【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野

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学園4年生編

sideパスカル

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 パスカルが変態紳士への道を突っ走り始めました。彼をお好きな方は諦めてください。


 ******





「う……?」


 新緑の匂い、少し冷たい風…優しく俺の頭を撫でる小さな手が気持ちいい…。

 ここは…?布団ではなく…硬い地面に俺は横たわっている。でも枕だけは温かくて柔らかくてすべすべで…思わず頬擦りしてしまう。…ずっとこうしていたい…。


「………!パスカル。起きたんなら、どいてくれるかなあ…?」

「んー…?」

 寝惚け眼で見上げてみれば…顔を赤くして俺を見下ろす、愛しの彼の姿が。
 ああ…俺は今、膝枕されているんだ……生足で…そうか。


 絶対どいてやらん、もっと堪能する。



「ひう…っ!?」

「んん~…」

 寝惚けているフリをして、横を向き彼の腹部に顔を埋めた。ああ…いい匂い。香水かな?でも前失敗したから…下手な事言えねえ…。
 そして右手を腰に回し…シャーリィの柔らかさを堪能する。さり気なく手を下のほうに移動させ…臀部を撫でてみた。バレないようにチラッと横目で見上げると…


「………!!ぁ、う……!」


 彼は……更に顔を赤くし…口に手を当てて震えている。ああ……ヤバい。
 とりあえず…怒られるまで触っとこう。しかし柔らかいな……???男のケツってこんなもんか?



「(こおおんの野郎おおおおい!!絶対起きてる、起きてるよね!?寝てる人間が、こんなしっかりとお尻つまんだり撫でたりしないよね!?
 今日のデートは健全なモノって自分で言ってたよねこの男!?…いやまあ…求められて悪い気はしないけれど。
 僕だって性に興味が無いかといえば嘘になる。パスカルが相手なら…全部、委ねてしまいたいとも思うけど…もう少し我慢して!!)」


 シャーリィは暫くプルプルしていたが、俺の頬をぎゅううっとつねり上げた。いてててて。


「ええい、起きて!!風邪引いちゃうよ、移動しよう!!
 少し先にある草原でお昼にするんでしょう!!」

「風邪を引いたら…君が裸で温めてくれたら一瞬で治る自信がある」

「キメ顔で言うんじゃなーい!!!」

「それと薬は口移しで…」

「しないよっ!!!」


 彼の反応が可愛くて面白くて、俺は声を上げて笑った。
 起き上がり…彼を持ち上げ、今度は俺の膝の上に向かい合わせに座らせる。

「君、前はもっと慎み深いというか…理知的でクールな男性って感じじゃなかった?」
 
 おおう…いきなり褒められてしまっては照れるぞ。
 まあ俺もそう思うけど。君に夢中になるまでは、自分がこんなに情欲にまみれているとは知らなかったわ。
 でもまあ…他の女性はいくら美しくても蠱惑的でも、一切その気にならないんだよなあ。

「こんな事ばっかりする俺は嫌いか?」

 と、シャーリィの耳にキスをしながら言ってみた。彼は肩を跳ねさせて反応してくれるから…全てが愛おしくて仕方ない。


「僕は…どっちのパスカルも好きだよ。紳士的なのも野生的なのも…」

「…………………押し倒していい?」

「駄目!!!」


 あーもう無理…はあ~可愛い。そんな柔らかい笑顔で好きなんて言われたら…はあ~…抱きたい。
 しかし…今これ以上は嫌われそうな気がする。なので最後に…彼の襟を広げ、鎖骨にキスをした。強く、長く。痕が残るように、彼の隣は俺のモノだと周囲に知らしめる為に。

 シャーリィは恥ずかしがりながらも、俺の好きにさせてくれている。
 君は知らないかもしれないが…鎖骨へのキスは欲情。耳は誘惑。という訳で、俺の理性が崩壊する前に返事よろしく。


 そのまま彼を抱えてレンカに乗せた。俺も後ろに乗り、シャーリィの頭に顎を乗せて甘えてみる。
 すると彼は手綱を握る俺の手を握ってくれて……はあああ~手綱ぶん投げてえ~~~。





 次に来たのは、町からも程近い草原だ。その為休日は家族連れやカップルも多くいる。
 俺達は一応平民っぽい服装にしているので、まあ貴族だとはバレないだろう。シート代わりの布を敷いて、木陰のある場所に座る。
 弁当はシャーリィが用意すると言っていたのだが…


「じ、実は…これ、僕が作ったんだよ!まあロイやラッセル、アイシャにも少し手伝ってもらったけど…。
 でもデザートは僕が頑張ったんだ。君の口に合えばいいけど…」


 はあ~…?毒でも全部食い切ってやる。

 シャーリィは手際良く昼食の準備をしている。そういえば彼は…幼い頃から自分身の回りの事は全てやってきたらしい。
 それが元になって…今の働き者のシャーリィになったんだよな。俺の部屋まで片付けてくれるし……申し訳ない気持ちと、嬉しい気持ちが入り混じる。

 エリゼに「なんなのお前ら、夫婦なの?」と言われた時は、1日中浮かれてしまった。
 今だってシャーリィはほら、新妻のよう…新婚!?初夜は済ませたのか…!!?


「……あんまり見ないでよう…」

 あっ。つい、シャーリィの動きを凝視してしまった。彼はじわじわと顔を赤くして…うん可愛い。
 結局俺は見てるだけで支度が終わってしまった…せめて片付けは手伝おう。

 彼は濡れたタオルで手を拭いている。俺にも差し出して来たので…両手を出してみた。


「拭いて」

「ええ~…しょうがないなあ」

 こうやって甘えると、シャーリィは眉を下げて笑う。そうしてお願いを聞いてくれるので…ついやってしまう。
 小さな手で、俺の大きな手を拭いてくれる姿は…アライグマみたいで可愛い。今度一緒に動物園に行こうかな…。


 さて、弁当は……え、美味そう。沢山の具材が入ったサンドイッチに、色とりどりのおかずが…これを、俺の為に?

 はあああ~……もう結婚した。そんで一緒にキッチンに立って料理したい。



「……………裸エプロンかっ!!?」

「急に何言ってんの君!!?する訳ないだろ馬鹿かっ!!!」


 いでっ!シャーリィが真っ赤な顔で、弁当の蓋で俺の頭を叩いた。つい妄想が爆発してしまった…。他に人もいるのに情け無い。

 でも……本気でお願いしたらやってくれそうな気がする。そん時は……「今日のメインは…僕、だよ」とか言ってもらいたい。

 うん、いつか絶対叶えよう。


「(すんごい輝く目で見られてる…無視しよう)」

 それと彼は、無言でカップを差し出して来た。コンソメスープか…美味しい…。
 じゃあそろそろ食べ始めるか。何から食べようかな~と手を伸ばした時。また俺の欲が湧いた。


「シャーリィ、食べさせてくれ」

「うん?……………うんん?」
 
 シャーリィがロッティに「あーん」としているのを…俺はいつも指を咥えて見ているだけだった。
 だが今日は違う。他に誰もいないし、俺の誕生日祝いだし!(とっくに過ぎてるけど)

 シャーリィは目を泳がせ、悩んだ末に…照れたように、はにかみながら「はい…あーん…」とサンドイッチを差し出して来た。よっしゃあ!!
 俺は笑顔で口を開け、近付いたの、だが…!


「…うん、うまい」

「「……へ?」」


 そのサンドイッチは、俺の口に届く前に…シャーリィの手を取って、誰かが横取りした…!!
 誰だこの野郎…ってエリゼ!!?奴はサンドイッチを頬張り、俺達を見下ろすように立っている。
 

「あれっ、どうしたのエリゼ?」

「んー…いや、オレも…まあピクニックに」

 おおおのれええええ………!!!シャーリィは「偶然だねえ」なんて笑っているが、そんな筈あるか!?何故邪魔をする!!


「(パスカルが暴走してないか心配になった…とか言えねえし…)本当に偶然だっつーの。ほら」

 エリゼが指差す先には…本を抱えてこっちに走って来る、フルーラ嬢の姿が。


「はあ、はあ…もう、エリゼ様!急に走り出してしまうんですから!」

「悪いな。ま、見かけたからちょっと挨拶に来ただけだ」

「あら…セレスタン様にパスカル様!ごきげんよう」

 フルーラ嬢はスカートの裾をつまみ、礼儀正しく挨拶をしてきた。俺達も挨拶を返すと、なんだか…フルーラ嬢は俺とシャーリィを交互に見比べている。


「「?」」

「どうした、フルーラ?」

「えっと…申し訳ありません、セレスタン様は女性でしたの?」

「「はっっっ!!?」」

「………………へ?」


 ん?お?おお?シャーリィが、女性?どうしてそんな勘違いを…?
 ああ、そっか。多分彼女は、男性同士の恋愛とか考えもしないのか。まあグランツじゃ一般的じゃないもんな。
(そんな彼女が手に持っている本のタイトルは『メイドは見た!!王太子と公爵令息の祝福されぬ恋』である事に、パスカルは気付かなかった)

 だというのにシャーリィは大慌てだ。心なしかエリゼも、動揺している気がする。


「な、何言ってるんだフルーラ?」

「そそそうだよ、僕男だよっ!!?」

「そうなんですの…?」

 うん?たかが子供の勘違いに…そんな必死になって否定しなくても。

 そりゃあ確かにシャーリィは女神の如き美しさと、妖精のような可愛さを兼ね揃えていて。
 全体的に小さくて、柔らかくていい匂いがして。
 グラスやジスラン、色んな男を虜にする魅力の持ち主……………で……。

 …………ん???


「そうなんですよっ!!ほらパスカル、あーん!」

「もごっ!?」

 ぐお…!油断していたところに、口に卵焼きが突っ込まれた。うん、美味い。

「そう!?どんどん食べてね!」

「……じゃあオレ達は邪魔しないよう帰るわ!」

「もうですの!?エリゼ様が「今日は絶対外に行く」とおっしゃったのに…」

「セレス、うまく誤魔化せよ…!」ひそひそ

「ううう……!」こくん


 慌ただしくエリゼ達は転移して行った。本当に何しに来たんだ…?
 それより、俺はもう一度…シャーリィを観察する。


「……………(めっちゃ見てる…!いや、見た目は今更だし。堂々としていれば大丈夫!!)」


 俺の視線に気付いているだろうに、目を逸らしながらエビのマリネを頬張っている。


「!?な、何っ!?」

「いや……」

 よく見えるように、眼鏡を奪う。…ロッティと瓜二つな彼は、確かに顔だけで言えば女性にしか見えないな?
 でもそれは、あの美人のロッティの兄だから…って思っていたけど。


「………もうっ、パスカルは僕の作ったお弁当食べたくないのっ!!?いらないんなら全部僕が食べるし、今後一切作ってあげない!!」

「え!?やだ、いただきますっ!!」

 いかん、変な事を考えるのはやめよう。今はシャーリィの手料理を堪能する時だ!!

 俺が口を開ければ、彼は笑いながら差し出してくれる。周囲の生温かいような呪の籠ったような視線は気になるが…どうでもいい。
 彼の料理はどれも美味しい。「ちょっと焦げちゃった」と苦笑しているが、それがたとえ炭であろうとも完食しよう。


「(よかった、話題を逸らすのに成功した…)いい食べっぷりだったねえ。
 でもお腹いっぱいでしょう?デザート…って言ってもマフィンだけど。これは後にしよっか?」

 ふむ…確かに。弁当を全部食べたから、少し休憩したい。
 弁当箱を片付けて、木の幹を背もたれに並んで座る。その時…隣にいたシャーリィが、ずるっと倒れた。

 何事かと思いきや…今度は俺の膝を枕に、彼が横たわったのだ。そうして「さっきのお返しね」と、にへっと笑った。


 んはあ~……俺の脳内で第一子が生まれた。

 彼の綺麗にセットされた髪を崩さないよう、額や頬を優しく撫でる。
 擽ったそうに笑う彼を眺める俺。ここは天国ですか?


 穏やかな時間を過ごしながら、もうすぐ期末テストだなあという話になった。
 シャーリィは入学当初は必ず10位以内に入っていたが…2年からはそうでもない。


『以前は父親に失望されたくないっていう思いが強かったの。大した取り柄も無い僕は、せめて勉強だけでも…ってがむしゃらに頑張ってた。
 でも…僕の頭じゃ睡眠時間を削ってまで机に向かわなきゃ、好成績なんて取れないの。
 お父様は「倒れるまで勉強なんてするな。俺はこれ以上、お前の顔色の悪い姿を見たくない」って言って抱き締めてくれるの。
 だからね、無理に頑張るのはやめたんだあ。それより僕は、剣を振りたいし!』


 彼はいつか、そう語っていた。それ以来は大体20位前後にいるが…本人はそれで満足気だ。俺も、そのほうが嬉しい。
 そしていつも1位のロッティと、2位争いをする俺とエリゼ…どうしても1位になれない!!ロッティは必ず満点でトップなんだ、強すぎる……!

 はあ…せめて同点1位を狙いたいが、全教科満点は難しい。ロッティは一体何者なんだ…。

 


「……また、勉強会しようね…。兄様や…お父様、バティストに教わるのも、いいけど…みんなでワイワイする、のも。僕……好きなんだあ…」


 ……シャーリィは腹いっぱいで眠くなってしまったのか、半分夢の中だ。
 勉強会か…うん、楽しいよな。大体脱線するけど…それがいいんだよな。俺とエリゼは毎回、ジスランが落第点を取らないよう…別に勉強会を開いているけど。
 今年はスクナ殿下とコハナ殿下も混じって…楽しくなりそうだ。

 本格的にシャーリィが眠りそうなので、俺は自分の上着を掛けた。おやすみ…………って。


「シャーリィ。そういえば…君の服、大きくないか?可愛いから気にしてなかったが…これ、君の服じゃないよな?」

「……ん~…グラスの、服ぅ……」


 ぴき……


 なんで……グラスの服を着ている……?


「………………ぐう」

「シャーリィ、シャーリィ?ちょ…!!」


 駄目だ、本格的に眠ってしまった……!!!く、気持ちよさそうに眠る彼を起こす事など出来ん…!
 この服が、グラスの?シャーリィに想いを寄せる男の服を…纏っているのか?


 よし、脱がそう。これがバジルならともかく…許さん!!!

 周囲を見渡し……うん、近くには誰もいない。ゆっくりと体勢を変え、念の為俺の体で目隠しにして、と。大丈夫大丈夫、男同士だから。

 まずジャケットを脱がし…ごくり。1つずつシャツのボタンを外す。……ヤバい、物凄く心臓が高鳴ってる…ん?
 全部外してはだけさせると…シャツの下にインナーを着ていたんだな。インナーを脱がせる必要は無い。無い。無………。



『ちょっとくらいよくねえ?俺は恋人だし、見るだけだから!』

『良いわけあるか!意識の無い相手に無体を働くなど、紳士の風上にも置けん!!!』

『でもシャーリィは、野生的な俺も好きって言ってたじゃん』

『…………いや、うーん…』


 頑張れよ天使の俺!!!
 
 
『それに…前から思ってたけど、シャーリィ胸板厚くないか?ほら、腰はこんなに細いのに。見てみたくねえ?』

「確かに…彼の腹筋は縦に割れているけど、俺とかと比べて細い。くびれもあるし………はっ!!?」

 
 俺はいつの間に、インナーを捲って…!?


『悪魔に負けるなよ俺!?今すぐ戻せ、早く服を着せろ!!…そもそも替えの服はあるのか?』

「俺のを着せる」

『俺は何を着るんだ?グラスの服は小さくて着れないぞ』

「俺は裸でも構わん!!」

『『捕まるぞ!!!?』』


 それもそうか…でもグラスの服は着せたくないしー…。とりあえずインナーを戻そうと、彼の腹に触れると…

「………ん…」

『『「…………………」』』


 シャーリィが、ぴくっと反応した。ちょっと悪戯心が膨れ…腹を撫でたり指でついー…っとなぞってみる。すると……


「………う、ん……はぁ……あ…」


 彼は少し呼吸を荒くして……感じているようだった……………
 耳を弄ったり、足を撫でてみたり……ヤバい、ムラッとする……しかも、さっき俺が付けたキスマークが…扇情的で……


『やれーーー!!全部脱がせろ!!!!』

『駄目に決まっているだろう!!!まず人気の無い場所に移動しろ、そしてシャーリィを起こして許可を得てから抱け!!』


 最早俺の天使は悪に染まってしまっていた。
 よし!!!嫌だけどシャーリィに服を着せて、空の弁当箱は公爵家に送って、と。


 誰もいない場所に行くぞー!!
 そう思い立ち上がろうとしたら……


 ヒュンッ——ボカンッ!! 


「だばあっ!!!?」


「あー、スイマセーン(棒)」


 い…っつぅ~!俺の後頭部に、何か…子供用のゴムボールが、高速で飛んできた。
 そんで声のするほうを向いてみれば……ナハト先生、義兄上が立っている!!?


「誰が義兄上だっつーの」

「なんでここに!?ここはラウルスペード領だぞ、貴方は首都住まいでしょうが!?」

「父と子の触れ合いだ。たまには遠征しようと思ってな(もちろんテメーの監視も目的だが)」

 そんな彼の足元には、確か…クレイグ、だっけ?義兄上によく似た息子だ。
 父親の足にしがみ付き、俺の事をじっと見ている。そしてトコトコ歩いて、近付いて来て……ボールを回収し。


「せーちゃ」

 まだ俺の膝の上にいるシャーリィに近付き、ゆさゆさと揺らす。おい、起きるじゃないか!!!


「………おい、パスカル…どうしてセレスの服は、乱れているんだぁ………?」

「………………………」


 地獄の底から響くような低い声が……上から落ちて来る……。同時に物凄い力で頭を鷲掴みにされる…!ギリギリギリ…と締め付けられ、うぐおおおお…!!

 俺はいそいそとシャーリィを起こす。助けて。

「シャーリィ。風邪を引くぞ、起きて」

「………むーん…?おふぁよ、パスカルぅ…」

「せーちゃ」

「……あれ、クレイグ?なんで……兄様も?…ん?どうして僕、裾が出てるの?」

「…………最初から出てたぞ?」

「テメーが脱がせたんだろーーーが!!!!」



 いやー!バラさないでくれえーーー!!!


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