませんよ…ひ孫を見せてくれるのでしょう?」

「…うん!」

 後半は僕にだけ聞こえるように言った。もう一度ぎゅっとして、診療所を後にする。



 町を歩いていると…セレネがあっと声を上げる。

「ここだぞ。パルとシャーリィと初めて会った場所!」

「おー…ここだったんだあ。忘れてたや」

 いじめっ子に蹴られていたセレネを見掛け、アイシャが蹴散らしてくれた場所。けだまちゃんが死んじゃった!と泣いていたら…パスカルと出会った。

「パスカル…あの日僕を見つけてくれてありがとう」

「…俺こそ。シャーリィ、俺と出会ってくれてありがとう」

「うん…それより、気付いてる?」

「もちろん。ここは…俺達が再会した場所だ」

 そう。僕が大荷物でフラフラ歩いていたあの日。この場所、路地の目の前の大通りで。君が前から、声を掛けてくれたね。エアも「よく覚えていますわ」と懐かしんでいるみたい。
 本当に…懐かしくて笑みが溢れる。それは彼も同様で、笑顔で…顔を近付けてきた。

 ストーップ!!大通りでキスはだめ!!とチョップをくれたらむくれたわ。このお馬鹿。



 のんびり歩き…教会までやって来た。今日も大繁盛、お客さんがいっぱいだ。すると…


「「「きゃーーーっ!?」」」

「「ん?…ぎゃーーーっ!!?」」

 突如叫び声が響いたと思ったら、周囲が暗くなり…ヘルクリスがデカくなってた!?何してんの!!

「ふ。以前もそのように戸惑いの目で私を見ていたな、人間というものはまるで成長せん。そこが愛おしくもあるのだがな」

 そのまま僕を鼻で突つき…初めて会った時のように、舌で転がされた。あわわわわ。


「ぼくも教会で契約したんだよね」

「私達上級精霊も皆、始まりはこの土地でしたな」

「…俺は違うけど」

「ノエルとメイは仲間外れですー」

「わいも。でもわいは、ずっとあるじ見てた、見てた」


 ヨミ…ノモさん、メイ、ノエル、トッピー。そしてヘルクリス、暖炉、エア、ラナ、アクア、太一、次郎、三助、よっちゃん、五右衛門、ろくろ、七味。セレネ…これまで、多くの精霊達と出会った。

 そして…孤児の皆。少し衝突もしたけれど、救う事が出来た。今は町中の孤児院で幸せそうに暮らしている。
 ミントは結婚してお母さんになって。セージはようやく彼女が出来て、結婚も近いとか。パセリは最近彼女と別れたって言ってたな…。
 アーティとセルバのちびっ子カップルも…も…。セルバが浮気して別れたらしい…なんじゃそら。

 そして、グラス。思えば彼だけは最初から、闖入者の僕達を受け入れてくれていた気がする。僕は同じ愛を君に返せなかったけど。近いうちにお別れだけど…僕はこの国から、君の幸せを願います。


 さようなら。グラス・オリエント。



 教会のお客さん達にお騒がせしましたーと言ってから。小さくなったヘルクリスにパスカルと並んで乗った。そのまま…学園に向かう。
 警備員さんと「侵入しまーす!」「はいどうぞ」という挨拶を交わし、敷地内に足を踏み入れる。まずは医務室、僕の憩いの場。

 合鍵で中に入り、皆でベッドに腰掛ける。


「あのね、僕とルネちゃんで一度、大暴れした事あったの。ルネちゃんてばベッド壊すし、僕はカーテン引っ張って破くわカーテンレール曲げるわで。
 机の上もぐちゃぐちゃ。僕が追い詰められたところでゲルシェ先生が扉をバターン!と開けてね。大変だったよ~」

「初耳だな…」

 それからルネちゃんと仲良くなったんだけどね!大好きな僕の親友。ロッティと組んで大暴走する事もあったけど…あの頃僕が女の子らしくいられたのは、君とおしゃべりしている時だけだったんだ。
 それに医務室は…僕の大切な場所。

 苦しくてしんどくて。誰にも助けを求められなくて…塞ぎ込んで身動きが取れなくなってしまっていたあの時。ゲルシェ先生に差し出されたジュースが…何気ない会話が。僕にとってどれだけ救いだったか…。


「パスカル…怒らないで聞いて?」

「ん?分かった。なんでも聞くぞ」

「ふふ。今の僕は君の事が好きだけど…初恋の人はジスランだった。
 それでね。一時期…ほんの少しね。ゲルシェ先生に憧れていたんだあ」

「ごふっ…!」

 パスカルはダメージを受けているようだ。ぶっきらぼうで優しくて、包容力のある大人の男性。そんなゲルシェ先生を、好きだった時期もあったのさ。
 今はお父さんだけど…それでいいの。

「………………」

「…あり?怒らないでって言ったじゃーん」

「怒ってない…拗ねてるだけ…」

 あら可愛い。パスカルは口をへの字にしてそっぽ向いてしまった。でもまだ君を意識する前だからね、仕方ないね!


 そして校舎内を歩き回る。階段で…一度だけ、屋上に上がった時を思い出す。

 ルシアン…僕は最初、君が大嫌いだった。優秀な兄弟と比べられる凡人の僕ら。同じ境遇なはずなのに、君はご家族から愛されていて。それが堪らなく腹立たしくて、羨ましかった。
 そんな君と分かり合えてよかった。今もエリゼと3人、トリプルEとして活動する事もあるんだぜ。新作ゲームも作りたいなあ。



 色々と思い出の地を巡り。最後に…皇宮。大丈夫、アポは取ってあるのでな。
 その前に、皇宮の近くにある裁判所に立ち寄った。建物を見上げ……両親を想う。

 無垢過ぎた母親と、最低最悪な父親だったけど。父は僕に男装を強要した元凶だけど。でも…ね。
 男装していなかったら。少那や木華とは縁を結べなかっただろうし…何より、パスカルと深い仲にならなかったと思う。別の幸せはあっただろうけど…それを考えられない程に、パスカルを愛している。

 彼は何も言わず、ただ手を繋いでいてくれる。どうかこれから先の人生も、共に歩んでいけますように。



 皇宮に向かうと、ルシアンと少那、木華が出迎えてくれた。ルキウス様もルクトル様も…お仕事の邪魔しちゃったかしら?すぐ帰りますので!

「今日はどうしたんだ?」

「んー。もうすぐ…『セレスタン』は御役御免だから。お別れをしていたんだ」

「そう…か。じゃあ最後に、写真を撮らないか?」

 お、いいね!彼にも僕の誕生日で公表する事は伝えてあった。なので意図を察してくれて、記念撮影をしてくれるって。
 楽しそうな雰囲気を嗅ぎ付けてか、凪様も登場。彼と並ぶと…僕の小ささが際立つわ。現像、楽しみだなあ。


 皆に明後日のパーティー、絶対来てね!と念を押して家に帰る。


「…パスカル」

「うん?」

「明後日…秘密を教えるから。僕が何を隠していても…お願いだから、嫌いにならないで…」

 上空で夕日を眺めながら、彼に背を向けたまま懇願する。すると後ろから、優しく抱き締められた。

「当たり前の事を言うんじゃない。俺は、シャーリィを愛している。明後日は指輪を持って行くよ」

「ありがと…指輪?」

 あ、誕生日プレゼントですかね?それ以上の意味は…無いよね?

「ところで今日のコレは、2人きりのデートじゃないのか?俺が以前言った事、覚えているかい?」

「以前?……!!!ち、ちがう!!今日は精霊達もいるし、断じて違う!!!」

 認めてたまるかい!!そんなんしたら…お持ち帰りされるじゃないか!!
 僕の反応が面白かったのか、パスカルは声を上げて笑った。でもそういうところも好きさ。


 パスカルとはお屋敷の前で別れる。
 すると…ロッティ、バジル、グラス、お父様が出迎えに来てくれた。


「お帰りなさい、お姉様」

「…もう、大丈夫か?」

 うん。お別れは済んだ。
 
 さようなら、セレスタン・ラサーニュ。わたしは…シャーリィ。シャルティエラ・ラウルスペードだ。
 

「えへへ、帰ろう!わたし達の家に!」


 ロッティとお父様の腕を取り、足取り軽く中に入る。後ろからバジルとグラスもついて来ている。
 バティスト、アイシャ、モニク、フェイテ、ネイ、テオファ、ロイ、ラッセル…タウンハウスからオランジュ夫妻も来ている。
 ジェイルにデニス…師匠もいる。ハリエット卿…騎士の皆。わたしの、大切な家族だ。もちろんシグニも忘れていないぞ。



 この日わたしは…セレスタンでは無くなったんだ。




 その日の夜。
 さて…ドレスの用意オッケー。靴もアクセサリーも完璧!ちょっと試着…あら素敵!パスカル…喜んでくれるかなあ?少那はがっかりさせちゃうかも…ごめんね。
 他のお客様は…えっと…友人全員と皇室一家。そだ、メロ姉様とレティ姉様!!アロイス君も来てくれるって言ってたな…!!そわそわ。
 ルゥ姉様も来れるって。レオノールちゃんはお留守番だが、クレイグとラディ兄様は来る。あと…フルーラちゃん、オスワルドさん…知り合い大集合って感じ!それから…


「おー!素敵なドレスですねえ、王もメロメロ間違いなしですね」

「お、タオフィ先生忘れてた!!」

「酷くありません?」

 会場となる玄関ホールまで来ていたら、先生と遭遇した。先生は少しお話ししませんか?と言うので付き合う事に。階段の手すりに2人で寄り掛かる。



「ついに明後日ですね。王なら間違いなく、姫を受け入れてくださいますよ」

「そう…かな?えへへ…」

「ええ。それに…スクナ殿下もね。彼はもう、ちょっと女性が苦手って段階まで回復してますよ。
 むしろ姫が女性と知れば悔しがるでしょう。彼は、貴女を好いておりますから。王は大変ですね」

「そ…う?」

「此方が保証しますよ。
 それから…テオファにもドレスを仕立ててくれたとか。凄く嬉しそうに抱えていました」

「いやー…ごめんね、悪ノリしちゃって。背も伸びてきて、そろそろドレスも似合わなくなっちゃうかなって思って最後にね。メイド服ももう卒業だねー」

「……本当に、ありがとうございました。シャルティエラ様」

「へ…?」

 突然先生はわたしの前に膝を突き…手を取り口付けをした。そして穏やかに微笑み、言葉を続ける。


「このお屋敷でテオファは、とても楽しそうに笑うのですよ。
 ここでは誰も弟を虐げない。お腹いっぱい食べても怒られない。誕生日まで祝ってくれる…どれだけ言葉を尽くしても、感謝の念を伝え切れません」

「あ…うん。どうしたの先生、急に…?」

「……ずっと、伝えたいと思っておりました。姫は『セレスタン』でいるのは今日までだと聞いたので…その前に。
 弟と此方を救ってくれたセレスタン様に、感謝を伝えたかったのです」

「…そっかあ。こちらこそ、ありがとう。わたしにとって先生やテオファと過ごす時間は、とても楽しいものなんだよ」

 先生は「光栄です」と言って笑った。そして立ち上がり…

「そうそう。ご結婚されたら此方を雇ってくださいますか?」

「ぶはっ!パスカルと相談してからね」

「はーい」

 その場合、先生はどの役職なんだろうね?執事?
 そんな会話をしながら、それぞれの部屋に戻る。あの人完全にうちに馴染んでんな…。




 ※※※




 そして…パーティー当日。小さい子もいるので、昼から始める事になっている。


「お嬢様…とてもお美しいです」

「ありがとう、グラス。すっごい緊張するう…」

「大丈夫よお姉様!」

「そうですよ。自信をお持ちになってください」


 わたしとロッティは早朝から女性使用人と騎士達に磨かれ飾られ、絞められ…素敵なドレスに身を包んでいる。
 胸元を強調し、肩や脚も見せて…このわたしを男だと思う奴はおるまい。


 わたしはグラス、ロッティはバジルにエスコートされ…階段の上に姿を現す予定。お客様が集まるホールを、上からチラッと覗く。結構揃ってる…!
 皆楽しげに、わたし達の入場を待っている。ひぃ…!

 その時。玄関の向こうから…なんか気配を感じた。

「ん?凪様かな?」

「兄上?あ…本当だ。お嬢様、よく分かりましたね?」

 いやあ…3人共不思議そうにしてるけど。
 あの人…常に背景にゴオオォォ…とか、ズウウゥゥ…ン…って効果音が見えるんだよね。幻覚だろうけど。それが玄関扉に見えたから、外にいるって分かっただけ。説明出来ないけど!!

 すでに陛下方も揃っている。ふう…!



「それではお集まりの皆様。本日の主役にご登場いただきましょう!」

 というバティストの声が響き…全員の注目が階段上に集まっている事が分かる。
 緊張で手が震える…けど。グラスがぎゅっと握り、微笑んでくれた。…よし!!



 わたしは顔を上げて背筋を伸ばし。従者に手を引かれながら…ゆっくりと確かな足取りで。お客様の前に歩いて行くのだ。

 ロッティに、ルネちゃんに、木華に教わったように。優雅に淑やかに足を動かす。


「セ…セレス…?」


 少那や咫岐を始めとして…何も知らなかった人達はわたしの姿に目を丸くしている。そんな彼らに笑顔を向けると…顔を真っ赤に染めてしまった。

 カツ…カツ…と。階段を降りて、お父様の元に向かう。微笑むお父様の横に並んで立ち、招待客の皆様に挨拶をする。


「皆様。本日はご多忙の中、わたくし達の16歳を祝うパーティーにお越しいただきありがとうございます。
 ラウルスペード家長男セレスタン改め…長女シャルティエラがお礼申し上げます」

「同じく長女改め次女のシャルロットがご挨拶致します。皆様どうか、楽しい一時をお過ごしくださいませ」

 わたし達の挨拶に拍手が広がる、さて。少那…は固まっている。メロ姉様やレティ姉様達も…そりゃ驚くよね。
 それより…パスカル。どこかな~と見渡すと、目の前にいたわ!嫌そうな表情をしてたらどうしよう…と恐る恐る顔を見ると…?

 彼は頬を染めて、とても穏やかな目でわたしを見つめている…それは、どういう感情なの?



「あー…知っている者も多いと思うが」

 あっ。暫くパスカルと見つめっていたが、お父様の声で我に帰った。


「この子、セレスタン。これまで訳あって男として暮らして来たが…立派な女の子だから。
 生まれた時に父親ボリス・ラサーニュの独断により男として出生の届けを出され、以後望まない男装を強いられていた。まあここ数年は、自分の意思で行っていたけどな。
 それももう終わる。今日からセレスタンではなく…シャルティエラとして生きていく。これは俺の兄である皇帝陛下もご存知だ。
 シャルティエラ…シャーリィを悪く言う奴は俺が許さねえ。ま、この場にはいねえと思うけどな」


 お父様が簡潔に説明してくれたが…皆納得してくれたかなあ?わたしは一歩前に出て、もう一度声を上げる。

「えっと…そういう訳です。今まで騙していた人、ごめんなさい。
 助けてくれていた皆…ありがとう。これからは自分を偽る事なく生きていきます。どうか…受け入れてくれると嬉しいです…」

 ぺこりと頭を下げてそう言った。すると目の前に誰かが近付いて来る…


「…パスカル…」

「シャーリィ…」

「…ごめんね、ずっと言えなくて。本当に…ごめんなさい…」

「謝らないで。そんな顔をしないで…シャーリィ」

 彼はわたしの手を取り…膝を突いた。


「シャルティエラ・ラウルスペード様。
 俺は初めて会った6歳のあの日。よく笑い、泣き、時には怒る…そんな貴女に心を奪われました。
 学園で再会し、男性だと知った時の絶望。
 それでも構わないと思える程…貴女が愛おしくて仕方がなかった。どんな障害があろうとも、貴女と共に生きたいと強く願いました。
 そして…女性と知った時の喜び。とても言葉では言い表せません…。

 俺は貴女を愛しています。どうか…これから先の人生を。このパスカル・マクロンと歩んでくださいませんか…?」


 ……!彼の告白に、会場の女性陣から黄色い悲鳴が上がった。皆に注目されてる…照れくさい、けど。
 わたしの答えなんて、最初から決まっている!


「はい…!わたしも貴方を愛しています。わたしが貴方を守ります!だから…よろしくお願いします」

 はしたないとは思いつつ、彼に正面から抱き付いた。するとパスカルが…わたしを抱えて、笑顔で立ち上がる。

「ああ!大好きだ…シャーリィ!」

 同時に会場を拍手と歓声が響き渡る。アイシャなんかは目に涙を浮かべて…皆が、祝福してくれる。
 嬉しい…嬉しい…!その時音楽が鳴り始めた。そうだ、今日はダンスパーティーだった!

 楽団を呼ぶ広さは無いのでスピーカーから流れてるだけだけど。わたしはパスカルと、ロッティはジスランと手を取り中央に進む。
 ジスラン…彼も穏やかに微笑み、祝福の言葉をくれた。君も、ロッティを大事にしてね。


「ねえパスカル。もしかして…気付いてた…?」

「んー?どうだったかな?」

「もう…!」


 注目の中パスカルとダンスする。ずっとこうしたかったんだ…綺麗なドレスとヒールで、愛する人と踊る日を夢見ていた。
 これからは夢じゃない。わたし達は互いに見つめ合い…同時に

「あなただけを、愛しています」

 と呟いたのだった。




 ただ…どこからか。


「シャーリィ…」


 わたしの名前を呼ぶ…少那の切ない声が耳に届いた。

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