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学園4年生編
11
しおりを挟む季節は初夏、6月でございます。
「それで昨夜…正式にね、ルキウス様から求婚していただいたの…!」
「「「ひええ~~~!!!!」」」
大騒ぎしているのは僕、ロッティ、ルネちゃん。今日は休日、皇宮の木華の部屋で女子会中である。
給仕は薪名のみなので、僕は女として振る舞えるのだ。バジル含む男は全員部屋の外に追い出した。という訳で、女4人念願の恋バナ大会開催中である!
話題の中心である木華は、頬を染めて幸せそうに微笑んでいる。
ついに婚約か~。あのルキウス様が…感慨深いものがありますね…。
「とってもお優しい紳士だけど、顔が怖いという理由だけで令嬢に恐れられていたルキウス様が…」
「ラディ兄様の結婚やルクトル様の婚約を祝福しつつ、羨ましそうにしていたルキウス様が…」
「うう…姫様、この国に来てくださってありがとうございます…!これも全て、セレスちゃんのお陰ですわ!」
くううう…!彼の事をよく知る僕らは涙を禁じ得ない。どうかお幸せに…!
「箏にも手紙を送ったけれど…凪兄上はなんておっしゃるかしら。
それと…貴女達はルキウス様とそういうお話は無かったの…?」
木華がお菓子をつまみながらそう訊ねてきた。僕らが、ルキウス様と…?
「私は幼い頃から女公爵になる!って決めていましたの。
ですからいずれ皇帝陛下となられるルキウス様とは、縁が無かったと言えますわ」
ルネちゃんはそうだよねえ。婿養子を探さなきゃ。
「私も全然ですね。むしろお姉様を巡ってライバル的な位置にいましたし」
ごふっ。何言ってんの!?木華が泣きそうじゃん!!!
「違う違う!!あの時はルキウス様も僕の事男だと思ってたから!弟みたいに可愛がってくださっていたの!
それで、僕は…ルキウス様はな~。彼を異性として意識する前に…パスカルに惹かれてたもの…」
あ、3人が目を輝かせた。しまった、次は僕の番か…!!
この後たっぷりパスカルとの出会いから今に至るまで、洗いざらい吐かされました…。
「私、セレスちゃんはエリゼ様を好いてらっしゃると思っていましたわ。
とても親密で、互いに信頼しているのが伺えますもの」
「わかる。でも私はゲルシェ先生…今はお父様だけど、彼が怪しいと思ってたわ。
お姉様も甘えてたし、先生なのに明らかに他の生徒と対応が違ったもの!」
「そうなのね~。私としては少那兄上をオススメしたかったけど…もう素敵なお相手がいるんだものね。残念だわ」
彼女らは僕の恋愛事情で盛り上がり始めた。
あの…恥ずかしいんで…ロッティとジスランの話とかしませんかね…?
「私達?幼馴染で、数年前婚約した。以上!」
「あーーー!!嘘だ、もっと語る事あるでしょー!?意識し始めたきっかけとか、日常でドキッとした事とか!」
「……彼は虫が大っ嫌いだから、昔から駆除は私かお姉様担当だったじゃない?情けないと思ってたけど…大きな男性が小さい虫に怯える姿は、ちょっとクるものがあるわ…。
そうだ、ジスランは元々お姉様に好意を抱いていたのよね!」
おぉい!!最後は余計だよ!ロッティめ、自分が恋バナの中心になりたくないからって…!
木華とルネちゃん興味津々じゃん!!「三角、いえ四角関係…!?」じゃないよー!
「ではでは、セレスはジスラン様をお断りしたの!?詳しく聞かせてちょうだいな!」
「それにセレスちゃん、グラス君とかはどうですの?ナハト様…は無いとして。他にも魅力的な男性、いっぱいいますもの!」
う…!これは、逃げられない…!
「…ジスランは…友達としては好きだけど、男性としては見れなくて。
あと…グラスにも、告白されたよ…。応えられないってお断りしたけど、僕が誰かと結婚するまで…諦めないって。
そういえばルシアンにも「皇子妃にならないか?」って言われたけど。あれは恋愛感情は無さそうだったね。
で、ヨミには「死んだらお嫁さんになって」って言われてる。あとネイは僕が初恋だったって言ってくれてたね~」
こうして言葉にしてみると…僕って意外にもモテてる?
バティストにもお嫁にもらったげようか?って言われたけど、あれはノーカンだね。
「まあ…!聞けば聞くほど面白いわ~。じゃあ今この中で、お相手がいないのはルネさんだけなの?」
「そうなりますわ。以前はルシアン様とのお話をいただきましたが…お断りしましたし」
昔のルシアンは人としてどうかと思うレベルだったもんね。ルネちゃんは今後、じっくりとお相手を探すらしい。
次の話は建国祭について。来週3日に渡り行われるのだ。
首都では屋台が出て、ショーやパレードがあってお祭り騒ぎ。主な地方都市でも屋台が並ぶぞ。少那も行きたがったが、残念ながら留守番です。
人混みなんて、どう足掻いても女性と接触してしまう。お土産持って行くから…!
僕らは1日目と2日目は首都で参加し、3日目は領地で過ごす。
1日目はパスカルとロッティとジスランで過ごす。ダブルデートってやつだね!パッと見はロッティの逆ハーレム状態だが。
ちなみに3日間、ジェイルとデニスは護衛お休みさ。何せ精霊にジスランに、戦力は充分ですから。まあ領地で警備の仕事に当たるんだけどね。
「バジルもモニクと過ごすって言ってたわ。2日目はお姉様とは別行動ね」
「うん!パスカルと回るんだ~。ロッティだってジスランと2人きりでしょ?」
「ジスラン自身が最強のボディーガードだもの!」
「でもティーちゃん…そのバズーカは置いていきましょうね…?」
全員がテーブルに立て掛けてあるバズーカをちらっと見た。ロッティは本当に、どこに行くにも背中に担いでいるのだ…。
「そんな…!これは乙女の嗜みよ!?」
どこの世界の乙女かな?とにかく置いていくよう念を押した。
「それで1日目は途中からルシアンも合流するかも。ルネちゃんも来ない?」
「ごめんなさい、私は家族と過ごしますの」
そっかー。エリゼも無理だって言ってたし、それぞれ楽しむとしますか!
※※※
建国祭1日目。
今頃ルシアンは、皇宮のバルコニーで手を振ってるのかな?僕らも見ようと思えば入れるけど…いつも見てるからいいや。
しっかしすごい人の数。誰もが明るい顔でお祭りを楽しんでいる…僕も!
「ねえねえ。午後に旅芸人一座のショーがあるって!」
「へえ…面白そうだな」
予定通り僕らは4人で回っている。大通りでピエロがチラシを配っていたのでゲット。旅芸人かあ…大道芸思い出すなあ。
皆で観ようねという話になり、それまでは屋台を回る。縁日のような落ち着いたものではないけれど…やっぱ楽しいなあ。
……縁日といえば。まだ小さかった頃…一度だけ行ったことがある。
だが食べ過ぎてお腹を壊してはいけないと、千円しか貰えなかった。優花はそのお小遣いを握り締め…まずわたあめに五百円。次にくじ引きで五百円を使ってしまった…ちなみに景品はバットのビニール玩具。
たこ焼きも焼きそばもかき氷もチョコバナナも食べられなかった優花は超泣いた。見かねたお父さんがたこ焼き買ってくれたっけ。
「…セレスタン?遠い目をしてどうした…?」
「………はッ!?パスカル…いや、ちょっと切ない過去を思い出してね…」
それもまた思い出。今はお父様からお小遣いいっぱい貰ったし…お腹いっぱい食べられる健康体だし!
僕らは片っ端から屋台を巡るのであった。
数十分後。
「……お腹いっぱい…うぶ…」
「食べ過ぎよお兄様…普段少食なのに」
「こういう場所は…食欲が増すんだよう…」
「欲は増しても胃袋は大きくなってないようね…」
僕はベンチに腰掛け、お腹をさすっていた。量もだが、甘いもの食べ過ぎて気持ち悪い…。パスカルが背中をさすってくれる、優しい。
でも僕のせいで皆が楽しめないのは嫌。僕ここで休んでるから、回って来たら?
「何言ってるのよ。お兄様を1人置いていけるものですか!」
「そうだな。俺はいつでも側にいるよ」
「もちろん俺も。でも何か飲み物でも買って来ようか」
友人達が優しくて、自分がアホすぎてツラい。すまないねえ…。
ジスランとロッティがジュースを買って来てくれると言うので、僕とパスカルは待つ事に。
僕らは特に会話も無く、ただただ人の流れを観察する。
あの屋台のおじさん、声デカいなあとか。ちびっ子カップル可愛いなあとか。
僕のお腹も落ち着いてきた頃、パスカルがふいに手を繋いできた。こういう触れ合いはしょっ中だけど…まだ慣れないな…。
人前でイチャつくのは禁止!と言ってあるのだが。今日は皆お祭りに夢中で、誰も僕らなんて気にしちゃいない。なので僕も、そっと彼の手を握り返す。
暫くそんな風に穏やかな時間を過ごしていたのだが……
「……?ねえパスカル、あの子迷子かな…?」
「え。あ…あの桃色のワンピースの女の子?」
そう。人混みを少し離れた所に…分かりやすく困っている小さな女の子がいた。
涙目で服を握り締め、キョロキョロと周囲を見ている。近くに連れっぽいのはいないな…。
「…ねえ、そこの君。お父さんかお母さんは?」
「へっ!?あ、えっと…!」
変な輩に連れ去られては大変だ。そう思い、近付いて優しく声を掛けてみた。
すると女の子は青い顔になって、僕とパスカルを見上げる。あらっ、この場合不審者は僕らかな?
もしここで女の子が「たすけてーーー!!」とか叫んだらアウトだ。ここはまず、彼女の口を塞いで人気のない路地裏に…!?
なんて思考が犯罪者寄りになっていたその時。彼女の背中から、精霊がひょこっと顔を覗かせた。この子は、まさか。
「あれ…ニナ?君、ニナだよね?」
間違いない、エリゼが契約しているニンフのニナだ。ニナもこくんと頷いた。え、この女の子エリゼの関係者?
すると女の子は、一転して顔を綻ばせた。
「まあ…!もしかして、エリゼ様のお友だちでいらっしゃいますか!?」
「「エリゼ様……そうです!」」
僕らの返答に、彼女は益々笑顔になった。ここはまず信用してもらうのが一番だと思い、ベンチに移動して自己紹介から始めた。
ここは僕らが付いているから、ニナにはエリゼを呼んでくるようお願いした。契約している相手なので、どこにいるかすぐ分かるはずだ。
「僕はセレスタン・ラウルスペードだよ。エリゼとは同じ学園に通う友人なの」
「俺はパスカル・マクロン。よろしく、レディ」
「まあ、まあ!エリゼ様からよく聞くお名前ですわ!
わたくし、フルーラ・アッシュと申します!エリゼ様のフィアンセですの!」
「「………フィアンセェッ!!?」」
「はい!」
え、え、え?えええええぇぇっっっ!!!?初耳なんですがあ!?
僕とパスカルは口を開けたまま言葉が出ない。え、いや…3年友人をやっていますが、彼の婚約者とか…知らんよ?
彼女、フルーラちゃんの勘違いとかじゃ…なさそう?ニナを護衛に付けてるくらいだし…。
相手はまだ年端も行かぬ少女。エリゼはロリコンだった?
…いや、別にこのくらいの年齢差、おかしくないし…。やばい、僕相当動揺してるな…。
「あれ…エリゼの婚約者って、デュラン嬢じゃ…?」
「え」
「あ」
ボソッと呟いたパスカルの一言に…フルーラちゃんの笑顔は凍りつき、僕も全身を凍らせた。
しまった…!パスカルは、エレナ・デュラン(僕)とエリゼが婚約者だと思っているんだった…!!
僕はあれ以来、エレナになっていない。今はシャルティエラとして、いつでも女の子になれるからである。
その所為で…パスカルの誤解を解くのを忘れてた……!!
「ど、どなたですの…?わたくしは、2年前からずっとエリゼ様のフィアンセですのに…!」
あ゛あぁーーー!!!フルーラちゃんが…!今にも泣きそう…!!このままじゃエリゼは二股クソ野郎になってしまう!!
パスカルには後で説明するとして、まずこの子を宥めないと…!
「あのね、エリゼは…」
「あら?お兄様。その子は…?」
「フルーラッ!!お前、手を離すなってあれほ、ど……………」
そこへ…ジュースを買って戻ってきたロッティ達。
ニナと共に血相を変えて飛び込んで来たエリゼ。
今にも泣きそうなフルーラちゃんと、それを止めようとする僕ら。全員が集結してしまった…。
「う………うあああああぁぁぁん!!!エリゼ様、デュラン嬢ってどなたですのーーー!!?わたくしは、もてあそばれたのですかーーー!!!?」
「は………?弄ぶ?エリゼ……?」
「ち、違、違う!!フルーラ、落ち着け。な?シャルロットはその怖い顔をやめろ!!」
「え。デュラン嬢は…?別れたのか?」
「パスカルううう!今は余計な事言わないでお願いだから!!」
「うわーーーーーん!!!!!」
泣きじゃくるフルーラちゃんに、それを慰めるエリゼ。
そんなエリゼに殺気を浴びせるロッティ。
その光景に戸惑うパスカルに、ポカンとしているジスラン。
そして全ての事情を知っていて、どこから説明すべきか混乱している僕。
通行人も皆、遠巻きにこっちを見物している。
誰か…誰か助けてえええ!!!
「…………うわ。何をやっているんだ彼らは…。合流したくないなあ…」
その時ルシアンは人混みに紛れ、二の足を踏んでいた…。早く来い!!!
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