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学園
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しおりを挟む1週間の空の旅は終わりを迎え、オレ達は魔国に降り立った。
夏ぶりのディスター城、の近くの草原。ここからは歩いて城を目指すが…。
「……雰囲気変わった?」
空はどんよりと暗く、周囲に木々が生い茂り。カラスはギャアギャア鳴き、風は生温くて、どことなく恐ろしげな…?
「こんな所に姫がいるのね…早くお助けしましょう!」
「行くよレイ、妹はきっとどこかの塔の最上階にいる!」
「地下牢の可能性もあるわよ。」
「確かに、なんてこっただね。」
もうツッコまねえぞオレは。
さくさく てくてく… 非戦闘員も全員、1列になって(なんで?)歩く。先頭はオレ、最後尾に会長だ。
城に近付くと…壁や柵に、蔦が絡まっているのが分かる。窓は微妙にひび割れが…改装したんじゃなかったの?劣化してない?
おっと門が見えてきた、誰か立ってる。予想通りではあるが…あれは…
「はあい、ご無沙汰~。」
「アンリエッタさん…!」
彼女は微笑み手を振る。それと…
「遅かったな、お前達。」
「……何やってんのディード?」
1週間ぶりのディードが、ぐるぐる巻きにされて門に吊るされている。捕まったの?馬鹿なの?
「私は2日前に着いていたんだが。陛下に「皆で一緒に来なさい!」と締め出されてな。待っていたぞ。」
「吊るされる理由になってなくない?」
んもー、世話の焼けるやつ。しょうがないので降ろしてやる、妨害される事なく救助完了。
さて…んっ?
「アイル…彼女が例の、アンリエッタさん?」
「おう。すごいだろ…。」
「うん…正直予想以上だ…!」
???アイルとラリーが、若干頬を染めてごくりと喉を鳴らした。
よく見ると…今日のアンリエッタさんは。全身黒い…ピチッとした革の服?ボディーラインを惜しげもなく披露して、胸元は大きく開いている…かなり刺激的です。く…っ!オレは惑わされねえぞ…!
「ア・ル・ビー?なあ~に…鼻の下伸ばしてるの…?」ギリィ…
「あだだだだだ。」
「トレイシー!もう、どこ見てるの!」
「えっと。いや…別に…。」ちらっ
「今ぼくの胸と見比べたよね!?」
リリーに耳を限界まで引っ張られるアル。パリスに小突かれる会長。
エヴィとラリーはアンリエッタさんをガン見、アイルはチラチラと、セルジュは…男連中の反応に苦笑してる。ディードは無関心っぽいが…くそ、これも作戦か!?女性陣の視線が痛い!
「(わー。話には聞いていたけど、アンリエッタさん…すっごい色気ね。悪の組織の女幹部ってより、不◯子ちゃん…)」
「ふふ、この服動きやすくて素敵ね。デザインはシンプルだけど奥が深いわ。
さ、貴方達。これが何か分かるかしら?」
アンリエッタさんは妖艶に笑い、1つの古びた鍵を取り出した。多分…門の鍵か?
「ご名答。頑張って奪ってみせてね♡」
ぬ…っ!彼女は胸の谷間に、これみよがしに鍵を挟んだ。あそこから奪えと言うのか…!なんて恐ろしい!!
「やれやれ…ここが正念場だお前ら!!」
「絶対に勝ってみせるよ!」
男連中の士気は上がったがな。ったくどいつもこいつも、オレがしっかりしねえと!
「オレは…巨乳なんかに負けないっ!」
「…お嬢が巨乳だったらどう思う?」ぼそっ
「超嬉しいと思う!!!」
…はっ!?何言わせんだこの野郎っ!!エヴィが微笑みながらオレの肩をぽんっと叩いた。
「違う!確かに巨乳は嫌いじゃないが、それ以上にオレはあの断崖絶壁を愛しでゃぁっ!!?」
ヒューン… ガンッ!! カランカラン…
なんだ!?オレが握り拳で力説していたら、どこからか硬い物が飛んできた!
オレの頬を直撃し、地面に落ちたのは…ミニクラウン?あ…アシュリィが着けてたや、つ…
……後で土下座しよう。
では仕切り直し!非戦闘員はアンリエッタさんにより、先に城に通された。これで…どれだけ暴れても大丈夫(パメラ嬢は去り際に、「後はどうにかなります!ファイト!」と言っていた)。
「さて…始めましょうか。貴方達の覚悟、見せてもらうわ!!」
アンリエッタさんがスッと右手を横に伸ばすと…その手に空中から、剣が現れた。
彼女の身の丈をも越える大剣だ。それを片手でヒュンヒュンと扱っている…見た目通りの筋力じゃねえな。
「アンリエッタはあらゆる武器を使いこなす。その分魔法は他の3人に比べれば不得手だが、あくまで魔族基準。決して侮るなよ。」
ディードの冷静な声に、一層気が引き締まる。6人揃っての戦闘は初だな…よっし!総員構えろ!!
「お前達、援護しろ!!」
そう叫び、エヴィがハルバードを構えて地面を蹴った!全員で斬りかかっても互いに邪魔になるだけだ、彼女の大剣とリーチで負けないエヴィをメインにする。
ガギンッ! 2つの武器がぶつかった瞬間、ディードが背後を取った!だがアンリエッタさんは余裕で大剣を翻し、ディードの双剣を受け流す。
「チッ、流石の瞬発力だな。」
「ふふ。そちらにディーデリック様もいらっしゃる以上、私に遊びも油断もありません!」
…っ!今までの2人とは桁違いの威圧感…!その優雅な微笑み、透き通るような声に、どうしてか腕が震えてしまう。
「お前達!アンリエッタはこう言っているが、彼女のレベルは私より上だ!私にばかり期待するなよ!!」
「分かってらあっ!!」
最初っからそのつもりだ!!
ディードは単独なら、四天王にもギリギリ勝てると本人が言っていたが。オレ達に気を遣いながら戦っているからな、そもそも本気を出せまい。
キィンッ!
「っ!!」
「ぼーっとしてちゃあ駄目よ、アシュレイちゃん!」
「誰がっ!!」
なんだこの人の余裕!?エヴィとディードの猛攻を振り切ってオレに斬りかかってくるなんて!
「うらあっ!!!」
「ふふ。」
会長の渾身の一振もひらりと躱し、斧が地面にめり込んだ。アンリエッタさんは一瞬動きが止まった会長を狙う。
「させるかっ!!」
間一髪セーフ!2人の間に滑り込み、剣を盾で弾くのに成功した。「助かった!」「おうよ!」と短く声を掛け合い、再び地面を蹴る。
「全員下がって!!」
アルの声に、オレ達は弾かれたようにアンリエッタさんから遠ざかる。次の瞬間…
「落ちろ…『雷霆発破』!!!」
「!!!」
カッ! ドカァンッ!!
うわ…!アンリエッタさんに特大の雷が落ち、次の瞬間爆発した!!あれは以前公開授業で見た、アルのとっておき!!あん時より威力が増している。
エヴィと会長を背に隠し、盾で爆風を防ぐ(ディードは自分でどうにかすんだろ、と思ってたら吹っ飛んでった)。
流石に、あれを直撃したら…
僅かに警戒を解くと、慌てて戻ってきたディードが叫んだ。
「油断するな、上だ!!」
「「「!!」」」
全員反射で顔を上げると…ディスター城を背に、アンリエッタさんが浮かんでいる。服が若干焦げている程度で、ダメージもほぼ無さそうだ。
それよりも問題は。彼女が両手で構える大剣が…バチバチと音を立てて魔力を集めている事だ…!
「ふふふ…喰らいなさい!!
アシュリィ様命名!!『アンリエッタビーーーム』!!!」
げえええっ!!?ふざけた技名だが、リリーの大砲を遥かに凌ぐ、高濃度のエネルギー波が剣から発射された!!
「盾を構えろレイ!!」
「!全員オレの後ろに退避っ!!」
盾を地面に突き刺すと、ディードとエヴィがありったけの魔力を注ぐ。アルとリリーも咄嗟に障壁を張り…
カッ!! と周囲が目映いばかりの光に包まれると同時に。盾に、物凄い衝撃が…!負けてたまるか!!!
「う…っおおおおおおおおぉぉっ!!!」
絶対に…耐えて…っ!
アシュリィを、迎えに行くって決めてんだああああっ!!!
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