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学園4年生編

07

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 そんなハプニングがあったりもしたけれど、合宿も日程の半分を終えた。

 そして今日はサバイバル特訓の日。荷物を抱え合宿所を離れ、山中で対魔物戦を行う。
 ただし都合良く魔物が現れる訳無いので…魔術で擬似的に生み出すのだ。
 疑似魔物を創ってくれるのは、スペシャルゲスト…筆頭魔術教師のタオフィ先生であーる!


「はい、此方です。さてさて…クザン先生、1人1体ですか?」

「まずはそれで頼む」


 了解、とタオフィ先生は地面に小さな木彫りの人形を置いた。少し離れ…なんらかの魔術を掛けると…。
 人形がメキメキと音を鳴らしながら…どんどん巨大化している!!すごい、魔生物ってこうやって創るんだ。

 僕らは真剣を構えながら、どんな恐ろしい怪物が生み出されるのかと固唾を呑んで見守る。だが…
 

「……くまさん?」

「ナンディベアです。似て…ません?」

 先生の言うナンディベアとは、体長3mを超える熊型の魔物で…鋭い爪に堅い毛皮、超凶暴な危険なやつなんだが。

 タオフィ先生が生み出したのは、どう見てもゆるキャラ。全体的に丸いフォルムで目もくりくり…正直、気が抜ける…。


「相手の姿形に惑わされるようで騎士が務まると思うか!!!」

「「!!申し訳ございません!!!」」

 僕とアゼマ君は思わず脱力し…クザン先生に怒鳴られてしまった。改めて気合を入れ直すが、こんな初歩的な事で…情けない!!!
 ジスランは流石、一切警戒を解いていなかった。くっそう、ここが彼との差だぞセレスタン!!!


「いや…本物そっくりだと思うんですけど…あれ?
 とにかく、此方がコントロールしていますので暴走は致しません。思いっきりどうぞ!」

「それでは不肖セレスタン!先陣を切らせていただきます!!」

 一番手は僕!!名誉挽回、華麗に倒してやる…!
 素早さは僕のほうが上。高速で接近し回り込んで一刀両断!


「!?かっっった!!!」

 まずくまさんの右腕から落とそうとしたら…ガギイィン!!と音を立てながら弾かれた!!毛皮の音じゃないぞおい!
 するとくまさんは左手をぐあっと上げ…反撃か!すかさず後ろに飛び距離を取るが…

 シュッ…バギッ!

 と…爪は僕の服を掠り…拳を叩き付けられた地面はバキバキに割れた…!!当たったら即死じゃねーか!!!


「あれっ、強すぎましたかね…」

「ねえ先生まさかほんまもんのナンディベアの能力コピペしてないよね!!?確かあれ熟練の騎士でも2人以上じゃないと倒せな…うおっぷ!!!」

 まだセリフの途中だってのに、くまさんの第二撃が!!ゆる可愛い無表情で淡々と拳を繰り出されるの怖いんだけど!?
 間一髪躱すもこりゃ僕だけじゃ太刀打ちは不可能、ミカさんを使い熟す技量もまだ無い。こうなったら…!

「エア、暖炉、ノモさん、アクア!」

 僕の声に、影から4人が姿を現す。これは実戦形式だから、魔術精霊なんでもオッケーなのだ!(最上級は強過ぎるので訓練では不可)
 ただし大半の魔物は魔力耐性を持っている。つまり、魔術師や精霊はサポートに回るのが基本。それを上回る力量があれば別だが。


「ノモさんは土で足止め、エアは風の刃で切り裂いて!暖炉は頭部を重点的に狙ってアクアは僕に火が及ばないよう水のバリア!!」

 その隙に僕は、筋力上昇の魔術を自分に掛ける。これだけは何度も練習したので陣を省略、身動きの取れないくまさんに連撃を叩き込む!!


 ギガガガガッと喰らわしているのに…堅いわ!?上級の精霊4人もいるのに!こうなったら…!!

「ノモさんアクアは下がって!暖炉は最大火力で熊を包んで、エアは僕に合わせて!」

 僕がそう言い終わると同時に、くまさんが激しく燃え上がる。
 まあ相手は熱さなんて感じていないだろうけど…口を開けた瞬間!

 剣を槍のように構え…ぐぐぐっと右腕と両足に力を集中。全力で…柔らかそうな口内を狙いブン投げる!!!



「喰らえやおんどりゃーーー!!!」


 
 ブオン!!という音と共に、剣が吹っ飛んだ。投擲なんて初めてだし万が一外しては困るので、エアの風で軌道修正をしてもらいつつ…命中!!
 頭部を貫かれ絶命判定されたのか…くまさんは元の人形に戻る。
 
 
「はあ…はあ…はあ…」

「………終了だ!!」


 肩で息をする僕、頭の上には魔力切れ寸前の暖炉がぐったりしている。エアもフラフラと飛び…僕の肩に止まる。



 ……ちょっとコレ、難易度高すぎない…?



「凄いじゃないかセレス!」

「うわ…自分、出来る気しないんですけど…!」

 僕に駆け寄って来る仲間2人…やっぱそう思うよね?これ、3人で連携して倒せるかレベルだよね!?
 タオフィ先生に一言文句言ってやろうと思い、怖い顔を作って先生を睨み付けてみれば…



「………姫、お助けください…」

「いや君、セレスを危険に晒しといてよく言うね?」

「確かに加減を間違えた感はありますが…万が一の場合、此方が制御しましたので…」

「その万が一があっちゃ駄目なんだよ」

「それでは特訓になりません…」


 先生は…ヨミが操る影に捕らわれ逆さ吊りにされていた…。ジスランが言うにはヘルクリスは、いざとなったら僕を援護しようとずっと待機していたようで…今は呆れた目を先生に向けている。
 はあ…はあ、呼吸を整え…て…


「……ふう…クザン先生、流石にさっきのは強過ぎましたよね?」

「…ああ。儂でも1人では倒せん」

「やっぱり……はあ…!タオフィ先生!!次やったら本気で怒りますからね!?すんごい堅くて強くて怖かったんですから!!!」

 僕はその状態の先生に散々文句を言ってから、ヨミに下ろすよう伝えた。彼は渋っていたが、先生がいないと次のアゼマ君が練習出来ない。
 
 なんとかヨミに言い聞かせ、先生は解放された。「ありがとうございます…!」と跪いて僕の手を取らんでいいから、次やって…。



 その後はくまさんの能力も弱体化させ、アゼマ君はギリギリ、ジスランは余裕で勝利。
 3人で連携の練習をした時は、僕が素早さで翻弄。アゼマ君が地味にダメージを与え続け、ジスランは攻撃を防ぎつつトドメを刺す…中々上手く出来た!

「うむ、良く動けていた。今の感覚を忘れるな!!」

「「「はい!!!」」」


 と…この日の鍛錬は終了した。




「お疲れ様です。お食事用意しておきましたよ~」

 キャンプ地に向かうと、なぜかタオフィ先生がご飯作ってる…こういうの、僕達がやるべきなのでは?

「今のお前達に半日以上戦闘行動をして、更に野営の準備までさせる気は無い。あくまでもまだ学生だからな。
 ただし夜の見張りは3人で交代しながらやってみろ。騎士になれば1日2日徹夜する事もあると念頭に置いておくように」

 とクザン先生は言う。しかしテントの準備まで…なんか申し訳ないな。…あれ。テント2つって事は…

「1つは僕ら3人で、もう1つは先生達ですか?」

「いいえ、此方はもう帰りますよ」

「…儂は一晩中起きている、テントは要らん。1人は見張りをするんだ、それぞれ使え。
 それと見張りはラウルスペード、ブラジリエ、アゼマの順だ」

 ほー…?それなら僕がジスランを起こして、そのまま入れ替わりにテントを使えばいいのか。何気に個室…少しだけ、落ち着けそう…。


 しっかし学生とはいえ、そこまで気を使ってくれるとは。クザン先生ってば紳士ー。
 ご飯を食べて、片付けくらいは自分達で。朝食もタオフィ先生が「これを温めるだけですよ」と用意して帰って行った。森のくまさん事件は忘れてやろう。

 ところで…お風呂ってありません、よね?
 

「………………風呂は無い、水浴びをしたければ川に行くしか無いが」

 うーん…いつもだったら服ごとアクアに洗ってもらって、暖炉に乾かしてもらう事も可能なんだが…暖炉はまだ寝ている。エアの風で…とも思ったが、冷風なので僕が風邪引いちゃう。
 それなら服を脱いでちゃんとタオルで拭いたほうがいい。でもその服を脱ぐってのが問題なんですが!!

 ……かなり汗をかいたし…さっぱりしたい…。どうしようかな…と悩んでいたら…


「ぼくが見張っていてあげるから、川に行こうよ」

 とヨミが提案してくれた。それなら…!


「じゃあ僕川行ってくる!2人は水浴びしたかったら、悪いけど後でお願い」

「?一緒に入ればいいじゃないか?その…み、見られたくなければ、背を向けてるから…」

「そうですね」

 よくねえ!!!くっそう、尤もらしい言い訳無いかな!?
 と頭を悩ませていたら、クザン先生が「そこの2人は話がある」と言って僕だけ先に浴びて来いって!!

 さっきから先生は神ですか?見張りの順番も僕的には最高だし…………



 まさか、先生?気付い………いやまさか?


 ナイナイ…と思いつつ、念の為ヘルクリスはキャンプ地に配置して、と。
 ヨミだけ連れて、一応周囲を警戒しながら服を脱いだ。…ヨミも男性なんだから、覗くなよ!?

 ううぅ~…水冷たい!でも汗を流したい、気合じゃあ!!
 いっそ頭まで潜ってしまうと、冷たさも多少和らぐ気がする。

「わ…大自然の中で見る星空って、本当に綺麗…」

 仰向けにぷかぷか浮かび、天然のプラネタリウムを堪能するのだった。あ、流れ星!


「ちぇ。………?なんだ、空…何か、いる…?……気の所為か…」




 ※




「………ふぅん。本当に「姫」だったんですね…。それには最上級の精霊様も完全に制御出来るようですし…もう少し、お近付きになりたいですねえ…。
 王のほうは何処から攻めましょうか…」


 セレスタンが水浴びをしている川の遥か上空に、1人の男が飛行魔術で浮いている。遠見の魔術を併用し彼女の様子を探っていたのだが…


「…おっと、これ以上は精霊様に気付かれてしまう。まあ充分な収穫はありましたし、帰るとしますか!」


 そう言い残し…彼は学園の方角に向かい飛んで行くのであった。




 ※※※




 次の日。目を覚ませばテントの中。ああ、そっか。サバイバル特訓だもんね…サバイバルなのにテントっていいのか…?

 ぼーっとしていると…外からジスランの声が聞こえてくる。

「セレス、起きているのか?」

 そうだ、行かなきゃ。なんだが……どうにも頭がハッキリしない。
 精霊達が心配そうに飛び回っているけど…反応出来ない…。

 
 なんか…変な夢、見たような………。
 夢の中の僕はまだ前髪だけ異常に長くて、後ろはショートヘアで。
 普通に合宿してたんだが…僕は倒れてしまって。そんでエリゼが他の先生に向かって怒鳴っていて…?

 いや、なんの記憶よそれ?夢って訳分かんないな…。



「セレス!!!もう皆起きているぞ!!」

「どわああっっっ!!?へ、あ、ジスラン!?ごめん…すぐ行く!」

 びっくりしたあ!いきなり耳元でデカイ声出されるもんだから飛び起きたわ!!
 勝手に入って来た彼を追い出し、急いで支度する。


 ……あれ、なんの夢見たんだっけ?まあいっか!





 お昼は合宿所で食べる為、10時半頃には片付けまで済ませて山を下りる。
 今日は午後お休みなんだよね!どーしよっかな、ゆっくり寝るか皆で遊ぶか!

 疲れているけど足取り軽く下っていたら…どこからか覚えのある声が聞こえて来た。



「…あ!引いてる、コレはデカいよ!!ルシアン、網の準備お願い!」

「よっし!!って凄い竿が曲がってるぞ!!どんだけ大物なんだ…!大丈夫かスクナ!?」

「く、ぐうう!キッツ…!」

「あー!折れる、あーーー!!!」



「「「「………………」」」」


 あの2人本当に釣りしてやがる……。というか中級組はもう休みかい、羨ましい。
 そんな風に彼らのやり取りを遠くから見ていたら、ジスランが僕の荷物を取った。

「後はすぐそこの合宿所に持って行くだけだしな。これは俺がやっておくから、セレスは殿下達を助けに行ってやれ」

「…で、でも……」

 先生のほうをチラッと見ると、「皇子と王子の危機だ、行って来なさい」とため息混じりに言ってくれたので…



「ちょっとーーー!僕もいーれーてー!!」

「「!いいところに!!」」


 と、参戦したのであった。
 

 その後2mに迫る大魚を釣り上げ、3人で「山のヌシだーーー!!!」と大騒ぎ。なんとなく拝んでから川に帰した。


 

 他には特筆すべき事件も無く…僕らの合宿は終了したのであった。


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