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学園4年生編
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しおりを挟む閉会式後、落ち着いた少那に話を聞くと…
「彼は…子供の頃亡くなった命兄上によく似ているんだ。
兄上の母君は魔女と呼ばれる程魔術に長けていて、彼もその才を継いでいた。
それに…歌や踊りが好きだった。凪兄上の後について刀を持って走り回っていた影響か、特に剣舞は見事だった。さっきのグラス殿のように…。
ああ…駄目だね、私は。そんな筈無いって、分かっているのにね。どうしても…命兄上とグラス殿を重ねてしまう。それは、彼らにとても失礼な事なのに…」
彼は泣き腫らした目を伏せた。
そこまで聞けばもう分かる。グラスは…王太子の命様なんだね。
あの日、少那の悪夢の中で。眞凛さんが抱えていたあの袋に、命が入っていたのかもしれない。お母様と倒れていた彼は偽物?まさか…影武者。いつ入れ替えた、とか疑問は残るけれど。
それならば色々と辻褄は合う。眞凛さんは命を船に乗せ逃がし…彼女はそこで力尽きた。記憶を封じたのは誰?鍵は…命は思い出した?
ああ…今はこれが限界。全てわたしの想像でしかない。
パーティーが終わったら、きちんとグラスと話し合おう。
わたしはさっきからパスカルに手招きされているので、少那の顔を撫でて癒してから背を向けた。
「あの、セレスタン様!!グラス…様の本名を、貴方はご存知なのですか…!?」
すると咫岐の必死な声が聞こえて、ぴたっと足を止める。
「………確か、ミナトだかマコトだったかな。でもそれは…本人がいつか語る…と思うよ…」
後方から息を呑む音がしたが…気付かない振りをして、般若のパスカルの元に向かっ…………なんで?
※※※
剣術大会後のパーティー。ジスランは毎年モテモテなのだが…隣でロッティが睨みを利かせている為、令嬢はほぼ近寄らない。代わりにアゼマ君が大変な事になっている。
わたしは毎年令嬢に囲まれているのだが…今はちょい、そういう気分になれないや…。
会場の壁に背を預け、死にそうな顔のわたしを誰もが避ける。考える事が多過ぎて…ね。
「…なんでお前、そんな疲れてんの?」
「………おぅ…エリゼ…」
エリゼに差し出されたジュースを受け取り、一気に呷る。なんでって…
さっきグラスにキスされたじゃない?それで…
「嫉妬したパスカルが…わたしの腕を引っ張って人気の無い場所で超~濃厚な「やめろもういい聞きたくねえ」あそ…」
ならば語るまい。18禁一歩手前だったなんて言えんし。
今パスカルは少し離れたテーブルのとこで、何食わぬ顔でルシアンと雑談している。ふざけんなこの野郎。
奴に恨みの視線を送るも、爽やかな笑顔で返された。今度こそ『変態紳士』Tシャツ作ってやるからな。裏は『年中発情期』な。『破巣火留』っていう署名付きね。
エリゼと少し話していたらルネちゃんもやって来て、ようやく元気が出てきたぞ。
その時ふとパスカルに目を向けると………???
「?どうなさいましたの、セレスちゃ……」
「ん?2人共どう……」
わたし達はとある光景に固まった。
「パスカル様。とってもお強いのですね、素敵でしたわ」
「…………ありがとうございます。ですがジスランやセレスタンには遠く及びません」
「まあ、ご謙遜なさらないで」
「事実を述べたまでです」
「ふふ、お堅いのですね」
「……………………」
ビビ様が…露出の多いドレスに着替えて、パスカルの腕を取り胸を押し付けて…蕩けた表情で彼を見上げて。猫撫で声で…超迫ってる……。
「……セレス。あの変態は、お前以外見てねえから…」
「そ、そうですわ。ほら今も、とっても嫌そうなお顔を…」
「ふぅ~…ん…?わたしには…ビビ様の胸の谷間をチラ見しているようにしか、見えないなあ~…?」
「「……………(確かに……)」」
なんだあの野郎……わたしだけを愛しているとか言って…おっぱい付いてりゃ誰でもいいんかああん?思わず手に持つグラスにヒビを入れる。
「言っとくけどなあ…わたしのほうが大きいからなあ…!あのおっぱい星人めぇ…!!」
「おやめなさいセレスちゃん!」
「…………………」ちらり
「はしたないですわ!」と小声で怒るルネちゃん。その時、エリゼがわたしの胸をチラ見したのを見逃さなかったぜ。どいつもこいつも…!!
ああ、そうだ…奴の首にミカさんを突き付け…ロッティみたいに可愛く「浮気しちゃ、や・あ・よ♡」ってやろう…そうしよう。薄皮の1枚2枚3枚くらい斬っても、いいよね?
【だからやめなさいと……主】
ん?ミカさんを鞘から少し抜いた時、彼の声のトーンが変わった。そして言われた方角を見ると…咫岐が、じいっとこっち見てる。
もし今刀身の『魅禍槌丸』の字に気付かれたら…ミカさんが女好きの刀匠禍月の作品だと…バレてしまう?
その為…なんとか怒りを抑えて、ガチン!!と鞘に戻す。代わりにパスカルを睨みつけると…ようやく奴は今の状況に気付いたようだ。慌てて優しく腕を振り払う。
「(?シャーリィはなんであんなに眉間に皺を……はっ!!?)失礼します、殿下」
「あら、どうかなさいまして?」
「王女殿下。僭越ながら申し上げますが、婚約者でもない殿方と過度に接触するのはお控えになったほうがよろしいかと。
セフテンスの文化は存じませんが、グランツ皇国においては品が無いと捉えられてしまいますわ」
お?そこに…ロッティが登場だ。優雅に微笑みながら言ってくれた!ビビ様は一瞬真顔になるも、すぐに笑みを浮かべる。
「パスカル様はご婚約者はいらっしゃらないのですよね?それなら、私がお近付きになってもよいのでは?」
「……今は訳あって婚約はしていませんが…俺には将来を約束した人がいます」
え…そんな言い切っちゃうの?シャーリィ照れるわ…うふ。
……………わたしの事だよね?違ったら…闇堕ち待ったなし。
「それにこのパーティーは皆制服で参加する気軽なもの。もう少し場の雰囲気を楽しんでみてはいかがでしょう?(訳:あんた気合入れすぎ、浮いてんのよ)」
「だってパーティーと言えばドレスでしょう?だと言うのにダンスも無いなんて…はあ。折角素敵なドレスを仕立てたのに」
「このパーティーは大会に参加した生徒を労ったり称える為の、言わば慰労会ですもの」
「その為のダンスでしょう?折角私の相手をさせて差し上げるという栄誉を授かるチャンスなのに…困ったわね」
おっと、ビビ様が首を傾げて困ったわアピールをする。すかさず男子生徒が集まり…
「ラウルスペード嬢。何もそのような言い方をする必要は無いでしょう」
「王女様、よろしければ今度我が家主催の夜会にご参加頂けませんか?」
「どうか私に貴女をエスコートする栄誉をくださいませ」
「まあ…うふふ」
「では話は纏まったみたいなので後はご自由に~。行くわよパスカル、ルシアン様」
彼らは別の世界に行ってしまったので、その隙にロッティが2人の腕を引っ張ってこっちに向かう。そのまま皆で会場の隅にコッソリ移動する。
ありがとう~~~!!とわたしは思わずロッティに抱きついた。彼女もぎゅーっと返してくれたぞ。
「ごめんねええ~!!嫌な役目させちゃって…次はわたしがちゃんと言うから!!」
「いいのよ、お兄様には無理だもの!」
どういう意味かしら?こう見えて言う時ゃ言うゾ。
ロッティと抱擁を交わしつつ、パスカルに睨みを利かせる。彼はすぐに視線に気付き、滝のような冷や汗を流す。
「………シャーリィ、誤解だ…」
「誤解?僕まだなんも言ってないけど?」
「………………」
彼は暫く目を閉じて天を仰ぎ…勢いよく土下座した。
「すいませんでしたあっ!!あの、王女殿下の胸超見てました!(小声)
でも俺が愛してるのはセレスタンだけです本当です!!!(大声)」
「ぎゃあああーーーーーっ!!!?ちょ、やめ…!!こっち来い!!!」
彼の奇行に、会場中の視線が集まった!!しかもロッティ含む友人達よ、何故遠くに離れる!?
急いで彼の首根っこを掴み会場を後にする。合鍵を使って医務室に侵入、彼は自主的に床に正座した。
「……で、他に言い分は?」
「本当に俺はシャーリィ以外見ていません!あ、いや谷間はつい見ちゃいましたが。というかもう宣言しよう、俺達は恋人同士だと!」
「出来るか!!!…さっきので、したようなモンか…」
「そう!俺達は公爵公認の仲ですでにキスどころか互いの全てを曝け出し合い、幾度となく(ピーーー)な行為を繰り返して…」
「きゃああああっ!!!捏造すんなバカっ、変態!!」
もうやだこの男!!放送禁止用語を連発する彼氏ってどうなのよ!?パスカルって…こんな人だったっけ?
でも……それを可愛いと思ってしまう自分も末期だな…笑うしかねえや…。
「もう分かったから…でも次は怒るからね!?」
「大丈夫、俺は一度で学習する男!!……………」
「……………な、なに……?」
パスカルは笑顔で立ち上がったと思いきや…わたしをじぃっと見下ろす。その目は心なしか、熱がこもっているような…?
無意識に後ろに重心を傾けるも、両肩を抑えられゆっくりと顔が近付き…そっとキスをされた。
「……もう出よう、ベッドのある部屋で2人きりは…少しまずいから」
「…………う、ん」
正確にはセレネなんかもいるし、2人きりではないけど。
わたしの腕を引く彼の顔が赤く染まっているのを見て、つられて照れてしまうのであった。
もうパーティーも終わりなので、ロッティとバジルと合流して帰宅。グラスに声を掛けたら…
「……近いうちに必ずお話します。お嬢様は、どうか少那…殿下を気に掛けてやってください」
「……………分かった」
そう言われては仕方ない。彼に何があったのか知らんが…もう少し、待とう…。
そしてこの日を境に、ビビ様は完全にパスカルに狙いを定めるのであった……!
応援ありがとうございます!
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