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学園4年生編

とある従者の苦悩の日々

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「少那兄上、まだ眠っている?セレスは先程目覚めた、とロッティさんから連絡が来たわ」

「木華殿下。はい、顔色は良いのですが…」


 少那殿下に用意された部屋で、私は主人の目覚めを待つ。
 そこへやって来たのは少那殿下の腹違いの妹、木華殿下だ。彼女もベッドに横たわる少那殿下のお姿を見て、心配そうに眉を下げた。



 時間は少し遡り、魔術祭の日。
 少那殿下はイベントを楽しみにしていらした。だが…予期せぬ事故が起こり、殿下とセレスタン様が魔物に襲われてしまった。
 
 彼らは自力で脱出したはいいものの、その後すぐに眠りについてしまい…特に殿下は怪我をしていらしたので、急いで治療してもらった。

 すぐに目覚めるとの事だが…やはり、参加に賛成すべきでなかったかと後悔する。




「姫様、お部屋に戻りましょう。咫岐、殿下がお目覚めになったらすぐ教えなさい。
 それと…この事で国やセレスタン様を責めるんじゃないわよ?
 結果的に殿下はご無事だし、学園の警備は本当に万全だったのだから。
 …万全でも事件・事故が起きる時もある。知っているでしょう?」

「分かっている…殿下の参加を許した時点で、私は結果がどうなろうと何も言うつもりはなかった」

「そう」


 そんな風に喧しいこの女…木華殿下の侍女、薪名。
 実はこの女、私の双子の姉にあたる。それほど似ていないので、周囲には気付かれないのだが。
 なのでセレスタン様とシャルロット様が並んでいる姿を初めて見た時…男女の双子でここまでそっくりになるものなのか、と密かに驚いた。
 


 そして…私達は前国王陛下の側室の子でもある。つまり…私と薪名は、少那殿下と木華殿下とは腹違いの兄弟なのだ。

 ただし勘違いしてはいけない。箏において、陛下の妃とは正室の方々の事を指す。
 側室とはどちらかと言うと使用人に分類される。言ってしまえば、陛下を慰める為の女官だ。その子供もいくら陛下の血を引いていようと、王族として扱われる事は無い。


 だが…そんな私達を兄弟だと言ってくださる方々もいた。
 凪様、少那様、木華様…そして命様。特に命様と木華様は正妃殿下の御子で有らせられるというのに、とても気さくに接してくださった。

 凪様は側室の男児に「一緒にやろう」と武術を教えてくださったし、少那様も「一緒に遊ぼう」と言ってくださった。
 ただ…凪様はともかく、少那様の母君と姉君は私達を嫌悪した。故にお声を掛けていただき嬉しかったのだが…お誘いは全てお断りした。
 その時彼はとても悲しそうにされるのだが…駄目だ、自分の立場を弁えなくてはいけない。互いに…。

 そんな少那様があのように真っ直ぐご成長なさったのは、やはり命様の影響が大きいのだろう。



 だが命様は十数年前、第二妃の策謀により…後宮にて正妃殿下と共に殺害されてしまった。第二妃が息子である少那様を王位に就かせる為に。
 箏の歴史を紐解けば、似たような事件はこれまでにもあったのだ。しかし王の一夫多妻制は継続し、後宮が閉ざされる事も無かった。

 それは単に、当時の王が…王子の命よりも己の欲を優先した結果に過ぎない。子供が死んでしまったら、また産ませればいい。これまでの伝統を破棄する訳にはいかない、と。

 その上で凪陛下は伝統を否定し、即位後すぐに後宮を解体した。私の母は比較的若かった為、高官と再婚する事が出来た。

 



 正妃殿下と命様の死に、国民は皆悲しみに暮れた。何より少那様は、その現場を目撃してしまった。
 そのお陰で事件は全て明るみになったのだが…引き換えに少那様の心に深い疵を刻んだのだ。

 それ以来彼は、女性というものを恐れるようになった。最初は母君のように美しく着飾り、女というモノを武器にしているような女性だけだったのだが。
 次第に…木華様と赤子や高齢の方を除き、全ての女性を恐れた。

 しかし周囲は原因を知っているだけに、無理に治す事は出来なかった…。


 その時から私は、生涯彼にお仕えする事を決意した。殿下は最初は嫌がったが…今では渋々ながら受け入れてくれている。大変光栄な事に…彼は今も、私の事を兄のように思ってくださるのだ。


 彼は常々、己は罪人の子である…とお考えだ。王族に相応しくない、自分はここにいていい存在ではないと。裁きを受けるべきだ、罪を償わなくてはいけない…と…。

 しかしそのような事…王宮の誰も願ってはいない。むしろ彼は眞凛の親族を救った。ただ…拷問を受けてしまった者もいる。
 第二妃が強引に眞凛を犯人に仕立て上げた為、彼女の弟が捕らわれて痛めつけられてしまった。処刑の直前で少那殿下が目覚め真実を語ってくれたお陰で、辛うじて一命は取り留めたが…。


 少那殿下はそれすらも自分の所為だと思っている。だから私は……誰よりも殿下を尊び、慈しむのだ。
 王族は神にも等しき絶対的な存在。だが…それでも、生きている人間だ。なので国民も皆敬い最大限の礼を執りはするが…崇め奉るような行いはしない。

 それでも私は、少那殿下を特別に扱った。自分でどうお考えでも、貴方は王族です、ここにいるべきなんです。下々の者と触れ合ってはいけません、貴方は特別な存在なんです。
 それは…殿下の御心を無視し、私の願望を押し付けているに過ぎない。私はいずれ彼を崇拝するようになった。





「貴方、何考えているの?少那殿下は人間よ、感情のある生き物なの。貴方がそんなんだから…周囲の人間まで追随して、殿下を崇めるようになってしまったわ。
 彼を孤立させたいの?親しいご友人も出来ず…苦しめたいとしか思えないわ」

「……私は…どうすればいいのか分からない!!!
 殿下にはただ、自分を肯定して欲しいだけなんだ!!生きていてもいいんだって、自分の居場所はここなんだって…思って欲しい、だけ…!!」

「……そう…」



 いつだったか、薪名とそんな会話をした事があった。それでも私は、自分の行いを止める事が出来なかった。

 薪名も私と同様に、木華殿下にお仕えすると決めた。ただ私達と違い…彼女達は主従でありながら、軽口を叩いたり良好な関係を築いている。
 私も…そうするべきだったのだろうか。少那殿下を崇めるのでは無く…寄り添うべきだったのだろうか…。



 グランツ皇国にやって来て、ルシアン殿下とセレスタン様と顔合わせをして。私は……この2人は少那殿下に相応しく無いなどと…よくも思えたものだな…。

 少那殿下が対等な存在を欲しているのは分かっていた。
 それでも私は…彼に近付く者に、相応しく無い、釣り合わない。地位目当てだ、下心がある、と全て否定して来た。
 今度は皇子と公子か…こんな顔だけの子供は釣り合わない、そう思った。

 セレスタン様が最上級精霊と契約していると知り、私は愚かにも「それなら認めてやってもいい」と考えた。
 最上級精霊の契約者、という肩書きなら…箏の王族のご友人に相応しい。と感じたのだ。この時の私はもう、少那殿下の心など置き去りにしていた。


 
「忠誠と妄執を履き違えるなよ」



 風の最上級精霊様のこの言葉は…私に向けたものだったのだろう。
 何を言うか…と思ったが。それは私の心に、棘のように小さく…確かに突き刺さる。


 少那殿下がグランツに来て、3ヶ月程が過ぎた。その間私は授業中以外は片時も離れず、彼を見守ってきた…のだが。
 

「ルシアン!また釣りに行こうよ」

「よし!じゃあ…学園の裏山に行こう!セレスにも声を掛けておくな」

「よろしくね!あ、そこに滝はある?私、一度滝行というものをやってみたかったんだあ…!」

「おおう…じゃあ、ブラジリエも呼ぶか…」


 少那殿下は箏にいた頃より…ずっとずっと明るくなった。
 笑顔も増えて、自分の望みを口に出すようになり…釣りが好きだと、滝行をしたかったとは知らなかった…。私も付き合わされたが、凄く痛かった…。


 
 彼らと過ごす日々の中、少那殿下はまるで…命殿下がご存命だった頃のように、屈託無く笑うようになった。

 私が本当に望んだのは…その笑顔だったのではないのか?王族として威厳のある姿ではなく、走り回って転んで、怪我をして…友達とはしゃいで。


「見て見て、これがカブトムシの幼虫なんだって!!」

「ぎゃあああっ!!!でん、殿下!!早く埋めてください今すぐに!!」

「あれ。咫岐…虫苦手だった?………」にやり

「ひ…!ぎゃああーーーーー!!!!!」

「凄いよね、これがあの格好いい虫になるんだよ!!」


 と…笑顔で芋虫を掲げ、私を追い掛けるのはやめて欲しかったが。貴方自分の歳ご存知?

 いや…子供の頃から抑圧されて過ごして来たから、今その反動で子供っぽくなっているのかもしれない。


 犯人は、私だ。危ないから水辺に近付いてはいけない、土を掘るなんて…以ての外。彼の意見など全て無視して、王族である事を強要した。


 だって貴方が…自分で王族に相応しくないと言うから。
 私は…そんな事無いよ、貴方は立派な王子だよ。私の…自慢の弟だよ、と。そう、言いたかった…だけ、だったんだ…。



 当初は殿下が子供のような振る舞いをする度に諫めていたが…段々と、楽しそうで何よりだと思うようになってきた。
 だって…今のほうが生き生きとしているし、前向きになった。己の罪に怯え、苦しむ姿を見なくなった。

 それは確かに、私が…皆が望んだ本当の少那殿下の姿だったのだ。




 この国に来て…彼に素敵な友人が出来て良かった。そして同時に、ご友人達に謝罪しなくてはいけないな…。
 ご友人に相応しくない等と…私は一体何様なのだろうか。彼らが少那殿下の殻を破り、成長させてくれた。どれほど礼を尽くしても、足りる事は無いだろう。





 私は段々と、少那殿下の意思を尊重出来るようになった。魔術祭だって少し前の私なら、断固反対しただろう。
 駄目だ、危険だ。強制参加でないのなら、観戦に回ればいいと。まあ実際危険な目に遭ってしまったが…。



 現在この部屋には私と少那殿下しかいない。私はベッドに腰掛け…弟の寝顔を見つめる。
 本来たかが従者がこのような行い、到底許されるものではない。それでも、今だけは…従者としてではなく、兄として在りたい…。


「…早く、目を覚まし…なさい。皆心配している、私だって…」

「…………やっと…少那と呼ぶ気になったの?咫岐兄上…」

 ………!!まさか返事が来るとは思わず、私は驚きに目を見開いた。少那殿下が…うっすらと目を開けて、私を見上げていたのだ。

「……まさか。私は貴方の従者ですよ、殿下」

「……………………」

 そうだ、私は生涯お仕えすると誓った、だが……。


「………もしも、貴方が望んでくださるのならば…。
 他に人がいない時ならば…。兄として、振る舞ってもいいだろうか…」

「……!うん…。兄上、咫岐兄上」

 私は少那が微笑みながら差し出した手を…ゆっくりと取り。


「今まで…すまなかった。どうかこれからは、お前の思うままに生きて欲しい。虫取り……は付き合いたくないけれど。
 この国にいる間…友人達と思い出を沢山作って。箏に帰った後も、また遊びに来よう。お前に素晴らしい友人達が出来て…私は嬉しい。それに…」


 私は涙を流しながら…思いの丈を打ち明けるのだった。



 
 ※※※




 木華殿下と薪名に少那が目覚めたと伝えると、2人はすぐにやって来た。
 そしていつも通り薪名は壁際に控えていたのだが…


「薪名…姉上、こちらに。私の側に…来てくれないか?」

「「「……!!」」」

 少那が…自分からそう言ったのだ。どうして…?
 薪名は逡巡した後、ゆっくりと歩き始めた。そして…ついに、ベッドのすぐ近くまで来た。

 いつもだったらとっくに拒絶反応が出て、彼は青い顔をして震えている頃だ。だが…表面上は、何も変わらないように見える。
 薪名は少那に促され、その場に膝を突く。そして…互いにじっと顔を見つめ合う。


「……こんなに近くで顔を見るのは、どれくらい振りかな?」

「そうですね…かれこれ、十数年と言ったところでしょうか」


 彼らはフッと笑い合う。普段表情を崩さない薪名まで…!
 そして少那はゆっくりと薪名に手を向けるが…その手は震えてしまい、動かせずにいた。


「まだ…触る事は出来ない、か…」

「それでも凄い進歩だわ兄上!でもどうして…?」


 そうだ。女性である薪名が、あと一歩という所まで近付いても平気なんて!触れないにしても、今までなら考えられない事態だ!!


「それがね…私は魔物の能力で、悪夢を見させられていた。
 私が女性恐怖症になったあの事件。その瞬間を繰り返し繰り返し…」


 …!私達は息を呑んだ。そんな、苦しかったろうに…!


「うん。苦しくて辛くて、終わりが見えなくて。心が壊れてしまうかと思った。
 その時…私の心にセレスが来て。目の前で…私の最大のトラウマである母上と姉上を殴り飛ばしてくれたんだ!
 そして私を強く優しく抱き締めてくれた。その温もりに…私は救われたんだ。
 そのお陰かな、なんとなく…少しだけ、心が軽くなった気がした。母も姉も、怖くなんかないぞ!って…単純かもしれないけど。
 私の恐怖を、彼女が強さで上書きしてくれたんだ。だから…」


 少那は微笑みながらそう言った。そうか…そんな事が。
 ならば今回の事故も…結果的には悪い事ではなかったか。むしろ少那の心が癒える切っ掛けになってくれたのかもしれない。
 

 ………ん?…今彼は、変な事を言わなかったか…?



「………兄上。セレスは男性よ?彼女、だなんて…何か、あった?」

 それだ!!木華殿下が引き攣った笑顔で問い掛けた。それに対し少那は一瞬呆けた後…

「…ああ、そっか!いけない、うっかり…。
 今完全に女性だと勘違いしていた…木華の着物を着ていたし。失礼だったな」

 彼は指で頬を掻きながら苦笑した。勘違いって。
 木華殿下と薪名は心なしか冷や汗をかいているように見える。何故だろう?

 と考えていたら…少那が私の顔をじー…っと見ている事に気付いた。

「な、何か……?」

「じーーー……………」

 たじろぐ私にお構いなしに、彼は視線を向ける。すると…

「…………おぇっ」

「失礼な!!!」

 突然顔を背けて、嘔吐くような動作をした。
 

「ごめんごめん。実は…夢の中で私は幼児退行していて、感情のコントロールが出来なくて…。
 その、ね。感情の赴くままに…彼に口付けをしてしまった。深く深く、何度も…。
 だから私はもしかして男性が好きなのかと思ったけど。咫岐には死んでもしたくないなと思ったから、やっぱ違うみたい。
 彼はもちろん抵抗していたんだけど…あまりに私が泣きじゃくるものだから、私を抱き締めて受け止めてくれたんだ。
 いけないな…完全にセレスを女性だと認識してしまった。不味いな…」

 笑いながら弁明したかと思えば…何をしているんだ一体…。
 確かにセレスタン様は美しく、女性と勘違いしてもおかしくは無いが。


「………兄上、今のは夢の中の話よね?現実で口付けした訳ではないわよね?そうよね!!?」

 うお。木華殿下の迫力に、私も少那も圧されてしまった。そんな神経質にならなくても…。
 ただ少那はその問いには答えず…ただ顔を真っ赤にして、目を逸らした。まさか……


「したんですか…あの空間で」

「………………(してない、ちょっと舐めたり噛んだりしただけで…)」


 したんだな。それが私達3人の結論だった。


「それに…殿下とセレス様は、その。は、半裸の状態で狭い空間に囚われていたと聞き及んでおります。
 その……何か、ありましたか…?」

 ああ…そうだったな。少那は薪名の言葉に、左手で口元を覆った。



「……いや、まあ…密着して彼の肩や足に触れてしまったけど。それと…胸を」

「「胸!!?」」

 うわ。先程から2人は過剰反応し過ぎでは?男性の胸など、硬いだけでなんでもないだろう。


「えっと…私は力尽きて彼の上に倒れ込んでしまったんだけど。胸に顔を埋めた時…彼の鼓動が大きく聞こえて。セレスが緊張しているのが伝わってきて、私もドキドキしてしまったよ。

 それに、なんか柔らかかった。彼は「女装用の偽乳だ」と言っていたけど。
 …その、触ってみたんだ。それが温かくて柔らかくて、手に吸い付くようで…よく出来てるなあ、こんなトコまで再現してるんだ。
 まるで本物みたいだな…って思いながら揉み拉いた。いやまあ、本物を触った事は無いけれど。緊急時に何やってんだろうね私…」


 本当に何をやっているんだろう。少那は自分の右手をわきわきさせて、当時の感触を思い出しているようだった。


「まさか…服の中に手を入れてしまったんですか…?」

「あ、うん。はだけてたから…薄暗くて見えはしなかったけど」

「そう……直に、触ったのね…」


 なんだろう。女性2人は両手で顔を覆った。私と少那はその反応の意味が分からず…顔を合わせて首を傾げるのであった。





 ※※※





「ふう…」

 次の日の夕食時、少那の様子がおかしかった。
 あまり進んでいないみたいだし…何度もため息をついてばかり。


「どうかしたか、まだ体調が…?今回の事故は、こちらの責任だ。何か不調があれば…」

「ああ、いえ!責任などと、そのような事は考えていません!体調も良好なのですが…」


 皇帝陛下が心配してくださるも、やはり進まない。私は壁際にハラハラしながら控えていた。


「……少し、悩みがあって。それだけなんです、どうかお気になさらず」

「食欲が無くなる程なのだろう?もしも1人で抱えるのが辛かったら…誰かに相談してみるといい」

「………………そう…ですね…」


 ……どうして頬を染めているのだろう。なんだか嫌な予感がした。




 食後ルシアン殿下が自室にお茶の席を用意してくださった。もしよければ、と言う事でルキウス殿下とルクトル殿下も同席する。
 少那の希望で、木華殿下と薪名はいない。ここには私も含めて、男5人のみ。少那は紅茶を一口飲み、静かに語り始めた。


「実は…昨日からとある人物が頭から離れなくて。寝ても覚めてもあの人の事を考えてしまうんです…」

 少那は赤い顔でそう言ったのだ。皇子殿下方も揃って顔を見合わせる。それって、まさか…
 それに対しルクトル様が、詳しく聞き出そうと優しく声を掛ける。


「……えっと。考えてしまう、とは具体的にどのように?」

「…今何してるのかな、とか。次に会ったら、なんて声を掛けようかな、とか。
 趣味はなんだろう、好きな食べ物は?会いたい…触れ合いたい。貴方の笑顔が見たい…とか。この感情は一体、なんなんですか…?」



 恋ですね。

 恐らく、他のお三方もそう思ったはず。



「ちなみに…相手は誰か、言えるか…?」

 ルキウス殿下が震える手でティーカップを口に運ぶ。
 少那は目を伏せて益々顔を染め、口元に両手を当てた。なんだその動作は、乙女か。


「…………セレス、です」

「「「ンブッフ…!!」」」


 あー…やはり。殿下方は大袈裟に反応しているが、予想通りではあったな…。


「やっぱりおかしいですよね…。一体私はどうしてしまったのでしょう?
 彼を思い浮かべると熱が出て動悸も激しくなって…やはり病気なのでしょうか…」



 恋の病ですね。

 
 少那は切なそうな表情で胸を抱える。恋する乙女か。
 従者である私が会話に入っていいはずもなく…ルシアン殿下に助けを求める視線を送った。
 
 彼は私と兄皇子2人から熱い視線を送られる。お任せします!!

 
「そ………それは、その。一般的に……えっと。恋心、と呼ばれるものだろう…」

 言ってしまった…。ありがとうございます。


「こ、恋!!?これが…?」

 そうです。
 ルシアン殿下はお兄様方からシバかれているが、ハッキリ言ってくださってありがとうございます。
 ふう…まさか少那の初恋が男性とは。まあ辛いだろうが、いずれ笑い話になる日が来るさ。私はそう思ったのだが…


「恋…そっか。私はセレスに…恋をしているんだね…」


 あっれ。反応が予想と違う…?
 少那はルシアン殿下の言葉を繰り返し、噛み締めているようだ。その表情は穏やかで、なんとも幸せそう…いやいやいや!!?


「でもセレスにはすでにお相手もいるし。そっか……そう、だよね。私なんかが入り込める余地は無い…」

 今度は一転して、悲しげな表情に…!!私は少那のそんな顔を見たくない!だがこればかりはどうしようも…。
 ここままでは少那はまるで間男、よくて当て馬。そんな波乱万丈はいりません!!!
 う…!?


「「「………………」」」

 皇子殿下方が…今度は私に視線を送る。私は滝のような汗を流しながらも…眼鏡のつるを持ち上げながら口を開いた。


「……………えっと。想いを打ち明けてみては、如何ですか?
 振られて前に進む為にも、必要な事です。それに万が一にも、セレスタン様が心変わりされる可能性も…うわあっ!!?」

 私の発言を遮り、三兄弟がピコハンを手に襲い掛かって来た!!!


 ピコピコピコピコンピコピコピコピコココ!!!
 と、揃って私を滅多撃ちにする。


「いたたたたた!!!」

「このダメガネ!!」

「藪蛇メガネ!!」

「むっつりメガネ!!」

「むっつり!!?いやだって、他にどう言えば良かったのですか!?」


 私達は部屋中を走り回り、ドタバタと大騒ぎをする。ただ全ての元凶である少那は…



「そっか…まず2人に謝罪を。そして…許されるなら。好きですって…言ってみちゃう…!?
 もしかしたら殴られてしまうかもしれないな。私はセレスに…あ、あんな事をしてしまったのだから…!
 でも…やっぱり簡単には諦められない。まず告白をして、それからそれから…」


 この騒ぎなど我関せず。
 ソファーの上でクッションを抱き締め、1人幸せそうに笑っているのであった…。

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