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始まりの終わり
しおりを挟む私は物心ついた時から、自由に走り回った記憶が無い。
3歳で難病と診断され、今日に至るまで人生の大半をベッドと車椅子の上で過ごした。
学校にも行けず、家族以外との交流は同じ病室の子くらい。他の子達が先に退院していくのを、どれほど見送っただろう…。
最初は希望を持っていた。いつかは私も…!と、辛い入院生活でも頑張れた。薬の副作用で体調を崩しても、髪が抜け落ちても、頬がこけても。窓の外に見える景色…下を見れば走り回る子供達。
春になれば新たな出会いが。
夏になれば海に山にバカンスに。
秋になったら行楽に。
冬の雪遊びは楽しいだろうなあ…。
私もあの中に入れると…信じて疑わなかった。
だが15歳にもなれば、嫌でも現実を突きつけられる。
私は、健康にはなれない…。日に日に悪化していく身体。上半身を起こすことも困難になってしまった。
数ヶ月前から呼吸器を着けなければならなくなっており、今の私は「生きている」んじゃない。
「生かされている」んだ…。こんな生活、なんの意味がある…?
もう何も知らない子供じゃない。きっと治療費だって莫大だろう。
いつも笑顔を見せてくれている両親だが…もしかしたら心の中では「こんな子、生まれて来なければよかった!」「早く死ねばいいのに」と思っているかもしれない。
ただの被害妄想だろうけど、私がいなければ生活はもっと楽だったろうに…!早く死んであげたいけれど、私には自由に死ぬこともできない…。
死を願う日々。それはついに終わりを迎える。
「…い。……ん…」
もう何日も前から、光も音も私には届かない。それでも微かに…何かが聞こえるきが、する…。
「ごめ…い。健康に…あげら…く…!」
そして何かが私の顔の上に落ちてくる…?冷たいけど…暖かい…なあ…。
ごめんなさい。病気になっちゃってごめんなさい。沢山お金を使わせてしまってごめんなさい。お父さん、お母さん…それと…。
『みてみてお姉ちゃん!ぼく保育園のかけっこでいちばんだったんだよ!』
『ほら、通学路にこんな花が咲いてたんだ。なんて名前か分からないけど、綺麗だよね』
『駅前に可愛らしいカフェが出来てたよ。ほら、これ写真。姉ちゃんが元気になったら、一緒に…』
『……もう、やめて!!私は外には出られないの、カフェなんて行けないの!!!お願いだから、私に希望を持たせないで…!!』
私のために、沢山のお話を聞かせてくれた…大切な弟。一度私が爆発してからは、事務的な会話しかしなくなってしまったけど…ごめんなさい。
健康で、自由なあなたに嫉妬してました。同じ血を分けた姉弟なのに、なんで…って。
本当に、ごめんね。今更信じてもらえないだろうし許してもくれないだろうけど…私は外の世界について語る、あなたの輝いた顔が好きだったよ。
意識が段々と遠くなる。きっと、もう目を覚ますことはないだろう。
最期に…伝えたかったのになあ。まだ手が自由に動いていたころ、遺した言葉…渡すのが照れくさくて荷物に隠したのだが…誰か見つけてくれるかな…。
私は、お父さんとお母さんの娘に生まれて、優也のお姉ちゃんでいられて幸せでした。ずっと病気でごめんなさい。私のことは忘れてもいいから…嫌いにはならないでほしいな…。
生まれ変わっても、また…かぞく、に…………
ピ、ピ、ピ、ピ、ピーーーーーー……
「あ、ああ、ああああああーーーっ!!」
「…………っ」
病室の中、無機質な機械音と…女性の慟哭のみが響き渡る。
女性の肩を抱き、自らも嗚咽を漏らす男性。そして横たわる少女の手を握り締め、静かに涙する少年。ベッドの周囲には医者と看護師が。
こうして私…齋藤優花は、短い人生を終えた。16歳の誕生日、前日のことであった。
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