【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野

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学園1年生編

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 次の日、僕は朝日も昇らない早朝から教会に来ていた。今は…家にいたくないんだ。


 精霊達に挨拶をすると、皆僕の元気が無いことにすぐ気付き寄って来た。
 暖炉とアクアが説明してしまったので、危うく伯爵がミンチになるところだったよ…せめて事故死に見せかけてほしい。
 今僕の肩には、相変わらずの2人とノモさんラナがいる。ぎゅうぎゅうすぎて僕の顔変形してるんですが?
 エアは飛び回り、ドワーフ達は足下にぴったりくっついて歩きにくい。って、ドワーフの斧仕舞えるんだ?今彼らは手ぶらである。

 すごく身動き取りづらいが…その優しさが嬉しいからいいんだ。踏まないようにひょこひょこ歩きながら扉を開けて中に入る。
 扉…鍵付けないとね。合鍵は僕とロッティ…念の為、誰か遠くの人にも持っててもらおうかな?でもジスランは失くしそうだし…エリゼ辺りかな。
 にしても子供達は戸締りとか知らないんだろう、徹底して教えなきゃ。窓の鍵も開いてら。


 一通り回った後、礼拝堂の長椅子に腰掛ける。今だけは…何も考えず頭を空っぽにしたい気分…。

 しばらくすると、誰もいないはずの空間に誰かの声が響く。


「セレスタン…?」

「?ああ、グラスと…アーティ?おはよう」

「お、はよお…」

 どうしたんだろう、こんな早くに?って僕もか。
 彼らは近付いてきて、僕の隣に腰を下ろした。この次男ことグラスは、見たところ15歳くらいかな?栄養いっぱい摂ったら身長ももっと伸びるかなあ?
 僕の隣に座ったアーティが、また袖を軽く引っ張る。


「………」

「?どうしたの、アーティ?」

 相変わらず、この子は口数が少ないというか…発言を我慢しているようだ。手をもじもじさせながら、僕の顔をチラチラ見上げている。
 んとね、えっとね…と、その先に進まない。しかし急かすのは禁物だ、彼女の言葉を待とう。
 暫く待っていたら、意を決したように口を開いた。


「えっと…おねえちゃんも、キラキラ見にきたの…?」

「へ、キラキラ?…なあに、それ?教えてくれる?」

 なるべく怖がらせないよう、笑顔を努めて聞いてみた。ちなみに僕は、この孤児院にいる間前髪は上げている。眼鏡はしてるけどね。
 顔隠してたら、子供達が心を開いてくれなそうじゃない?


 アーティは僕の問いに、一生懸命答えてくれた。

「えと…あのね、てんじょうのね、ス、ステンド、グラス?
 あれがね、朝だけすっごいキラキラ光るの!ほかのじかんはちがうのにね、朝だけキラキラなの!きのう、ぐうぜん見つけたの」

 と、上を指しながら語ってくれた。
 朝…朝日だけ?そういえば、紫外線に反応するガラスってあったっけ?よく分からないけど…それかなあ?
 礼拝堂の天井は、ドーム状のステンドグラスで出来ている。これだけでも十分綺麗だね。


「そうなんだ!教えてくれてありがとう。一緒に見てもいい?」

「うん!」

 ああ~可愛い~!優しく頭を撫でると、にっこにこで返事してくれた。
 次第に外が明るくなってきたので、天井を見上げて待機する。すると…



「うわ、わぁ~…!」



 パアアアァァ…と、幻想的な風景が広がる。色とりどりに輝くガラスが…宝石のように輝いている。綺麗…。
 反射しているのか、一瞬だけ礼拝堂全体が光に包まれる。こりゃ早起きの甲斐がありますな。

 だがその光景は長くは続かなかった。輝きは数秒で終わってしまったが…もっと見ていたかったなあ。


「2人はこれを見る為に早起きしたのね」

「うん!おにいちゃんに、おこしてもらったの」

「……」

 そっか、ありがとうね。グラスにお礼を言うと、顔を赤くして目を逸らしてしまった。照れ屋さんめ。


 本当はもうちょっとのんびりしたかったけど、急いで確認したいことがあるんだった。厨房だ。

「ねえ2人共、厨房の場所教えてくれない?」

「アーティがおしえてあげる、こっち!」

 彼女は僕の手を引き、走り出す。こらこら、走っちゃダメ。走り回るのは緊急時と外だけ、いい?
 …決まり作るか。局中法度みたいな。…切腹はしないけどね!院則、かな。


 手を繋ぎながらゆっくり歩く。グラスも無言で後ろからついて来て、アーティは一生懸命おしゃべりしている。僕は笑顔で相槌を打っていると、厨房に到着した。
 そこには立派な石窯もあり、広さも何も申し分ない!だが当然食材と調理器具は無いので…揃えなきゃなあ。

 広い作業台を眺めながら、早速パンを作ってみたいなと考える。
 僕達のお小遣いには限度があるから…お店が開く時間になったら、まずパン作りに必要な物だけ買ってこようっと。



 ?アーティが眠そうにしている。はは、ちょっと早起きすぎたかな?
 舟を漕ぐ彼女を抱っこして、皆が眠っている部屋に連れて行く。まだ皆雑魚寝状態だけど、個室とか必要だよね。せめて男女には分けよう。

 お邪魔しまーす…と小声で入室し、眠っているミントの横にアーティを寝かせた。グラスは?寝ないの?

「おれはいい」

「そう?じゃあ折角だから、教会内案内してくれる?」

 すると彼は無言で歩き始めたので、僕も後をついて行くのであった。



 ざっと回ったが、個室として使えそうな部屋は大小合わせて20室もあった。でも住み込みの職員とか雇ったら、彼らにも必要だし。大部屋も3つほどあったので、1つはレクリエーションルームかな。

「あと…勉強部屋にしよっかな。文字の読み書きとか計算を教えようっと。
 もう1つは…保留で。…どこかに僕の部屋欲しいな…あと家具とか必要か」

 ぶつぶつ言いメモを取りながら進み、グラスは無言で案内してくれている。自分の考えに集中出来るからありがたいや。意見を聞いたらちゃんと答えてくれるし。
 それに精霊達も案内してくれている。僕が元気になったと判断したのか、近くにはいるがさっきほどくっついてはいないけど。



 室内は大体終わったので外に出る。井戸の側に洗濯場欲しい…日当たりのいいとこに物干し竿も。
 あと遊具欲しいな!シーソーとかブランコとか滑り台とか。絵に描いたら、ドワーフ職人が作れるかな。


 そうやって探索しているうちに、子供達が次々起きてきた。もうお店も開いてるだろうし、買い物行こうかな。
 僕達がパンとかを持って来れないと、彼らは今まで通りゴミを漁ったりして飢えを凌ぐらしい。…急ごう。






「…よし!あー、重い…!」

 誰かに荷物持ちでついて来てもらおうと思ったけど、今の彼らは服もボロボロで…お店の人が嫌な顔をするんだ。僕は気にしないけど、子供達自身が気にしている。なら無理強いは出来ないよ。
 精霊も今はエアとラナがお付きだ。よろしくね!

 しかし小麦やバターをいっぱい買ったので重い…器具も。店員さんにも心配されちったよ、道行く人にもね。
 だがこれも特訓、気合入れて行くぞ!ふんぬっっ!!



「…ラサーニュ?」

「へ?」

 お呼び?今僕は髪も身分も隠していないけど、誰にも気付かれないと思ってた。
 だって赤髪って少ないけど珍しくもないし、普通貴族の子供が1人で大荷物持って歩いてるなんて誰も思わないもんよ。
 だけどラサーニュなんて呼ばれたら、そりゃ反応しちゃうよね。声は前から聞こえてきたけど、一体誰………!?


「パ…、マクロン様!?」

「なんでこんな所に…?」

 こっちのセリフですけどお!?びっくりし過ぎて荷物落としちゃったよ!!
 だが間一髪、エアが風を操り受け止めてくれた。え、そのまま運んでくれるって?ありがたや。

 と、それより今は目の前の彼だ。なぜここに?うちに何か用が…?何も聞いてないけど。


「あの、マクロン様。伯爵家に用でも?」

「いや…少しな。それよりもすごい大荷物じゃないか。他に誰かいないのか?」

「僕1人です」

「そうか」



 ………何故立ち去らない。僕も行きづらいじゃないか。用を聞いてもはぐらかすって事は知られたくないんだろうし、「じゃ、僕はこれで!」とか言って帰ってもいいかな?
 こんな大通りのど真ん中に2人で突っ立ってるのも邪魔になりそうだし…。

 あ、そういえば。

「あの、マクロン様!」

 僕が急に大声を出したもんで、彼は一瞬ビクッとした。
 なんか申し訳ないと思いつつ、まずは道の端っこに寄ってから、僕は顔を近付けて小声で言った。

「あの…!その、ですね。僕が…以前僕が図書館塔で泣いていたこと、誰にも言わないで欲しいのですが…!」

「近い近い!!…ああ、あれか…」

 あれかじゃないよ、僕にとっては大事なことなので!!あれ以来噂にはなってなかったけど、きっちり念を押しとかなきゃ安心できないよ!
 パスカルもすぐに思い至ったようで、僕を押し退けながら頷いてくれた。


「別に、最初から誰にも言うつもりは無い。
 だが…条件という訳ではないが…1つ、頼みがあるのだが…」

 交換条件だね!?僕に出来ることならある程度は叶えまっせ!!
 僕は両手を握り締め胸の前で構え、パスカルの言葉を待つ。

「そんなに気合を入れなくていい。
 …俺の事は、名前で呼んで欲しい。敬称も敬語もいらない」

「…へ、それが条件…?」

「だから条件ではないと…」

 いや、だって…そんなことでいいの?僕のこの握り締めた拳はどうしてくれる?
 彼の方が家格が上だからと思ってたんだけど…本人がいいと言うのなら、いっか?

「わかった…パスカル」

 そう言うと彼は嬉しそうに微笑んだ…やっぱ顔立ち整ってるなあ、この人…。眼鏡、いやモノクルとか似合いそう。あんなん着けてる人見た事ないけど。
 とにかくよく分からんが、僕と仲良くしたいと思ってくれているのかな?


 …あ、そっか!!!この段階の彼は、「初恋の少女はシャルロット・ラサーニュかもしれない」と疑っている時期か!!!
 なーるほど、合点いきました!!僕の普段回らない頭が高速回転しております!

 つまり兄である僕と仲良くなって、その少女がロッティだったと確証を得たい訳ね!
 確か…パスカルの回想で語られていた、初恋の少女との出会いはどんなだったか…。



 パスカル・マクロンは幼い頃、家族旅行でラサーニュ領の近くまで来たことがあった。
 帰り道、彼のお姉さんがこの町に寄ってみたいと言い、少し町中を歩くことに。

 すると彼は、建物の隙間に蹲る赤髪の少女を発見する。放っておけず近寄ると、どうやら泣いているようだった。
 なぜ泣いているのか問い掛けると、少女は驚いて勢いよく顔を上げた。そして怯えたように、ますます泣いてしまった。
 その女の子があまりにも可愛らしく…パスカル少年は恋に落ちてしまいましたとさ?


 うーん、怯えて泣く顔に惚れるって…あなたはドSですか?腹黒キャラだったはずですが、ドS要素も兼ねていましたか?

 その後の展開は覚えていない。なんで少女が泣いていたのかも…迷子かな?伯爵とはぐれて泣いちゃったのかな?
 でも僕じゃあるまいし、ロッティそのくらいで泣くかなあ?むしろ伯爵を放って1人で屋敷まで帰ってそう。そんで伯爵は警備総動員して捜索しそう。
 でも彼の回想では、確かに「少女」だったし。他に赤髪の少女いるのかな…?



「…い、おい、ラサーニュ?聞いているのか?」

「ほっっ!!?聞いてなかった!!」

「…全く」

 いかん、思考に集中してた!そうだったまだパスカルはここにいたんだった!
 で、なんの話?

「だから…俺もお前の事を名前で呼んでいいかと」

「え、もちろん」

 そんな確認とらなくていいのに。真面目な人だなあ。
 彼は僕の答えに満足したのか、帰ると言った。僕も途中までは一緒なので、世間話をしながら並んで歩く。
 荷物はエアが持って先に行くと言ってくれたのでお願いした。その様子を見たパスカルは感心した様子だ。


「本当に精霊と仲が良いんだな。あの授業の時も、フェニックスを追い返したのもお前だろう?」

「え?いやあ、それほどでも。それにフェニックスは追い返したんじゃなくて、彼が退いてくれただけ。僕は何もしてないよ」

「そうだとしても、誰も動けなかったあの状況で行動出来たお前は大したものだ。
 俺など威圧感にやられて目を回していたというのに…お前の勇姿を是非この目で見てみたかった」

「い、やぁ~…はは…は…」

 何この人、なんでベタ褒めしてくるの…!?嬉し恥ずかし照れくさくて、僕の顔は真っ赤っか。くう、僕の印象を良くしてロッティに近付こうって腹積もりだな!?オッケー口添えは任せなさい!!



 その後は取り留めない会話をし、分岐点で分かれる。また新学期に、と言い背中を向けたら…

「あ、待ってくれ!その…この町に、お前のような赤髪の子供は多いのか?」

 情報収集だね!?僕は何も知らないふりをし、事実を述べる。

「うーん…あまり見かけないけど、全然いない訳じゃないからなあ。でも同年代では見た事ないかも?
 あ!鮮やかな深紅の髪は老若男女僕の妹だけだよ!ロッティだけ!オンリーワァン!!」

「そ、うか。ありがとう」

 パスカルは僕の勢いに圧され気味のようだが、伝わったようだな。
 君の探している赤髪の少女は1人しかいないという事…ふっ、僕は見事キューピッドとしての役目を果たせた…。

 じゃ…そういうことで…。とカッコよく去る僕。なんならオマケで手も振っちゃう。
 彼がどんな表情をしているか分からないが、新学期が楽しみだ!!





 教会に戻った僕は、早速パン作りに取り掛かる。ミントとセージが手伝いを申し出てくれたので、3人で僕の指示のもと作る。

 苦戦はしたが…なんとか形にはなったかな?そしてここからが大事、石窯で焼く!!
 もちろん予め薪を使って加熱済み。そうだ、薪割りも当番制にしよっかな?


「この火加減と時間が難しいんだ。この時計、厨房用に置いておくから使ってね。
 まず最初は…」

 暖炉がいれば、熱上げ過ぎたー!って時も下げてもらえるから楽なんだよね。今日は彼に手伝ってもらうけど、次は完全人力で頑張ろう。


 そうして完成したパンは…ちょっと焦げちゃったけど成功!
 子供達を集めて振る舞うと、皆美味しい!って笑顔で食べてくれた。そんな反応されたら…嬉しくなっちゃうし、もっともっと美味しいパンを作る!ってなるよね!
 ほらほら、つかえてるよ。水飲んで、ゆっくり食べな?その時は和やかな雰囲気だと思ってたのだが…


 …グス…


 …誰か、泣いてる?あれは、三男ことパセリ?
 パセリは涙を流しながらパンを食べている。良く見ると、他にも何人か。どうしたの…?



「……パンって、あったかいものだったんだな」

 聞くと、彼は僕がパンを持ってきた数日前まで…捨てられていた誰かの食べかけや、ゴミに入っていたカビているようなパンしか食べた事がなかったらしい。
 彼の言葉を聞き、僕は何も言えなかった。セージ達年長組は神妙な面持ちだし、ちびっ子達はつられて泣いてしまっている。

 僕はパセリを抱き締めて、「大丈夫、君達は僕が守る。これからは、温かくって美味しいパンを沢山食べよう」と言った。

 もちろん彼らに伝えたつもりだったが、自分に言い聞かせる意味もある。自分への誓いを新たに立てたのだ。
 パセリはこくりと頷き、軽く抱き返してくれた。そして

「ありがとう…最初は、ごめんなさい…」

 と小声で、僕にだけ聞こえるように言った。
 最初って、あのガラス片を持って食いもん置いてけって言った事?気にしてないよ、君は偉かった。頑張ったね。
 そういう意を込めて、僕は彼の頭をポンポンと優しく叩くのであった。
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