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学園4年生編

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 楽しい楽しい旅行から帰って来て数日後。ルネちゃんは言っていた通り、お見合いに挑む。
 相手をよく知る為に1人に半日(大体4時間の予定)、合計2日半掛けて交流をするとのこと。そしてわたしは侍女としてお側に控えます。
 さてさて、ルネお嬢様のお眼鏡に適う紳士はいるのだろうか!?


 
「うーん、侍女のドレスって難しいわね。流行を取り入れつつ、主人のルネより豪華なのは駄目よね?
 逆に地味過ぎても、ルネの評価が下がってしまうわ」

「そうですわねえ…でも折角ですし、3人でワンポイントお揃いの部分を取り入れてみませんこと?」

「わあ、それ良いわね!ね、お姉様!」

「ウン…そうだネー……」


 今わたしはルネちゃんの部屋で…ロッティと3人で当日のドレスについて話し合い中。沢山のドレスが並び、ルネちゃんが「お好きなのを選んでくださいませ」と…あら嬉しい。
 貴族っちゅーのは服の購入は、デザイナーを呼んで仕立ててもらうモンだが…時間が無い場合はこうやって、既製品で済ませる。いやしかし、商人が運んで来たドレスとアクセサリー…多いわ?
 ルネちゃんとロッティは楽しそうにドレスを選び…いやなんで?なんでロッティもいるの?


「面白そ……ルネの友人として、変な男に引っかからないか心配なのよ!」

 ロッティ、本音をまるで隠せていないね。顔にも『恋バナ聞きたい、お見合い見たい!』って書いてあるし…。

 結局わたしとロッティは双子の侍女で、愛するお嬢様が心配過ぎてお見合いに同席するという設定で…なんだそれ。
 もちろん2人きりになる場面もあるが、恐らくその時は…ロッティは壁越しにバズーカ構えてる気がする。ひぃ。


 ルネちゃんは白銀色の、装飾は少なめだが綺麗で上品なAラインドレスだ!ワンポイントに、腰の所に赤いリボン付き。ヘアセットもばっちり、あんたが主役!!
 そして侍女2人は水色(わたし)と桃色(ロッティ)の色違い。ミモレ丈の可愛いやつで、装飾は刺繍のみ。わたしは胸元、ロッティは髪飾りとして赤いリボンを付けるのだ。


 更に変装として、髪と目の色を変える。わたしが銀髪青目、ロッティが黒髪緑目である!
 これは万が一解けたら面倒な事になるので…魔道具を使う。最初は魔術にしようかと思ったけど、姿形を変えるのは繊細な術なのでわたし達には無理!
 それをエリゼに相談したら、色を変える魔道具を貸してくれたのだ。それで子爵家に遊びに行った時、エリゼが気になる事を言っていた。


「なんかルシアンが、将来は海の近くに住みたいって言ってたぞ。だからそっち方面に領地を貰うか…シャルロットやルネ嬢みたいに、家を継ぐ女性のところに婿入りするって。
 そんな条件の良い女性なんていんのかなあ…?外国に行く可能性もあるかもな」


 そっか…なんかルシアン、今まで婚約とか逃げ回ってたけど。ついに決めるのか。
 ふむ…そっか。港町となったら国内外でも首都から距離あるし…気軽に会えなくなるかな。今の学生のうちに…思い出を沢山作ろう。彼がやりたがっていた羊の毛刈りも、まだしてないしね!
 
 



 そんなこんなで準備万端、ついにお見合いの日を迎える。
 のだが……お相手がどんな男性達だったかと言うと…



 1人目。亭主関白タイプ。

 ルネちゃんが女公爵になるっつってんのに、領地経営も会社経営も仕切る気満々。恐らく優秀な人ではあると思われる。

「女性の社会進出ですか。良いとは思いますが…やはり女性ですと周囲に見下されてしまう事も多いでしょう。ルネさんのお名前だけ貸していただければ、仕事は私が全て引き受けます。あらゆる権限を私に…」

 2時間で切った。半日要らんかったね。



 2人目。道楽息子タイプ。

 公爵令嬢ルネちゃんの前では礼儀正しくしているが…お見合い会場であるレストランで、店員さんに横柄に振る舞う。
 外見もチャラいしプロフィールを見ると、数度女性問題を起こしている…よく公爵が認めたなこのお見合い?と疑問に思ったら、この息子の父親があらゆる手を使って漕ぎ着けたらしい。

 で、ルネちゃんにも値踏みするような視線を送り…わたしとロッティの事も、頭っから爪先までニヤつきながらじろじろ見てやがった。その結果…

「あんた今お姉様に厭らしい視線送ったわね?ルネお嬢様と結婚したら、私達含め女性使用人の事も好きに出来ると思ってるわよね?もしもお姉様に手え出したら…吹っ飛ばすわよ…?」

 と、ロッティが男性の股間にバズーカを突き付けたのだ…令嬢が何やってるの!!30分で逃げ帰った。

 ルネちゃんもこの人に関しては、最初から義理で会うだけで眼中に無かったらしい。
「不快な思いをさせてしまってごめんなさい」と謝ってくれた。予定外に暇になったので、その後3人で楽しく過ごしたぞ。



 3人目。マザコン。

「母がこのお話を持って来てくれまして」「やはり僕は、女性には母のような水準を求めます」「ルネ様はどうお考えですか?僕の母は…」「母が以前言っていたのですが…」「母でしたらそういう時は…」「どう思う?ママ」

 当然隣にママ参戦。ママンの手前、時間いっぱいまで交流はしたが…もうお袋さんと死ぬまで暮らせ?



 4人目。……なんだろうね?

 どうやら周囲に勧められてこのお見合いに来たらしい。まるで「友達と一緒にアイドルのオーディションに応募したら、友達は落ちて自分だけ受かっちゃった~」的なノリ。
 

「自分に公爵家の主人とか向きませんよ~。でも、どうしてもって言うなら…と思いまして。
 あ、ちなみに公爵ってどのくらい全体収入あるんでしょうか?やはり主人になるなら、そのくらい把握しておくべきですよね。
 それとヴィヴィエ家で経営している飲食店とか、身内サービスありますよね?友人が『お前は未来の公爵夫君なんだから、期待してるぞ~!』なんて言ってまして~、気が早いですよね」

「「「…………………」」」

 3時間で終わった。




 ※※※




「なんて事なの…1人目が一番マシでしたわ…!」

 そして最終日。5人目を待つ間…3人で頭を抱える。ねえ、なんで変な人ばっかりなの?仮にも公爵家に婿入りするってんだから、もっとマシなのいないの?

「……これでもマシなほうなんですの。
 そもそも婿入りに抵抗がある方が多いですし。後継でない次男三男の方で…歳が離れ過ぎていなくて。やはり女性の社会進出は前途多難ですわ~…」

「……それこそジェイルとかどうなの?」

「ジェルマン卿は素敵な方ですけれど…彼は騎士という立場に誇りを持っていらっしゃるでしょう?うちはラウルスペード家のように騎士団もありませんし…まさか私の結婚の為だけに設立するのも…」

 ふむー。もっと簡単に終わるかと思っていたよ…
 なのでわたし達は、もう最後の人に希望を託す。これで駄目だったら、一から選考のし直しだ。


「それで、最後はどんな人なのかしら?」

「ロッティ、プロフィール見てないね…」

 お茶を飲みながら、ルネちゃんが資料を広げる。

「…最後の方が、本当によく分かりませんの。年齢は21歳、辺境伯次男。私達が学園に入学する年に卒業されていきましたね。
 在学中は素行も良く、成績も常に上位。魔術や武術も腕が立ち、外見も悪くありませんし…性格も悪い噂をまるで聞きません。
 まだお若いですし、ここまで素敵な方なのに…女性に纏わるお話も一切無し。好条件すぎて逆に怪しいんですの…」

 ほーん。確かに…それならとっくにお相手がいてもおかしくない。なんだろう…
 実はめっちゃエグい性癖持ってるとか。3人目以上の重度のマザコンとか。もしくは恋愛対象は男性?色々考えてしまう。

「ねえルネ。その方お名前は?」

 ルネちゃんが問いに答えようとした瞬間…お見合い相手が来たと連絡が。慌てて移動し、待ち構えると…



「失礼致します」

 と、先に入って来たのは…きっちり正装のバティスト。

「えっ!?…とと」

 ロッティがびっくりして声を上げてしまったが、急いで自分の手で口を塞いでいた。その様子にバティストもニヤニヤしてるわ。
 そして彼の次に入室したのが…灰色の髪を丁寧にセットしている、バティストに似た顔立ちの…


「初めまして、ヴィヴィエ公爵令嬢。ファルギエール辺境伯次男、ジャン=オスワルド・ファルギエールと申します」


 そう、バティストの甥っ子である!!
 別荘で名前と顔を見た時、すぐにバティストの血縁だと分かった。旅行から帰った後バティストに聞いてみたら…「色々と心配なので付き添う。面白いものも見れそうだし」と言っていた。
 で、来た訳か。まあお見合いに親族が付き添うのも普通の事だしね。大概途中で席を立つけど。



 さてさて、甥っ子さんことオスワルドさんがルネちゃんの前に座る。
 バティストは席には座らず、わたし達のように彼の後ろに立った。オスワルドさんは気付いていないが、めっちゃ笑顔。
 
 で、そのオスワルドさん。外見は…黒い垂れ目に泣きぼくろが特徴的。ビジュアル系っていうか…バンド組んでそうな感じ?普通に格好いい。声も個人的には好き!
 彼は無表情で背筋をシュピーン!とさせ、真っ直ぐにルネちゃんの顔を見ている。ほう、ほほう。


「え…えっと…ファルギエール様。本日はいらしてくださり、ありがとうございます。早速いくつかお聞きしたい事が御座いますが…」

「……………………」

「……(何かしら、全然目を逸らしてくれないわ…!こ、ここは軽い質問から…まずは定番の)ご趣味はなんでしょう?」

「………………………………」


 ルネちゃんの質問に……彼は口を開く事も無く微動だにせず。



 チク、タク、カチ、コチ




 レストランの個室に……沈黙が流れる……



「「「…………………」」」

「「………………」」


 わたし達は笑顔で待機。オスワルドさんは動かず。バティストは…笑いを堪えている?
 耐え切れなくなったルネちゃんが、口を開いた。


「…………えー…と。いきなりすぎましたわね!んと…(いや趣味が駄目ならなんですの!?)その…芸術に興味はお有りですか?観劇などいかがでしょう?」

「………………………」



 …………………なんだこの人。
 ルネちゃんが何を言っても無言。ロボットかな?

 段々とルネちゃんが、目に見えてイライラしてきとる…そりゃそうだ!頑張って質問しているのに、なんも答えてくれないんだもん!!わたしだったら泣いてるよ!?
 オスワルドさん、最初に自己紹介した以外口開いてないどころか指一本動いてねえよ!!?


「(はあ~……本当に、なんなんでしょう、この人……?)」

 ルネちゃんはお茶を飲みながらジト目になっちゃった。バティスト、フォローする為に来たんでしょう!?何笑ってんの!!



 な・ん・と・か・し・て・!


 バティストを睨み付け、ジェスチャーしてみる。オスワルドさんはルネちゃんしか見ていないので気付くまい。


 む・り・で・す・♡


 と返ってきた。お前本当何しに来たんじゃーーー!!!?



「(この人も駄目ですわね…はあ)あー…では、好きな女性のタイプはどんなですの?」

 と、ルネちゃんが投げやりに聞いた。おいおい~、お見合いの席でそんな事聞いちゃう?もうお断りする気満々じゃん。
 まあ、仕方ないよね~と思っていたら……


「…………!!!」ぼふんっ

「へっ?」

 オスワルドさんが…一瞬で顔を沸騰させ、やっと目を逸らした。
 お見合いが始まって1時間、ようやくアクションを起こしたと思ったら…え?

 ルネちゃんは珍しく間抜けな声を出して、わたしとロッティもびっくりだ。ていうかロッティは、つまらなすぎてバズーカの手入れ始めてたし…相手が身内の身内だからって気ぃ抜きすぎ。


「その……ファルギエール様?」

「…………………趣味は……りょ、料理、です。芸術は、音楽が好きです。オペラとか…クラシックコンサートとか…。
 犬か猫なら、猫がいいです。実家でも猫を飼っていますし…でも一番は、アヒルが好きです…。
 嫌いな食べ物は…特にありません。好きなのは…恥ずかしながら、甘いものです…。休日は…」


 急に発言を始めたと思ったら…ルネちゃんの質問に、正確に順番に答えていく。彼はわたし達とは違う時間軸を生きているのかな?
 ていうかちゃんと聞いてたんだな…そして覚えてたんだな。思わずわたしは、彼の回答をメモする。


「…………女性の…好みは………その…………」

 だが最後…好きなタイプという質問に…中々答えてくれない。何、どんな人!?いつの間にかわたし達3人は、前のめりになって聞いていた。



「…………う…………あ、ぅ……」


 オスワルドさんは更に赤く染まり…なんか涙目になってない…?
 その時、ようやくバティストが動く。オスワルドさんの首根っこを掴んだのだ。


「ヴィヴィエ公爵令嬢、大変失礼とは存じますが、少々席を外してもよろしいでしょうか?」

「あ、はい。どうぞ…」

「では、すぐ戻ります」

 掴んだまま立たせて…半ば引き摺りながら個室の外に出る。その時バティストが後ろ手で…扉を指差し、なんか合図してる?
 よく分からんかったが、彼らが出て行った後…3人で顔を見合わせて。しゅばっと扉に張り付いた。

 いる…声が聞こえる…廊下でなんか喋ってる!!なんとか聞き取れないものか…!!



『……お前は一体何をしているんだ』

『いや待って叔父さん!?聞いてない、あんな美人な子とは聞いてない!!』


「……び、美人?私の事でしょうか…?」

 でしょうよ。
 こっちはこっちで小声で会話する。バティストは自分達の会話を聞かせようとしているのか、やや大声になっている。


『それにすっごく優しい…気を使ってくれてるし…俺の趣味とか聞いても変な顔しないし…』

『……質問にはすぐ答えるよう、兄さんからも何度も言われているだろう?何してたんだ』

『いや……ヴィヴィエ嬢が思ってたより可愛くて…見惚れてた…』

『ンフフッ…!』


「………かわ、いい…?見惚れて…って…い、1時間も!?」

 おおう。ルネちゃんも顔を真っ赤にしちゃって…かーわいーい!


「趣味って料理って言ってたわよね?」

「そだね。そういえば…スイーツが好きとか、オペラなんかの音楽鑑賞も好きで」

「武術は得意だけど、血を見るのは嫌。動物は好きで…狩りは苦手。花を育てて、自分の花園でお茶を飲むと癒される」

「食器にもこだわりがあって、アンティークとか集めるのが好き。なんというか…趣味がやや女性っぽい?ねールネちゃ…」


「い、いえ…私これでも外見には気を遣っておりますし。美人だなんてお世辞、日常茶飯事ですわ。それよりもっと歯の浮くようなセリフを言われる事もありますし…もっとスマートに女性を褒める事が出来なくてはいけませんわ!」

「「……………………」」

 なんかブツブツ言ってるのでルネちゃんは無視して、廊下の会話を盗み聞く。



『そもそもお見合いなんだから、お前も令嬢に質問したりしなさい。相手にばかり気を使わせてどうする!』

『だって…やっと緊張がほぐれたと言うのに!俺…変じゃなかったかな?』

『安心しろ、いつも通り変だったから』

『よかった…ほっ』

「「『(良くねえ!!!)』」」


 どうやら…一筋縄ではいかなそうな相手ですね。ルネちゃんのお見合いはどうなる…!?

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