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学園1年生編
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しおりを挟む「………んー…?」
カーテン全開の窓から朝日が差し込み…眩しさで僕は目を覚ます。
また閉め忘れた…うぅん、なんか夢を見たような…?忘れた。
時計を見ると6時。そろそろ起きるかな…。
さて、今日も忙しいぞ。僕は身支度をして、水を一杯飲み部屋を出る。
「ふんぐぅ~…!!」
教会の外に出て、伸びをする。今日は午前中から忙しいので、昨日のうちにこっちに来たのだ。
まずは軽く準備体操、ランニング。そして練習用の剣で、素振り。
これが僕の日課。バジルがいれば打ち合いも出来るけど…今日は素振りと型の練習で終わりかな~。学園ではジスランに相手してもらってるんだけどね。
「おねえちゃん、おはよー!」
「アーティ、グラス。おはよう、危ないから近付いちゃ駄目だよ?」
「はあい!」
早起きのアーティは、こうして度々見学に来る。そういう時はグラスも一緒な事が多い。
「………………」
「「?」」
僕は2人をじ~~~…っと見つめる。何故か…もの凄く…この2人が愛おしくて仕方がない。
剣をザクッと地面にぶっ刺し、2人に近付き…膝をついてアーティをぎゅううっと抱き締めた。
「おねえちゃん、どうしたの?」
「ん…ちょっとだけ、このまま…」
アーティはちょっと驚いてたけど、きゃっきゃと嬉しそうにしてくれた。そして彼女の頭を撫でて、額にキスをする。
「!?」
次はグラスだ。正面から抱き着くと、頬をうっすら染めた。彼は大きいので…僕は背伸びをして頭を撫でる。
すると彼も、控えめに僕の背中に手を回し、抱き締めてくれた。
温かい…なんだか今日は、この温もりを感じたい。
なんだろう。慰霊碑を建てるから…感傷的になってるのかも。
「え!?」
「どうしたんですか?」
「は、はなせよ!」
「えへへ」
「?」
僕は今日、手当たり次第に子供達を抱き締めて回った。そして女の子にはチューもするのです。
大きい男の子は照れて逃げた。「俺はもう大人だ!です!」とセージは特に逃げ回るが、逃がさん!
その日僕は「ハグ魔」という名誉あるんだかないんだか分からん異名が付けられましたとさ。
「………おれだけじゃ、ないのかよ…」
抱き返してくれた男の子はグラスだけだぜ。
※※※
「教会の名前?」
「はい。今まで「教会」「孤児院」と呼んでいましたが…子供達からも、要望がありまして。
特に、卒業したこの2人から。卒業の証として…戸籍を購入後、教会の名前をファミリーネームにしたいそうです」
朝食後、レナートさんに声を掛けられたと思ったらそんな話をされた。
僕は院長(仮)なので、ここでは一番立場が上なのである!
なので僕の部屋は実は二間になっていて、執務室っぽいのと寝室があるのです。ええ、ドワーフ職人に改装してもらいまして。
その院長室(仮)に現在、レナートさん、セージ、ミントが揃っている。他の職員さんはお仕事中。
僕も子供達の苗字については考えていたけど…なんでこのタイミングで?と思ったら、慰霊碑に刻んではどうかと言われた。
そっか…◯◯教会って刻むのか、そりゃいいや。
「それで…僕が決めちゃっていいの?」
「ああ…セレスタン様が、俺達を救ってくれた…んですから」
セージが慣れない敬語でそう言ってくれた。もう大人になったのならば、敬語くらい使えないと社会は厳しいからね。
でも…それなら…どんな名前がいいかなあ。
僕が教会と聞いてパッと浮かぶのはカトリック。うーん…却下。
後は…神様の名前とか?ちと違うか。有名な教会…大聖堂でなんか名前もらっちゃおうかな。ここは異世界なので、誰にも咎められまい!
僕が前世、テレビや雑誌で見た世界の教会。その中でも記憶に残っているのは…。
「う~ん…そうだ、ステンドグラスがすっごく綺麗なサント・シャペル教会…。
サントシャペルはどう?長いって言うんなら、シャペルだけでもいいと思うけど」
「サントシャペル…うん、いいんじゃない?…ですか?」
でしょ!やっぱりミントは分かってるねえ!
ミントだけでなく、2人も賛同してくれた。
なので今日からここは、サントシャペル教会です!イエイ!!
でだ。前にも言ったと思うけど…戸籍は金貨50枚で買える。孤児が戸籍を買う時は、申請すれば国が15枚、領主が義務として15枚出すのである。
つまり本人は20枚用意すればいい。今2人はお給料から貯金しているらしい。
いずれセージ・サントシャペルになるのか…カッコいいじゃん!
そんな話をしていたら、ロッティとバジルがやって来た。業者さんと一緒にね。
「こっちでーす!」
「はーい!せーのっ!!」
彼らは大きな石を、路地をなんとか進んで持って来てくれたのだ。
エアや他の精霊も手伝ってくれようとしたんだけど…断った。もっと言ってしまえば、石を掻き集めて…ドワーフ職人に造ってもらう事だって出来たのだよ。
でもしなかった。これは…人の手でやりたかったんだ。
そうして墓地である教会の裏に運んだ。
広場の中央に設置し…形を整えていく。
「表面の大きい文字は指定通りに彫ってありますが…他にはなんて彫りましょうかね?」
業者さんのトップであるおじさんに訊ねられ、僕は一枚の紙を差し出す。
「台座にはこれ、裏面に…この文字をお願いします。
それと、そこに置いてある石。それをこう…慰霊碑の周りに…」
「ふむ…はい、分かりました」
そうして作業は始まった。僕は現場で細かい指示をしつつ、6人ほどの作業員さんにお茶や軽食を差し出す。
ロッティ達は授業に出てもらっても良かったんだけどね。参加したいって聞かなくて。
まあ…最後に祈るつもりだから、その時はいて欲しいかも。それまでは教会で仕事をしている。
「いやあ、こんなにもてなして頂けるとはねえ」
「珍しいんですか?」
休憩中の彼らの会話に、うっかり入ってしまったぞ。
でも…お金を払っているとはいえ、汗水流しながら作業してくれてるんだもん、このくらいしたいの。
「おっと…こいつは失敬。お坊ちゃん、あたしらに敬語なんて不要ですぜ」
「そうそう。大体どこへ行っても、貴族様方にゃー俺らはただの労働力ですからねー」
「サボるな、払った分働け!ってな。こんな風に休憩出来ない時もしばしばさ」
「ま、分かっちゃいますがね。
お坊ちゃんと違って…平民を人間扱いしない貴族様なんざ、ゴロゴロいらあな」
「こうやってお坊ちゃんに馴れ馴れしく話しかけたりなんてすりゃ…酷けりゃ鞭打ちされちまう」
「そんな事無いよ!だって僕の友達は皆、平民だからって差別しないよ!
そりゃまあ、立場の違いとかはあるから…同じ扱いは出来ないだろうけど…」
僕もちゃっかりお茶を飲みお菓子をつまみつつ、全ての貴族がそんなんだと勘違いされちゃいかん!と思い反論した。
だがおじさん達は…一瞬きょとんとした後、がっはっは!!と声をあげて笑った。
今笑う要素ありましたかね!?
「はっはっは!すまねえな、坊ちゃん。そりゃあれだ、坊ちゃんがそういうお方だからさ!」
「…へ?」
「ははは!なんだっけ、類は友を呼ぶって言うだろ!」
「おめえ難しい言葉知ってんな!そうそれ、坊ちゃんみてえにあったかい人間にゃ、同じような奴が集まってくんのさ」
「それか、染っちまうか。暖かい炎で…冷たい氷も溶かしちまうんですよ」
おじさん達は…笑いながらそう言った。
これは、僕は褒められてるんですかね?それとも貴族としちゃ失格だって言われてますかね?
「もちろん、褒め言葉ですぜ!
…坊ちゃんみてえな貴族様が領主になってくれりゃあ。きっとこの地域は安泰だぜ。頼んますよ、坊ちゃん。
……さーてお前ら、美味えもん貰ったんだ、きびきび働きな!!」
「「「へいっ!!!」」」
彼らは休憩をやめ作業を再開した。
…こんな風に、僕を評価してくれる人達もいるんだ…。
……頑張ろう…!
そうして5時間ほどで作業は終了した。
大小様々な石が転がっているだけだった墓地は…綺麗に整えられ、立派な慰霊碑が鎮座している。
元々の墓石は、慰霊碑の周りに綺麗に並べてもらった。
子供達と職員さん、教会の関係者を全員集め。慰霊碑の前に集まった。
中には…涙を流している子もいる。
遅くなってごめんなさい。それでも…約束していた立派なお墓は用意出来ました。
これからは、領民は僕が守ります。だからどうか…安らかに、眠ってね…。
石の表面には、グランツ語で大きく「慰霊碑」と彫られている。
台座には「短い命を一生懸命に輝かせた多くの魂、ここに眠る。サントシャペル教会」と。
裏面には…「グランツ皇国新暦76年10月25日」「代表者・セレスタン・ラサーニュ。シャルロット・ラサーニュ」とある。
僕らは皆膝をつき、胸の前で手を組んで祈りを捧げた。先頭には僕とロッティが並んでいる。
小さい子達はよく分かっていないのか、キョロキョロした後皆の真似をする。
作業員のおじさん達も一緒にやってくれた…ありがとうございます。
これから毎年この日は、皆で祈りを捧げよう。
…今も、この下には…子供達の亡骸が眠っている。
もう一度。何度でも誓います。
「助けられなかった、間に合わなかった皆…ごめんなさい。
僕はもう、二度と同じ過ちを繰り返しません。この地に住まう家の無い子供達を、絶対に守ります。
そして…儚くも短い命を懸命に燃やし尽くした貴方達がいた事を、僕達は決して忘れません。
だから、どうか…安らかに。またいつか、生まれ変わり出会える日を心待ちにしています」
救いを求めてこの教会に来ても、救えなかった多くの子供達。
どうか僕のように…生まれ変わったら、幸せになってね。
すると…何やら前方からふわりと暖かい風が吹いて来て、僕達は思わず顔を上げた。
なんと、慰霊碑の上に…穏やかに微笑む美しい女性が佇んでいるのだ。
僕と同じ緋色の長い髪の女性だった…。僕と目が合うと、にっこり笑って消えた…消え、た?
ま、まままままさか…おおおおばおばおばけ…?????
「お…おばけーーー!!!」
「「「ぎゃーーーーー!!!!!」」」
同じものを見たであろう子供達が、絶叫しながら教会になだれ込んだ。この場に残るのは、僕とロッティとバジルとグラスのみ。
だがロッティは…珍しく顔を真っ青にして全身を面白いくらいに震わせている。…もしかして、怪談系苦手だった?
意外な一面を見られて楽しいんだけど…僕の手を握り締めるの、やめてもらえません?僕の手変形して、紫色になっちゃってるんですが。
まあお化けなんて見ちゃえば……いや違う絶対違う。こんな真昼間からお化けは出ない!あれは幻覚だ、きっとそうだ!そうだよね、ヨミ!!?
「いや…確かにいたよ。まあ残留思念のようなものだけど…。
この土地に強力な結界を張った人物…かな?」
「結界を…?これって、自然にできたものじゃ無かったの?」
「違う…。確かにここまで強力で長続きしているのは、ここが霊脈なお陰だけど。
あの誰かが、死に瀕した際…最期の力で自らを番人とし、この地を守護し続けているんだろうね…。
少し、調べておこうか…?」
「出来るの?」
「うん、精霊ネットワークで…でもその間、君の側を離れるのは心配だなあ…」
いや…んな過保護な。一度死にかけたからって、何度も同じ様な事にはならないよ?
そう言っているのに…ヨミはどうにも心配そう。
まあ確かに今、僕の手は悲惨な事になっていますがね。ようやく落ち着いたロッティを連れて教会に戻った。
「…よし、風の精霊を呼ぼう」
「まだ言ってる…いいよ、そんな」
もう教会を出発しないと、首都に着く頃には真夜中になってしまう。
なので僕達が支度をしていたら…ヨミが僕を抱っこして外に連れ出した。
「いや本当にいいからね?他の頼もしい精霊達もいるし、学園にいけばセレネもいる。
なんだったら無理して調べてくれなくてもいいんだし」
「ううん…君を守るのが多いのはいい事…。
じゃ、僕が呼ぶから…離れないでね」
全く僕の話を聞いてくれないね。大体離れるなって言っても、まだ僕地面に降りてないし。
まあ…いっか。風の精霊かあ、どんなかな?ヨミが何か呟くと…少し間を置いて、地面に魔法陣が展開された。
ていうか…魔法陣でっっっか!!?
「ちょっと、何呼んだの!!?」
「え…エンシェントドラゴン…。風の最上級精霊で、ぼく達精霊の中で、最も強くて最も気性の荒い奴…」
な…な…!!
「なんてもん呼んでくれやがったんだーーーーー!!!??」
ああああああああ!!!返品、クーリングオフでお願いしますうううう!!!
そんな僕の願いも虚しく…徐々にドラゴンはその姿を現すのであった…。
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