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学園4年生編

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 宿に移動し、美味しい夕食に舌鼓を打ち。寝る前に…バティストがお父様と若者を全員、使っていない部屋に集めた。騎士3人はまだダメージが残っているので、おじいちゃんに寝かしつけられ不在。
 そして床に円状に座るよう指示をして…照明を消す。灯りはバティストの持つ蝋燭一本…ま、まさか…!?


「や~っぱ夏と言えば…怪談でしょ~!」

「「………!!!!」」

 やっぱりー!!この国でも怪談はこのスタイルなのね。お父様とロッティは身体を硬直させ…へいへい、ビビってるぅ?


「ば、ばば馬鹿馬鹿しい!!俺は部屋に戻る、付き合いきれん!!」

「そ~やって別行動する奴が…真っ先に死ぬんだよなぁ~…」

「……………!!!」

 おぅ…それはどっちかと言うとパニックホラー系だと思うけど。逃げようとしたお父様は薄暗い空間でも分かりやすく、顔を青くさせた。


「……シャーリィ、ロッティ。こっち来い」

 ん?諦めて座り直したお父様に呼ばれて近寄ると…足の間に座らされ、後ろからぎゅーっと抱き締められた。暑い上に…照れるわ…。
 で、わたしの前にはロッティ。彼女はわたしの腕をぎゅううううっと掴み…いてててて!!


「さあ、どっからでもかかって来い!!!」

 
 お父様は震える声で言う。バジルとモニクも手を繋ぎ、フェイテはネイを膝に乗せる。テオファはタオフィ先生の背中にしがみ付き、手持ち無沙汰なグラスはシグニを抱っこした。

 全員準備万端なのを確認したバティストは、蝋燭を自分の顔の前に持って来て照らし…ニヤァ…と笑った…!ごくり。



「ふふふ………んじゃあ……はじめますかねえ…。

 これは実際に起こった話だ…。今から約30年前、あたしはまだ7歳の頃だった。ファルギエール領のとある岬で、不思議な噂話が広まっていてなあ…。その真相を確かめる為、あたしは1人…夜中に屋敷を抜け出した…」



 …!流石バティスト、話し方が上手い…こちらの恐怖心を煽ってくる。

 だが…確かに恐ろしいが、前世稲◯淳二で鍛えたわたしの敵ではない!!何より…わたしの前後が超震えているので、逆に冷静になれたりする。
 そういやお父様は子供の頃、怪談話で失神した事あるんだっけ。ロッティもお化けは苦手みたいだし…ここはわたしがしっかりせねば!



「……その時…背筋が凍る生温~い風が肌を撫でた。ここは室内で、窓も開いてないというのにな…」



 …ふわぁっ…



「「ひいいいいいいっっっ!!!?」」
「「きゃーーーー!!」」
「あ゛ーーーーーっ!!?」

 うわああっ!?話と同じタイミングで、部屋の中を温い風が吹いた。この気配は…エアと暖炉だな!?打ち合わせ済みかい!!!
 
 その後もナイスタイミングで音が鳴ったり異変が起きる。それらは全て精霊の仕業なのだが…部屋の中は軽くパニック状態だ。



「あたしは恐ろしくなり、誰かに助けを求めようとした。
 だが…真っ暗な屋敷には父も母も兄も、使用人も誰もいなかった。どれだけ泣き叫んでも、誰も返事をしちゃくれない…。
 走りながら片っ端から扉を開けて窓を開けて………「誰か!!!誰かいないのおっ!!!?」と叫び続けた…」



 ガチャッ!!!バタン、バタン!バタンッ!!


「「「ぎゃあああーーーっっっ!!!」」」
「うわああああああんっ!!!」


 ぐええええええっ!!!腕がもげる、首が絞まる…!!部屋の扉と窓が、勝手に開いた…っちびっ子精霊達の仕業だな!?

 もうお父様とロッティは限界だ!ついでにわたしの首と腕も!!モニクも震えてバジルに抱き着き、ネイは泣き出す一歩手前だ。



「(やべえ…このままじゃシャルティエラお嬢様が怪談になっちまう…)…そんでなあ、あたしは一ヶ所、灯りの漏れている扉を見つけた。
 やっと誰かいる…!!と安堵したあたしは、その扉を開ける。だがそこは部屋でなく…地下に続く階段だったんだ…。

 ……だがな…ファルギエールの屋敷には巨大な倉庫はあれど、地下室は存在しないんだよ…。当然そんな階段、あり得るはずがない。だがパニック状態のあたしは失念していた。ただ灯りがある…その事しか考えられなかった…。

 この先に皆いる!!と、踏み外しそうになりながらも駆け降りた。そして……長い長~い階段を降りた先、ようやく扉が見えてきた。
 あたしは満面の笑みで扉を開けようと、ノブに手を掛ける。その瞬間……階段の照明が全て消え、周囲が闇に包まれた!!」



 ふ…っ


「「「あ゛ああぁーーーーーっっっ!!!!」」」


 ひ、ひいいぃ…!!唯一の灯り、蝋燭が消えた!部屋の中は暗闇に支配され…いやおかしいでしょ!?廊下とか、窓の外の明かりがなんで一切届かな…ヨミの仕業かあああああい!!!


 ひい、ひいい!!恐らく今冷静なのはタオフィ先生とグラス、フェイテだ!わたしが絞め殺される前に、誰か助けてー!!!


 そんな事を考えていたら…誰かがわたしの腕を優しく掴んだ。そしてマジックのようにするりと2人の拘束から解放してくれた…誰か知らんが助かったー!!
 お礼を言いたいところだが、まだ話は終わっていない。ここは空気を読んで静かにしていよう。その誰かにしがみ付き、続きを待つ。

 
「ガチャガチャッ、ガチャガチャ!と…どうしても扉が開かない!!
 怖い、怖い怖い怖い!!半狂乱に陥るあたしの肩に…ぽん、と…誰かの手が置かれた」



 ぽん



「「~~~~~~っっっ!!!!」」
「「きゃあああーーーっ!!?」」
「「「うわああっ!!!?」」」
「ひいっ!!!?」

 な…!わたしの肩、誰か手置いた!?お父様とロッティは、ついに声も出なくなったようだ…。皆の反応からして、全員被害に遭っているな…!
 流石にビビっていたら…わたしを支えてくれている誰かが、そっと頭を撫でた。この感じ、何処かで…?温かくて…一気に心が落ち着く…。



「ふ…うぅ…うわあああああん、あーーーん!!!」


「(ありゃ…ついにネイが泣いちゃったか。いやー、皆いい反応してくれて楽しいわ~)
 あたしは驚き、腰が抜けてしまい…その場に倒れ込んだ。その時、指先にコツンと何かが当たった。
 それは…懐中電灯だ。あたしが岬を調べていた時、海に落としちまったはずのモノ。
 あたしは無我夢中でソレを手に取り……バッッッ!!!…と、後ろを振り向き照らした!!そこには、なんと………………



 ……う゛わあ゛あ゛ああああああぁぁーーーっっっ!!!!」
 


「「「うっぎゃああああーーー!!?!?」」」


 たっっっぷり溜めた後、バティストが突然大声を上げた!!!最早誰の叫び声かも分からない声が部屋中に響く。貸切にしといてよかったね!!!
 ほぼ同時に部屋を包んでいた影が解除され、外の明かりが室内を薄く照らす。少しだけ様子が見えるようになったが…な、何か…モゾモゾと蠢いている…!?


「「「うわあああぁーーーーああぁ!!?」」」


「ライトで照らしたそこには!!全身ずぶ濡れで…関節をあり得ない方向に曲げ血を流す女の姿がぁ!!!!」


 おっばーーー!!!部屋の中央に、血塗れの、なん、なんっかがいるらぁああーーー!!?
 

「……それは…男に裏切られ…海に身投げした、女の霊…という噂でしたー。
 ビビった?怖かった?いえーい!!」


 バティストのいつもの軽快な声が響く…。部屋の照明が点き、ハッキリ見えるようになったそれは…単に所々赤く染めたシーツを…バティストが頭から被っていた、だけだった……。
 円状に座るわたし達の中心で、笑顔でシーツを捲り顔を出す。そんでくるくる回って…楽しそうですね…。



「は…はああぁぁ~~~…!!びっくりしたあ…!」

「お褒めに預かり光栄でーす♡にしても…」

 グラスの言葉に、バティストは笑顔でピースをする。そして部屋の中を見渡すと…



「「……………………」」

 お父様とロッティは、半分意識が飛んでいる…。目は開いているけれど、揃って後ろに倒れ…完全に沈黙していらっしゃる…。


「ふわぁあ…こ、怖かった…!」

「僕も…ジャンさん、話し方が上手すぎる…」

 バジルとモニクは涙目で抱き合っている。というか、モニクは泣いている。


「うわあああん、うぶわーあああ!!お、おに゛い゛ぢゃあぁーーーん!!!」

「あーよしよし…もう怖くないぞー」

 フェイテも少し顔色が悪いが、大泣きしているネイを優しく慰めている。


「…………にいちゃん………きょう、いっしょにねよう…」

「……仕方ないな…」

 テオファは完全に放心状態。タオフィ先生は変わらないように見えるが、ちょびっとだけ手が震えている。


「ふーーー…シャルティエラお嬢様、大丈夫ですか?」

「う、うん」

「ぎぃ、んぎー」

 一番平気そうなのはグラスだ。部屋の隅っこに座り込んでいるわたしの手を、優しく取ってくれた。シグニも「やれやれ、終わったか」的な感じで欠伸をしながら身体を伸ばしている。


「いやー、話し甲斐があるわ~!
 ところで、なんでシャルティエラお嬢様はそんなとこにいんの?」

「へ?………あれ、いつの間に…?」


 わたしは最初いた場所の、正反対の隅っこに1人で座っていた。お父様達がバティストの向こう側に見えるし…。はいつの間にかわたしから離れ、どこかに行ってしまった…?
 不思議に思い、バティストとグラスに説明する。真っ暗になった後、誰かに救われついさっきまで一緒にいた、と。


「誰だったんだろう?わたしはグラスかと思ったんだけど…」

「いえ…?おれはずっとシグニを抱っこしたまま座ってました」

「んぎぃぎ」

「もちろんあたしは話すのに夢中だったよ?で、オーバンとシャルロットお嬢様は無い。他は…?」

 バティストが聞いてみるも、他の6人も一切動いていないらしい。え………え?


「じゃ、じゃあ…ヨミ?」

「違うよ?だってぼく、仕掛けに忙しかったし。でも…」


 …………でも、何!!?ヨミは扉の前に立ったまま発言し、途中で切ってしまった。なんなの!?人型の精霊はヨミしかいないし、まさかヘルクリスやトッピーが擬人化でもした!?





「(……あの時。ぼくが打ち合わせ通りに、部屋を影で包んで暗闇を作り出した時。
 廊下から…影をすり抜けて入って来た人物。何も見えないはずなのに、音も無く歩き真っ直ぐにシャーリィの元に向かって…彼女を救出した。
 そして安全な場所に移動して…影を解除する直前、窓から飛び降りた。ここ3階なのに…)」


 なんだ…!?ヨミは顎に手を当てて考え込んでいる。
 でも彼なら暗闇でも見えていたはず。わたしを支えてくれたのは誰だったの!!?


「………んー。誰かいたのは間違いないんだけど。よく分かんないや」

「……………へ?誰かは、いたのね…?このメンバー、以外で…」


 ヨミはこくんと頷く。誰が…?あの暗闇の中、誰にも気付かれずわたしを運び、消えた人物…。
 

 カーテンが風に揺れ、パタパタと音を立てる。部屋の中、窓や扉がギィギィ鳴る音のみが響き…誰もが硬直し、沈黙が流れる。


 ………やばい…今日1人で眠れないかも…!




「(………ぼくは闇と同化していたから…がぼくを視認できるはずないんだよなあ。
 だと言うのにあの時。ぼくが質量を伴った影の手で、全員の肩に触れた時。確かに彼はぼくをしっかりと見て…人差し指を口元に当てて、「静かに」の意を示した。
 そして…その鋭い眼光。死神のぼくですら、一瞬「死」を感じた…。

 ……マイニオ。彼は一体何者なんだろう…?でも…彼がシャーリィの味方である事は間違い無い。なら…深く考えるのはやめておこう)」


 
 ヨミは目を伏せて考え事をしているようだったが…今のわたしに、彼を気にする余裕は無かった。
 ふらふらと歩き震える手でロッティを揺らし、一緒に寝よう!!と必死に起こすのだった。




 その後皆、徐々に復活していく。そしてもう寝るのだが…


「おいいいいいい!!!お前ら俺を1人にする気か!?誰か一緒に寝てくれぇ!!!」


 お父様が…青い顔で床に倒れたまま、わたしとロッティの服を掴み離さない。
 バティストはその様子をニヤニヤしながら見ている。

「いやオーバン…15歳の娘と一緒に寝るのはアウトだろ?ネイだってちっこいけど女の子なんだからな、駄目だ。それとも~…あたしが添い寝してやろうかぁ~?」

「お前はいらん!!!……バジル…グラス…」

「「………遠慮しまーす」」

「じゃ、じゃあ…!」

「ボクは兄ちゃんと寝ますので!!」(即答)

「俺は…えーと…(ネイはモニクと寝るだろうし…)その…バジルとグラスと、宿を抜け出して…遊びに行ってきまっす!!」

「「おいいぃ!!?」」

「そんな…!!」

 
 お父様は全員に振られ、1人絶望している。その姿は皇族で公爵の威厳などまるで感じられないが…そんなお父様が、皆大好きなのさ。

 結局シグニ、ヘルクリス、ドワーフ達がお父様と一緒に寝てくれる事に。これで安心だ!と言わんばかりのお父様のドヤ顔には笑ったわ。



 わたしはと言うと、ロッティと手を繋いで寝た。

「うふふ、普段お姉様と一緒のお布団で眠る事なんて無いから…とっても嬉しいわ」

「うん、わたしも!でもロッティ、すっごい怖がってたよ~」

「忘れて…もう寝ましょ!おやすみ、お姉様」

「はーい。おやすみ…」


 目を閉じて睡眠を促す。今日は色々疲れたから…すぐに眠気はやって来た。

 それにしても…本当に、わたしを助けてくれたのは誰だったんだろう…?ヨミの態度からして、変質者とか人外ではなさそうだけれど。


 ああ…でも。あの手の感触は…昔から、何度も感じた事のある…。わたしの手を優しく握ってくれた…誰だったかなー…?


 
 すぐに思考は遮断され、わたしは夢の世界に旅立った。明日もまた温泉に入って…いっぱい遊びたいな~……




 ※※※




 そうしてたった3泊4日の旅行は、あっという間に終わってしまった。
 わたし達は色んな観光地を巡り、沢山の思い出が出来た。今はお土産物色中である。


「うーん…明日皇宮に行くし…ルシアン達に何か買っていこうかな。パスカルにも…」

「あ。明日から…女装するんだっけ?」

「うん。少那と遊ぶ時だけね」

 そう、本格的に少那の治療を開始するのさ。女の子の服を着て…仕草も変えるべきかなあ?話し方とか…難しいな…。

 ロッティとそんな話をしながら歩いていたら、お父様が近寄って来た。


「そうだ、シャーリィ。お前…暫く皇宮に行く時は、グラスを連れて行くな。フェイテを連れて行け」

「「へ?」」

 突然の事に、揃ってお父様を見上げ間抜けな声で返事をしてしまった。なんで…?


「……庭仕事は面倒だが外注でも良い。これはグラスもフェイテも了承済みだ。
 フェイテは皇宮に連れて行っても大丈夫な教育をされているからな、安心しろ」


 お父様はそれだけ言うと…自分もお土産を選び始めた。わたしとロッティは顔を見合わせる。なんで…?今までだって、グラスは何度か皇宮に行っているのに。
 わたしの後ろに立つグラスに顔を向けると、彼は困ったように笑ってしまった。その顔を見た時、わたしは悟った。


 あ、駄目だ。多分これ、踏み込んじゃいけないやつだ。



「……そっかー。じゃあフェイテ、暫くよろしくね!臨時の従者として、サポートよろしく」

「…はい、お嬢様。お任せください!」

 ドンと胸を張るフェイテ。
 わたしも何も気付かなかった、何も知らない振りをして…あはは!と、笑うのであった。


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