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学園4年生編

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 もう12月の頭、来週にはテストが始まる。最後の追い込みとして我が家で勉強会を開いているのだが、参加者はロッティとバジル、木華と少那のみ。
 ちなみにわたくし女装中。必要は無いけれど、なんとなくね。カリカリとペンを走らせつつ雑談をする。
 咫岐やフェイテ達も話している。わたし達が好きに過ごしていいよ、と言ったのでな。今はフェイテとジェイルがクフルでの話をしているみたい。懐かしー。
 逆に薪名が箏の話をして、ジェイルが楽しそうに笑っている。わたしも入れてー。


「ところでさ、凪陛下はいつ頃いらっしゃるの?」

「予定では…終業式の前後になりそうかなあ」

 ほーん。年内に来るってのは聞いてたけど…意外と早い。というか箏からグランツの首都まで何日くらい掛かるの?

「そうね、私達は…まず陸の移動も長かったのよね」

「あっ、そうだ!箏ってさ、魔道鉄道走ってるんでしょう!?」

「よく知ってるね。うん、私達もそれに少し乗ったんだ」

 いーなー、わたしも電車乗りたいなー!!この大陸では全然開発されていなくて残念ですが。
 代わりにこっちでは、魔道飛行艇を製作中らしい。陸路はまだまだ馬さんに頑張ってもらおうって事かい。
 動力は魔石。それにマナを充填して、大きな力になるのだ。でも魔石が少ないらしくてね。人工的に魔石を作れるようになったら、もっと色々便利になるかも。


「でも鉄道も数年前に完成したばかりだし…今は試験走行ってところで区間は短いんだ」

「それに箏は海に面しているけれど、カンタル大陸は逆方向だし。向こうのオオマキラ大陸を28日掛けて移動したわ」

「そして海に出てのんびり船旅、30日ちょっとだね」

「「「へえ~…」」」

 それだけで約2ヶ月かー。飛行機とかあったら速いのになあ。でもわたしにはヘルクリスもいるし…いつか遊びに行こう!!転移魔術がもっと精密だったらいいのにねえ。

「それでグランツの港に着いて、そこから馬車で2日ね。多分兄上も同じルートで来るんじゃないかしら?」

「…………ねえ。もうすぐ新年だけど、国王陛下が不在にしてていいの…?」

 という問いには、問題ないと返された。すごいな、箏は。
 そんでそのまま、2人が帰るその日まで滞在すると…それ、半年くらい国を不在にしていない!?


「まあ国は大臣達に任せて平気だよ。王妃殿下…義姉上は国に残ってるって言うし」

「すげえ…」

 楽しみだなー。陛下も少那や命みたいに、線の細いお兄さんって感じかな?

「えへへ、私も友達を凪兄上に紹介するのは初めてなんだ!きっと喜んでくれるよ」

 そう?そりゃ嬉しい!…って、なんか咫岐が酸っぱい顔してる。まさかアレか、友達だなんて認めません!!なんてね。




 ちと話しすぎちゃったけど、今日は終わりっと。勉強道具を片付けて、見送りの為外に出る。
 うわ、真っ暗…まだ6時なのに。寒くて身体が震えるし吐く息も白くて、冬到来って感じだなあ。真冬のミニスカ生足女子高生、ほんま尊敬するわ。
 
 
「グランツはさ、雪降らないの?」

「うーん…首都はあまりね。北のほうは結構積もるんだ」

 スティル監獄がある辺り…とかね。
 なんだかすぐに帰る雰囲気でもなくて、少那と冷えた手を繋いで空を見上げた。星が綺麗…って最近も思ったな。


「私ね…留学が決まって、貴方からの手紙を貰った時。手紙と写真を見て、早く会いたいなあって思った。その時窓から見た世界も、こんな風に綺麗な星空だったんだあ。
 一緒に遊んで勉強して、喧嘩して仲直りして。そんな友達になれるかなって…心躍らせると同時に不安でもあった。でも…そんな不安、要らなかったね」

「少那…」

 彼の顔が赤いのは、寒いからなのか…それとも。握る手にぎゅっと力を入れると…彼は不思議そうにわたしの顔を覗き込んだ。


「僕もね。君と友達になれてすっごく嬉しい!でも、あのね。僕…秘密があるの」

「え…秘密?」

「うん…それをね、僕の誕生日パーティーで打ち明けるから。君は怒るかもしれないけど…来て欲しい」

「……うん、分かった。絶対に行くよ!」


 少那はそう言って笑った。ふう…本当に、嫌われちゃうかもしんないなあ。
 それでも、これ以上偽り続けるのは色々しんどい。少那を観察してみたけど…ロッティ、薪名、モニクと普通に接してたんだよなあ。わたしも顔を近付けたりしてみたけど、全然反応は無かった。よきかな。
 完全ではなくても、女性恐怖症は大分和らいだと思う。なので、怖いけど…彼に真実を話そう。



 ……?馬車の準備は出来ているのに、少那は乗らない。というか…なんか、じっと見られてる気がする。彼はわたしと屋敷を交互に見て……わたしに、抱き付いてきた!?

「えいっ」

「!!?」

「あ、兄上!?ちょっと、何してるのよーーー!!!」


 オギャーーー!!!し、しかも先日のように、胸に顔を埋めやがった!!今はサラシじゃなくて普通の下着だから、マズいんですけどーーー!!?
 引き剥がそうにも、意外と腕力あって離れない!!

「どーいうつもりっ!!?」

「……セレス、ふわふわで柔らかいねえ。これ、本当に偽乳?温かいし…」

 揉むな!!!心なしかニヤついてないか君!?あ、待って。バズーカはやめてロッティ!!
 そこへ木華が思いっきり少那の頭を叩き、咫岐が馬車の中に放り込んだ。一体何が彼を駆り立てたんだ?

「うーん。こうすればまた、グラス殿が出て来ると思ったんだけど…無念。
 それはそれとして、どうもありがとうございました」

 馬車の中から深々と頭を下げる少那。純粋無垢な彼は何処へ行ってしまったの?

「冬期休暇になったら、一緒に温泉行こうね!」

 帰り際、キラキラした目でそう言われた。その目には…数ヶ月前には無かった下心が見え隠れしているような……なんで?
 



 少し後、馬車の中。


「少那!!!一体どういうつもりなんだ!?」

「怒らないでよ、咫岐兄上。私もね、パスカル殿を見習って少し積極的になろうと思って!」

「あの方は見習っちゃ駄目な人種よ」

「ああ~…!今度セレスに謝らなくちゃ…!!」

 咫岐、少那、薪名、木華がそんなやり取りをしていたとか。どうやらこの4人しかいない場所では、こんな風にただの兄弟であるらしい。

 しかしパスカル、君は少那に悪影響与えてんな!!!




 ※※※




 数日後、土曜日。本日は皇宮に呼び出されております。へい、褒美を貰う為さ!!
 パスカルとフェイテと一緒に移動。お父様も来るって言ってたけど、現地集合だ。そのまま終業式まで首都でのんびり過ごすって!

「褒美って…パスカルは何かお願いするの?」

「ん?まあ…考えてある」

 ほう。まあわたしも一応考えてはあるけど…陛下がどのくらいの規模で考えてんのかなあ。

 

 皇宮に着くと、すでにお父様もいた。そんで一応公式的な面会なので玉座の間に移動。お偉いさんとかいっぱいいるから、ちょっと緊張しちゃうわ。
 パスカルと並んで陛下に礼を執り、挨拶をして顔を上げる。

「此度の活躍、見事であった。其方らの勇敢な行動により、多くの民が救われた。よって褒美を取らせようと思う、何か願いはあるか?」

「「ありがとうございます。勿体なきお言葉です、陛下」」
 
 さて、褒美!パスカルとアイコンタクトを取ると…どうやらわたしから先に言って欲しいみたいね。では遠慮なく。


「では畏れながらお願い申し上げます。近日中に箏より凪国王陛下が訪問なさると聞き及んでおりますが…わたしに、陛下と謁見する機会を与えていただけませんか?」

「「…………?」」

 陛下は、玉座の隣に立つお父様と顔を合わせた。

「……そんなんでいいの?爵位とか要らない?」

「要りませんっ!!…こほん」

 あらいやだ、厳格な空気吹っ飛んじゃったわ…。いつものアットホームな感じです。


「その~…凪陛下に紹介したい人物がいるんです。あとはまあ、個人的に少那の友人としても挨拶したいし」

「えー…もっと大きいもの想像していたんだが。オーバン、公爵家どんだけ質素なの?」

「やかましっ!!慎ましやかと言ってもらおうか!!」

「じゃあこっちから勝手に何か褒美あげるよ。マクロンは何かあるか?」

 流された!!いやまあ、大丈夫だろうけど…パスカルは何をお願いするのかな?と思っていたら…なんか、わたしのほうをチラチラ見てる。


「えっと……すまない、セレスタン。少し…席を外してもらえないか…?」

「へ?わたしがいると駄目なの?」

「…………今は、まだ…」

「?????」

 なんで?つまり…わたしと関係ある何か?気になるんだけど…お父様は何かピンと来たようで、わたしに外で待つよう言った。なんなんだよう!!




「なんなのだろうな、一体!!!」

「そう…です…ね…」

「はっはっはっ、顔色が悪いぞセレスタン君!!!」

 おう、おおう!わたしの頭を乱暴に撫で、大声で笑うのはテランス様。何故か彼も一緒に追い出されたのだ。部屋の中でどんな会話してんのかなー…なんとか聞こえないかなぁ?

「ははは!!!どれだけ耳を澄ませても、この重厚な扉に阻まれて聞こえまい!!!」

「………がっくし…」



 ※



『ははは!!!どれだけ耳を澄ませても、この重厚な扉に阻まれて聞こえまい!!!』


「「「………………」」」

「……外の声聞こえてんぞ、兄貴。重厚な扉はお飾りか?」

「これ以上厚くしたら開閉も一苦労だわ。それで、わざわざあの子達を追い出した理由は?」

 皇帝に訊ねられ、パスカルは目を伏せて発言した。

「……私ことパスカル・マクロンと、シャルティエラ・ラウルスペード公爵令嬢の婚約を正式に交わしたく存じます。つきましては陛下に、公証人になって頂きたくお願い申し上げます」

「……………うん?それって……ほぼ勅命になるんだけど…」

「なんかもう繋いでおかないと不安なので!!!」

 パスカルはキリッとした顔で言い放つ。皇帝は目を丸くして、たった今名前の上がったシャルティエラの父であるオーバンに目を向けた。


「……いいのか?婚約して」

「………いい、けど…本人も望んでるし…。戸籍もすぐに取得出来るようにはしてある」

 この場にいる全員が温かい目をパスカルに向けている。ふ…やっとか。頑張ったな、とか聞こえてくるような。どうやら彼らの噂は、皇宮にまで浸透しているようだ。
 皇帝は少し考え、答えを出す。

「一応書類書いてあげるけど…もしも彼女が嫌がったら、すぐに破棄出来るようにしとくからね?」

「はいっ、ありがとうございます!!」

「そんで、それだけ?」

「充分です!!」

「2人共欲無いねー…」

 皇帝的には爵位とか領地、少なくとも勲章なんかの名誉を与えるつもりだった。
 だがセレスタンもパスカルも「力のある者として当然の事をしたまで。もしも金品類を戴けるなら、それらは魔物被害に遭った国民に使って欲しい」との考えだった。


「(若いのに立派な…この国の将来は安泰だろうな。せめて2人には首都に、結婚後の屋敷と土地でも贈らせてもらおうかな)」

 
 皇帝は満足気な表情だ。そこで皇帝に発言の許可を得て、財務大臣であるパスカルの祖父が孫を見下ろし口を開く。


「ふむ、パスカルよ。侯爵家はどうするつもりだ?」

「…シャルティエラは騎士を目指しております。故に侯爵夫人にはなれません。
 その為俺は、後継を破棄して彼女を支えたく存じます。どうしても許可を頂けなければ…身勝手ではありますが、侯爵家とは絶縁となりましょう」

 パスカルの発言に観衆が騒ついた。パスカルはセレスタンと結ばれる為なら、最悪実家を捨てると宣言したからだ。誰もが固唾を飲んで、大臣…ユージーン・マクロンの返答を待つ。
 するとユージーンは口角を上げ…

「ははは!よかろう、お前の意志は確かに受け取った!
 公爵閣下、これからは親族としてよろしくお願い致します」

「ああ、こちらこそ。娘を頼む」

 そのまま保護者達は互いに頭を下げて認め合う。その様子にパスカルは…ほっと胸を撫で下ろす。彼だって、出来れば家族と絶縁なんてしたくないからだ。


 固まっていた空気が解けた事で、周囲が祝いの言葉を次々に言う。すると、総騎士団長のモーリスがオーバンに訊ねた。

「ラウルスペード嬢は騎士になるのでしょう?やはり近衛に入団してもらいますか?」

「いいえ!!俺達は卒業したら、すぐに結婚したいので!!」

「ちぇー」
 
 反論したのはパスカル。近衛は表に出る事も多く忙しく、殆どが独身者で構成されている。昔は伴侶がいないほうが、有事の際に命を捨てるのに躊躇しない為…といった理由だった。

 現在においては単に皇族と共に並ぶ事が多い為…実力は勿論のこと、家柄と容姿にも恵まれた者が選ばれる。
 その為実力も申し分なく美しく、公爵令嬢のセレスタンを将来は木華の隣に立たせたいと、モーリスは考えているのである。

 だがパスカルは夫婦の時間は充分欲しいので、セレスタンの近衛入りは断固拒否の考えだ。



 その後パスカルの将来はどうする?という会話になった。魔術師になるか…宰相は息子と一緒に皇太子殿下を支えてあげてと言う。
 ユージーンは財務省に就職しろと言うし、選択肢はいくらでもある。色々話したいだろうが、今は外にセレスタンとテランスを待たせているので、そろそろ解散という流れになった。さっきからテランスの大声がちょくちょく響いているのだ。


「お待たせ、セレスタン」

「おおう…パスカル…」

「終わったか!!!ははは、セレスタン君はお疲れ気味だぞ!!!」

 セレスタンは両耳を押さえてフラフラしていた。近くに控えていたフェイテも同様。騎士達は涼しい顔をしているが…顔色は悪い。


 折角皇宮まで来たので、今日はルシアン、少那、木華と勉強会の予定だ。パスカルはフラつくセレスタンを支えて、ルシアンの部屋に向かう。


「……ねえパスカル」

「ん?」

「陛下に何をお願いしたのか…僕には教えてくれないの?」

「………うーん。教えたいのは山々なんだが…」

 パスカルがチラッと横を見れば、悲しげな表情のセレスタン。
 胸が痛むが…まだ駄目だ。彼はセレスタンが秘密を打ち明けてくれたその時、自分も打ち明けようと心に決めた。


 パスカルは立ち止まり、少し屈んでセレスタンを正面から抱き締める。彼女は照れるも、振り払う事はしなかった。


「……すぐに分かるから。でも1つだけ。
 俺は以前、君と生涯を共にしたいと言ったね?君だけを見ていると…それは勿論今も変わらない。それを…忘れないで」

「パ、パスカル…。うん、分かった…」


 セレスタンも彼の背中に腕を回し、互いの体温を確かめ合った。ずっとこうしていたい…と思いつつも、名残惜しそうに身体を離す。そして見つめ合い…2人の顔が近付いたその時。




「スクナ。あれを見せつけられてまだ、セレスを諦められないか?」

「うーん…いや、よくて私は2番目だね。それはやだなあ…」

「2番目にはなれると思っている辺り…殿下って意外と自己肯定感高いですね?」

「セレス…だ、大胆ね…!私には無理だわ…」

「まー姫様はまだ、キスもしてませんしね」


「「……………………」」


 すぐ近くからルシアン、少那、咫岐、木華、薪名の声がした。それは当然…2人が熱い抱擁を交わしていたのが、ルシアンの部屋の前だからだ。彼らは部屋の扉を全開にして、2人を堂々と見物していた。


「俺らもいるんですけど…大丈夫かなあ、この2人」

「いっつもオレに気付かずラブシーン見せつけてくれるけどな」


 更に後ろからは、2人に付いてきたフェイテとジェルマンの声が。それだけでなく、部屋の外に待機している騎士や剣士もばっちり目撃していた。
 もっと言ってしまえば、パスカルの側には大体セレネとノエルがいる。セレスタンの影の中や後ろには、沢山の精霊がいる。

 セレスタンとパスカルはそっと離れ……



「いってえ!!いだっ、あだだっ!!何何なんなのなんでオレ!!?」

「うるさいっ、ばかーーー!!!教えてくれてもいいじゃん!!」

 羞恥がMAXになったセレスタンはジェルマンに八つ当たりした。彼をボカスカ殴り、追い掛け回す。

 そんなやり取りを見て、皆笑った。ただし時と場所は考えろ…と、全員思っているのであった。






 その後学園では期末テストが行われた。トップがシャルロットなのはお決まりで、今回はエリゼとパスカルが同点2位。彼らは相当悔しそうにしており、次こそは満点を取る!!と息巻いている。


 ヴィルヘルミーナのセレスタンへの猛アタックも続いている。ただし皇帝と祖父、及びオーバンから婚約の許可を得て、正式に結んだ(セレスタンは知らない)事によりパスカルは自信が付いた。
 ヴィルヘルミーナに真正面から「セレスタンの隣に立っていいのは俺だけです!!」と宣言し、シャルロットと結託してセレスタンを守っている。


 慌ただしい日々はあっという間に過ぎて行き…ついに終業式。ヴィルヘルミーナの留学は終わりを迎えるのだった。

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