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学園1年生編

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「……君はどうして、満身創痍なのだ…?」

「はあ、はあ…げほっ、はあ……ふう…。
 失礼、しました、陛下…。少々風になりたい衝動に駆られ、走り込みを、しておりまして…」


 僕はラディ兄様に捕まった後、そのまま陛下の元に連行された。

 お陰で今の僕はボロボロ。息も絶え絶え衣服は乱れまくり。
 とても一国の長と謁見するような格好では無いが…非公式の面会だしこれでオッケー!なんて兄様が言うから…。

 でもまあ確かに、畏まった場では無さそう。発言も好きにしていいって言われたし。
 僕の現在地は皇族の方々がプライベートで使用するというサロン。
 メンバーは皇帝陛下、皇后陛下、殿下4姉弟、僕、ロッティ。
 バジルは給仕の使用人さんと一緒に壁に控えているぞ。あと何故かラディ兄様も立っているぞ!ヘルクリスは窓際で日向ぼっこしている。
 ところで…どうして皇族一家勢揃いしてらっしゃるの…?


「こうして面と向かってお話するのは初めてよね?私はルシファー・グランツ。どうか気軽にルシファーと呼んで欲しいわ!」

 そう笑顔で話し掛けてくださった女性がルシファー皇女殿下。ルキウス殿下、ルクトル殿下と同じく金髪赤目なのだが…こうして比べて見るとルシアンとお顔そっくりだわ~。

「はい、お初にお目に掛かります、ルシファー殿下。僕はセレスタン・ラサーニュです」

「いやだわ、殿下なんて堅苦しい!」

「ええっとぉ…では、ルシファー様と呼ばせていただきます…」

 僕の答えに、ルシファー様はにっこにこだ。ロッティにも同様に呼ばせ、ご機嫌の様子。
 その隙にルクトル殿下も「僕も殿下付けないでくださいね?」と言い、ルキウス殿下も「ならば私もだ」ですってよ。

 ………まあ、いっか!!

 皇后陛下も微笑みながら、「息子と友人になってくれてありがとう」と言ってくださった。いやあ、こちらこそ。


 そんな感じで少し雑談した後、陛下が口を開いた。


「それでは…早速だが本題に入ろうと思う。
 君達は…ご両親を失った。辛いだろうとは思うが…」

「…いえ。お気遣い頂きありがとうございます。
 ですが父は自業自得ですし…母も…」

「そうか…。昨夜の話は、モーリスより聞いた。君が罪に問われる事は当然無い、安心して欲しい」

「…はい」

「それで、その…マクロン君を蘇生させた方法。君はモーリスにそこは濁して伝えたそうだな。
 よければ、詳しく教えてくれないだろうか?」

「え、と…」

 僕は、チラッとルキウス様のほうを見た。
 一応刻印については5人の秘密。例え相手が皇帝陛下であろうと、決して口外しない約束。
 なのでこの場で言ってもいいのだろうか…。そう思い彼に助けを求めたのだった。

 ルキウス様もすぐに気付いてくださって、陛下に説明してくれた。


「父上。以前私は「不死鳥の刻印を持つ者は学園にはいない」と報告致しましたが…実際には、このセレスタンが刻まれておりました。蘇生はその刻印の効果によるものです。

 しかし彼が自由を奪われてしまうのではないかという懸念のもと…私の判断で、国に報告しない事と相成りました。
 全て私の責にございます」

「ふむ…そういう事だったのか…」

 !!?どうしてルキウス様が頭を下げていらっしゃるの!?

「父上、僕もです。兄上の判断に同意致しました」

「畏れながら皇帝陛下、私も同罪でございます。如何なる罰もお受け致します」

「……お前ら…知らぬ振りをしろとあれほど…」

 えええええ!?ルクトル様とラディ兄様まで!!?
 ちょ、待っ、いや、え?きゅ、急に空気重くなった?

 どうして陛下は顎に手を当てて難しい顔をしているの?まさか、3人を処罰する気!?


 そ、れ、は、詰まる所…僕の所為では…?ぼぼぼぼ僕がエリゼを止めなかった弊害が、こんなとこまで及んじゃった…!?

 でも口を出せる雰囲気じゃないし…!!どうしようどうしようどうしよう…!!!


「(………青い顔で涙目になってオロオロし、手を上下させて全身で困惑を表現している…。
 正直なところ、息子達の行いは褒められたものでは無いが…確かにあの時点で知られたら、彼を囲おうとする者はいただろうな)
 ……具体的に、刻印の力でどうやって蘇生した?」

「は。光の最上級精霊殿の話によれば不死鳥の刻印の本来の力は、刻まれた者が死に掛けた際一度だけ蘇生するというものでした。
 彼はその力をマクロンに譲渡したのです。方法は…」


 今度はルキウス様がこっちをチラッと見た…!!「言ってもいいのか?」という視線だ…!!


 …大丈夫、あれは救命行為だから!人工呼吸みたいなもんですから…!!

 ……でもやっぱ恥ずかしい!!ルキウス様は現場にいた人全員には口止めをしてあるって言ってたし…出来れば広めたくないなあ!!
 と、僕が言葉に詰まっていたら…ヘルクリスがゆっくりと起き上がった…。


「おい、人間共…先程から何故、私の契約者は不安を露わにしているのだ…?
 我が主を窮地に陥らせているのは…どいつだ…?」

 あばばばばばば!!!こんな皇族勢揃いの現場で暴れさせる訳には…!!
 僕はシュバッと移動しヘルクリスの首に抱き着き、なるようになれ!と思い早口に語った。


「あははは僕がパスカルに、くっ、口付けをして直接力を流したんですよ!そして力を使い切ってしまったのか、もう僕の胸には刻印はありませんでした!
 それと刻印の事を黙っていたという件は、元を正せば僕とエリゼに責任がございます!!もしもお三方を裁くと言うのであれば、どうか僕達にも罰をお与えくださいいい!!!」

「そ、そうで…あったか…。しかし君を罰しては精霊殿の怒りを買おう。
 ルキウス、ルクトル、ランドール。其方らの判断も彼の安全を考えれば…間違ってはいないのだが。今後は必ず、私には相談しなさい。
 これまでの其方らの働きも考慮し…此度の件は不問とする、次は無い」

「「「はい、申し訳ございませんでした!!」」」


 ……ううう…。口付けに関して言及が無いことが辛い…!陛下が何も言わないから、他の人も話題に出来ないし…!!
 このなんとも言えない空気の中…僕はのそのそと自分の席に戻った…。



 それで、あの…僕昨夜からずっと気になっている事があるんだけど…。
 僕は隣に座るロッティの。椅子に立て掛けてあるをチラッと見た。

「ロッティ…そのバズーカ、何…?」

 僕がそう言った瞬間、その場の全員が耳を澄ませた。恐らく皆突っ込みたかったのだが、聞けずにいたのだろう。いやでも、皇宮内でそんな武器持ってちゃ駄目だよね?
 しかしロッティは堂々と持ち歩いている。昨日から、今朝パスカルの部屋に来た時も。


「あ、コレ?闇の精霊様より頂いたの!」

 ロッティは1枚の紙を取り出した。こっちも説明書付きか…どれどれ?



『ヴェルデナートのバズーカ

 半神の狂戦士ヴェルデナートのバズーカ。魔力を弾として発射する事が可能。強度も非常に高いので、鈍器としての使用も可能』


「へー…凄いねえ…重くない?」

 僕は一読した後、興味津々そうな陛下に差し出した。ただし途中でルシファー様が奪い、しょぼんとする陛下を尻目に姉弟4人で読んでいる。

「少しね」


 そうなの?僕はバズーカを持ってみ…重っ!…なんとか両腕で持てる、が。振り回す自信は無いなあ…!
 ロッティはそれをひょいっと片手で持ち上げ…嘘でしょ!?君が腕力ゴリラだと知ってはいたが…ここまで!!?


「ほら見てお兄様!ここ、銃身に目盛りがあるでしょ?本体に魔力を貯めておけるの!これが無くなったら私の魔力を使えばいいのよ。
 ちなみに今はフル充填済みよ。エリゼに魔力を提供してもらったわ!こっちが満タンになったら、魔力切れで倒れてたけど」


 エ、エリゼエエェ!!!君の犠牲は忘れない…!
 いつの間にか、4姉弟が席を離れ僕達の後ろに立っていた。


「この目盛りは10まであるが…一度に全ての魔力を放出してしまうのか?」

「いいえ、違いますわルキウス様。例えば昨夜扉を吹っ飛ばした時は、1しか消費していませんの。その後すぐに充填しておきました!
 発射する際に、数字を唱えればいいのです。1(アン)と言いながら引き金を引けば、1目盛り分消費されますわ」

 ……あの扉、木っ端微塵になってましたが。あれで1か…もっと使ったら…?
 僕が気になった事を、ルクトル殿下が聞いてくれた。

「……どこまで、試しましたか?」

「まだ3までなんですの。危ないから森で放ってみましたが…着弾地を中心に半径10メートル程が更地になりましたわ!」

「「「「………………」」」」

 ロッティはにこやかだけど…殿下達、顔引き攣ってるよ?


「……もしも10全てを使ったら…どのくらいの威力になるのかしら…?」

「それは私にも分かりませんの…」

「…ヨミ、分かる?」

 僕の問い掛けに、彼は影から出て来ず言葉だけ返してくれた。

「うーん…この建物くらいは軽く吹っ飛ぶと思うよ…」


 皇宮が、全壊か……。


「畏れながら、昨夜の出来事で…いかに皇宮内とはいえ、絶対安全ではないと痛感致しました。
 ですので私は今後、コレを肌身離さず所持させていただきます。
 元々精霊様より、お兄様を守る為の力として賜ったのですもの。もしもお兄様に害なす者がいたら…私がコレで脳天をぶち抜いてや………おほほほほ、なんでもございませんことよ?」

 サロンにいる全員がドン引きしている事に気付いたのだろう。ロッティは言葉を途中で止めたが…遅いよ…。
 そして僕含め、全員の視線が陛下に向かう。


「(ヴェルデナート…神話にも登場する古代の英雄の所持品…リオの指輪に続き、またも聖遺物が…。
 本来ならば指輪もバズーカも国で保管すべきなのだが…最上級精霊が下賜した宝を奪うという事は、彼を敵に回すという事。
 ああ…以前は安易に「最上級精霊の力か~。魅力的だな~欲しいな~…」等と考えていたが…人間には、過ぎた力は不要。禍の元だと思い知らされるな……)

 …………ラサーニュ嬢。せめて持ち歩く際は袋に入れるか布を巻くかしなさい…。
 それと、リオ。其方もそれはただの指輪とし、能力については口外しない事。

 この場にいる全員も、今日ここで語られる事は決して外部に漏らしてはいけない。よいな?」


 陛下の御言葉を受け、全員が力強く返事した。


 この日以降ロッティは、どこに行くにもバズーカを袋に入れて持ち歩くようになったとさ。






「コホン。脱線してしまったが、話を戻そう。
 ラサーニュ夫妻はいなくなり、必然的に君が伯爵を継ぐ事となるが…どう考えている?」

「………その前に、お話しなくてはならない事がございます」

「「父の不正に気付くも、確実な証拠を掴む為に泳がせた」「知った上で補助金の申請をした」「罪人の子である自分が、伯爵になって良いのだろうか」という言葉なら聞く気は無い。
 ああそれと、元伯爵の共犯者には全員正当な裁きを下してある」

「………………はい?」


 言いたかった事を全て先に言われてしまい…僕は開いた口が塞がらない。
 そんな僕の顔を見て、陛下はしてやったりな風にニヤっと笑った。


 ………ん?その顔、誰かに似てるような…?



「えっと…では、その…僕は…」

「爵位を返還し、平民になって3人で暮らす?」

「もしくはセレスタン君が学園を辞め、伯爵となる?」

 ……!?今のは、ルキウス様とルクトル様の発言だ。彼らもニヤニヤと…誰から聞いた!?


「お前が学園を辞める必要も、平民になる必要も無い方法があるんだが…どうする?」

 今度はルシアンがニヤつきながら言ってきた。
 どうする?って…僕は戸惑いロッティと顔を見合わせた。
 しかしどっちも明確な答えは出せず…今度は揃ってバジルのほうに目を向ける。彼は「自分に決定権はございません!!!」と言わんばかりに首を横に振っていた。



「お父様、セレスタン君が可哀想よ。ご覧なさい、眉をすっかり下げてしまって…やだぁ、可愛いい~!!」

「ああ、そうだな」

 そうだな。じゃないですよー!!?僕とロッティはなんて言ったらいいか分からなくて超困ってるんだからあ!!


 やっと答えをくれる気になったのか、陛下が「実は…」と前置きしてから教えてくれた。

「君達を養子にしたいという話がある、しかもいくつもの家から。もちろん2人揃って、リオも執事として一緒に引き取りたいと」

「「…はい?」」

 またも僕らは顔を合わせる。
 養子に…?それも確かに、考えた事はあった。でも現実的じゃない、夢物語だと…選択肢から除外していたのだ。

 ただよく考えたら…最上級の精霊2人と契約している僕を欲しがる家なんて、いくらでもあるのか?そんな僕が望めば、ロッティとバジルだって一緒に。



 とはいえ…初めて会う人の家に行くのは怖い…。

「あの…参考までに、どの家から打診があったのかお伺いしても…?」

「ふむ。ブラジリエ伯爵家にナハト伯爵家、君達と親交があるのはそのくらいだろう。
 他にも10を超える家から打診が来ている」

 ………んんん!?ジスランちに、ラディ兄様の家!?
 バッ!と兄様のほうを見ると、超笑顔で手を振ってらっしゃる…!!


 ジスランと兄弟…もしくはラディ兄様と本当の兄弟に…!?少しだけ僕が乗り気になっていたその時。



「だがまあ私としては…是非お薦めしたい家があってだな」

「?陛下のお薦め…ですか」

「うむ。ラウルスぺード公爵家だ」

 ラウルスペード…公爵家!!?なんで公爵家が!
 
 いや待て。この国にそんな公爵家無いよ?でも何処かで聞いた事あるような…まさか、他国?


「畏れながら陛下。ラウルスペード家とは…80年ほど前に断絶した公爵家では?」

 ……それだ!!ロッティの言葉で思い出した!!!
 世界大戦で当主と息子2人が戦死してしまい、そのまま途絶えた家系…!!


「その通りだ。だが最近…その家の後継に相応しい者が名乗りを上げてな。
 更に旧ラサーニュ領を公爵家直轄地とし、隣接するブラジリエ伯爵領、エマール男爵領、セドラン男爵領も公爵領に組み込まれる事となった。もちろん、今まで通りそれぞれの家に統治は任せるが。

 そして公爵は…ラサーニュの屋敷をそのまま使い、君達を養子に迎えたいと希望している。
 使用人はリオと専属医師を除き暇を与え、新たに雇うと言っていたが。人付き合いを好まない男でな、最低限の使用人しか揃わないだろう。

 もちろん、君達が拒むのであれば無理強いはしたくないと言っている。どうする?」

「な…」


 今まで通り旧ラサーニュ領で暮らせて…学園にも通えて。使用人もいなくなって…僕にとって、最高すぎる条件じゃないの…!?

「でもどうして…公爵様は僕らとは、面識も無いのでしょう?」

 それとも…そこまでして、最上級精霊を手に入れたいのだろうか?でも無理強いはしたくないって…もう訳分からん!!


「…ふむ。顔を合わせたほうが早かろう。実は廊下でずっと待機しているのでな、入って来てもらおうではないか」

「「え!!?」」

 陛下は僕とロッティの意思など無視し、入室を促した。待って待って心の準備が!!一体どんな人が…!




 だが…扉が開き、カツカツと靴音を鳴らして入って来た人物、は………


「ゲルシェ、先生…?」

「……………よお」


 やや頬を染め唇を尖らせ…気まずそうに目を逸らす男性は。
 式典用の礼服に身を包み、髪もきっちりとセットされているこの人は。普段の姿とまるで違うが、どこからどう見てもゲルシェ先生…!!

 思わず眼鏡がおかしくなった?と考え、外して見た。正常だったので掛け直す。
 そして僕だけでなく、ロッティとバジルも口をぽかんと開けて動けない。だが皇族一家はドヤ顔だ…!!
 なんと言うか『ドッキリ大成功!!』的なプラカードの幻覚が見えるよ?


「え、どーいう事?先生、は?」

「……今更過ぎるけどな、自己紹介すっぞ。
 俺はオーバン・ゲルシェ。アカデミーで養護教諭をやっている。
 …旧姓グランツ。底意地の悪い皇帝の弟で、今日からラウルスペード公爵…に、なる。

 んで…もしお前らが望んでくれるなら。セレスタンとシャルロットの父親になりたい…と、思ってる…。母親はいなくて悪いけど…」


 え………え?




「「「えええぇええぇぇぇっっっ!!!!??」」」



 僕らが絶叫する中…先生、いや公爵閣下は。困ったように、はにかんだのである…。

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