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学園1年生編
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しおりを挟む闘技場の中央で対峙する殿下と兄様。会場の盛り上がりは最高潮でございます。これじゃあ決勝がオマケになっちゃいそう?
というか、めっちゃ睨み合ってる。はよ距離取れや。何か会話しているが、流石に聞こえないや。
「ルキウス…今まで俺たちの戦績は五分五分だったよな。
今日の俺は絶対勝つ。可愛い弟が声援を送ってくれているからな」
「ふ、それは私も同じこと。可愛い弟と、ついでに愛しい家族の声援がある。私が負ける訳がない」
きっと試合前に、「良い勝負をしよう」とか挨拶してるんだろう。2人共格好いいなあ…!
「いやお前、可愛さでウチの子に勝てると思ってんのかボケ」
「お前の目は節穴か?ラサーニュが可愛いのは認めるが、素直になったルシアンの可愛さを理解出来ないのか?」
「は?」
「なんでキレてるんだお前は!!」
おお、どっちもやる気十分!!頑張って兄様ー!!
僕の隣でルクトル殿下が頭を抱えているけど気にしない。
ようやく離れた2人は互いに剣を構える。うーんなんか迫力ある。
「始めっ!!!」
ダッ!!ガキンッ!!!
「くっ…!」
最初に仕掛けたのは殿下のほう。真正面から袈裟斬りにするが、兄様はなんとか弾いた!
だが殿下はバランスを崩すことなくすぐに次の攻撃に入る。兄様は防戦一方だ、頑張って…!!
「どうした!!!私に勝つんだろう!?」
「当然だ!!今まで何度お前の相手をしてきたと思っている、何もかもお見通しだ!!」
「な——っと!!!」
「お前は4度斬りかかると、必ず隙が出来るんだよ!!」
ギィン!!
「おおっ!」
兄様が攻めに転じた!殿下の剣を狙って鋭い突きを繰り出し、よろめいたところに次の攻撃を仕掛ける。
そのまま息つく暇も無く剣戟が繰り広げられる。
あんなにも騒がしかったギャラリーも、今は固唾を飲んで勝負を見守っている。僕も手を握り締め見守って……
……なんでだろう…兄様の姿が、優也と重なって見える。あの子も小さい頃から剣道やってたなあ… 。
いつか絶対応援に行くって約束したのに…結局、一度も行けなかった…。
それでも試合の日は、必ず病室まで来てくれて…
『姉ちゃーーーん!!!オレ負けちった、2位だったああああ!!』
『ありゃ。よしよし、頑張ったね』
『うう~…!姉ちゃんが応援してくれてたら、絶対勝てたのにい!!』
『人のせいにすんじゃなーい。
でも…うん、良くなったら絶対応援行くから!』
『約束だぞ!?』
『うん!!…ってくさっ!!優也汗臭ーい!!』
『病院では静かになさーーーい!!!』
『『ぎゃーーーーー!!!!』』
「おうえん………」
僕は大きく息を吸い込んだ。そして…
「…ラディ兄様、勝ってーーー!!!」
会場を金属がぶつかり合う音が支配する中、僕の声が響き渡る。
すると兄様が、微笑んだ気がした。
「ふ…っ俺は、負けない!!!」
「…くそっ…!」
ガギイィ…ン
殿下の剣が…その手を離れ、地面に突き刺さった…。
「勝者、ランドール・ナハト!!」
わああああぁぁぁぁ…!!!!
お、おおお…おおお!!!兄様勝ったーーー!!
「やったー!!!ラディ兄様強い!!格好良い!すっごーい!!!」
手に汗握る戦いは終わりを迎えた。殿下と兄様は握手を交わし、2人共こっちに向かって来る。
僕は走り出し、兄様に飛び付いた。
「兄様おめでとーーー!!!凄かったよ!!」
「ああ、お前のお陰だ」
いやあ、応援しただけだよう。
ラディ兄様が僕を抱え上げると、令嬢達の悲鳴が響き渡った。落ち着いて、僕男ですから!!!
そしてルキウス殿下は、ルクトル殿下とジスランに慰められている。ん…ジスラン?
「あ!!!僕達の試合この後じゃん!!!この空気の中やれと!!?」
忘れとった!!!10分休憩の後、1年生の決勝だよ!!ひえー、今の試合の後に!?僕は三度緊張に襲われた。
だがラディ兄様が…優しく僕の背中を叩く。
「大丈夫だ。俺が付いている、精一杯やればいい」
「……うん!」
うん、ロッティと兄様の応援があれば、僕だって負けないんだから!!!
「という訳でジスラン!!初勝利貰うからね!!」
「ふふ…やってみろ!」
やったるわい!!休憩も終わり、僕達は並んで闘技場の中央に向かい歩き出す。僕はもう、震えることは無かった。
「なんだ、ずいぶんちびっ子じゃん」
「あっちのデカいほう、ブラジリエ家の末っ子だぞ」
「あちゃー、勝負になんねー」
「よくあの子決勝まで来れたわね」
「セレス!!絶対勝てよ!!!」
「可愛いから応援しちゃお」
「まあ1年の試合なんて、毎年お遊びみたいなモンじゃないか」
「お兄様ーーー!!!急所を狙うのよ、一撃必殺よーーーーー!!!」
「どっちも頑張れー!!」
「…ふふっ、ロッティってば」
可愛い妹と大切な友人の声援があれば、有象無象のヤジなど気にもならんわ!!!
互いに距離を取り、礼をして剣を構えた。
こうして立つと…うん、僕集中出来てるな。
もう周囲の声は届かず、目の前のジスランしか見えない。彼の一挙手一投足…僅かでも見落としてたまるものか。
「ラサーニュ君、すごい集中力ですね…」
「ああ…」
「セレスは負けんぞ」
「では…始め!!」
先手必勝!!!さっきの殿下に倣い、一気に距離を詰める!!!
ガンッ!!!
「…ふっ!」
僕にはパワーがまるでない、ならばスピードと手数で勝負!!!右から上から下からひたすら仕掛ける!
カン、ガキッガガッ!!キンッ!
ジスランは全て防いでいる。ふんだ、余裕ぶってるなよ、見てろ…!
「え!?」
「いつまでも、僕が弱いと思うなよ!!」
ガガカガンッカカン、ガスッ!
ここ最近の僕は、パワーを捨ててスピードを重点的に鍛えた。
ジスランが一撃で倒せる相手でも、僕は一撃では倒せない。
ならば彼が一撃喰らわせている間に、僕が三でも四でも叩き込めばいいだけでしょう!?
という訳で、スピードアーップ!!ジスランが動揺している隙に、畳み掛ける!!連撃喰らえい!
「…っやるじゃないか!だが俺だって…!」
「つあっ!」
うわ、わわわ!!逆に一瞬の隙を突かれて、反撃を許してしまった。今度は僕が防戦一方だよ!やっば、このままじゃ彼のペースだ!
ゴスッガギン!ドゴッ!と、僕の時と音が全然違う。こんなん受けてたら腕壊れるわ!息も乱れてきたし…!
なんとか流して躱して距離を取る!だが僕が後ろに下がると、ジスランも前に一歩踏み出し…!
「そこだっ!!」
「!!?」
僕は下がった振りをしながら、地面を蹴る足に力を込め…体勢を低くして逆に突っ込んだ。そして両手でぎゅっと剣を握り締め…剣を狙って一撃必殺、渾身の刺突をくれてや…あ!?
「あ…」
嘘でしょ、完璧に不意をついたと思ったのに…
こんにゃろう、本能で躱しやがったーーー!!?
「くっそう…!」
僕の剣と体はジスランの横を通り抜け…突っ込んだまま倒れたら、僕の負け…!その前にジスランの剣を飛ばすつもりだったのにい!
僕はなんとか体を捻り、倒れることなく地面に左手と両足で着地を……へ、左手?
「あ」
「あ?」
「…勝者、ジスラン・ブラジリエ!!」
「「あーーーーー!!!?」」
「「「あ~~~…」」」
僕とジスランは揃って絶叫し、兄様達の抜けた声も聞こえてきた…。
え…終わり?今ので?
過去最高に接戦出来たのに?あとちょっと…!ってトコだったのに…?
…えええええぇぇぇえ!!!?そんなあー!!?
僕は張り詰めていた糸がプツンと切れてしまい、その場に崩れ落ち…
「おっと。……今回は今までで一番良い勝負だったぞ、セレス」
る前に、ジスランに受け止められた。ううう、勝者の余裕…!
く・や・し・いいぃ~~~!ふんぐうううう…!!
もう僕が場所も弁えず泣き喚いてしまおうかと思っていたら…。
どわああああッッッ!!!と会場が湧いた。そうだ、ギャラリーの存在忘れてた。
「すっごーい!!」
「やるじゃん!」
「ラサーニュ様カッコいいー!!」
「お兄様は格好良くて可愛いのよ!?」
「可愛い~!!」
「惜しかったなー」
「今年の1年レベル高いな」
「セレスちゃーん!!」
「お疲れ様でしたー!!」
と…試合前とは全く違う声が多々聞こえて来る。
そ、そうですかね?僕格好良かったですかね??
しかし僕は歩けないので…そのままジスランに…うおい!?
「ちょっとー!なんで横抱きにすんの!?」
「良いじゃないか別に」
よくねーーー!!お姫様抱っことか、周囲の視線が痛…
「「「きゃー!可愛いいい!!!」」」
なんで!?
だが僕は抵抗する体力も残っていないので、大人しく運ばれた…。
…?よく見ると、ジスランも汗をかき息を乱している。今まで一度も無かったことだ、これは…。
僕本当に、彼を追い詰めた?
……おお…!僕強くなった!!
「セレス、惜しかったな!」
「ラディ兄様!!」
ジスランの腕から、兄様の腕に移動した。実家のような安心感、そのまま一緒にベンチに座る。兄様に渡されたタオルで顔を拭いていたら…あら、眼鏡は?
僕が顔に手を当てていたら、ジスランが何かを差し出してきた。
「ほら。早々に落としていたぞ」
「ありがとう。って、粉々!?」
「2人共踏んづけまくってたから…仕方ないよな、また新しいの買いに行こう」
いや、まだいっぱいあるし…と言ったのに、兄様はすでに出掛ける気満々のようだ。…ま、いっか!
にしても、全然身体に力が入んない。今だってラディ兄様に両側から支えられていなければ、僕は真っ直ぐ座ってられないもの。腕はプルプルするし。
「仕方ありませんよ、10分以上激しい攻防を繰り広げていたのですから。僕達も魅入ってしまいました」
「そうだな。ブラジリエはともかくラサーニュも…素晴らしい試合だった」
10分。……そんなに!?うわ、体感では2、3分くらいだと思ってた。
でもそっかー、僕体力もちょびっとついたかな?負けて悔しいけど…自分の成長が嬉しい。
それにルキウス殿下、ルクトル殿下に褒められちった。っしゃー!
ジスランも僕達の隣に座り、残りの試合を観戦する。彼はまだ最終トーナメントも残ってるからね。
だがその前に、ゲルシェ先生が近付いて来た。
「2人共、お疲れ。怪我はしてないか?」
「あ、先生!怪我は…無いかな。身体が動かないのと、腕が痺れてるだけ」
「俺は疲労だけだ、セレスを見てくれ」
怪我は無いっつの。腕だけ見てもらったが、問題は無いとのこと。でしょうね。
一応テーピングだけしてもらった。こりゃどうも、じゃあ気を取り直して観戦しますか!
続く2年3年の試合は…イマイチ盛り上がりに欠けるなあ。
勝敗が決しても観客の拍手もまばらだし。というか3年生のあの挑発してきた男子、アッサリやられてんじゃないか。どうでもいいけど…。
そして4年生。結構良い勝負だったが…やっぱり盛り上がらない。これはもう、ラディ兄様に期待するよ…!!
「兄様頑張って、優勝してね!」
そして最終的にジスランを下して僕の仇を取ってね!!
兄様はドヤ顔で親指を立てて、戦場に赴くのであった………。
「負けちゃった」
「負けちゃったね!!!!」
負けちゃったよラディ兄様!!!あんなドヤ顔しといて!!
……でもまあ、仕方ない。何せ相手は…。
「久しぶりだな、セレス。さっきのは良い試合だったぞ」
「お久しぶりです、ジェルマン様」
ラディ兄様の決勝の相手は…ジェルマン・ブラジリエ様。そう、ジスランのお兄様である。
この方身長190センチを越しており、すでに卒業後騎士団への入隊が決まっている武人である。
なのだが…なんか地味なんだよね。よく存在を忘れられている人だ。今回も決勝始めるまで、相手がジェルマン様だって気付かなかったし…。
でも昔から、ジスランの家に行くと一緒に本を読んだり遊んでくれたりした。優しいお兄ちゃんなのだ。
負けてしまったラディ兄様はしょんぼりしてる。うん、相手が悪かったとしか言いようがない。
「セレス、父上も褒めていたぞ。卒業後は騎士になれ!と仰っていた」
ジェルマン様が指差す方向には、ブラジリエ伯爵がいる。こっちを見て手を振っていたので、会釈して返した。
あの辺り、騎士団長の集まりかな…?ガタイのいい人が揃ってると圧巻だよね。近付きたくねえ。
「僕が騎士に?いやあ~…どうでしょうね?」
「はは、謙遜するなよ。今の2~4年生の試合、見てて物足りなかっただろう?
さっきのお前達が桁違いだったから、観客も冷めちゃってたんだよ」
そうですかね?いやあ、照れちゃうなあ!
僕が照れ照れしている間に、最終トーナメントが発表された。
くじの結果、ジスランがシードだ。ジェルマン様は反対側なので、決勝は兄弟対決か…!ぶっちゃけ、他の人が勝つとは考え難いので。
「面白い…兄上、全力で頼むぞ」
「当然だ。すぐ行くから待ってろよ」
おお…!!頑張れジェルマン様!「セレス!?」いやだって、ジェルマン様に仇を取ってもらうんじゃーい!!
しかし、もしジスランが優勝しちゃったら…1年生が優勝なんて前代未聞じゃない!?うーん、どっち応援するか迷うなあ。
僕はラディ兄様と一緒に観戦した。殿下達は皇族の席に行ったようだ。
そしてトーナメントは進み、予想通り兄弟対決となる。
ジスランは、さっきはやっぱり本気出して無かったんじゃない?と言わんばかりの迫力を見せた。
だがジェルマン様には数歩及ばず……ジェルマン様の総合優勝で大会は幕を閉じる。
「ジスラン…元気出してよう」
「負けた…まだまだ兄上には遠く及ばない…。
ならば、鍛錬あるのみ!!」
復活した。立ち直り早いなー…僕も見習おう!!!
※※※
『選手の皆様、お疲れ様でした!これより閉会式を行います』
またまたバルバストル先生の司会で式が始まる。
今闘技場に立っている生徒は、決勝まで残った僕含む10人だ。
3年生の名無し先輩は僕と目が合うと、忌々しそうに顔を背けた。なんなんだ一体。
はあ、結果的にまたまたジスランには勝てなかったけど…得るものはあった、かな?
『ジェルマン・ブラジリエ君。どうぞ前に出て来てください』
「はい!!!」
お、優勝賞品の贈与か!と言っても、毎年似たような宝剣らしいんだけどね。
しかもジェルマン様は去年も優勝してるらしいから、2本目になっちゃうね。
陛下と共に、賞品を持ったルキウス殿下が現れた。
しかし、あれが宝剣…?なんか、違くない??
「優勝おめでとう、ジェルマン・ブラジリエ。
昨年も其方は素晴らしい試合を見せてくれたな。今後もその力を、この国に貸してもらいたい」
「はっ!!見に余る光栄でございます!!」
そんな感じのやり取りの後…殿下が一歩前に出る。
近付くと彼が持つ剣がよく見え…………はああぁ!!!?
「おめでとう、ブラジリエ。今年の剣は少し趣向を変えていてな。
こちら、数十年前に箏より贈られた剣だ」
な、な、な……!!!
「…?どうした、セレス?」
ジスランが小声で尋ねて来た。だが今の僕は返事をする余裕がない。
あれは、まさか、そんな……!この世界でお目に掛かるなんてえ…!!
あの細い剣……どっからどう見ても、ジャパニーズKATANA☆、日本刀じゃねーか!!?
応援ありがとうございます!
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