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学園1年生編

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 次の日…目を覚ますと、当然2人はいない。

 怒ってないって言ってたけど…ちょっと顔合わせるの怖いなあ。


「おはよう、シャーリィ」

「おはよう、ヨミ。って、どうかした?」

 ヨミが何か紙を持っている?受け取ると、そこに書かれていたものは…


「………!」

「さっき届いた…」

「そう…ありがとう」


 僕は内容を確認し、暖炉に燃やしてもらった。
 腹が減っては戦はできぬ。僕はメイドに簡単な朝食を持って来てもらい、食べながらロッティへの伝言を紙に書き出す。そして急いで支度だ。


「ヨミ。これ、ロッティに渡して来て。で、今日はそのままロッティに付いていてくれる?」

「ぼくは…君の護衛だよ」

「うん、だからこそ、お願い。君を信用してるから、僕の愛する妹を頼みたい。
 こっちは大丈夫!ヘルクリス達もいるし、シグニもいる!」

「……うん、わかった」

「ふん、私がいればセレスに擦り傷も負わせんわ!」

「ぎっ!!」

 よし!


 これより3時間後に、騎士団が伯爵の身柄を拘束しに来る。

 じゃあ…行くぞ!!!




 ※※※




「ねえ、今日なんかお客さんでも来るの?」
「何も聞いてないが…」
「でもさっき坊ちゃんが、正装で歩いてるのを見たわ」
「どーでもいいけど。なんで私達、集められてるの?」
「さあ…」
「でもバジルはいないのね」


 伯爵家に仕える使用人はバジルを除くと7人。そんな彼らは今、家令含め全員使用人部屋に集められていた。
 シャルロットが「仕事はいいから、全員ここで待機なさい」と命令したのだ。可愛いお嬢様の命ならば、彼らは喜んで言う事を聞くのである。

 そこへ…窓から、1匹の黒猫が入ってきた。

「おや…?この子は確か、坊ちゃんが………」


 と、家令が近付いた途端…彼はその場に倒れた。


「え…何がっ」
「は、」

 その他の使用人も皆、次々に伏せる。
 全員が無力化された後…ゆっくりと、扉が開く。顔を出したのは…



 ※



「……よし!シグニ、殺してないね?」

「んぎっ」

「凄い…彼は本当に魔物だったのですね…」


 一応脈とか…あるね。寝ているだけみたい、よかった。
 これからの計画の為、邪魔になりそうな使用人は全員眠ってもらった。
 家宅捜索とかするからね。うろちょろされたくないし、説明している時間も無い。
 精霊達の力を借り、彼らをきちんと寝かせる。

 ところで…どれくらい眠っているのかな?

「……ぎ、ぎ、ぎ」

「ぎぎぎ?………3時間?」

 ふるふる

「………3日?」

 こくん


 そっかー…。後で、ちゃんとベッドに寝かせよう…。
 僕は懐中時計で時間を確認する。…よし、そろそろだな…!

 今伯爵夫妻は、ロッティが引き寄せてサロンでお茶会をしているはず!
「家族水入らずで過ごしたいわ」と言ってもらい、使用人全員から切り離す事に成功。ヨミはサロンの外で待機。

 その間僕らは裏工作。さて…玄関に向かうよ!

「はい!」


 屋敷の廊下を2人で走る。だが…バジルの視線が気になる…。特に…彼は無意識なんだろうけど、僕の胸元を超見てる…!


「……なに?」

「…はっ!!いえ、その、っと…!ごめんなさい…。
 えっと…お嬢様…」

「…うん」


 使用人部屋は1階なので、すぐに玄関に着く。ここで騎士団をお出迎えじゃい。
 ちらっとサロンの窓に目を向ける。伯爵夫妻がこっちに気付かないよう…ロッティが頑張っているはず。

 そのまま空を見上げれば…今日は快晴、冬晴れだ。
 寒さは変わらないけど青空が広がり、積もった雪が風に流されキラキラと光る。


「あの、お嬢様…これまで、申し訳ございませんでした…」

「………ん?なんで君が謝るの?」

 空を眺めていたら、急にバジルが頭を下げて来た。僕は君に謝罪されるような事は何も無いはずだけど…?
 だというのに彼は、今まで僕が苦しんでいるのを見て見ぬ振りをしていた、と言うのだ。



「いやいやいや。僕、ずっと助けられてたよ?
 何度も僕とジスランの間に入ってくれたし、僕が弱音を吐いた時…静かに話を聞いてくれたし。
 ああいう風にただ話を聞いてもらうって、嬉しいものなんだよ。
「逃げましょう」なんて無責任な事を言われるのは腹立つし。「出来るんならとっくにしてる!!」って思うもん。
 逆に「頑張れ!」なんて言われるのも…やっぱり僕の努力が足りないのかって落ち込んじゃう。

 だから…今までありがとう、バジル。
 僕は何度も君に救われたよ。そして…これからも、よろしくね!」

「…!!はい、はい!!必ずお守りします!!」


 バジルは今にも泣いてしまいそう。でもキリッとした表情で、僕の目を見てそう言ってくれた。



 その時…


「…来た」




 屋敷の前に…大きな魔法陣が展開された。大規模な転移魔法だ。
 次の瞬間姿を現す騎士の皆さん。それと、魔術師の皆さんも!僕とバジルは右腕を胸にあて敬礼する。

 そんな僕らに近付くのは、モーリス様。総団長直々のお出ましとは。


「…通報ありがとう、ラサーニュ君。辛かったろうが…」

「…いいえ。辛いのは僕ではなく、なんの罪も無い民達です。モーリス様、皆様。どうかよろしくお願いします!」

「ああ、任せなさい!
 事前に決めた通り、伯爵家は10名で捜索に当たる!!共犯者の家には、2名ずつ向かえ!
 一切の証拠を見逃すな、犯罪者を全て確保しろ!」

「「「はっ!!!」」」


 おお…!!町に向かった12人は、騎士と魔術師のツーマンセル。魔術師が飛行の術を使い、各々の家に空から向かう。


「では、伯爵の元へご案内致します!」


 僕は彼らを連れ…屋敷の中に突入だ!!!
 ヨミの待つサロンまで一気に駆け抜け、モーリス様が勢いよく扉を開けた。



「ラサーニュ伯爵、失礼する!!」

「!!?な、なんだお前ら!!」

「きゃああっ!!」

 狼狽える伯爵夫妻、ロッティは冷静さを崩しはしないが。
 8人の騎士と2人の魔術師が一斉に部屋に押し入った。伯爵はまだ状況を掴めていない。
 ちなみに僕とバジルは隠れてる、ややこしい事になるのでな。並んで扉の開いている部分から様子を観察する。


「いきなり何を…!」

「伯爵。貴方には横領罪の嫌疑がかけられています。司法省より捜索の許可が下りました、屋敷内を検めさせていただく!」

「は、はあ!?冤罪だ、陰謀だ!!」

 予想通り抵抗の意思を見せる伯爵。
 ロッティはこの隙にゆっくりと移動し、女性騎士の背に匿われた。


「大人しく捜査に協力しないというのなら、拘束させていただく!!」

「……っ!!」

 あっ!!何を言っても無駄だと悟ったのか、伯爵がポケットに手を突っ込んだ!
 彼の怪しげ買い物リストには、いくつか魔道具も混じっていた。逃走するつもりか…!?

「させるか…!…あ?」

 僕だけでなくモーリス様も気付いたらしい。しかしこの距離では間に合わない…!と思った次の瞬間。


 誰よりも伯爵から遠かったバジルが…それこそ音速で伯爵に飛び掛かった!!?そして、伯爵が取り出した魔道具を蹴っ飛ばし破壊した!


「「うっそお!!?」」

 僕とモーリス様は揃って絶叫した。僕達だけじゃない、他の皆さんもポカンとしてる。


「旦那様…いえ、ボリス・ラサーニュ!よくも今まで、領民を苦しめてくれたな…!!」

 呆然とする伯爵を睨み付けるバジル。
 その表情は、いつもの笑顔はどこにも無い…怒りに満ちていた…!

「拘束しろ!!」

 その号令のもと、今度こそ伯爵は捕らえられた。そのまま一足先に皇宮に連行されて行く。
 母上は抵抗こそしなかったものの、監視下に置かれる事に。



「それではこれより捜査に入る。伯爵夫妻の部屋はもちろん、使用人の私室から倉庫まで隈なく調べろ!!」

 あ、もちろん僕の部屋も調べてね!
 僕らも伯爵家の人間ですからね。母上と一緒にサロンで監視の下待機する。


「ああ…なんなの、これは…!」

 …母上には、少しだけ同情する。伯爵は心当たりはありまくるだろうけど、母上は違うから。平和な日常が、一瞬で崩れ去ったのだから。

 休日に自分ちでパジャマ姿でゲームをしていたら、完全武装した警察官が一斉に押し寄せて来て銃を突きつけられるような感覚だろう。怖いわそりゃ。


「…お母様、気を確かにお持ちなさい。この先…どうなるのか分かりませんもの」

「何を…!バジル!貴方さっき、何故旦那様に飛び掛かったの!?」

「使用人として当然の行いをしたまでです。
 先程旦那様は明らかに抵抗をなさろうとしておりました。それを許せば益々状況は悪いものとなるでしょう」

「なんですって…!?」

「お静かに願います」

 おっと、騎士様に怒られちゃった。
 それ以降僕らは口を開く事なく、終わりを待つ。




 ※※※




 その日の捜査は終了し、僕らは一旦家を離れる。皇宮に連行でい、眠っている使用人達は預けた。
 母上とロッティ、僕とバジルに別れて馬車に乗る。こっちの監視はモーリス様だった。


「大丈夫だ、君達に罪は無い。あまり緊張する必要は無い」

「…ありがとうございます」

 特に緊張もしてないけどね。強いて言えば、裁判は怖いが。僕も立たされるのかしら?


「それとリオ君。先程の動きは一体…?」

 あ、そうだ。もしかして身体能力強化の魔術でも掛けてた?でもあれ、かなり高難易度な術のはずだけど。

「あ、えーと…こちらの道具のお陰です」

「「?」」

 するとバジルは手袋をスッと外し…右手の中指に嵌められた指輪を見せてくれた。
 四角い小さな宝石が嵌め込まれた、シンプルな指輪。魔道具?でも魔道具って、一回使ったら壊れる使い捨てのはずだけど。


「こちら、闇の精霊様より賜った指輪です。ご丁寧に説明書付きで…初めて見る文字なのに、何故か読めてしまうのです」

 そう言ってバジルが差し出した紙を受け取り、モーリス様と一緒に見てみる。えーと?


『コルテニウスの指輪

 武神コルテニウスの指輪。指に嵌め魔力を流す事により、使用者の身体能力を上げる。増加値は最大で元々のおよそ3倍』


「へえ…凄いねえ」

 3倍て。元々身体能力の高いバジルだから、あんな動きが出来たのね~。

「でも咄嗟の行動は難しいんです。さっきは警戒して予め魔力を流しておいたので、すぐ動けましたが。
 いざという時は、発動までタイムラグが生じてしまいますね」

「それでも凄いんじゃない?ヨミ、ありがとうね!」

「ん…どうせ、ぼく使わないし…精霊界に転がってただけだし…」


「………………」


 ?モーリス様が頭を抱えている。馬車に酔っちゃったかな?静かにしてようっと。



「(あれは…古代の聖遺物、アーティファクト…!国宝なんてレベルじゃない、幾ら金を積もうと手の届かない代物…。
 しかし闇の精霊殿が渡した物を取り上げては…精霊殿の逆鱗に触れかねない…。

 ……………とりあえず、陛下にご相談しよう)」

 


 そうして静かなまま馬車は進み、首都に到着。

 馬車を降りた僕は、ぐぐ~っと伸びをする。うーん、最近ずっとエアやヘルクリスの力で飛んでたから、久しぶりの長距離馬車はしんどい!


「セレス!」

「ラサーニュ君!」

 ん?僕の名前を呼ぶのは…駆け寄って来るルシアンとルクトル殿下。どうやら彼らに話は伝わっているみたいね。


「や、新年明けましておめでとう!」

「ああ、おめでとう。…じゃなくて!」

 うーん、なんて声を掛けたらいいか分からないって表情。
 ……いや、今の僕は罪人としてここにいる。彼らと言葉を交わしていい立場じゃない。


「…じゃあね」

 それだけ言い残し、彼らに背を向ける。話によると伯爵は現在、貴人専用の牢にいるらしい。
 僕達もどこかに案内される。地下牢とかだったらどうしよう?と少しビビっていたのだが…。






「それでは、何か必要な物が御座いましたらお呼びください」

「あ、はい」


 なんで僕は客間で…優雅にお茶を飲んでいるのかしら???至れり尽くせり綺麗な洋服付き。
 せめて見張りくらい置くべきじゃない?ねえ?



「おっ姉様~っ!私も一緒にいいかしら?」

 なんでロッティは自由に動き回ってるのかな?
 というか…完全に僕の事受け入れてるね。他に人がいなかったら遠慮なく「お姉様」って呼んでくれるし、隙あらばドレスを着せようとしてくる…!



「どうもありがとう!助かったわ~」

「いやあ、どういたしまして」

 なんでバジルはメイドさんの荷物運びをしているのかな?
 他の使用人さんとも交流してるし、普通に騎士の鍛錬に混じってるし。



「全く…!ボクに相談も無しに行動するなんて!」

「セレスちゃん!大丈夫?酷いことされていませんか?」

「裁判まで退屈だろう、また何かゲームを考えよう」

「殿下…あんた呑気すぎません?」

「セレス。どういう状況か全く分からんが、俺が力になれる事があれば言ってくれ!」

 なんかいっぱい来たし…!!
 普通に遊びに来るなよ!僕の部屋(仮)に集まるなよ嬉しいけども!!!


「ああ…ジスラン、パスカル。貴方達に…お話があるのよ…」

「「へ…?ロ、ロッティ…?」」


 ロッティは2人を連れ、部屋を出た。
 直後…断末魔の叫び×2が響いたのであった…。





 ………………まあいっか!

 僕は考える事を放棄した。


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