【完結】勘当されたい悪役は自由に生きる

雨野

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学園1年生編

08

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「「…………」」

 さて、僕達は現在2つ並ぶベッドにそれぞれ腰掛け、対角線状に向かい合っている状況だ。こうしてサボっているのはいいが…話題は特に無い。
 というか以前口論になりかけたアレ、あのせいで彼との距離感が掴めないでいる。


 ロッティを侮辱する輩を好きにはなれない。
 だが…フェニックス事件を経て、今日は共に困難を乗り越えた事により…謎の連帯感が生まれてしまった。正直なところ僕は、以前ほど彼のことを嫌ってはいないと思う。

 もしも彼がロッティに謝罪してくれたら…僕もエリゼに謝ろう。ジスランにも謝らせよう。
 だがこの状況、妹に謝れなんて言えない。でも絡んで来たのは彼からだから、僕が先に謝るのも違う。どうするか…。



「……なあお前ら。気まずい雰囲気やめてくれないか?同じ空間にいる先生の身にもなって欲しいものだが」

 ごもっとも。先生は机に向かって仕事中のようだ。こっちを見ている訳じゃないけど、空気を感じ取ったんだろう。
 でもどうしろと。



「……ラサーニュ」

「っ、何?」

「ボクは…弱い人間が嫌いだ」

「……はい?」

 いきなり何を?いやまあ、君がそういう性格だってのは、漫画で分かってたけど。
 彼の発言の意図が読めず、困惑するしかない。…もしかして、お前みたいな弱っちい奴は大っ嫌いだ!!って言いたい?あ、ヤバい。ちょっとずつ腹立ってきた。


「ラブレー、言いたいことはちゃんと全部言葉にしろ」

 僕が喧嘩腰になりかけていたら、先生が口を挟んだ。なんだよ、子供の喧嘩に大人が出て来ないで欲しいんだけど!
 とはいえ、少し冷静になれた。ふう~…。



 彼は口籠った後、静かに語り始めた。


「僕は…た、例えばシャルロット・ラサーニュ。彼女は誰もが認める優等生だし、自分の立場や価値を理解している。だからボクより成績が良いのは癪だが…認めている」

 は?

「他には…ジスラン・ブラジリエ。あいつはただの阿呆だと思っていたが…あの愚直な様は別の意味で凄いと思っている。自分に出来る事だけをする、勉強が駄目なら剣を極めようと努力する。それに関しては…認めている」

 はい???

「後は…他にも…いるけど…」

 ……つまり、何が言いたい…?


「…ボクが嫌いなのは、弱いくせに他人の皮を借りて横暴に振る舞う奴。才能も無ければ努力もしないくせに、他者を妬んでばかりの奴」

 ……ああ、そういうこと。


「つまりそれは…僕の事って言いたい訳だね?」

 僕がそう言うと、彼は身体を震わせた。
 別に誤魔化さなくていいよ、本当の事だろうし。横暴に振る舞った記憶は無いけども。


「ち、がう…!いや違わないんだけど…!

 …っボクは、お前の事を勘違いしてたんだよ!優秀な妹の実績を我が事のように誇ったり、強い友人が常に側にいる、と悦に浸っている!他人の力を当てにする、よくいる無能人間だと思ってたの!!!」

「「……はいぃ??」」

 あ、先生も堪らず反応しちゃったね。
 彼は冷めてしまったコーヒーをぐいっと呷り、「おかわり!!」と先生がいるほうにカップを突き出した。なんやかんや文句を言いつつ、ちゃんと席を立って受け取って、新しく淹れてまた彼に手渡す先生。うーん面倒見がいいんだな。

 エリゼは新しいコーヒーをあちちと言いながら飲み、カップを見つめながら言葉を続ける。


「…だから。何を言いたいかというと…あの事件の時、お前はボクの前に立ってくれた。
 フェニックスに立ち向かうお前の横顔。震えながらも凛としたお前の姿を見て…美しいと思った。その、覚悟が。
 それにさっきも、あの怖い皇太子殿下にも真正面から発言していたし。
 それで今までのお前を思い返していたら…ボクは、お前の表面しか見ていないって気付いた。

 だから…」


 彼はカップをギュッと握り顔を上げ、僕の事を真っ直ぐに見据えた。


「———ごめん。お前はちゃんと努力してたんだよな。
 優秀な妹がいるって事は、常に比較され続けるって事だ。それでもお前は腐らずに、妹の功績を喜ぶ事が出来る。ボクのような思い上がった人間にも冷静に意見してくれる。
 どんな意図があったにせよ、ボクを守るために命をかけてくれた。

 そうだ、お前は勇者なんかじゃない。苦悩し、努力し、転んでも立ち上がる…人間だ。
 ボクはそんなお前を…尊敬する」


 ……僕を、尊敬…?君のような…才能溢れる人間が?


「もちろん、お前の妹にも後で必ず謝罪する。ブラジリエにも。だから、その…えーと。
 ボ、ボクと、友人に——…ラサーニュ!?」


 ?何をそんなに慌てている?と思ったら…自分の頬を温かいものが伝っている。
 僕はいつの間にか、涙を流していた。

 なんで?
 ロッティじゃなくて、僕を見てくれたから?
 …僕の些細な努力を、認めてくれたから?
 分からない、分からないけど…。


「…ラブレー…。君は、僕の事、凄いと思ってくれている?」

「もちろんだ。生まれた時から比較され続けるなんて、ボクだったら耐えられない。お前はボクには出来ない事をやってのけている。誇るがいいぞ」

 涙が止まらない、情けない…いい年してまだ泣き虫が治らないとは…。
 気付けば彼は隣に座り、僕の背を撫でてくれている。その優しさに更に涙が溢れる。
 ハンカチを差し出されたので、眼鏡を外して顔を拭いた。どんどん出てくるけど、無いよりマシだ。


「ぼ、ぼく…どんなに頑張って、も…ロッティや、ジスランに敵わなく、て…。
 努力が、足りないから、だって…ずっと思ってて、父上にも、そう言われて…」

「いいや、お前は頑張っている。人の親を悪くは言いたくないが、お前の父親は見る目が無い。
 それに人には向き不向きがある、ブラジリエがいい例だ。
 あいつは天地がひっくり返ってもテストで1位にはなれないだろう。もし世界が滅んでこの地上にただ1人で生き残っていれば、可能性はあるだろうが」


 エリゼは僕を泣き止まそうと、柄にもなく冗談を言ってみせる。
 ふふ…確かに、ジスランは1位にはなれないかもね。剣だったら…別だけど。
 少しだけ、元気が出た。


「でも僕は…他人に誇れる事なんて、何も無い。卑怯者で、卑屈で、無能だ」

「あの時、ボク含め誰も動けなかった状況で、真っ先にボクの所に駆けつけてくれたのはお前だ。
 それだけでもあの場にいた誰よりも、お前は勇敢で高潔な人間だと思っている。お前自身が認めなくても」


 僕は、僕は…父上の期待にも応えられなくて。なんの罪もない妹を妬んで憎んで。そんな醜い僕でも…


「少しだけ…自分の事を、好きになっても、良いのかな…」

「いいに決まってるだろうが。それに、ボクはすでにお前の事が好きだ。尊敬出来る友人だと思っている。…セレスタン」

「…ふふ、セレスでいいよ、エリゼ。
 それに、僕こそごめんね。あの時はああ言ったけど…君は立派な紳士だよ」


 ありがとう。君のお陰で…ほんのちょっとだけど、自分に自信が持てたかも。
 そう言ったら、彼はにっこり笑ってくれた。大体彼の笑顔って、嘲笑とかほくそ笑むような感じだったから…初めて、彼の素顔を見た気がする。








「…だからな?弱い人間は、強者に恭順してればいいの」

「それは極端じゃない?」

「いいんだよ。その代わり、強者は弱者を守る義務がある」

「あー…そういう事ね」


 先程までとは打って変わって、話が弾む。色々話してくれたが…彼はただ傲慢なだけの人間じゃなかった。
 人間には必ず優劣が存在する。だから上の者が下の者を保護するのは義務のようなもの。
 代わりに下の者は、上の者を敬う。上の者は期待に応え、それ相応の振る舞いをするべきだ。というのが彼の持論。
 それって…まさにノブレス・オブリージュじゃないの?貴族の義務。

 更に人間、努力をしてもどうにも出来ない事も沢山ある。もっと言えば、努力出来ない人だって沢山いる。
 それならそれでしょうがない、ただしそういう人は、決して頑張る人間を笑っても妬んでもいけない。
 自分に出来ない事をやってのける人間は、尊敬すべきだと。もちろん犯罪は除くが。


 聞けば聞くほど、語り合うほど…彼は真っ直ぐな人間なんだなと思う。
 しかしプライドはクソ高い。どんな相手であれ、一度ぶつからないと打ち解けられないみたいだ。なんというか、河原で殴り合った後共通の敵が現れ、力を合わせて勝利しその後友情で結ばれるヤンキー的な。…混ぜすぎて自分で言ってて訳わからん。
 要は自分と渡り合えないような奴とは仲良くしないよ、ってか?


「そりゃもちろん。互いに尊敬し合えるような人物でなければ、友情とは呼べないだろ」

「む。一理ある。世の中には、引き立て役にする為自分より可愛い子とは連まない女の子とかいるし」

「なんだそれ、女怖っ。
 それよりあの時…胸ぐら掴んで悪かったな。今更だけど。お前がブラジリエの後ろ、安全な所から口出ししようとしている風に見えたもんでな。」

 はははと笑う彼は、今までとは印象が180度違うなあ。
 うん、今のほうが断然いいよ。

 …と、そういえば。


「ねえ、さっき殿下に褒められた時…なんで泣きそうになってたの?」

「げ、見えてたのか…。それは、素直に嬉しかったからに決まっている。
 誰かに褒められるなんて、久し振りだったんだよ。しかも相手は殿下だ。感無量、ってやつだよ」

 …え。魔術の天才と呼ばれる君が?
 すると彼は呆れた顔をして、僕をビシっと指差した。こら、やめなさい。

「それだよ、それ。お前も偏見を直したほうがいいぞ。
 例えばだな…赤ん坊が初めて立ち上がった時、大抵の親は喜ぶだろう?」

 まあね。我が子の成長だもの。うちはどうだったか知らないけど…って今はそれは置いておこう。

「そして歩くようになり、走れるようになる。だが感動は続かないだろう?
 今12歳のボク達に『すごいね~、立って歩けるなんて!』と言う奴はいない。

 …つまり。ボクが天才である事が、当たり前になっているんだよ」


 ズガアアアアァァァアン…!!!


 彼の言葉に…僕は雷に撃たれたかのような衝撃を覚えた。
 つ、つまり…。


「テストで100点を取り続けたら…褒められなくなる感じ…?」

「それもあるな。100点がデフォルトになって、99点を取ったら怒られたり失望されたり」

 
 …僕、ここ最近ずっと…ロッティのこと…。


「今のボクは、何をやっても『天才なんだからそのくらい当然』って言われるんだよ。だからストレートな褒め言葉、特に目上の方からの称賛は嬉しい…って、聞いてるのか?」


 ごめん、聞いてない。だってそれどころじゃないもの。
 僕は…ロッティは完璧だから。テストで1位も当然だし、誰よりも優れていて当たり前…って思ってた…。
 もちろん彼女が他人から評価されるのは嬉しい事だったんだけど、今更じゃないか?僕の妹は完璧なんだから!この程度じゃないぞ。もっと凄いんだぞ!とすら思って…だから…


「僕…ロッティに、テスト1位おめでとうって…言ってない…!」


 その言葉に…エリゼは口を大きく開けて間抜け面を晒した。

「…は、はあああああ!!?一言も!?嘘だろう、僕ですら家族に惜しかったね、だが良くやった。とか言われたのに!?」

「いや、両親や使用人達やクラスメイトからはちゃんと祝福されて…って、君が絡んできたからタイミング失ったんじゃないのっ!?僕あの場で言おうと思っ」

「他人の所為にするなっ!!その後いくらでも機会はあっただろうが!!
 お前からの一言を待っているかもしれないんだぞ!?」

 ぐう…!その通りですよ!!!
 なんてこった…僕が一番、ロッティの事を見ていなかったんだな。
 彼女だって、ちゃんと努力している人間だって分かっているはずなのに…!

 あわわ、えらいこっちゃ、えらいこっちゃ!


「どうしよう…今更すぎるよね…」

「……とりあえず謝って、遅くなったけどちゃんと褒めてやれよ。…プレゼントとか用意するといいんじゃないか?
 それにこういうのは早めがいい。よし、今から街に行くぞ!」

「ええええええ!いっ今から!?」

「思い立ったら即行動、善は急げ!」


 エリゼは戸惑う僕の腕を引っ張り立ち上がらせた。
 だがそんな僕達の前に立ちはだかる壁が。

「お前ら…堂々と抜け出しかい…」

「なんだゲルシェ教諭、いたのか」

 医務室の番人、オーバン・ゲルシェ先生である。
 何事にも寛容な彼だが、流石に見過ごせないようで僕達の頭をガシッと掴んだ。

「ずっといたわ、ボケ。人のテリトリーで青春繰り広げやがってと思いきや…また生徒会室に呼ばれたいのか?今度は反省文と説教は免れないぞ?」

 ぐぐぐ…意外と力強い!僕若干足浮いてます、首がああ!
 やっぱりここは諦めて、放課後まで待つしか…!

「くあああ、こんの不良教師ぃ…!離さんか!こっちこそお前が仕事しょっ中サボってるのを学長にチクるぞって、あたたたた、ちょっ、いだだだだ!!おいこら!」

「この状況で悪態をつけるお前を尊敬するわ」

 先生は呆れながら、手を離してくれた。あいたー、まだズキズキするよう。
 エリゼは涙目になりながらも、「このボクにこんな…!」とまだ言ってる。強いな君。



「…おい」

 観念して教室に戻るかー、と話し合っていたら、先生が僕に何かを投げて寄越した。…財布?

「…お前らお使い頼まれてこい。
 先生は今、コーヒー受けに菓子が欲しい。街に焼き菓子専門の『アリエ』っつー店がある。
 今すぐ食いたい猛烈に食いたい、買って来い」


 それって…。
 先生はそれだけ言うと、さっさと席に座り仕事を再開した。
 背中しか見えないけど…今どんな顔してるんだろう?…えへへ。


「ふっ、なんだ話の分かる男じゃないか先生!
 行くぞセレス、時間は有限だ!」

「あ、待ってー!
 先生、ありがとうございます!」

 バタバタと慌ただしく廊下に出る。後ろで、先生が小さくフッと笑った気がした。

 



 街までやってきて、色んなお店を回った。
 小物、本、文具、菓子…悩む。

 ジスランに万年筆を贈った時もそうだけど。僕はこういうの苦手なんだよなあ。
 おかしくないかな?気に入ってくれるかな?迷惑じゃないかな…と考えすぎてしまうのだ。

 だがそんなもの、エリゼに言わせれば「自分が贈りたい物を選べばいい!あの妹がお前からの贈り物を否定などするもんか!」らしい。君、意外とロッティと仲良し?

「知らぬがホトケ…ってどこの言葉だったかな。
 まあ確かにアクセサリー系は趣味があるだろうし、菓子はどうだ?妹の好み、分からないのか?」


 うーん。彼女は昔から好き嫌いをしない。ただ表に出さないだけで…嫌いな物はあるらしい。

 最近気付いた事だけど。ロッティはサラダに入っているトマトを一瞬睨みつけて一呼吸置き、一気に飲み込んでいた。あれ、無理やり流し込んでるんだろうな。
 逆にケーキに乗っている苺は真っ先に幸せそうに食べる。表情はあまり変わっていないが、雰囲気が違う。


「苺…かな」

「よし。じゃあ生の苺よりやっぱり菓子だな。行くぞ!」

 何故か僕より張り切っているエリゼ。
 …やっぱ君もロッティを!?だよね、あんなに可愛くて優しくて穏やかで素敵な女の子なんだから!!
 くうう、なんてこった。僕は誰を応援すればいいんだ…!個人的にはバジルに頑張って欲しかったんだけど、最近揺らいでいる…!誰に任せても、きっとロッティを幸せにしてくれるだろうから…!!

 そんな僕の苦悩もなんのその、エリゼはとっとと店に入って行った。
 任せろ、ちゃんと妹に君が一緒に選んでくれた事を伝えるから…!僕は心の中で親指をぐっと立てた。

 




「ただいまー。買ってきましたよ、先生!」

「おう、おかえり」

 もちろんお使いも忘れてないぞ!エリゼは忘れて帰ろうとしていたけど。

 先生にお菓子とお釣りを手渡したら、んじゃ食うか。とコーヒーを3つ淹れていた。
 …僕達の分?もうちょっとサボっていいのかな?

 こういう先生の細やかな優しさに、僕は頬が緩むのを抑えられないのであった。



 そして大分サボってしまったので、戻ったのはランチタイムになってからだった。
 一部の生徒は教室でお弁当。大半は学食(もちろん貴族仕様の豪華なやつ)に行く。僕達も普段学食なんだけど、教室にはまだロッティ達が残っていた。待っててくれたのかな?

 僕の姿を確認すると、ロッティが顔を輝かせて抱きついて来て「遅かったじゃない!どうしたの、会長に何か言われた!?何かされてない?」と僕の顔をペタペタ触った。ふふ、心配してくれてありがとう!

 そんな君に、はい!

「……お兄様、なあにこれ?」

 首を傾げるロッティにお菓子の入った紙袋を持たせて、その手に自分の手を重ねる。
 上手く伝えられるか分からないけど…自分の正直な言葉で、大切な君に贈りたい。



「あのね、遅くなっちゃったけど…学年1位おめでとう!

 本当はもっと早く言うべきだったんだけど…昔から誰よりも近くで君を見ていて、その…えーと?君が僕の自慢の優秀で可愛いくて大好きな妹だってのが当たり前になってて。
 テストで1番だって別に驚かなかったの。だってロッティだったら絶対1番だって分かってたもん!

 でも、それは君の努力の結果だし。本当に、凄いと思ってるからね!本当だから!…伝えるのが遅くなってごめんなさい。
 ロッティ。おめでとう、頑張ったね。
 それでね、これおめでとうのお菓子。エリゼが一緒に…うわっ、え?何?駄目?そう…?
 えっと…食べてくれると嬉しいな。なーんて…。

 それと…今度から、父上や母上が見てない所だったら、トマト僕のお皿に移していいから!頼りにならないかもしれないけど…僕はお兄ちゃんなんだから、もっと甘えていいんだよ」



 長ったらしくなってしまったが…伝わったかなあ…?なんか途中でエリゼに後ろから突かれたけど。この照れ屋さんめ?


「……………」


 だが肝心のロッティは、目を見開いたまま微動だにしない。
 …今更だって怒ってる?訳ではなさそう。僕としては「わあ、お兄様ありがとう!」って喜んでくれるかと思っていたんだけど…。あらまっ?

 僕だけじゃなく、側で見守っていたジスランもバジルも、エリゼも何事かと慌てている。教室に僅かに残っていたクラスメイトも。


 …あの~、ロッティ?シャルロットさん?目の前で手を振っても無反応。すでに5分経過。目乾かない?

 そう思って彼女の顔に手を触れたら…



「……………尊い………」



 ロッティは…一直線に後ろに倒れた。


「わあああああっっ!!?ど、ロッティ、どうしたのーーー!?」

 間一髪ジスランが受け止めたお陰で頭は打たなかったが、彼女は真っ白に燃え尽きたかのようにフッ…と気を失った。






「先生ーーーっっっ!!!ロッティが、ロッティがあぁーーー!!!!」


「お前ら…しばらく医務室来んな…」

 
 大泣きしながらロッティを連れて戻って来た僕に、ゲルシェ先生は大きくため息をついたのだった。


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