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学園1年生編
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しおりを挟むペコーン!!
「だーーーーー!!!!今僕が勝ったんだから、僕が叩く番なのーーー!!」
「あれ?すまん。難しいな…」
僕達は場所をルシアンの部屋に移し、交流を深めている真っ最中。
そしてピコハンを使った遊びといえば、叩いて被ってじゃんけんぽん!でしょ!!
エリゼには以前じゃんけんのルールを教えてあるので、ルシアンにも同じように教えた。そしてヘルメットを1つ、ピコハンを2つ用意して…説明しつつ、たかぽん(たたいてかぶってじゃんけんぽん)実践中である。
今は僕がチョキでルシアンがパーだったから、僕が叩く番だった。
だがどちらもピコハンを構え…僕叩かれた…。ま、そこが面白い所なんだけどね。
でもこれ2人ゲームだから、3人で遊ぶのには向かないな。
しばらくすると2人もルールに慣れてきて、良い勝負になってきた!!
「ふふ…これで兄上達に勝ってみせる!」
ルシアン、気合を入れるのはいいけど…多分すぐに負けるよ。
少し休憩して、ティータイムでございます。準備をしてくれたメイドさん、すんごい温い視線を僕達に送ってきましたよ。それは「殿下に振り回されて可哀想に…」と「殿下にお友達が出来て…うう…!」の、どっちだろうね?
「それで、ルシアン。貴方はどんな皇子を目指したいの?」
メイドさんもいなくなった後聞いてみた。僕達に手伝える事なら力になりたいし。
「そうだな…色々考えたけど、私はまず人並みになる所からかな。
私はスタートが遅すぎた上に、一足飛び出来るポテンシャルも無い。そもそも一般常識も危ういから…良かったら、また一緒に街に行って欲しい」
なるほど。そういう事なら喜んで。でもそれだけでいいの?
「他に何かやりたい事はないのか?ボクが魔術に没頭するように、好きな事でもなんでもいいから」
「………ん…。実は…私は、考古学に興味があるんだ…」
「「考古学?」」
ルシアンは、少し照れくさそうに語った。
「幼い頃から、古いものが好きだった。古代の文明、文化、習慣…暮らし。
宝を発掘したり、新しい遺跡を見つけたりそれを解明したり。本で読んでいつも心躍らせていた。
でも…あんまり皇族、国の為に貢献出来る分野じゃないよな…と。胸の奥にしまっておいたんだ…」
僕とエリゼは顔を見合わせ…。
「いや別に、いいと思うけど…ね?」
「ああ。考古学とか民俗学って、立派な学問だし…国の為に~なんて縛られたら、出来る事なんて僅かだぞ」
「ほ、本当か?じゃあ私は、好きな事をしていいのか!?」
それが犯罪とかに繋がる何かじゃ無ければ。好きな事をするのが一番だと思うよ?
そう言うと彼は、楽しそうに古代について語り始めたのだった。
その様子はまるで、新しい知識を親に披露する子供みたいに一生懸命だったので。それほど興味は無かったけど…つい聞き入ってしまうのであった。
「……あ!もう夕方だ、帰らなきゃ!」
話をしたりたかぽんをしたり、他にも色々やっているうちに外が夕焼け色に染まり始めた。
いかん、僕教会に行くつもりだったんだ!!飛んで行くにしても、着くのは夜になっちゃうかな。
「わ、すまない。話し込んでしまったな」
「ううん、大丈夫。ラディ兄様も呼びに来てくれてもいいのに…」
「きっと殿下方のとこにいるんだろう」
侍従の人にラディ兄様を探してもらうことにして、帰り支度を始めた。
「あ、セレス。其方に1つ言いたい事がある」
「へ。何?」
と言っても持って来た物とか無いし、片付けをして上着を羽織るくらいなんだけどね。
ソファーから立ち上がったところで、ルシアンが声を掛けてきた。
「先程のバルコニー、あっただろう?
いずれそこに…皇子妃として、私と並んで立つ気はないか?」
「あはは。ご冗談、を……………はい……?」
「………へ?」
にこにこしながら、ルシアンはそう言い放った。
僕は思わず手に持っていたピコハンを落としてしまった。というか、呼吸も忘れてルシアンを凝視する。エリゼも一緒に……。
「冗談のつもりは無かったんだけど、嫌なら仕方ないか」
ルシアンは悪戯が成功した子供のように、クスクス笑いながら僕達のほうを見ている。こちとらまだ混乱から抜け出せていませんが…。
「い、いつから…?」
先に復活したエリゼが問い掛ける。どうやらはぐらかすのは諦めたようだ。ルシアンは顎に手を当て考え始めた。
「んー…最初から可愛らしいなとは思っていたが。
あの日、道場で。其方の本心を垣間見た時…私の胸倉を掴み、震えながら涙していたあの瞬間。
理屈ではなく、「そうだったんだ」とストンと落ちたと言うか…ピースがカッチリ嵌った感じかな?確信を持ったのは、つい先日だが」
「……あ!まさか、空き教室の…!」
「それそれ。其方らとルネが内緒の会話していた時。一応弁明しておくが、盗み聞きをする気は無かったからな?本当に、トイレ行こうと思って通りがかっただけなんだ。
ルネの声、外までダダ漏れだったぞ。「女の子って隠す気ありますの!?」ってやつ。私以外誰もいなくて良かったな!」
「くっ、ルネ嬢め……!!」
ルネちゃんめ…。そして僕はまだ放心状態だ。
だって今、僕……プロポーズ、された……?
「ルシアン、は……僕の事を、好いてらっしゃる、の…?」
それだけは聞かなくては。なんとか声を絞り出す。顔に熱が集中しているのが分かるので…僕は恐らくゆでだこ状態だろう。
すると今度は彼は、困ったように笑ってしまった。
「セレス、という個人なら好いているよ。ただ、私はまだ恋愛感情がよく分からなくて。
ルネとの婚約の話も、彼女は私よりルキウス兄上と結ばれて皇后になるべきでは?くらいにしか思えなかったし。
セレスとなら、きっと良い関係を築ける。いずれ愛も芽生えるだろう…そう思ってはいる。
もしも受けてもらえたら、正式に伯爵に話を通すつもりだったよ。だが…」
ルシアンは僕に近寄り、頭を撫でた。それは僕がロッティの頭を撫でるような、ラディ兄様が僕に触れるような感覚に近いものだった。
「何故其方が男の振りをしているのかは知らないし、無理に聞くつもりもない。
本来は皇族として見過ごすべきではなかろうが…エリゼと、ルネが容認している以上。きっと何か理由があるのだろう?
話してくれるならもちろん聞くし、力になれる事があれば遠慮なく頼って欲しい」
とか言いながら…僕の額にキスを落とす。ひゃーーー!!?
それを見たエリゼが「ななな何をする!?」と、僕とルシアンを引き離した。
「ははは、そう警戒するな。これ以上何かをするつもりもないから。
だからセレス、変に意識しないで私と友人でいて欲しい。恋愛感情が無くとも、其方を好んでいるのは事実だから」
そんな軽く言ってくれるね…!でも、まあ…本人がそう言うなら、深く考えなくていいの、か?
そうして他に誰が知っているかとか、そういう話をしていたらラディ兄様が迎えに来てくれた。
今日は色々あったけど…最後のが一番の衝撃だったよ…!!
「そうそう、多分ルクトル兄上も気付いているぞ。明らかに其方を淑女として扱っているからな」
「「はい!!?」」
ルシアンは馬車の所まで見送りに来てくれたんだけど、最後の最後にこそっと爆弾を落とした。ちょっ、詳しく…!!と思ったが、馬車は走り出してしまった。
「また月曜に~」とか呑気に言ってるが、それどころじゃないよ!!
「……2人共、どうしたんだ?殿下とは上手く行ったんだろう?」
「うん…そうなんだけど…ね」
馬車の中。また僕はラディ兄様の膝の上だが…考える事が多すぎて頭が痛い…。
最近僕、色んな人にバレすぎじゃない?むしろここまで来ると、ロッティ達鈍すぎない?とすら思えるよ。
ラディ兄様と学園で別れ、僕の部屋でエリゼと2人会議をすることに。
「やっぱこのままじゃマズいかな…?」
「いや…そもそもボクは…ふ、不可抗力で知ってしまった訳だし。
ゲルシェ先生もルネ嬢の所為で、偶然知ってしまったんだろう?
なら自力で気付いたのは、ルネ嬢・ルシアンのみ。ルクトル殿下も怪しいらしいが…変に隠すより、堂々としていたほうがいいだろう」
「う~…!」
しかし、漫画のセレスタンは大丈夫だったのか?誰にもバレずにいられたのかな?
もしや…僕が、沢山の人と関わっているから?
少なくとも漫画におけるセレスタンは、現時点でロッティ・バジル・ジスラン以外の人間と親しくなかったはず。
この3人は昔から馴染みがあるから…今更僕が女かもしれない、という考えに至らないだけかもしれない。
とにかく、今後あまり親しい友人を作らないほうが良さそうだ…。
「……ルクトル殿下、本当に気付いてるのかなあ…?」
「どうかな…確かめる訳にもいかないし…」
どうか気付かれていませんように。僕達は祈るのであった……。
※※※
「兄上ーーー!!セレスにたかぽんという遊びを教わりました、勝負しましょう!!
っと、ルクトル兄上も!丁度良かった!」
セレスタン達を見送った後、ルシアンはヘルメットとピコハンを携えルキウスの部屋に突撃した。まず長男、その後次男に挑みに行くのだ。
と考えていたが、丁度ルクトルもルキウスの部屋にいた。さっきまでここに、ランドールもいたのだ。
「たか、ぽん?どういう遊びだ?」
ルキウスは弟が遊びに来てくれたのが嬉しくて、眉間の皺を深めながら聞いてきた。ルシアンはこの表情が喜びだと分かっているので、ウキウキで解説する。
「おや、この文字は…?」
「ああ、それはセレスが書いていました。意味は教えてくれませんでしたが。
もしかして、兄上は読めますか!?」
じゃんけんから説明していると、ルクトルがヘルメットに漢字で『安全第一』と書かれているのに気付いた。「やっぱヘルメットにはコレが無いと!」とはセレスタンの談。
「これ…漢語では?」
「漢語?確か海の向こうの大陸にある国…箏国の言葉だったか?」
「はい。ちょっと難しくて…僕も詳しくは分かりません。最後の文字が1だというのは読めますが…」
「ルクトル兄上でも詳しくはないのですか…?セレスはどこで学んだのでしょう」
三兄弟が首を傾げても、答えが出るはずもない。
この国において漢語が扱える者は、ルクトル以上の言語の専門家くらいのものであろう。なのになぜセレスタンが扱えるのか?
答えは…まさか前世の日本語と漢語が同一のものであるなどと、知る由もないのであった。
疑問を抱きつつも、ルシアンの提案したゲームで遊ぶ3人。
ルキウスが「えーと…じゃんけん、で勝ったらコレで頭を叩く。ヘルメットで相手に防がれたらセーフ…?」と呟きながらピコハンと睨めっこしている隙に…ルシアンはルクトルに耳打ちする。
「兄上…私は、セレスに振られてしまいました」
「え?友人になれたのでしょう?………って、まさか…」
ルクトルは言葉の意味を理解出来ず聞き返した。だが…ルシアンの笑顔を見て、別の可能性に思い至る。
そして、やっぱり自分の考えは正しかったのか…と納得した。
「そう、ですか…残念でしたね。僕も彼女であれば、君を任せられると思いましたが」
「私が世話になる側なのですね…。とにかく、やっぱりお気付きでしたか。兄上は今まで通り何も知らない振りをお願いしますよ」
「ええ、もちろんです。…他に、秘密を知るのは?」
「伯爵、伯爵家専属医、エリゼ、ルネ、叔父上、私のみらしいです」
「ふむ、分かりました」
「……よし、大体理解した!ではルシアン、まずは私と勝負しよう」
「はい!」
そのままゲームが始まり、まずルクトルは見学をすることに。
最初はルシアンの全戦全勝だったが…次第に状況は変化していく。そんな兄弟を眺めながら、ルクトルはセレスタンの事を思った。
「(いくら調べても、彼女は出生から男として届けがされていたし…女性だと確認するには、もう服の下を見るしかないかと思っていましたよ。不要になって良かった…。
しかし、どういう経緯で?放ってはおけませんが…ルネ嬢が味方についている以上、何か事情があると考えるべきですかね。
ならば僕に今出来る事は。さり気なく彼女をサポートするくらいか…それにしても)」
ルクトルは、負けて床に突っ伏す弟に目を向けた。
「(ルシアンが、彼女の事をねえ。…ふふ、可愛い妹が出来るチャンスだったのに、惜しい事ですね。
……あれ。ランドールは…ラサーニュ嬢の事を「弟だから」とか言いながら可愛がり、膝に乗っけてませんでしたか……?でも、本人嫌がってなかったし、むしろ嬉しそうだったし。…もしや、彼女はランドールの事を……?)」
「もう、負け、た………!」
「ふふふ…コツを掴んだぞ、さあもう一度勝負だ!」
「今度は負けませんよ……!」
ルクトルは自分の番が来るまで、ぐるぐると考え事をしているのであった。
※※※
「~♪~~~♬~、~♫」
日曜日、僕は教会を訪れていた。
孤児院が本格的に発足して、もう2ヶ月が経つ。その間子供が新たに増えたり、ガリガリだった子供達は皆健康的になったり…変化も色々あった。
僕は職員さんと話をしたり子供達と触れ合ったりし、今はちびっ子の寝かしつけをしている。寝る子は育つ、存分に昼寝しなあ!
『ねんねんころりよ おころりよ
坊やはよいこだ ねんねしな…』
僕は子守唄を、これしか知らない。この国の唄は…昔、アイシャが何か歌ってくれていた気がするが…流石に思い出せないや。
アーティも眠り、これで年少組は全員落ちたぜ…。ゆっくりと部屋から出…
「…どわぁ!?(小声)グ、グラスか…!」
ドアを開けたら目の前に、グラスが立っていた…!びっくりしたなあ、もう!!だが彼は至って冷静だ。
「なあお嬢様…今の歌、なんだ?」
歌?聞いてたんかい。にしても…グラスは栄養状態が良くなった途端、ぐんぐん背が伸びた。多分ルキウス殿下くらいあるんじゃないかな?見上げると首が痛いよ。
僕達は場所を移すため、外に出た。
この敷地内には、ドワーフ職人に作ってもらった遊具がある。
ブランコ、シーソー、滑り台だ。僕の絵と身振り手振りで説明するのはしんどかった…!
ただし苦労の甲斐あり、子供達には大人気ですが!!子供どころか、レナートさん達大人からも大好評をいただいております。もっと増やしたいな。
そしてブランコに並んで座り、さっきのグラスの問いに答える。
「さっきのはねー、子守唄だよ。グランツ語じゃないけどね」
「どこの国の言葉だ?」
「………海の向こうの、ずっと遠い国だよ…」
嘘ですが。海どころか、恐らく次元すらも超えた先の国です。
するとグラスは、何か考え込んだ。
「おれ……小さい時、どこか遠い所から来た。
さっきの言葉、聞き覚えがある…。
耳に、残っていた…」
え?日本語が?…もしかしてこの世界、日本語が存在してる…?
日本の漫画だし、日本が舞台の国だって存在してもおかしくない。グラスが微妙にカタコト気味なの、外国人だから?
それに…グラスの顔をじっと見てみる。彼は頬を紅潮させたじろいだ。
グラスは本当に大きくなり、一気に大人っぽくなった。結果オリエンタルな顔立ちの、爽やか系イケメンに成長した。
すると、とある事に気付いた。彼は漫画に登場していたのだ。しかし名前は存在しなかったしセリフも一言二言しかない、モブとして。
確か、伯爵家にいたんだよね…よくセレスタンと一緒にいたような気がするから、彼付きの使用人として?ただし漫画の主な舞台は学園だったから、彼の出番はほぼ無かった。
いつから使用人として働いていたんだろう?漫画では孤児院なんて無かっただろうし…どこで彼らは出会ったんだろう…?
それによく考えると、セレスタンが消えた時…グラスも一緒に消えたんじゃないかな?
優花が知る限りのセレスタン最後のコマ。褐色の青年に手を引かれて歩いて行くシーンだったから…。
そう考えると、一気にグラスに親しみが湧く。なんだか可愛く思えてきたぞ。
「あの、お嬢様…おれに、さっきの言葉。教えてくれないか?」
「え…いいけど、難しいよ…?」
「それでも。頼む」
ふむ…でも言葉って、どうやって教えるんだ…?
「えっと…じゃあ挨拶から…」
こうして週末限定、セレス先生による受講者1名の、日本語講座が開催される事になったのだった。
次の日、学園にて。
「おはよう、セレス」
「おはよう…ございます、殿下」
人目が気になるので、ルシアンに敬語を使う。
さてさて、たかぽんでお兄様に勝てましたかね?
「最初は…私が優勢だったんだ…。
でも最終的に、ルキウス兄上には手も足も出なくなった…。反射神経も腕の長さも、圧倒的に負けていた…。
ルクトル兄上とはいい勝負が出来たが、やっぱりリーチの差が大きかった…。
姉上にも挑んだが、あの人はすぐにルールを理解して3回目で負けた…」
あちゃー…。予想通りだわ。
「だから、勝負は5年後だ!!私の身長が追いついたら、その時こそ!また兄上達に勝負を挑むぞ…!」
おお…ルシアンが燃えている…頑張れ、その意気だ!!応援するぞー!
「という訳で、腕の長さは関係無いゲーム、何か知らないか?」
…………双六とか、どっすかね?
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