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学園1年生編

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「ふう…!」


 僕は深呼吸をし、精神統一する。
 何せ今日は剣術大会、学園最大のイベントなんだもの…!


 ま、1年生の試合なんて前座もいいとこだけど。メインは5年生だからね~。だがやるからには、良い結果を出したい…!
 僕が拳を握り締め気合を入れていると、ジスランが声を掛けてきた。


「やる気十分だな、セレス。だが俺は負けん!」

「ジスラン…今日こそ勝つんだから!」


 現在地は選手控室。友人の中でエントリーしたのは、僕・ジスラン・パスカルだ。バジルもそれなりに強いのだが今回は遠慮してた。相手が貴族だと萎縮しちゃうのかな。
 エリゼは前にも言ったが4年生になるまで逃げるらしい。ルシアンは今後真面目に鍛錬して、来年はエントリーすると宣言してたぞ!


「俺は…せめて1回戦は勝ちたい」

 パスカルも緊張しているようで、試合用に刃の潰された剣を握り締めている。
 分かる。僕も手は震えるし心臓バクバクだし汗かくし…うう…!


「お、トーナメント表が張り出されたぞ」

 誰かの声が聞こえ、僕達も見に行くことに。


 ここで簡単に大会について説明しよう。
 1~3年生(下級生)は参加者も少ないので、2ブロックでトーナメントが開催される。4・5年生(上級生)は4ブロックだ。
 陛下もご覧になる試合は、グラウンドに用意された特設会場で行う。
 だが試合数が多くなってしまうので…下級生は決勝以外、ギャラリーのいない会場で試合が行われる。予選みたいなもの。
 つまり、決勝まで行かなければ陛下にお目に掛かる事は無い。運悪くジスランのような強者と早々ぶち当たる場合もある、そしたら皇族へのアピールは4年まで待てって事ね~。

 そして全学年共通なのが、決勝は時間無制限、それ以外は1試合5分まで。
 5分経っても勝敗がつかなければ、審判が判断する。
 それ以外の勝利条件は
「相手の剣を弾き飛ばす」
「相手が足裏以外の部分を地に付ける」
「喉元に剣を突きつける」
 である。降参も出来るぞ。

 そうして各学年優勝者の5人で、再度トーナメントが行われる。最終的な優勝者には、陛下より剣が恩賜されるのである!優勝すんのは大体5年生だけど。




 今この控室にいるのは下級生のみ。まず組み合わせ確認すっか…。


「!よし、ジスランは別ブロックだ!!」

 よし、よっし!上手くいけば決勝まで上がれる!!
 別に陛下に見てもらいたい訳じゃないが…ロッティ達には見てもらいたい!!もちろんジスランにも勝つ気で挑むけどね!

「うわ、俺2回戦でジスランとじゃないか!?」

「お。待っているぞパスカル!まずは1回戦を突破しろ!」

 あーらら、可哀想に。これでパスカルの決勝進出は消えたわ。
 というか、ジスランと同じブロックの生徒は全員床に膝をついている。彼の実力は1年の中じゃ有名ですし。
 逆ブロックの皆は余裕綽々だ。僕のようにな!



「ラサーニュ、1回戦の相手は俺だ。よろしく!」

「あ、よろしくね!」

 僕の相手は、隣の席の男子だった。彼は親しげに肩を組んできた。
 それはいいんだけど…その手が、僕の胸に当たりそうなんですが…!どうしよう、下手に振り払ったら不審かなあ…!?

 僕が戸惑っている間にも、彼は距離を詰めてくる。ちょっと顔も近いよ!?突き飛ばしていいのか逡巡していたら…パスカルに腕を引っ張られた。
 そして僕は、そのまま彼の腕の中に納められる。この体勢は…僕パスカルに抱き付いているみたいじゃない…?身長差も大して無いから顔も近い…ちょっと照れるう…。

 というか彼は、なんだか怖い顔で男子生徒を睨み付けている。


「おい、お前。あまりセレスタンにベタベタするな」

「な、なんだよ…マクロンには関係無いだろう?」

「大ありだ。行こう、セレスタン。今度からああいうのはすぐに振り払え」

「え、あ、ありがと…」

 パスカルに手を引かれ、その場を後にする。君はなんでなんで怒ってるの…?
 しかもなんか、他にも数人その男子のことを睨んでいる。「貴様、天使に馴れ馴れしく触れるなど…!」とか言っちゃってるけど、天使って、なに???



「セレス…俺と枠を交換してくれ。俺があいつを叩き潰すから…」

「何言ってんの!?」

 ジスランは剣を握り潰しそうな勢いだ。なんでこっちも怒ってんのさ!?なんかもう、分からないことばっかりだよ!!
 僕が困り顔をしていたら、2人はようやく落ち着いた。

「…すまない」

 そう言ってパスカルは僕の手を離す。いや別に、助かったし謝らなくてもいいのに。変なの。







 そして予選結果ですが。なんと僕、決勝進出しましたーーー!!!イエイ!!
 1回戦の彼も一撃で剣を飛ばしてやったぜ。その後は特に苦戦する事もなく勝ち進んだぜ。ちなみにパスカルはあっさりジスランに負けていたぜ。


「くそ…っ!お前が女顔だから本気が出せなかっただけだ!!」

 僕に負けた生徒は、半数がそんな感じの捨て台詞を吐いた。ふーんだ、言ってろ!自分で「見た目に惑わされる未熟者です」って宣言してるだけだぞ!


「んふふ~、僕意外と強い?んっふー」


 ご機嫌で鼻歌だって歌っちゃうぜ。ずーっと負けてばっかの人生でしたから…ふっふーう!
 そして予選は全て終了し、ついに特設会場に移動だ。パスカルは観客席に向かうべく別れた。


 だが移動中…前方から大勢の人の声が聞こえてきて…僕は、緊張が再発してしまった…!!

 さっきまではなんやかんやで、参加者と審判とゲルシェ先生しか見てなかった。
 きっとこの道の先には…大勢の人がいて、僕達の試合を見るんだ…!!


 会場をぐるっと囲むように設営された席。
 そこに座っているのはいずれも位の高い人ばかり。親が来ている人も多いし。
 しかも未来の騎士を見出すため、様々なお偉いさんも来ているはず。

 そして、何より…皇帝陛下がお見えになっている…!
 もしも無様な姿を晒したら…!!


 ヤバい、さっき以上に手が震える…!予選で勝ったー!など浮かれてる場合じゃない!!
 うう、今頃現実が僕を襲う…!



「…セレス?」

 僕はプレッシャーに圧し潰され、足が止まってしまった。ジスランが不思議そうに僕を見下ろす、なんで君はそんな余裕なの…!?

「……大丈夫だ、お前は強い」

「よく言うよう…!」

 自分より強い人に言われても、慰めにしか聞こえんわ!!

「じゃあお前は、俺に手を抜いてほしいのか?」

「絶対やだっ!!そんな事してみろ、本当に嫌いになるからね!?」

 僕は本気なのに、彼は僕の頭に手を置いて微笑んでいる。くやしい、その余裕の顔を崩したいい!!

「まあ俺がどれだけ言葉を重ねても届かないだろうな。
 それでもいい。それでも…いつも通りのお前なら大丈夫だ」


 ……なんだよそれ。なんの根拠も無いじゃんか。

 それでも…僕の震えは、いつの間にか弱くなっていた。





 ワアアアアァァァ……




「う、わあ…!」


 うわ、空気が違う!!人々の熱気が肌にひしひし伝わってくる…!!
 本当に僕、こんな場所で試合すんの!?逃げていいかな!!?
 しかも相手はジスランだから、超注目されるかも…!!



「おにーさまーーー!!!」


 ……?僕の腰が過去最大に引けていた時…聞き慣れた、凛とした声が聞こえて来た。
 こんなに沸いている会場の中でも聞き間違えるはずはない、ロッティだ。


「お兄様ーーー!!頑張って、お兄様なら大丈夫よーーー!!!」

 そう言いながら、僕に向かって両手を振っている。


 …もう、淑女がそんな大声を出すんじゃありませんよ。ほら、バジルもルネちゃんも苦笑いしてるじゃない。でも………。


 僕の体の震えは、完全に止まっていた。


「うん!!!見ててねロッティ、今日こそジスランを倒す!!!」

「きゃーーーーー!!!お兄様可愛いいいーーー!!!」

「そこは格好良いって言ってよ!!?」


 なんだよう!しかもロッティだけじゃなく、他の令嬢まできゃー!ちっちゃーい!だの可愛い!だの頑張って!とか!!御声援ありがとうございます頑張ります!!!


「(やはり…ロッティには勝てないか。それでいい、俺は…セレスのそういうところも含めて好きになったんだから…)」


 なんかジスランがしんみりしてる。ほら、君への声援も多いぞ?手を振んなさいよ。
 僕がギャラリーに手を振っていたら、なんかがぶつかってきた。


「はん。貴様のようなチビが残れるとは、よほど1年生全体のレベルが低いと見える。
 それともアレか?そのお綺麗な顔で誘惑でもしたか?」

 おん?なんだこの分かりやすい挑発をしてくる男子生徒は…?

 ……あ!!以前僕とエリゼに喧嘩売って来た、7人のうちの1人!!名前は知らん!


「おや、容姿をお褒めいただき恐縮です。僕が誘惑したかどうかはさておき、容姿に騙される者のレベルが低いという点は同意しますね」

 実際そういう捨て台詞多かったし。僕の返答がお気に召さなかったのか、彼は顔を歪ませた。

「ふん、口の減らない野郎だ」


 名前も知らない男子生徒は、そう言いながら離れて行った。彼がいるのは3年生の待機場所…へえ。じゃあ一応予選は突破したんだ。全然見てなかった。






『それでは皆様!!!これよりアカデミー剣術大会を開催致します!!』


 お、始まった!!司会を務めているのは、僕達のクラスの担任でもあるクレール・バルバストル先生だ。美人なのだが、貧乳と言われるとチョークの代わりに氷塊を投げつけてくるぞ!
 先生司会のもと、開会式が進む。闘技場に並んでいるのは下級生の6人と、上級生の男子全員だ。あ、ラディ兄様発見!!がんば。


『それではこれより、陛下より御言葉を賜ります』

 先生がそう言った瞬間、立っている全員が跪く。座っている観客達は、深く頭を下げた。

「面を上げなさい」

 陛下の言葉を受け、全員顔を上げる。…あれが陛下、そしてお隣にいらっしゃるのが皇后陛下か。こんなに近くで見たのは初めて、だ…?

 ………?なんか今、陛下と目が合ったような?気のせいか。いや気のせいじゃないわ、皇后陛下が笑顔でむっちゃこっち見てるわ!?なんで???


「…今年もまたこの季節がやってきた。今日の佳き日に相応しき、正々堂々とした勝負を望む」

 陛下の御言葉が耳に入らない……。何故なら、皇后陛下と皇女殿下と思しき女性が、めっちゃこっちを見ているからだ。笑顔で。
 控えめに笑顔を返すと…すんごい盛り上がってる。あのう、陛下の御言葉聞かなくてよろしいの…?陛下しょんぼりしてらっしゃるよ?


「……以上だ…」

 終わっちゃった!!!大丈夫ですよ陛下、皆聞いてましたから!!だから肩を落とさないでください!




『そ、それでは早速試合を開始します!!まずは4年生の皆様、準備を!!』


 順番は4年生予選→5年生予選→1年生決勝→2年生決勝→3年生決勝→4年生決勝→5年生決勝である。
 あ、早速ルクトル殿下の出番だ!!


「「「「きゃあああああぁぁぁ!!!!」」」」

「わっ!!」

 ひー、殿下が登場した途端、もの凄い声援が!!やっぱ人気あるう。よし、僕も!!

「殿下ーーー頑張ってくださーい!!」

 僕は選手だから、観客よりも近くから応援出来るのだ!!僕の声が届いたらしく、殿下はこっちを向いてにっこり笑った。
 その笑顔に…またも黄色い声援が飛び交うのであった。


「セレス、俺の事は応援してくれないのか?」

「ラディ兄様!もちろん応援するよ、でも5年生はまだでしょ?」

 ルクトル殿下に気を取られていたら、後ろから兄様が抱き付いてきた。そのまま僕の頭に顎を乗せ、まったりモードに。
 隣に立っているジスランも急に現れた兄様に驚いたが、すぐに試合に集中した。


「なあセレス、俺とルキウスが当たったら…俺を応援してくれるか?」

「うーん、どっちも頑張って欲しいけど…うん、兄様の応援する!」

 なんてったって、僕の兄様だもんね。ルキウス殿下は他の皆が応援してくれるとも!
 僕の返答に、兄様は破顔したのであった。


 そして4年生の結果だが、ルクトル殿下は3回戦で負けてしまった。剣は得意じゃないと言っていたが、十分だと思うよ?
 4年生は他に知り合いもいないので飛ばします。






「ラディ兄様出番だね、頑張って!!」

「ああ。行ってくる」

 兄様は僕の額にキスをして、闘技上に立つ。殿下に負けず劣らずの大声援を受け、軽く手を振り返事していた。
 うお、相手強そう。兄様大丈夫かな…?

「ラディ兄様ファイトー!!」

 僕に出来るのは声援を送ること!いけー!!


「大丈夫ですよ、彼は強いですから。流石に本職には敵いませんがね」

 そう答えてくれたのはルクトル殿下。もう自分の出番は終わったからと、自由に行動している。
 そして今は僕達と一緒に観戦中。と言っても兄様は割と最初から自由にしてたが…でもそっか、兄様強いのか!


 その殿下の言葉通り…あっさりと勝敗は決した。
 相手が上から斬りかかって来た剣を兄様はするりと横に流し、そのまま喉元に剣を突きつけたのだ。


「すごい、兄様格好いい!!」

「だろ?」

 すごいドヤってる!!でも格好いいよ!!会場中にも声援が飛び交いすぎてるよ!
 だが僕がそんな風に興奮していたら…ふと選手待機場にいるルキウス殿下が目に入る。なんか変な顔してるう。


「あれは拗ねてるな。いい年して…しょうがない奴だ」

 拗ねてんのかアレ。めっちゃ口窄めてるんですけど。てか兄様、あなたもあっちに戻りなさいよ。
 渋々戻る兄様と入れ違いに、ルキウス殿下が登場した。すると今まで以上に、会場中に耳を劈く声援が広がった。アイドルか!!!ひいい、耳を塞がないと潰れるわ!!


「ルキウス殿下、頑張ってーーー!!!」

 令嬢達の声援に負けぬよう精一杯声を出す!

「兄上ー!!勝ってくださーい!!!」

 お、ルシアンの声も聞こえる!それが届いたのか…ルキウス殿下は今度は、上機嫌に見えるぞ。単純な人だな…。


 その殿下の試合は…開始と同時に殿下が仕掛け、一撃で沈めてしまった。つよ!?


 その後殿下と兄様は順調に勝ち上がり…ついに、2人がぶつかる準決勝までやってきたのだった。



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