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閑話
私の宝物
しおりを挟む2年生冬期休暇中。ルシアン視点。
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休暇に入ってすぐのこと、姉上がテノーに嫁ぐ日。皇宮では5日間に渡ってパーティーが開かれた。
姉上はテノーの王太子、リンバル様と幸せそうに笑い合っている。…義兄上に迷惑を掛けないか心配だなあ…。
それはそうとして。この5日間は街も彩られ、国を挙げての祭りが開かれていた。皆が姉上の輿入れを祝福していると思うと、なんだが心が温かくなる。
「ただいまー!!はいルシアン、お土産よ!」
「おかえり…なさい」
なんと主役の姉上が、お忍びで祭りに行ってた。
セレス、シャルロット、ルネを連れ…「女4人ぶらり旅よ!」とかなんとか。更にルキウス兄上の財布を奪って行ったようで、中身を使い果たしたらしい…何やってるんですか一体。
「明日ルシアンも一緒にお祭り行こうよ!エリゼと3人でさ、1日くらいなら時間作れない?」
土産のフルーツサンドを食べていたら、セレスがそう提案してきた。予定はなんとかなると思うが…マクロンはいいのか?
「うん、最終日にデートするの~。で、どう?エリゼに確認したら、大丈夫って言ってたよ!」
「それなら…うん、行こう!」
「おーっ!!」
無邪気に笑う彼女を見ると、つられて笑顔になってしまう。
明日、楽しみだな…胸を躍らせながら眠りについた。
※※※
「おぉ…賑やかだな」
「でしょー!行こ行こっ!」
「おいコラァ!!」
わーーーっ!!と走り出した私達。エリゼに首根っこを掴まれ、ぐえっと唸った。すまん、テンションが上がってしまって。
今度は落ち着いて街を見て回る。この3人でお忍びはよくするが…雰囲気が違うと気分も変わるな。
屋台で買い食いをすると、護衛が出て来て毒見をしようとする。いや…いつも思うけど、いいから。
「とはいえ、陛下からの命令でして…」
「むぅ…」
「昨日ルシファー様は「こんなに大勢の人が同じ物を食べてるのよ。いらないわ」って言ってたけどね」
「やはりそう思うよな!?」
兄上達だって自由にしてるのに!
なんか私だけ、やたらと過保護ではないか!?
「それだけ陛下は、殿下を大事に想われているのですよ」
騎士にそう言われ…頬が緩んでしまう。し、仕方ないな。正直言って鬱陶しいが、それが父上の愛なら…
「ルシアンはなんでも拾い食いしそう、って思われてるんじゃ?」ポツリ
「エリゼ!しーっ!!」
「…………………」
これは…帰ったら父上と話し合う必要があるかな。
とにかく色々食べて、買い物をして、踊りに混じって…
「だーーーっ!!!このクジ本当に当たりあるんだろうな!?」
「入ってますって~!勘弁してくださいお客さん!」
エリゼがくじで10連敗して憤慨して。次に引いたセレスが1等を当て…また怒った。
「そこのお嬢さん!俺らと一緒に回んな~い?」
「其方らは私達の姿が目に入らないのか?」
「僕男装中なんですけど…?」ボソッ
セレスをナンパする輩が多くて、私とエリゼで睨みを利かせて。
人が多くて逸れそうになると、セレスを真ん中に手を繋いで。…楽しい、なあ…。
大切な家族の結婚を祝うお祭りを。
大好きな友人達と共に過ごす。
「このブレスレット、3人で色違いしない?」
「ああ…それはいいな。2人は何色にする?」
「ボクは緑かな」
「僕は青!」
「じゃあ私は…赤だ」
皆の手首に輝くブレスレット…安物のはずなのに、とても輝いて見える。
宝石なんて見飽きているけれど、これは…そうか。
きっと…私にとって宝物になるんだろうな。
「「?」」
エリゼとセレスが、不思議そうに首を傾げた。ふふ、なんでもない。
数年前の私だったら、こんなに楽しい日々を送れる時が来るなんて、想像もできないだろうな。
ありがとう…私の親友達。
「……ん?なんだか騒がしいな」
ん?しみじみしていたら、確かに遠くから歓声が聞こえてくる。近付いてみると…
「さあさあ、間もなく女装コンテスト始まるよーーー!!!男性の皆さん、どうぞご参加くださーい!!まだまだエントリー受け付けてまーす!!」
女装…コンテスト?
「あーっ!この特設ステージ、昨夜は女性限定の歌コンテストやってたよ!ルシファー様が意気揚々と参加しようとして、3人で止めたんだー」
姉上…!
しかし女装コンテストか…面白そう。見物していかないか?と言おうとしたら…
「ふ…っ。まさに僕の為にあるかのようなコンテスト。優勝は貰ったあ!!」
セレスが、握り拳で燃えている!そうか、美しい彼女なら優勝間違いなし!頑張れ!!
がしっ
「「え?」」
「さあ行くぞ!!」
え?セレスは…私とエリゼの手首を掴み…
「3人エントリーしまーすっ!!」
「「おいいいぃぃっ!!?」」
抵抗虚しく…私達は裏まで連れて行かれて。
エリゼが「アホか!!なんでボクが…!」と言ったところで、セレスがしょぼんと俯いてしまって…!
「……こういう馬鹿騒ぎってさ、若いうちにしか出来ないから…」
「「う…」」
「それに…2人が成長して格好良くなっちゃう前に。可愛い姿を見てみたいって言うか…」
……………。
私はエリゼと顔を見合わせて……
「……やるからには徹底的にだ!!!目指すは優勝のみ、気合い入れていくぞ!!」
「!おーっ!!」
全く…エリゼはこういうのに弱いんだよな。
自分のプライドよりも、セレスや私の望みを優先してくれるんだ。きっと彼のような人を、優しいと言うんだろう。
「ぜっっったいに知り合いにバレないようにするぞ!!」
「オッケー任せんさい!ヘイヨミ!!僕のメイク道具出して!」
「はーい…」
服やカツラなんかは用意された物から選び。セレスが最近勉強中だというメイクを施してくれて。
準備万端…いざ戦場へ!!!
「さあ、次の登場は美少年…いや美少女3人組だー!!!」
司会の言葉に、きゃあああ~っ!!!と熱気が伝わってくる。どうやら観客の殆どは女性らしい。
さて…3人揃ってステージに上がった。
「シャーリィでーす!!」
真っ先に挨拶したのはセレス。茶髪ではあるが、どこからどう見てもいつものシャルティエラである。
素朴な村娘風ワンピースに頭巾をかぶり…可愛い~!と大好評のようだ。
「うぐぅ…フローラだ!!!」
次はエリゼがブチ切れながら自己紹介。
膝丈スカートに、なんとゴージャスな金髪縦ロール。うん…なんか普通に似合ってる。
あっはっは~!と観客の笑いを誘う。
「ルーシーですわ…」
最後は私。長い黒のカツラに、ちょっと良いとこのお嬢さんを装った立ち振舞い。
うーん…我ながら美しい…。こうして見ると姉上にそっくり。数少ない男性客が頬を染めている…怖っ。
「いやー、3人共美人さんだね!!お友達同士の参加かな?」
「学校の同級生で親友でーす!」
「おっ、クラスの女の子にモテるでしょー!」
「ご想像にお任せだ!」
セレスはニッコニコで。エリゼはものすごく顰めっ面で。私は微笑み並んで立つ。観客はおろか、参加者やスタッフの注目も集めているようだ。
そっと周囲に目を遣り…他の参加者を観察すると。
明らかにネタで参加した風の男や、中途半端な格好の者ばかり。ふ…いずれも私達の敵では無いな!!
3人で顔を突き合わせ、勝利を確信して内心ほくそ笑む。だが…
「はーい、最後のお姉さんの登場でーす!!」
きゃああああ~~~っ!!!と、かつてない歓声が広場を包む…!誰だ、私達より目立つなんて!?
揃ってバッ!!!とステージ脇を睨む。すると現れたのは…
「「「え…ええええええっ!!?」」」
「はぁい、パールでえす」(裏声)
「グレタ…だ…」(裏声)
黒髪ツインテールでピッチピチの服を纏い…長い脚を曝け出すこの男は、マクロン!!?
その隣には三つ編みを左右に垂らした…超絶巨乳のブラジリエが!!
「ふ………ぶふぅるぁっっっ!!?」
あ、セレスが決壊した…。
私達と違って、この2人は背も高く筋肉質。なので…女装が全っ然似合わん!!
しかもメイクは一切していないので、完全にネタ枠だ。観客も大爆笑の渦に……じゃなくて!!!
「(なんでいるんだコイツら!?)」
「(私が知るか!!)」
「あーっはははははは!!!ひっ、ひはっ…げほぉっ!なはははは!!!」
バレないように、必死に顔を逸らす私とエリゼ。笑い過ぎて涙を流すセレス。
涼しい笑顔で歓声に応えるマクロン。諦めの表情で立ち尽くすブラジリエ。
この異様な雰囲気に、司会者がいらん勘を働かせる!
「えっと~…もしかして君達、知り合い?」
「そうで~す。とっても仲良しなのよぉ」
「ずあっははははは!!!やめてやめてお腹痛い、ひゃあ~~~!!!」
マクロンがオネエ口調でこっちに寄って来る!!このままではセレスが笑い死ぬ!!!
って…マクロンの顔が真っ赤だ。恥ずかしいの我慢しているのか!!!
最早真っ直ぐ立てないセレスはエリゼに任せ、私は2人に小声で詰め寄った。
「(一体何をしているんだお前達は!)」
「(仕方ないでしょう!?俺だって好きでやってる訳じゃありません!!!)」
詳細はこうだった。
マクロンとブラジリエ、それぞれの家族と祭りを見ていた。
そこで偶然会い…折角なので2人で行動。
すると遠くに、3人手を繋ぎ楽しそうな私達発見。
マクロン、ブラジリエを引き摺り後を追う。
そして…いつの間にかコンテストにエントリーしていた…と。
「(ば…馬鹿じゃないのか…?)」
「(やかましい!!)」
「(なんで俺まで…)」
つまりブラジリエは完全にとばっちり。全く………ふ、ふふ…っ!
駄目だ、私もさっきから笑いを堪えて…っ!しっかりしろルシアン!!
「ねえシャーリィちゃん、どうしてアタシ達も誘ってくれなかったのお?」
「そのキャラやめてーっ!!やーだーもーーー!!!」
マクロンはエリゼからセレスを引ったくった。
んな…セレスは気付いていないが…マクロンの距離が、完全に恋人のもの!
彼女の腰と肩に手を当てて、顔が今にもキスしそうな程近い…!
女性陣は頬を染めてきゃーきゃー大興奮。鼻息荒い人もいるな…?
「……えーと。じゃあ投票開始ー!!」
女装男達がイチャつき始めたもんで、司会者がぶった斬って強引に進める。中々有能な者だな…。
投票は観客100人によるものらしい。それで、私達は3人1組の参加だから…纏めてカウントされる。
だがまあ、この中で完璧な女装を披露しているのは私達だ!
恐らく10人中10人が「え、こんな可愛いのに男なの!?」と言うに違いない!
そう考えているのはエリゼとセレスも同じなようで、すでに勝ち誇った顔をしている。セレスはまだマクロンの腕の中だが。
さて、集計結果は…
「お…おおおっ!?なんと!優勝はパールちゃん&グレタちゃんペアだーーーっ!!!」
きゃあああああぁっ!!!!
「「えっ?」」
「「「えええーーーっ!!?」」」
ななな、何故!?私達が…この筋肉に負けた…!?
というか、張本人すら目を丸くしている。彼らのどこが良かったんだ一体!?
「……まけ、た…(僕、女なのに。女性の魅力で…2人に負けた…!?)」
あ。セレスが…プライド粉砕されている!恐らくステージ上じゃなければ、今頃泣きじゃくっていたに違いない…!
「負けた…?じゃあボク、ただ恥を晒しただけじゃないか!?」
エリゼも地団駄踏んでいる…気持ちは分かるが。
だけど…2人には申し訳ないけど。
私は、すっごく楽しかった。これもいつか、笑い話として子や孫に語る日が来るかもしれない。
「ははっ。さて、撤収しようか。
マクロン…いやパールちゃん?賞金で私達に何か奢るんだな」
「パールちゃんは終わりです!全く、シャーリィのついでに奢って差し上げますよ」
私達は軽口を叩きながらステージを後にする。
「そういやジスラン、お前の偽名どっから出てきたんだ?」
「姉上の名前を拝借した。お前のフローラの由来は?」
「………親戚の、娘を、もじった…」
ブラジリエと、復活したセレスとエリゼも一緒に。
本音を言えば…着替える前に写真でも撮りたいけど。特にエリゼが嫌がりそうだから…諦めておこ
パシャッ カシャカシャッ
「「「「「え?」」」」」
今…シャッター音が…?
「「……………」」にや~
ステージを降りて…控え室に戻る途中で。
ルネを連れたシャルロットが、いい顔でカメラを構えている。
「………消せーーーっ!!!」
「きゃーーーっ!嫌よー、バジルお願いっ!」
「はーい…。すみませんエリゼ様、ばら撒く事はしませんから…」
「当たり前だっ!!変なモン形に残すんじゃねえええーーー!!!」
「ふふ、皆様可愛らしかったですわ!」
「ありがとー、ルネちゃん」
シャルロットはぴゅーっと逃走、追おうとするエリゼはバジルがガード。
その写真…私にも後でくれ。
どうやら3人は客席に紛れていたらしい。現像した写真を貰ったが…うん、よく撮れてる。
それで筋肉ペアが優勝した理由だが、ルネが観客の反応から推測してくれた。
「可愛らしいお3方より…逞しいお2人のほうが魅力的だったからかと。ほら、女性客ばかりでしたし」
「あー…」
そういうことかー…私達は女装とは、女性に近ければいいと思っていた。
「女性視点ではそうなのか…深いな」
「いや浅いだろ」
エリゼは相変わらずズバッと言うなあ。
にしても…姉上の結婚は言わずもがな。
お揃いのブレスレット…女装の写真。
あの後賞金で、皆で食べ歩きした思い出。
全て、余さず私の宝物だ。
きっとこの先も増え続けるのだろう。
時折思い出すと…それは言葉では言い表せない、温かい感情になるなあ。
「そういえばあの日以降、平民の中で女装男子?とか流行ってるらしいですわ」
「男性同士の絡みとかね…」
………どうやら私達は、一部の界隈で有名になってしまったらしい。
メンズサイズの婦人服とか、本屋でとあるジャンルが売れまくってるとか。
さて…今日は何をしようかな?
きっと私が「あれをしたい!」と言えば、セレスとエリゼが「しょうがないな」と賛同してくれる。
こんな私と友になってくれて…本当にありがとう。
この先も迷惑掛けるが、よろしく!!
******
女装時のそれぞれの心情
セレ「エリゼとルシアン可愛い~!今度はドレス着せた~い!!」
エリ「早く終われ早く終われ早く終われ早く終われ早く…でも、2人が楽しそうだからいっか」
ルシ「うーん美しい…私」
パス「恥ずかしい…でもシャーリィがいい反応してくれるから、もっと笑わせたくなる」
ジス「ふむ…やはりセレスは愛らしい。だが…以前程の胸の高鳴りは無いな…」
応援ありがとうございます!
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