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学園1年生編

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 結局僕は週末を半分くらい寝て過ごした。特に熱は無かったが、なんとなく動く気になれなかったので。

 日曜、パスカルがいつものように部屋に訪ねてきた。だが…いつもは鍵が開いてりゃ勝手に入ってくるのに、今日はやたら遠慮してた。
 お菓子を持って来てくれたので並んで座ってお茶にする。


「その、セレスタン…こうして訪ねるの、もうやめにしようと思うんだ」

「…え」

 な、なんで…?僕この時間、結構好きなんだけど…なあ…。
 僕はよほど情けない顔をしていたんだろう、パスカルは慌てて言葉を続けた。


「あ…違う!俺もこうして君と過ごす時間はす、好き、だが…その、ケジメだ。
 他に人がいれば、これからも遊びに来たいと思ってるよ」

 ケジメって…なんの?
 よくわからんけど、決意は固いようだ。仕方ない…あ。


「ねえ、僕酔っ払ったパスカルに興味あるなあ」

「ボフォ!!?」

 ありゃ、大丈夫?最近君、よく吹き出すね。

「それでー…僕のほうが誕生日遅いでしょ?だから、僕が15歳になったら、一緒にお酒呑もうよ!」

「んんっ…!!それは…2人きり、で?」

 ん?ああ、酔っ払った姿を誰にも見せたくないのか。

「そうだね、君が望むなら2人で」

「ふたり、で…!?(一昨日は殿下達が止めてくれたけど…もしもストッパーがいなかったら、俺どうなるんだ…!?
 もしかしたら、さ…最後まで…)」


 ?パスカルが、ごくりと喉を鳴らした。
 そして僕の頬に手を当て…目を泳がせ…?


「そ、それまでに…決着、つけ、たい、な」

 ……誰と、なんの?

 その後彼は、ちょっと頭冷やしてくると言って部屋を出て行った。たまにああやっておかしくなるな、彼は。



 そういや…闇の精霊召喚するんだった。
 ん~…契約難しいって言うし…まあダメ元で上級狙うか。無理だったら中級下級を喚ぼう。

 ……待てよ、寮って大掛かりな魔術禁止なんだよね。下級はともかく、上級はマズイか…。


 よし。やっぱ来週にしよう!来週教会で召喚すればいいや。エリゼもそれで納得するでしょう。





 だが僕は…この選択を後悔することになる。





 週が明け数日経ったある日。


「セレスタン・ラサーニュ。話がある、ついて来い」

「はあ…」

 僕は登校早々…なんか呼び出された。なんだこの特徴の無いモブ顔の人達は…?


「随分と不躾なお誘いですわね。お兄様、行きましょう」

「うん、そうだね」

 なんか知らんが…聞く義理もないし。
 そう思い無視して通り過ぎたら…。


「痛っ、いってえ!!何すんだテメエッ!!」

「え!?」

 何!?振り向くと…バジルがモブ1に胸ぐらを掴まれている!?

「何をしているんですか!!」

「この使用人風情が、肩をぶつけてきやがったんだよ!!!」

 この学園には、バジルのような執事、侍従、侍女なんかも通っている。彼らはネクタイ・リボンの色が僕達と違うので…見ればすぐ分かるのだ。
 こういう時バジルは抵抗出来ないので、僕が急いでその手を振り解いた。

「大丈夫?ぶつかったの?怪我は?」

「ありがとうございます…僕はなんともありません。ですが、その…」

「いいよ。どうせ向こうからぶつかってきたんでしょう?」

「はい…」

 これは…当たり屋!!!貴族のクセに手口がセコい!!しかも抵抗出来ないバジルを狙いやがって…。



「はあ…はいはい、そこまでして僕に用がお有りなのですね。
 ロッティ、バジル。先に教室行っててくれる?」

「お兄様!私も…」

「お前に用は無い、すっこんでろ」

「あ"…?」


 おおう…ロッティ、淑女が出しちゃいけない声だよそれ。モブ達引いてるよ。結局彼女達も来てしまった…正直心細かったので…ありがたい。
 連れて行かれた先は、空き教室。そこには…。


「よう、ラサーニュ」

「……何かご用ですか?」


 僕を呼び出した張本人は、あの…ルシアンに付き纏い、剣術大会で挑発してきた名無し先輩だ。いや、本当に誰だよ???

「ご用ですか、だと?」

 この教室には現在、彼と舎弟っぽい男子生徒が5人。一様に、僕達を見てせせら笑っている。感じ悪っ。



「お前…最近殿下に侍っているそうじゃないか。しかも、ブラジリエ先輩の戦利品を奪ったらしいな?
 一体どんな手を使ったんだ、ご教授願いたいもんだ」


 クスクスと耳障りな声があちこちからする。


 はあ、いつか…こんな日が来るのは分かっていた。僕の周囲には、凄い人ばっかりだもん。
 ルシアンは言わずもがな、ジスラン、エリゼ、パスカル、ルネちゃん…。皆それぞれ地位があったり特定の分野で名を馳せている。

 そんな人達と一緒にいると、僕のような凡人は妬まれるもんだ。いっそバジルのような使用人なら何も言われないけど。


 だが僕は。それを承知の上で…彼らと友人になった。こんな、他人を妬むことしか出来ない人間に負けるわけにいかない。



「お言葉ですが。
 ルシアン殿下と僕は、友人となったのです。互いに側にいたいと願ったのです、貴方に口出しされる謂れはございません。
 僕は別に、彼が他に友人を作ることに口出しなどいたしません。近付きたければどうぞご自由に。

 そしてあの剣について。あれは皇太子殿下立ち合いのもと、正式に譲っていただきました。
 それを不満と仰るなら、それは皇太子殿下の決定に異存があると同義、その覚悟はおありですか?」


 僕は怯むことなく言い切った。こういう時、弱さを見せたら負けだ。
 実際僕は不正など一切してないしね。ルキウス殿下の名を出すと、向こうは分かりやすく怯んだ。名無し以外は。


「へえ…?そうかい…ああ、そうか!ははは!!」

 なんだ、何考えてんの…?気でも触れたか?


「はは…やはりお前は、皇族に擦り寄るしか能の無い小物か。わざわざ皇太子殿下のお名前をここで出すとは!」


 いらりん


「なあ、俺にもあの剣見せてくれないか?俺も欲しいなあ。
 お前より、俺のほうが相応しいと思わないか?」


 思わん。
 にこにこ。僕はあくまでも微笑みを保つ。


「…あの剣の素晴らしさを理解出来るセンスはお有りのようですね。
 お見せするのは構いませんが、譲渡はしかねます。それこそ皇太子殿下に抗議なさってください」

「ははは!!」


 また…付き合い切れんわ。


「行こ、ロッティ」

「ええ」

 ロッティの手を引きバジルを連れ部屋を出ようとしたら…



「セレスタン・ラサーニュ。貴様に決闘を申し込む」

「……はあ?」


 本格的にイカれたか?決闘って…



「僕が受ける理由がありませんが」

「はっ、腰抜けが!!」


 え~…いやだって。決闘のメリットは?


「俺が勝ったらあの剣を寄越せ。そして今後一切殿下に近寄るな」

「では貴方が負けたら何があるんですか?」

「なんでも一つ、貴様の言うことを聞いてやろう」

「結構です」


 じゃっ、そうゆうことで。

 しかしそうは問屋が卸さない。手下が先回りして、僕達の行く先を塞ぐ。


「ははは、ここまで言われても受けられないか!」

「いやだって…貴方に僕の友人とあの剣に代わる何かを用意出来るとは思えませんが」

「仕方ない…ではその妹を貰ってやろう!」

「………………………あ"ぁ…?」



 ぴっきーん


 この男…僕の隣に立つロッティを指差して言い放ちやがった。へーえ。そーお。ふーん?
 オトモダチもドン引きだけど…へえー?



「ははは、僕がそんな安い挑発に乗るものですか。
 女性をまるで賞品のように扱うなど…ははは」

「お、お兄様…?」

 貰ってやる、貰ってやるときたか。まるでロッティが廃品みたいな言い方するね。金払って処分するみたいな。

 決闘で女性を賭けること自体はままある。1人の女性を巡って2人の男が闘う…それはそれでいいと思う。まさに「私の為に争わないで!」だよね。


 でも…今回のコレはいただけないなあ。
 僕は目の前の男をすっと指差し…


「おいクソ野郎。こっちから決闘を申し込んでやるよ」

「…あ?」

「お兄様!?」「坊ちゃん!?」


 いやあごめんね?ついイラっとしちゃってネ。
 でも安心して、負ける気は無いけど…ロッティを賭けるような真似はしないから。


「ただし僕が賭ける物は殿下の友人という立場と剣のみ。
 こちらが望む物はお前の退学」


 ルシアンは…すまんな。向こうが望んでるもんでな。
 まあこっちから彼に話しかけなきゃいいんでしょ?なら問題無いね!「皇族を無視できませ~ん」とか言やいいし。
 ミカさんは、ほんとにゴメン。絶対勝つから!


「………はは、ははは!いいだろう、受けて立つ!」

「おい、大丈夫なのかサイカ」

「貴様、まさか俺が負けるとでも思ってんのか…?」

「い、いや…そんなことは…」

 仲間割れは後にしてくんない?とっとと細かいこと決めよーよ。


「武器はもちろん真剣だ、異論はないな?」

「無い」

「は…はっはは!!いい度胸だ、では明日の放課後!グラウンドで決着だ!!!」

「退学届用意して待ってろゴミムシが」

 話はそこで終わりのようなので…僕達は今度こそ教室を出た。さーて・と。


「ごめんね2人共、僕ちょっと用事出来ちゃった。
 悪いんだけど、先生に「気分が悪いから帰った」って伝えてもらえる?」

「か、かしこまりました」


 そして僕は、玄関に向かって歩き出した。
 こうなったら一か八か…明日までに、付け焼き刃だろうとミカさんを使いこなしてみせる!!!





「坊っちゃん…お怒りですね…」

「お兄様…私のために、あんなに怒ってくれるなんて…!きゃっ」

「駄目だこりゃ…ジスラン様かエリゼ様に相談しよう…」




 ※※※




「という訳でミカさん!!なんか…特殊能力とか使えないの!?僕の身体を操って闘わせる、みたいな!」

【不可能】


 くっ…!
 剣における決闘は、互いに魔力も封じて純粋に力量のみで勝負する。
 なので練習に魔封じのアミュレットを装着してるが…うん。ミカさんの声は普通に聞こえる。
 という事はやっぱミカさんは魔術じゃなく、本当に魂が宿っているんだな…格好いい…。


 と、それは後回しにして…。



「…ふっ、はあっ!!」


 僕は真剣の扱いなんて知らん。なので…とりあえず鞘に収めた状態で振ってみる。
 うん…鞘がすっぽ抜ける様子はない。凄いなミカさん。
 握り方が合ってるか分からないけど、自分の足や腕に当たらなければなんとかなるさ。


 そして…前世で読んだ漫画や観たアニメを参考にする!!!
 優也が剣道をやっていた影響で、あの子は侍モノの漫画をよく読んでいた。そして貸してくれた!
 ああ安心して、流石に飛天◯剣流とか真似する気ないから。でも柳生新陰流とか使えたら格好良かったなあ!!名前しか知らんけど!



「——ふっ!!」

 ふいー、ちょっと休憩。
 今僕は、寮の庭で刀を振っていた。真剣勝負か…そろそろ斬れ味を確かめておかないと。いくらなんでも人間が目の前で真っ二つはやだよ…。

 すると、足音が近付いて来るのが分かる。あれは…ジスラン…。

「いたな、セレス」

「ジスラン。授業はどうしたの」

「抜けて来た。
 ……決闘の話聞いたぞ。というか、向こうがあちこちで言い触らしている。すでに全校生徒が知ってるんじゃないかな」

 うへえ。まだ昼だってのに…熱心ですこと。

「そんなに自分の無様な姿を世間に晒したいとは…いい趣味してんね」

「………お前は強い、それは間違いない。
 それでも、決闘はいつもの打ち合いとはまるで違うんだぞ…?」

 彼は、僕が座るベンチの隣に腰掛けた。
 ありがとう、心配してくれて。でも大丈夫。


「そうだよ、いつもの打ち合いとは全く違うね。
 でも僕は負けない。このミカさん…刀を信じる。自分を信じる。
 そして…ここまで僕を鍛えてくれた君を信じるよ、ジスラン」

 僕が笑顔でそう言うと…彼も微笑んだ。


「さて、折角だから付き合ってもらおっかな?」

 休憩終了、僕は立ち上がる。ジスランも快諾してくれたので…よし。



「……これでいいのか?」

「うん、いいよ」

 ジスランに、木剣を彼の腕の高さで水平に持ってもらう。まずは面打ちだ!
 太刀筋とかそういうのは、今まで特訓してきたものを応用しよう。ああ早く指南書欲しいなあ。


 ……ふう、集中しなきゃ。一歩踏み込み…!

「はっっっ!!………あ?」

「……は?」

 ヒュンッ…と刀を振った直後…木剣が真っ二つになった。
 しかも…斬った感覚もほぼ無ければ音も無い。え………こわ。


「セレス……相手を、斬るなよ…?」

「…………善処する」



 やっべえ…思ってた以上に、ミカさん凄まじいわ…。



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