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学園1年生編
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「どーぞー」
「失礼します」
夜。教会の自室でお守りの仕上げをしていた僕は、セージとミントが訪ねて来たので中断する。
彼らに椅子を勧め、扉の鍵をして…と。
「お仕事お疲れ様。報告?」
「はい」
なんの報告かというと。
「領民から、色々話を聞けました。
最初はみんな中々口を開いてくれなかったけど…親しくなった古着屋の親父とか、肉屋のおばさんとかから情報が」
「やっぱ、口には出さないだけで領主に不満を持ってるみたい。
一番多いのが『税が重い』だ…でした」
「ふうん…」
「本当に暮らせないほどの重税だったら国に訴えるんだけど、ギリギリの生活をすればギリギリ暮らせるラインらしくて。
それでも家を失ったり、娘を売らざるを得ない状況になる家もあるみたいです。
だから諦めて引っ越そうにも引越し資金が無いって…」
なんという負のスパイラル。
僕達はこっそり、情報収集を進めていた。
一番の急務だった孤児院問題が解決した今、伯爵を放ってはおけない。
でも…やっぱ素人の調査じゃ限界があるんだよなあ。
領民の訴えを聞いても、証拠にはならない。商会長の家に伯爵が出入りしていたとか、そういうのは聞けたけど…。
「うーん…やっぱプロに頼むかあ。でも2人も引き続きよろしくね。
特に怪しい人間が特定の店に出入りしてるとか、急に金回りが良くなった人物がいるとか…そういう話が聞けたらすぐ報告して」
「「はい」」
2人のからの報告を全て聞き、彼らの退室後僕はベッドに仰向けに倒れた。
「ねえヨミ~…君ってさあ、僕以外の影に入れない?」
「ん…無理だね。例えば真っ暗闇の空間だったら、君の影の延長として動き回れるけど…。
それでも壁は通り抜けられないし。闇の精霊は、それが能力のメインじゃないからね…」
「つまり…僕の影と誰かの影が繋がっていれば移動出来るの?」
「それだけだよ。影が離れたら、僕も強制的に君の影に戻るから意味無いよ」
そっかあ~!他の闇の精霊も、隠密に向いている子はいないらしい。
ヨミが伯爵の影に忍んで…と思ったけどなあ。
やっぱここは、興信所に頼みますかね。ただしそうなると、資金が心許ない…。
僕が成人後に受け取る予定の金貨250枚、もう貰っちゃう?でも…何に使うのかって怪しまれたら…。
いっそ、国に密告する?…大掛かりな捜査をされて、証拠を消されない…よね?
うーん!またヘルメットの時みたいなバイト無いかな~。魔術師団に顔出してみようかな…。
そもそも伯爵を告訴するのだって、僕が独断で進めていい話じゃない。最低でもロッティとバジルには相談…ああもう!考える事が多い!!
「まず…伯爵を牢にぶち込むのは大前提。その後も考えないと…」
全部終わったと仮定して。当主不在という訳にはいかないから…国に返還するか、僕が継ぐかのどちらかは選ばないといけない。
そうすると、どっちにしても学園にはいられなくなる。
爵位返還すれば僕達は平民になる訳だし。アカデミーは貴族の学園だ。なるべくロッティには苦労かけたくないな。
じゃあやっぱり、僕が継ぐか…。なら領主と学業を両立出来るとは思えないから、退学しないと。
それならロッティはまだ通えるから…そっちの方向で考えようっと。
でもその場合、僕はまだ男でいないと駄目だなあ。女じゃ爵位継げないもん。ま…仕方ないか…。
正直言ってしまえば。今でも僕は領主になりたくないと思っている。
それでも期待してくれている人達もいる。頑張るしか…ないかあ…。
誰か信頼出来る人に全部任せてしまいたい…って自分勝手だよね…。
それか…もしもだけど。
「僕とロッティが…どこかの養子にしてもらえれば…」
そうすれば僕達は、返還しても今まで通り学園に通える。
僕ももう男装なんてしなくてもよくなるかも!
……って、希望的観測すぎる…。
やめやめ、もしもの話なんて虚しいだけだ!!
とりあえず!!伯爵投獄、僕が新ラサーニュ伯爵になる!そんで…その後は?
「僕…お嫁さんどうしよ?………………よし、後で考えよう!!!」
今は金策に走ること!で、探偵を雇うんじゃーい!!
という訳で!明日教会に来るエリゼに相談しよっと。
※※※
「はーん…仕事ねえ…」
「なんか無い?テランス様に、それとなく聞けない?」
「ふむ…お前は、他に何が出来るんだ?」
それは難しい質問ですね。むしろ「これ出来る?」と聞いてもらいたい。
「こうやって治癒の練習してるけどさ。コレ、稼げないかね…?」
そうなのだ。僕とグラスは現在、エリゼ先生に治癒を教わっているのだ。自分の手とかに小さい傷を作って治す。
だがエリゼ曰く。治癒は魔力の消費が激しいから、診療所のように個人で稼ぐのはオススメしない。
もしくは神殿に入ったとしたら…学園にも通えなくなると。
「だから治癒で稼ぐのは諦めろ。
……うん、2人共上達したな。そのうち教会の外でも練習しろよ」
「やった!」
「よし…」
治癒は意外と簡単にマスター出来た。適性さえあれば、誰でもすぐ使えるようになるんだって。
ようは魔力を流して、傷を塞ぐイメージをすればいいんだもの。流し方さえ分かればどうって事ない。
今度怪我でもしたら治してみようっと。
それで話は戻るけど。僕の魔術でなんか稼げないかね?
僕は昨日完成した『恋愛成就』のお守りをエリゼに見せた。流石に神社で売っているような物では無いが…素人の手作りにしてはまあまあの出来栄え!!
でだ。例えばコレ、売れると思う?
『…こい…読めない』
『惜しいね、グラス。答えは『恋愛成就』だよ』
『へえ…』
「なんだ、漢語か?セレスだけでなく、グラスも使えるのか」
「まあね!凄いんだよ、グラス!もう日常会話くらいなら問題無いんだから」
多分…いや確実に、グラスは箏の人だろう。
どうしてこの国にいるのか等、色々疑問はあるが…本人も覚えていないらしいし。
でもいつか…必ず、僕が箏に連れて行ってあげるから。もう少しだけ、我慢してね。
「…いや。確かにおれは、いつか帰りたいと思っていた。
でも今は違う。思い出の中より、ここにいたい。ずっと、お嬢様の側にいたい」
「………そ、っか…」
そう言われては…何も返せない。でも一回くらいは箏に行こうね。僕も行きたいから!!
「(ボクは一体何を見せられているんだろう…。故郷よりセレスを選ぶって、どう考えてもプロポーズ…)」
グラスは掃除当番があるのでここで終わり。
……なんか最近、エリゼが遠い目をする事多いな…?
「で…これが、なんだって?オマモリ?
え、アミュレットみたいなもん?なんの効果があるんだ?」
「相思相愛の2人をくっ付ける効果がある…と思うよ!」
「…………相思相愛なら、もうくっ付いてんじゃないのか…?」
「そんな単純な問題じゃ無いんだよ!」
「?????」
んもう、エリゼはお子様だな!
でもまあ、クリスマスを一緒に過ごす以上…彼にも兄様のラヴ・ストーリーを語らねば!!
もちろん兄様の許可は得ている。よく聞けよ!!
かくかくしかじか
「へえ…お相手はバルバストル先生か…。
ランドール先輩は本気だが、先生は素直になれない。で、このオマモリは先生が素直になれるモノ?」
「もちろん心を操るようなモノじゃ無いよ。ほんのちょっとの後押し、お手伝い。それをしてくれる…ように祈って作った!!」
エリゼは「ふーん」と言いながらお守りをしげしげと眺めている。
君はまだ恋愛に興味無いんか…つまらん。
「(これをパスカルに持たせてみたい…)確かに何か魔力は感じるな。
でも効果については…なんとも。魔術師団で調べてもらうか」
「ほんと!?いつならいい!?クリスマスまでに調べて欲しいんだけど」
「待て、お祖父様に手紙送るから。
まあセレスが望む効果があったとしても、売れるかどうかボクには分からん。
でもセレスの言う通りだったら…個人が持つより、どこかに置いておいたほうがいいんじゃないか?」
……確かに!伝説の木のように、ここで告白したら上手く行く、みたいな!?まあこれは兄様にあげるけどね。
エリゼはすぐにテランス様に手紙を送ってくれた。すると、1分も経たないうちに返事来た。暇なの?
「そんなはずは…とにかく内容だな。
えっと、『今すぐでもいいぞ!!』…だって。文字でもうるさいな…そしてやっぱ暇なのかも」
今すぐか、時間は11時。
…行くか!!
という訳で、僕達はヘルクリスに乗り皇宮へ向かったのである。2人なら、大きいドラゴンの姿になる必要は無い。
ヘルクリスは風の精霊らしく、飛ぶのが本当に好きらしい。中々言う事を聞かせるのは難しいが、乗せて欲しいという時は快く応じてくれるのだ!
すぐに着くけど…移動中、エリゼに興信所に伯爵の不正調査の依頼をしたいと相談してみた。
「それはボクも賛成だな。だから金策か」
「うん。やっぱ首都で依頼しようと思う。どこか評判のいいとこ無いかなー」
流石のエリゼも、その辺は専門外。誰か詳しい人いないかなー…と考えつつも、首都に到着したのであった。
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