上 下
5 / 224
学園1年生編

04

しおりを挟む

 それから数日間、特に大きな問題もなく日々を過ごす。
 変わったことといえば、エリゼがやたらと睨みつけてくるようになったこと。僕が女子生徒に話しかけられることが増えたくらいか。モテ期かな?



 今日はこれから魔術の授業がある。本格的に始まるのは3年生になってからなので、週に1回しか無いのだ。最近基礎を終えて、いよいよ実践に入る。


 確かこの実技で…エリゼが張り切りすぎて、フェニックスを召喚するんだ。

 今日は下級の名もなき精霊たちを召喚し、魔術に触れるという初歩的な授業だ。そもそも魔術ってのは、自分の中の魔力を燃料に、自然の力を借りて行うもの。自然そのものである精霊たちと触れ合うことで親和性を高め、魔術が行使しやすくなる。
 そこでエリゼは調子に乗り、最上級の精霊を呼び出そうと試みた。自分なら出来る、という謎すぎる自信のもとに。なぜなら天才だから!

 人間が自然の力をお借りするのに、反動が一切無いわけがない。あまり魔術を使いすぎると命を縮める。まあその前に魔力切れで倒れるけど。
 エリゼが天才と言われる所以は、魔力量が桁外れに多いのと体質的に自分にかかる負担が少ないから。
 故に他の人より沢山、そして強力な魔術を行使できるってだけだ。



 調子乗りまくりのエリゼは、炎の最上級精霊フェニックスを喚ぶ。自分はこんなすごい存在を操れるんだゾ!と周囲にアピールするためだけに。
 そして召喚が成功すると、彼はぶっ倒れる。意識はあるけど、まだ最上級を喚ぶには修練が足りなかったんだろう。
 その結果、こんなクソガキに用もなく召喚されたフェニックスは怒り狂うわけだ。この会場は阿鼻叫喚に包まれる。
 フェニックスが動けないエリゼ目掛けて炎の塊を発射するが、彼に届く前に霧散する。ここでシャルロットが咄嗟に彼を庇い、エリゼの彼女に対する認識が変わるきっかけになる、はず。

 漫画ではシャルロットが炎をかき消したように見えたから、周囲からの彼女へ対する評価がまた上がるのだ。
 でもロッティ、フェニックスのブレスを防げるほど魔術得意だったっけ…?




 なので今、僕は悩んでいる。フェニックス召喚自体を阻止するべきか。召喚はさせて、ロッティとの仲を縮めてやるべきか。
 しかし彼がロッティと…うーん、ジスランよりマシと考えよう。いずれ勘当される為にも、あまり原作から外れた行動は慎むべきかな?


 …よし、勝手にさせておこう!どうせ危険は無いし!!怖い思いはするだろうけど、僕がフェニックスを見たいという欲もある。


 先生の許可が下り、皆召喚を始める。
 ロッティは人気者で、沢山の生徒に「一緒にやりましょう」と誘われている。なのでお兄ちゃんは1人でやりますよって。隅っこに移動して、と。
 僕も女の子数人に声を掛けてもらったが、1人になりたいので丁重にお断りした。

 そういえば精霊だけど。ロッティはヒロインらしく精霊にモテモテ~ってことはないんだよね。魔力量は多いらしいので、平均以上の成績は取ってるけど。
 それ以外は完璧なのに。精霊に好かれるのって、どういう基準なんだろ?



 授業で習った…下級の精霊を喚ぶ陣は至ってシンプル、ただの五芒星だ。早速地面にガーリガリ。
 視界の隅に、こっそり複雑な魔法陣を描くピンク頭を捉えた。よしよし、やらかしてくれよ。


 五芒星を描き、魔力を流す。そして言霊…。

「誰か…僕と一緒に遊んで欲しいな」

 魔術に呪文は無い。ただただ心から精霊に呼びかけるのだ。
 だから僕は願う。今日は触れ合いが目的なので、誰でもいいから遊びに来て!


「う、うわ、わあぁ…っ」

 ピカっ!と陣が輝いた後…溢れんばかりの精霊が来てくれた!姿は様々、人型動物型のちっちゃくて可愛い子達が僕の周囲に集まる。
 服の袖を引っ張ったり、髪の毛をむしゃむしゃしたり。頬をつついたり肩に止まったり!
 あはは、くすぐったい!こら、服の中に入ってくるんじゃない!あはははっ!

「とと、服の中は勘弁ね。出て来てくれる?」

 僕がそうお願いすれば、精霊はひょっこり出てきた。羊型の子だ、こりゃくすぐったいよね。
 彼らは命令は無視するが、お願いすれば聞いてくれる。人間と違って素直なのだ。

 そのまま地面に座り込み、皆で一緒に遊んだ。人型の子は砂の山を作り、僕にどれが一番大きいかジャッジを託し。
 かけっこしたり、僕の肩や膝の上に整列してる子達もいる。周囲を飛び回るだけの子も多いし、寝ている子もいる。おいおい、遊んで欲しいのだが。



「お、おい、セレスタン…」

「ん?ジスラン…なんか用?」

 折角戯れていたというのに…またこの男が邪魔をする。少しくらい顰めっ面になってもしょうがないよね?早よどこか行ってくれないかな。
 僕の対応に少し戸惑っているが、彼はそのまま隣に座り込んでしまった。

「何?君も早く召喚しなよ」

「したのだが…こっちに来てしまって…」

「え?」

 そういえば…最初召喚したのは20体程だったのに…僕の周り、倍以上に増えてないか?


「俺だけじゃないぞ」

 彼がちょいちょいと指差すほうに目を向ければ、クラスメイトがぽかんとこっちを見ている。な、何?
 ジスランが言うには、召喚した精霊が皆僕のほうに来てしまっているらしい。なんで!?漫画でそんな描写なかったでしょ…待てよ?


 そもそもこの辺りはフェニックス召喚しか描かれていなかったから…セレスタンなんて2コマくらいしか存在しなかった。
 フェニックスの裏にこんなエピソードがあったの?この漫画は恋愛メインで、ファンタジー要素は(僕の知る限りでは)重要じゃなかったから…この後精霊なんてほとんど登場しないし!

 というより、こんな状況あの自称天才が放っておく訳ないじゃん!?ボクよりも精霊に好かれるなんて~!と何故言ってこない!?
 と思ったら…一心不乱に魔法陣を描いていた…。ああ、そういうこと…。




「…よし、完成だ!!」

 お、やっとか。異変に気付いた先生が止めに入ろうとするが…遅い。


「ラブレー君!一体何を…!」

「あっははは!全員よく見ろ、僕の実力を!

 さあ来い!僕の呼び掛けに応えろーーー!!」


 しかも命令したな。
 召喚の際、お願いすると精霊が自分の意思で来てくれる。気分が乗らなければ来ない。
 命令されたら、強制的に来させられる。つまり…すっごい不機嫌なことも多い。
 授業で散々習ったのに…絶対に命令するなって言われてたのに…今すぐ魔術のテストを0点に直してもらえ。


 魔法陣がどす黒い色に光ってる…本来は山吹色のはずなんだが。実際に見ると怖…!
 流石のエリゼもたじろいでいる、というかぶっ倒れた。この色は精霊が怒ってる合図だ。やっぱり止めるべきだったか…!?


 ほんの少しの後悔と同時に。
 カッッ!!と一層強く輝き、魔法陣を風と土埃が大きく渦を巻く。

 …怖い…。怖い怖い怖い怖い!!
 呑気にフェニックス見たいな~とか思うんじゃなかった…!!竜巻越しにシルエットだけ見えるが、恐ろしい威圧感に潰されてしまいそう…!

 魔法陣の近くにいたエリゼはキツいだろう…あれ、ロッティは!?
 確かシャルロットがここで駆け寄って、エリゼの前に立つはずじゃ…っ


 ……あらーーー!!?
 ロッティの取り巻きが…現場からかなーり離れた場所でがっちり守ってるーーー!?なんで、確か漫画じゃ…あ!!


 しまった!!本来は…僕とバジルと3人で授業受けてるんだった!!なんで、なんで変わった!?
 …とか考えてる場合じゃない!!


「っセレスタン!!?」

 ジスランが僕に手を伸ばすが、そんなもの振り切ってエリゼに駆け寄る。僕のほうが足だけは速いんだからな!
 僕とエリゼの距離は約15メートルほど。急げ…!


 これは僕の責任だ。漫画で事故が起きなかったんだから、現実でも大丈夫だろうと高を括った結果だ…!!


 エリゼの元に到着すると、同時に竜巻が爆散した。眼鏡が吹っ飛び、今度は僕達をげほっ、煙が…!煙の壁で、ごほっ!包まれたっ…けほ。

「セレスタン!!くそ、近付けん…!」

 煙の向こうからジスランの声がする。もしかして今…台風の目状態?


 恐る恐る眼前に佇むフェニックスを見上げると…


「綺麗…」


 思わず見惚れてしまうほどに、美しく神々しかった。バサッバサッと羽ばたく姿も、炎を纏う黄金色の体も。僕達を見下ろす…真っ赤な瞳も……


 …はっ!!見惚れてる場合じゃない!!
 まだ動けないエリゼをぎゅっと抱き締める。「お、おい!?」とか喚いているが、無視だ無視!
 だが…なんでブレス吐かないの?ここは竜巻が爆散したと同時に放つんじゃなかったっけ。
 彼?彼女?は、僕達をただ静かに見下ろしている。それだけなのに…心臓を鷲掴みにされているような緊張感、息苦しさ、恐怖に襲われる。
 多分、蛇に睨まれた蛙ってこんな。知りたくなかった!!

 このままではいけないと、なんとか声を絞り出す。


「……申し訳ございません、こちらの者が無礼を働きました。
 どうか寛大な御心で、慈悲を…」

「お前…!」

 頼むから黙っててくれ。身体の震えが止まらない、今僕の顔面は蒼白だろう。
 それでも逃げる訳にはいかないし逃げ道も無い。そんな権利だってありはしない!
 目を逸らすな、フェニックスを見据えろ。魔術に自信は無いけど、攻撃をなんとか逸らすことが出来れば…!

 怯える僕の周囲にさっきの精霊達が集まってきて、守るように壁になった。駄目…!

「全ての責は私達にございます!どうか無関係の精霊達には、え…っ!?」


 グオオオオォォォォ…!!


「きゃあっ!?」

「うわああっ!!」

 まだ話してる途中なんですが!?フェニックスが大きく翼を広げ、鳴き声を響かせた。ビリビリと衝撃が伝わってきて、僕は…


 そのまま…気を失ってしまった。

 前のめりに倒れる。地面にぶつかる寸前に…何か、温かいものに受け止められた気がした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲーのモブデブ令嬢に転生したので平和に過ごしたい

ゆの
恋愛
私は日比谷夏那、18歳。特に優れた所もなく平々凡々で、波風立てずに過ごしたかった私は、特に興味のない乙女ゲームを友人に強引に薦められるがままにプレイした。 だが、その乙女ゲームの各ルートをクリアした翌日に事故にあって亡くなってしまった。 気がつくと、乙女ゲームに1度だけ登場したモブデブ令嬢に転生していた!!特にゲームの影響がない人に転生したことに安堵した私は、ヒロインや攻略対象に関わらず平和に過ごしたいと思います。 だけど、肉やお菓子より断然大好きなフルーツばっかりを食べていたらいつの間にか痩せて、絶世の美女に…?! 平和に過ごしたい令嬢とそれを放って置かない攻略対象達の平和だったり平和じゃなかったりする日々が始まる。

悪役令嬢はやめて、侯爵子息になります

立風花
恋愛
第八回 アイリス恋愛ファンタジー大賞 一次選考通過作品に入りました!  完結しました。ありがとうございます  シナリオが進む事のなくなった世界。誰も知らないゲーム後の世界が動き出す。  大崩落、王城陥落。聖女と祈り。シナリオ分岐の真実。 激動する王国で、想い合うノエルとアレックス王子。  大切な人の迷いと大きな決断を迫られる最終章! ーあらすじー  8歳のお誕生日を前に、秘密の場所で小さな出逢いを迎えたキャロル。秘密を約束して別れた直後、頭部に怪我をしてしまう。  巡る記憶は遠い遠い過去。生まれる前の自分。  そして、知る自分がゲームの悪役令嬢であること。  戸惑いの中、最悪の結末を回避するために、今度こそ後悔なく幸せになる道を探しはじめる。  子息になった悪役令嬢の成長と繋がる絆、戸惑う恋。 侯爵子息になって、ゲームのシナリオ通りにはさせません!<序章 侯爵子息になります!編> 子息になったキャロルの前に現れる攻略対象。育つ友情、恋に揺れる気持<二章 大切な人!社交デビュー編> 学園入学でゲームの世界へ。ヒロイン登場。シナリオの変化。絆は波乱を迎える「転」章<三章 恋する学園編> ※複数投稿サイト、またはブログに同じ作品を掲載しております

異世界で買った奴隷が強すぎるので説明求む!

夜間救急事務受付
ファンタジー
仕事中、気がつくと知らない世界にいた 佐藤 惣一郎(サトウ ソウイチロウ) 安く買った、視力の悪い奴隷の少女に、瓶の底の様な分厚いメガネを与えると めちゃめちゃ強かった! 気軽に読めるので、暇つぶしに是非! 涙あり、笑いあり シリアスなおとぼけ冒険譚! 異世界ラブ冒険ファンタジー!

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

記憶喪失の転生幼女、ギルドで保護されたら最強冒険者に溺愛される

マー子
ファンタジー
ある日魔の森で異常が見られ、調査に来ていた冒険者ルーク。 そこで木の影で眠る幼女を見つけた。 自分の名前しか記憶がなく、両親やこの国の事も知らないというアイリは、冒険者ギルドで保護されることに。 実はある事情で記憶を失って転生した幼女だけど、異世界で最強冒険者に溺愛されて、第二の人生楽しんでいきます。 ・初のファンタジー物です ・ある程度内容纏まってからの更新になる為、進みは遅めになると思います ・長編予定ですが、最後まで気力が持たない場合は短編になるかもしれません⋯ どうか温かく見守ってください♪ ☆感謝☆ HOTランキング1位になりました。偏にご覧下さる皆様のお陰です。この場を借りて、感謝の気持ちを⋯ そしてなんと、人気ランキングの方にもちゃっかり載っておりました。 本当にありがとうございます!

【完結】悪役令息アレックスは残念な子なので攻略対象者ノワールの執着に気付かない

降魔 鬼灯
恋愛
美人メイドに迫られたアレックスは、自分が悪役令息だったことを思い出す。  ヒロインの姉を凌辱して自殺に追いやり、10年後断罪されるアレックスって俺じゃない?  でも、俺の身体は女なんですけど…。  冤罪で断罪されるのを回避するべく、逃げ出したアレックスは、自分を監禁することになる攻略対象者ノワールに助けを求める。  ボーイズラブではないのですが、主人公の一人称は俺です。苦手な方はお控えください。 小説家になろう、カクヨムでも投稿していますが、アルファポリス版だけ内容が異なります。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前。でも……。二人が自分たちの間違いを後で思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになる。

のんびりとゆっくり
恋愛
俺は島森海定(しまもりうみさだ)。高校一年生。 俺は先輩に恋人を寝取られた。 ラブラブな二人。 小学校六年生から続いた恋が終わり、俺は心が壊れていく。 そして、雪が激しさを増す中、公園のベンチに座り、このまま雪に埋もれてもいいという気持ちになっていると……。 前世の記憶が俺の中に流れ込んできた。 前世でも俺は先輩に恋人を寝取られ、心が壊れる寸前になっていた。 その後、少しずつ立ち直っていき、高校二年生を迎える。 春の始業式の日、俺は素敵な女性に出会った。 俺は彼女のことが好きになる。 しかし、彼女とはつり合わないのでは、という意識が強く、想いを伝えることはできない。 つらくて苦しくて悲しい気持ちが俺の心の中であふれていく。 今世ではこのようなことは繰り返したくない。 今世に意識が戻ってくると、俺は強くそう思った。 既に前世と同じように、恋人を先輩に寝取られてしまっている。 しかし、その後は、前世とは違う人生にしていきたい。 俺はこれからの人生を幸せな人生にするべく、自分磨きを一生懸命行い始めた。 一方で、俺を寝取った先輩と、その相手で俺の恋人だった女性の仲は、少しずつ壊れていく。そして、今世での高校二年生の春の始業式の日、俺は今世でも素敵な女性に出会った。 その女性が好きになった俺は、想いを伝えて恋人どうしになり。結婚して幸せになりたい。 俺の新しい人生が始まろうとしている。 この作品は、「カクヨム」様でも投稿を行っております。 「カクヨム」様では。「俺は先輩に恋人を寝取られて心が壊れる寸前になる。でもその後、素敵な女性と同じクラスになった。間違っていたと、寝取った先輩とその相手が思っても間に合わない。俺は美少女で素敵な同級生と幸せになっていく。」という題名で投稿を行っております。

処理中です...