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学園4年生編
33
しおりを挟むそして迎えた期末テスト。あれからも放課後は集まり勉強会を開いていた。
ただまあ全員集まったのは最初だけ。皆忙しい身だからね、予定も合わせづらいのさ。
その結果…変わらずロッティは満点トップ!流石僕の妹!!!
今回の2位はエリゼ、3位パスカル。4位ルネちゃん…この辺は変わらないね。お、6位に少那がいる!すごーい!他は…名前は無いか。
僕は…23位。まあまあだね!ジスランもギリギリセーフだったみたいだし…これで心置きなく夏を満喫出来るってモンよ!
それから数日後。今日は公爵家で、僕とロッティがホストのお茶会だ。そこで…
「ようこそおいでくださいました、お嬢様」
「招待状を拝見させていただきます」
「お席までご案内致します」
「何かご不便がございましたら、なんなりとお申し付けください!」
「「「きゃあ~~~!」」」
と…我が家のグローバルな若いメンズ四天王は、お嬢様方に大人気である!!
正統派イケメン執事のバジル。爽やかアイドル系のグラス。ワイルドお兄ちゃん系なフェイテ。可愛い弟系のテオファ。いずれもタイプの違う美形ばかりでっせお嬢様。
バジルは長年貴族のお屋敷に仕えた経験、フェイテも元貴族という経歴の持ち主で…この2人はお嬢様方の対応に慣れている。
グラスは生まれ持っているという気品があり、テオファは愛嬌でカバーする。狙った訳ではないけれど…彼らが持て囃されている姿は、なんとなく嬉しい。そこに…
「皆、今日はゆっくりとしていってくれ。バティスト、後は頼むぞ」
「かしこまりました。お嬢様方には、至高のお時間を約束致しましょう」
お父様もちょろっと挨拶に顔を出す。すぐ逃げたが…その場には大人の色気を放ちまくるバティストが残された。
おいおい見てくださいよ奥さん、バティストを見つめる幼気なお嬢様の熱視線を。うっかり目が合ってウインクでもされてしまうと…堕ちたな、あのお嬢様…。罪なオトコだぜ。
さて、ここで余談を。ラウルスペード騎士団には女性騎士が12人いる。ただ…希望者は100を超えていた。
何故かって?これは使用人希望の女性にも言える事なんだが…皆お父様の後妻か、バティスト狙いだったんだよ!!!僕狙いはいない。
つまり何が言いたいかというと。この2人は幅広い年代の女性からモテる。バティストは辺境伯家出身で、本人も男爵位を持っている優良物件。さらに影のある美しいオニイサンですから…本気出されたら、多分僕もクラっとする…!普段はアレだけど。
で、お父様は言わずもがな。皇弟、公爵閣下、騎士団長、独身。トドメに顔も良けりゃ…世の貴婦人方が放っておくわっきゃねー。
なのでまあ、メンズ四天王も合わせて…現在の我が家はお嬢様方に大人気。誰も彼もが僕とロッティに近付き、また呼んでください!!と遠回しにアピールしてくる。
四天王は恋愛対象にはなり得ないが、目の保養になるらしい。気持ちは分かるが…そんな下心しか無い人とはお友達になれません!
他にはいずれ公爵になるロッティに近付く子息令嬢もいる。そういう人達はビジネスの話になるので、ロッティが対応をしている。
これから彼女は人脈作りとか、課題は沢山ある。今も腹を探り合いながらにこやかにお茶を飲み…僕にゃ無理だな、あれ…。
僕のほうはと言うと、数人のお嬢様に囲まれている。僕と結婚したいか、皇子と友人であるからお近付きになりたいとか。そんなんばっか。
そういやルシアン、婚約者を早よ決めろって急かされているらしいね。そこを狙う令嬢は多い。僕に口添えしてもらいたい訳ね…。
「お招きいただき、ありがとうございます!とっても光栄ですわ!」
「いらっしゃい、フルーラちゃん。さあどうぞ」
エリゼと一緒にフルーラちゃんがやって来た。僕が招待状を送ったのさ!!色々と話を聞きたいけど…まず、確認を。
周囲に人がいないのを確認、少し屈んでフルーラちゃんに目線を合わせる。
「ねえ…僕の話、エリゼに聞いた…?」
「はい!詳しいお話は伺っていませんが…やはり女性でいらしたのでしょう?そしてパスカル様との純愛…物語のようで、素敵ですわ!」
ひゃー!恥ずかしいからやめて…!彼女はあの日、僕の姿を見て…すぐ分かったという。ちなみに、どの辺で?
「うーん…パスカル様を見つめるセレスタン様の瞳は、恋する乙女のものでしたわ。あとはカンです」
なんつー理由…!僕そんな熱視線送ってた?ひいん。
「ちなみにわたくし、セレスタン様の事情を知ってから…男装ヒロイン物語に夢中ですの。
例えば男性として生きる執事の女性が、主人である侯爵と使用人仲間…侯爵の友人である王子、唯一彼女の事情を知る幼馴染、主人の商売敵等々。麗しい殿方から愛を囁かれるお話でして。
彼らは皆「く…、あいつは男なのに、どうしてこんなに惹かれてしまう…!」と苦悩し、ついには無理やり押し倒して服をはだけさせ」
「エリゼェェ!!君、なんてモン読ませてんのっ!!?」
「オレの所為じゃねえ!!勝手に読んでるんだよ!!」
僕はエリゼの胸ぐらを掴み、前後にガクガクと激しく揺らす。その本、どう考えてもR15以上じゃないの!?
「セレスタン様は、いかがでした…?お着替えを偶然覗かれてしまったり、女性だと気付かれてしまった時「内緒にして欲しければ俺の言う事を聞け」とか迫られてしまったり…!
逆に、殿方の…お風呂に入って見てしまったり!」
君の婚約者に風呂を覗かれました。迫られた事はありません。
とは死んでも言えないので…僕とエリゼは急ぎこの話題をなんとか終わらせた。
その後いつものメンバーも段々と集結してきて、一通りホストとしての義務を終えた僕達は少し息抜き。
ロッティ、ルネちゃん、木華がフルーラちゃんを招き楽しそうにお話をする。他にも数人の令嬢が…僕もそっち行きたい~。でも男の格好してるから入りづらい~…。
少し離れた所で男連中で集まる。つまんね。
あ、そうだ!今のうちに少那にグラスを紹介しようっと。以前から会わせたいと思ってたんだよね~。
そう思いグラスを探すも…いない?さっきまで令嬢にお茶を淹れたりしてたのに?近くにいたフェイテに、グラス知らない?と聞いてみたら…
「えっと…あいつは今厨房に向かっています」
「そうなの?ありがとう」
「いいえ…」
それなら戻って来たらでいいか、と待っていたが…中々現れず。その後も何故か探すと見つからず、今日は少那にも木華にも紹介出来なかった…無念。
後で聞いた話じゃ、なんかやたらとバティストに仕事を頼まれていたらしい。その分バティストが給仕役をしていたのだが…変なの。
お茶会も終盤に差し掛かる頃。僕はお手洗いから戻る途中…会場から少し引っ込んだ所にフルーラちゃんを発見した。
何をしているのかと思いきや…なんか、絡まれてない?
「あらあら。公爵家のお茶会に…お子様が紛れ込んでしまっておりますわ」
「アッシュ様?聞いた事のない家名ですわねえ」
「どこの娘かも分からない子を招待するなんて…シャルロット様も程度が知れてますのね」
「まあ…ただの運で伯爵令嬢から公爵令嬢に成り上がっただけの方ですもの」
「確かに。どうやって皇弟殿下に取り入ったのか…是非とも指南していただきたいですわ~」
思わず隠れてしまったが…5人の令嬢に囲まれている…。しかも彼女らはフルーラちゃんを蔑み、ロッティを嘲笑う。この家で…よくそんな口利けるね…?
「…!た、確かにわたくしはまだまだお子様ですけれど!セレスタン様より正式に招待していただきましたわ!
他人を見下す事で自分の欲求を満たすような方々に、馬鹿にされる筋合いじゃありません!」
「…なんですって?」
フルーラちゃん…。勇ましく言い返す彼女に対して、令嬢の1人が扇を振りかざす。させるかっ!!
僕は勢いよく飛び出して、フルーラちゃんを背に庇い扇をその手から奪う。
「セレスタン様っ!?どうしてこちらに…!?」
「どうして、とは?ここは僕の家ですから、何もおかしい事はないでしょう?」
誰にも見咎められないと思っていたのか、5人は分かりやすく狼狽える。
丁寧に扇を令嬢に返しながら、どこから攻めてやろうか…と思った…瞬間、背筋が凍った。後ろから…半端じゃない怒りのオーラを感じる…!!この気配、は…!
ザッ…ザッ…ザッ…ズリ…ズリリ…ズズ……ズ…
足音と何かを引き摺る音が近付く度、令嬢達は竦み上がる。うん、僕も動けねえや。
「あらあら、まあ…先程私の名前が聞こえましたわね。嫌ですわ、どのようなお話をされていたのか…教えてくださらない…?」
「シャ…シャルロット、様…」
おおう…令嬢達は顔面蒼白でガッタガタに震えとる。いっそ同情するよ、ただの令嬢にロッティの殺気はキツかろう。
僕の隣に並び立つロッティは、扇で口元を隠してにこやかにしている。ただ…僕には見える。扇の下の、魔王の笑みが…!!さて、フルーラちゃんは避難しましょうねー。
「そうですわ。私達も仲間に入れてくださらない?皆様とお話し足りないと思っていましたの。それで、ええと…公爵閣下が…なんでしたっけ?」
「ふふ。皆様わざわざこんな会場の外れ、建物の影にお集まりになるなんて。慎ましいのかお天道様に顔向けが出来ないのか…興味深いわ」
反対側にルネちゃんと木華がやって来て、僕の逃げ道は塞がれた。せめてフルーラちゃんだけでも逃さねば…!!後ろにぐいぐいっと。
「貴女達は…プシロイ家、キャンネル家、ソノ家、クリアーノ家、セリチェック家の代表でいらしたのよね?」
「まあ。では折角ですし、皆様のご家族もお呼びしませんこと?」
「それは良い考えね。とっても楽しそうにしていたのだもの、さぞ愉快なお話でしょう。楽しい事は、皆で共有すべきだわ」
「姫様もそうお思いですか?さあさ皆様、会場に戻りましょう?いっぱいいっぱい、お話を聞かせていただきたいわ」
「………あの、そ、えっと…」
ふふふ、ほほほ…とロッティ達は笑顔でどんどん追い詰める。怖え~…。
と、その時…僕の手を掴んでいたフルーラちゃんの手が離れた。振り向くと…エリゼがフルーラちゃんを抱え上げ、怖い顔で額に青筋を立てている…!!何この包囲網?
「おいお前ら…オレの婚約者に寄ってたかって、何してやがった?」
「ラブレー様!?の、ご婚約者様で…いらしたの、ですか…?」
むん?今ショックを受けているのは…あ。いつもエリゼに秋波を送っている令嬢じゃん。
「だからなんだ?オレの愛しい婚約者に何か文句でもあんのか?セレスが止めなければその扇、フルーラの頭に当たっていたよなあ?」
「い、いえ、そのような事!ただ、虫が集っていましたので…払って差し上げようと…」
「まあ大変!どこに虫が!?私が全て追い払って差し上げますね!!」
「「「「「ひいいいいっ!!!?」」」」」
ちゅどーーーん!…と。ロッティは躊躇いなくバズーカをぶっ放した…。ああ、庭が…フェイテの仕事が増えた…。
弾は令嬢達の頭上を通り過ぎたが、ロッティはまだ構えている。
「あらやだ、外しちゃった」
「もう、ロッティさんったら」
虫…大きな虫が5匹ってコトですね分かります。僕も彼女らに腹は立つが…ロッティを殺人犯にはしたくない。
シッシッと手で合図すれば、5人は揃って逃げて行った。元気だな…。
「おいシャルロット、虫が逃げたぞ?」
「このまま敷地内から出て行くならいいのよ。もう一度入って来たら…今度は念入りに、始末するけどね?
プンプンと耳障りな音を放ち目障りに飛び回り、その針をお姉様の柔肌に刺し毒を注入しようものならば。その巣ごと…焼き払うしかないでしょう?」
「ふう…そうかい。フルーラ、大丈夫だったか?……フルーラ?」
ん?フルーラちゃんは…エリゼに抱っこされたままで、顔を真っ赤にして両手を頬に当て、プルプルしている。
「エリゼ様…先程、愛しい婚約者、と言ってくださいましたか…?」
「………!!あれっは、その…!!」
どうやら彼女は、感激に打ち震えているらしい。ヒューヒュー!!対するエリゼも怒りの表情は一瞬で霧散し、今は頬を染めて困った顔だ。
こいつぁ邪魔しちゃいけねえ…僕は3人を連れて移動する。じゃ、ごゆっくり~。
「お姉様、手は痛くない?」
「全然。非力なお嬢様の一撃なんて、簡単に受け止めちゃいます。
それより…来てくれてありがとうね、ルネちゃんと木華も」
「偶然ですわ。でも、お力になれたのなら良かったです」
「そうね。…やはり、どの国でも女性というものは、足の引っ張り合いが好きなのね…」
「「「はは……」」」
皆が皆じゃないけどね。ま…否定は出来ん。
とまあ、そんなハプニングもありましたが。なんとかお茶会は成功に終わった。
お客様や友人達を見送るのだが…なんか、エリゼがぐったりしてる?フルーラちゃんは超笑顔でロッティと話しているが。
エリゼに近付き「どうしたの?」と声を掛けてみれば…
「……フルーラが。
「わたくしも…セレスタン様のようにしなやかに強く。シャルロット様のように冷酷に冷徹に。ルネ様のように優雅にたおやかに。コハナ殿下のように静かに威厳を放つ…そんな女性になりたいですわ…!!」
…って…言ったんだ…。恐れていた事態に…うぅ…」
エ、エリゼェ…!彼は珍しく気落ちし、今にも泣きそうな表情。よく分かんないけど…フルーラちゃんは、僕らに憧れてくれているって事?照れるやん…。
「早速……何か大きな武器が欲しいって…。華奢な女性が勇ましく戦う姿に憧れがあるって…」
「…………そう、か…」
「え、エリゼ大きな武器が欲しいの?丁度よかった、はい」
「「へあ?」」
ヨミが姿を現したと思ったら…なんか、木の盾を持っている…?
「ほら、魔術祭が終わったら皆にもいいものあげるっていったじゃない?
誰に何をあげようか悩んでたんだ。エリゼはシャーリィやタオフィみたいに魔術関連か。いや…そっちは自力で充分そうだし、じゃあ何を?ってね」
そう言いながら、エリゼにほいっと盾を渡す。でも…それ、顔の大きさ位しかないよ?
「魔力を流すと大きくなるよ」
という事で、エリゼが魔力を流してみる。すると…彼の身の丈程に巨大化し、銀色に輝くミスリルの、芸術品のような盾に変化した…!!思わず僕らは感嘆の声を漏らす。
で、いつもの説明書は?
『ディンシストリーの盾
鍛冶の神ディンシストリーの盾。この世の全てを防ぐ盾。効果範囲と持続時間は使用者の力量による』
「その盾を貫通することは神々レベルでも無理だよ。
ちなみに…今まで君達にあげてきた物は全部、持ち主に登録した人物しか使えなくなるよ。それも今、エリゼを登録したから」
へっ?僕が盾を受け取ると…ただの小さい木の盾に戻っちゃった。
ちょっと…効果、試してみない?
「……やるか!」
僕らはコソコソと、誰もいない騎士の練武場に移動して来た。魔本を取り出し…盾を構えるエリゼに向かい、うーん…氷の矢をぶつけてみる!!
「【બરફનું તીર】!!」
ガガガガガガガッ!!!と轟音と共に無数の矢が降り注ぐ。ってここまでやる気は無かったよ僕!!?エリゼ無事!?
「……おお、なんともない」
ほ…っ。盾の範囲は展開され、結界のようにエリゼの全身を包んでくれたようだ。土煙が晴れると…彼は無傷だし反動も無かったらしい。凄いねこの盾!!
さっきまで気落ちしていたエリゼも目に見えてテンションが上がっている。まあ普段使う用事は無いだろうが…こりゃいいわ!
次はロッティのバズーカで試すー?と、僕達は暫くはしゃいでいるのであった。
その頃、公爵邸から少し離れた皇宮に向かう馬車の中。
ルシアン、少那、木華が乗る馬車の後方、もう1台。咫岐と薪名が乗っている。
薪名はいつもの無表情…なのだが、何か考え込んでいるようだ。咫岐が何かあったのかと聞いてみる。
「…?薪名、どうかしたか?」
「咫岐…いえ。
(……さっき、遠くのほうにいた…テーブルの上を片付けていた使用人。お茶会中は全然見かけなかったけれどあの横顔、肌の色…まるで命殿下に瓜二つだった。
もちろん、成長されていたら…だけど。でも…あり得ないわ。きっと見間違いだったのでしょうね)」
咫岐はそんな薪名に対して首を傾げつつも、それ以上追求する事もなく皇宮に帰って行く。
こうしてあっという間に日々は過ぎ、今年も夏期休暇がやって来るのであった。
応援ありがとうございます!
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