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学園4年生編

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 ではここで、現在の様子を一気に紹介させていただこう。



 僕&少那ペア。

「うげっ!ねえあの2人、なんか僕ばっかり狙ってない!?」

「確かに…もしかして恨まれてる?」

「……うーん…なんか思い出しそうなんだけどなあ…?」


 僕を麻痺させようとしてきた男女ペアが、その後も何度も妨害するのだ。今も水の塊を飛ばして来て…誰だよお前ら…。
 それを躱して防いで反撃して、なんなの一体?実況を聞くに、この2人はほとんど宝をゲットしていない。もしや…最初から、僕を害する為に参加したの?まっさかー。

 次の卵を探しに行こうとしたら…目の前に、エリゼとロッティが降って来た!?


「いた!!コレ借りてくぞ!!!」

「へっ!?」

「後で返すわお兄様!」

 彼らは僕の眼鏡を奪い…また消えた。な、なんだよう…?





 エリゼ&ロッティペア。


「ほら、指定の眼鏡だ」

 エリゼが卵の前に眼鏡を突き出すと割れた。どうやら眼鏡の借り物だったらしい。
 わざわざ返しに行くのも面倒なので…次に合流するまで預かっておくかと、エリゼが僕の眼鏡を掛ける。


「今何点くらいかしら、200?」

「そのくらいだな。ここいらで大物を狙って他を突き離したいが…すぐ近くには無さそうだ」

 彼らも新たな宝を求め、移動を開始するのであった。





 パスカル&ルシアンペア。


「でででで殿下!!あんたなんて事してくれやがったんですかーーー!!?」

「うる、さい!!黙って走れ!!!」

 彼らは裏山にある小さな洞窟に入った。そこでルシアンがトラップを作動させてしまい…揃って巨岩に追いかけられている。どっかで見た事ある!!
 命からがら洞窟の外まで走ると岩は消えた。


「はあ…助かった…!」

「ふう…よし!もう一度中に入るか!!」

「今度は俺が前を歩きますからね!!」


 数分後、パスカルがスイッチに触れて…2人は落とし穴にハマるのであった。




 ルキウス様&ルクトル様ペア。


「…僕は君と過ごすうちに、君の穏やかで楽しげな雰囲気にどんどん惹かれていきました。
 クラリッサ、僕のレディ。どうかこれから先の長い人生を…共に歩んでください」


 きゃああああああっっっ!!!


 おお、ルクトル様の告白に会場が湧いた。主に女性。
 彼らは今、『愛しの君に愛の告白をしよう』というお題を進行中。クラリッサ様とはルクトル様の婚約者。僕も何度かお会いした事があるが…お転婆で懐の深い、可愛らしい女性だ。
 ルクトル様は照れくさそうに微笑みながら、卵の近くに備え付けのマイクを使い愛を囁く。お相手のクラリッサ様、今は観客席で真っ赤な頬に両手を当てているぞ。ひゅーひゅー!!

 で、次は問題のルキウス様なんだけど。始まる前からガッチガチ。眉間に皺を寄せまくり、すでにゆでだこ。
 ルクトル様からマイクを受け取り…深呼吸をして…ゆっくりと話し始める。



「…正式発表は、まだだが…私には現在、生涯を共にしたいと思う…女性がいる」


 彼がそう語ると…会場の老若男女、皆が大歓声を上げた。
 兄様とタオフィ先生も茶化す事なく、静かに聞いている。


「私は不器用で、自然に笑う事も出来ない。こ、の、よう、に…あ、愛情表現も、下手くそだ。
 だが…こんな私を可愛いと、好きだと貴女は言ってくれた。
 私も、小さな背丈で一生懸命背伸びをして、私と目線と合わせようとしてくれている貴女を。
 周囲から悪人面とか言われている私の笑顔を褒めてくれて…寝癖すらも可愛いと言ってくれる貴女を、あ…愛して、います…!

 …コハナ。必ず貴女を幸せにします。だからどうかいずれ皇帝となる私を…誰よりも近く、長く。皇后として…側で、支えてくれませんか…!?」



 というルキウス様一世一代の告白に…



『わ、私も貴方を愛しています!!どうかこれから先苦楽を共にし…添い遂げさせてください!!』


 ラディ兄様が観客席の木華の元にこっそり向かい、マイクを渡すと。彼女は涙を流しながら…精一杯の返事をするのであった。

 そんな2人のやり取りに…会場がひび割れんほどの大歓声に包まれる。どうやら祝福してくれているようだ。よかった…!!


 ルキウス様は真っ赤な顔でふにゃっと笑い……笑えるじゃん!!!その笑顔にまた、会場は大盛り上がり。
 ルクトル様も涙を流し、ルキウス様の肩をポンと叩いた。
 ルシアンはその頃落とし穴の中で実況を聞きながら、同様に泣いていた。まだハマってたのか…。
 

 そんな中観客席、公爵家のスペースで。2人の男性が…手で目元を覆って蹲っている。
 お父様と…ローブを羽織った謎の人、お忍びで来ていたローラン皇帝陛下だった。


「あの、ルキウスが…ここまで、立派に…っ!」

「………おい、兄貴。いい年して泣きべそかいてんじゃねえよ」

「お前も…だろうが」

「仕方ねえだろう…あいつが赤ん坊の頃から知ってんだから。あのしわくちゃでふにゃふにゃの赤ん坊が…俺よりもデカくなって…ついに結婚か…。時間の流れって速えなあ…」

 こういう時に、いつもだったら揶揄うバティストも大人しくしている。きっと彼も、思うところがあるんだろう…。


『ハアーーー……もう5億点でいいよ…』

『私情挟みまくりだよランドール君…。でも…
 それでは皆さん!!未来の皇帝・皇后陛下に盛大な拍手をお願いしまーす!!!』


 というタオフィ先生の言葉に、皆が大歓声と共に拍手を送る。きっとこの国は、この先も安泰だよ。




 そして…うあー、僕も涙が止まらんんん!!一緒にいる少那も…目に涙を浮かべながら微笑んでいる。
 正式にプロポーズはされてるって言ってたけど…皆の前で言ってくれると、恥ずかしいけど嬉しいよね。


「木華…よかった…」

「うう…少那ぁ…。木華はルキウス様が幸せにしてくれるからね、僕も守るから…心配いらないからねええ…!」

「うん…お願い、ね…!」


 ふぐう…まさかこのイベントで、こんなに感動するとは…!もうルキウス様と木華が優勝でいいじゃん!!!


 その後暫く誰もが感激に浸り…イベント終了まであと20分というところで、ようやく僕らも動き始めたのであった。





 ※※※





 いけない、このままじゃ負けちゃう!現在トップは5億点(暫定)の皇子コンビ。巻き返…せるかーーーい!!
 と、おふざけは大概にしておこう。それよりも…


「……?ねえセレス。1号が…なんか変な卵を見つけた。形は宝の卵そのものなんだけど、色が黒くて、メモが貼ってなくて…しかも、崖の中腹にある…?」

 少那が耳に手を当て、目を閉じてそう言った。今少那1号と視界を共有しているらしいんだけど…崖の中腹…?


「もしかしてレアアイテムなのかな?10億点とか」

「あはは、それはいいね。気になるし、行ってみようか?時間的に…それが最後のお宝かなあ」

 確かに、101匹わんさんには30分掛けたからな…。


 そして僕らは裏山の誰も近寄らない場所までやって来た。少那1号、よくこんなとこまで来たな…。
 崖下で1号と落ち合うと、少那は全ての分身を解除した。これ以上は見つけても無意味だと判断したんだろう。


「…確かに何か黒い丸が見える。自分の分身ながら、よく発見したなぁ」

「…うわっぷ!この辺風強いな…」


 今の僕は袴姿で、髪はハーフアップにしてリボンで結ってあった。
 ちょっと髪邪魔だな…一度解き、ポニーテールにし直す。しかしリボン結びにくい!


「手伝おうか?」

「いいの?ありがとう」

 少那は幼い頃から、よく木華の髪も結ってあげていたらしい。その辺は王族とか関係無く、ただの仲良し兄妹だね。
 僕は石の上に腰掛け、大人しくする。僕の後ろに立った少那が髪を纏めている途中…手を止めた。

「………………」

「どうかしたの?」

「…あ、ごめん、なんでもないよ!」

 変なの。その後は手際良くやってくれたけど。…お?ポニテ、少那とお揃いだ!どうでもいいが。
 すくっと立ち上がり気合を入れる。レアアイテムゲットするぞ!!



「(…うなじを見ていたなんて言ったら、気持ち悪がられるよね…。
 でも眼鏡をしていない上に、女性の着物姿のセレスは…先日パスカル殿の部屋で見た写真を思い出させる。
 男性だと分かってはいるけれど…ちょっと今更、2人きりという状況に照れちゃうな…。
 ……セレスを女性だと仮定したら…やはり、触れられないのだろうか…?)」


「いよっし、すっきりした所で飛ぼうか!…少那?」

「…………」



 なんだ?彼はじー…と僕の顔を見ている。そしてゆっくりと手を上げ…僕の頬に触れた。


「……?どうしたの…?」

「………さわれた…」

 おん?今まで散々手え繋いだりしてたよね…?少那はそのまま指で頬を撫でる。ちょっと擽ったい…。
 彼の行動の意図が読めず、抵抗もせず大人しくしている。すると…彼は眉を下げ、頬がうっすらと染まった…?


「(いつも…女性に近付くと、込み上げてくる不快感と吐き気を抑えられなかった。
 特に…妖艶な微笑みを貼り付けたような女性は。甘ったるい、媚びるような声を出す女性は。触れようものなら、自分の手首を切り落としかねないほどに。

 でも今は…セレスにはもっと触れていたい、とすら思う。それに…どうして心臓がいつもより激しく鼓動しているんだろう。
 そうだ…目の前の彼は男性だ、だから平気なんだ。それだけ、なんだ…)」

 

 彼の手は少しずつ移動し…僕の唇に触れた。そしてふにふにと…な、何…?
 手を振り解いていいものかと悩んでいたら…少那は穏やかに微笑んだ。そして…ゆっくりと、顔が…近付、き…?

 僕の肩に、顔を埋める。


「(……ああ…いい匂い…。鼻が曲がりそうなキツい香水なんかじゃなくて…石鹸とか、洗剤とか…ささやかなモノ。落ち着く…)」


「…少那?」

「……ごめん、もう少しだけ…」


 何故急に不安定になったのか知らんが…僕は微かに震える彼の背中を、ポンポンと叩く。
 すると彼は…ゆっくりと僕の背中に腕を伸ばし…いや駄目だ!それは良くない!!と思い距離を取ろうとした瞬間。




『ハイそこおおおーーー!!!!そこのペア、何人気も宝も無いとこに移動してるんでしょーかあああ!!?』



「「うわあっ!!?」」


 突然耳に届いたラディ兄様の大声に、僕らは飛び上がって互いに離れた。
 なんかめっちゃ耳元で聞こえたけど!?って…中継用魔生物のスピーカーを逆にしたんだな!!


「(え、私今、何しようとした…!!?わ…うわああああ!!?
 最低だ、相手はすでに恋人だっているというのに…!あああ、私は…!!)」

 少那は驚きすぎたのか、頭を抱えて地面に倒れている。服汚れるよ…?少し放置しておいたら、元に戻ったけど。


『(スクナ殿下は安全かと思っていたのに…油断も隙もねえ…!!)ほれほれ時間が無いぞ、早く宝を探しに行きなさい』

「そういえば兄様、卵無いって言ってたけど…あるよ?」

『は?いや、その周辺には配置してないぞ?』

「へ?」

『ほあ?』


 一体ラディ兄様は何を言っているんだろう。確かにそこにあるじゃん?
 見せたほうが早そうなので、僕らは卵の場所まで飛んで行った。

 でも…こんな場所、普通じゃ見つけられないよ?崖の上から見下ろしても、ちょうど突起に阻まれ見えなくなっているし。

「しかし…黒いなあ。これ、もしかして何年も放置されているんじゃない?」

「確かに…経年劣化で汚れちゃったのかな?」

 近くで見ると、やっぱり黒ずんだ卵だ。


『なんだソレ?今こっちでも確認したが…ここ数十年、そんな場所に卵を配置した記録は無い。
 そもそも毎年イベント終了と同時に、教師陣が必ず全ての卵を回収している。取り忘れによるものじゃないぞ?』

『………?その卵…どこかで…?』

 ラディ兄様の言う通りなら、これは魔術祭は関係ないって事だよね。そしてタオフィ先生は何か知っていそう?でも…


 ……僕も…この卵、見覚えあるような…?どこで…?



 …考えても仕方ないので…とりあえず持って行って、タオフィ先生に見せてみようか。
 その為に少那と一緒に手を伸ばし、取ろうとしたら………



『………あ…っ!!!触るなっっっ!!!』


「「え?」」


 タオフィ先生が声を荒げた…めずらし。でも遅いよ、僕らもう触れ、て…………あ?


 瞬間、視界が黒に染まった。



 なんか……一瞬で、卵に全ての魔力を……吸い取られ、た。

 落下するはずの、僕を…何かが、引っ張り上げた。ソレは、僕の体を包み…締め上げ……



 あ、そっか。これ、漫画で読んだんだわ~…魔術祭で植物の魔物に襲われ…って。

 あれ…セレスタンじゃなくて、シャルロットじゃなかったっけ…?






 そこで…僕の意識は遮断される。


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