163 / 164
学園
76
しおりを挟む1週間の空の旅は終わりを迎え、オレ達は魔国に降り立った。
夏ぶりのディスター城、の近くの草原。ここからは歩いて城を目指すが…。
「……雰囲気変わった?」
空はどんよりと暗く、周囲に木々が生い茂り。カラスはギャアギャア鳴き、風は生温くて、どことなく恐ろしげな…?
「こんな所に姫がいるのね…早くお助けしましょう!」
「行くよレイ、妹はきっとどこかの塔の最上階にいる!」
「地下牢の可能性もあるわよ。」
「確かに、なんてこっただね。」
もうツッコまねえぞオレは。
さくさく てくてく… 非戦闘員も全員、1列になって(なんで?)歩く。先頭はオレ、最後尾に会長だ。
城に近付くと…壁や柵に、蔦が絡まっているのが分かる。窓は微妙にひび割れが…改装したんじゃなかったの?劣化してない?
おっと門が見えてきた、誰か立ってる。予想通りではあるが…あれは…
「はあい、ご無沙汰~。」
「アンリエッタさん…!」
彼女は微笑み手を振る。それと…
「遅かったな、お前達。」
「……何やってんのディード?」
1週間ぶりのディードが、ぐるぐる巻きにされて門に吊るされている。捕まったの?馬鹿なの?
「私は2日前に着いていたんだが。陛下に「皆で一緒に来なさい!」と締め出されてな。待っていたぞ。」
「吊るされる理由になってなくない?」
んもー、世話の焼けるやつ。しょうがないので降ろしてやる、妨害される事なく救助完了。
さて…んっ?
「アイル…彼女が例の、アンリエッタさん?」
「おう。すごいだろ…。」
「うん…正直予想以上だ…!」
???アイルとラリーが、若干頬を染めてごくりと喉を鳴らした。
よく見ると…今日のアンリエッタさんは。全身黒い…ピチッとした革の服?ボディーラインを惜しげもなく披露して、胸元は大きく開いている…かなり刺激的です。く…っ!オレは惑わされねえぞ…!
「ア・ル・ビー?なあ~に…鼻の下伸ばしてるの…?」ギリィ…
「あだだだだだ。」
「トレイシー!もう、どこ見てるの!」
「えっと。いや…別に…。」ちらっ
「今ぼくの胸と見比べたよね!?」
リリーに耳を限界まで引っ張られるアル。パリスに小突かれる会長。
エヴィとラリーはアンリエッタさんをガン見、アイルはチラチラと、セルジュは…男連中の反応に苦笑してる。ディードは無関心っぽいが…くそ、これも作戦か!?女性陣の視線が痛い!
「(わー。話には聞いていたけど、アンリエッタさん…すっごい色気ね。悪の組織の女幹部ってより、不◯子ちゃん…)」
「ふふ、この服動きやすくて素敵ね。デザインはシンプルだけど奥が深いわ。
さ、貴方達。これが何か分かるかしら?」
アンリエッタさんは妖艶に笑い、1つの古びた鍵を取り出した。多分…門の鍵か?
「ご名答。頑張って奪ってみせてね♡」
ぬ…っ!彼女は胸の谷間に、これみよがしに鍵を挟んだ。あそこから奪えと言うのか…!なんて恐ろしい!!
「やれやれ…ここが正念場だお前ら!!」
「絶対に勝ってみせるよ!」
男連中の士気は上がったがな。ったくどいつもこいつも、オレがしっかりしねえと!
「オレは…巨乳なんかに負けないっ!」
「…お嬢が巨乳だったらどう思う?」ぼそっ
「超嬉しいと思う!!!」
…はっ!?何言わせんだこの野郎っ!!エヴィが微笑みながらオレの肩をぽんっと叩いた。
「違う!確かに巨乳は嫌いじゃないが、それ以上にオレはあの断崖絶壁を愛しでゃぁっ!!?」
ヒューン… ガンッ!! カランカラン…
なんだ!?オレが握り拳で力説していたら、どこからか硬い物が飛んできた!
オレの頬を直撃し、地面に落ちたのは…ミニクラウン?あ…アシュリィが着けてたや、つ…
……後で土下座しよう。
では仕切り直し!非戦闘員はアンリエッタさんにより、先に城に通された。これで…どれだけ暴れても大丈夫(パメラ嬢は去り際に、「後はどうにかなります!ファイト!」と言っていた)。
「さて…始めましょうか。貴方達の覚悟、見せてもらうわ!!」
アンリエッタさんがスッと右手を横に伸ばすと…その手に空中から、剣が現れた。
彼女の身の丈をも越える大剣だ。それを片手でヒュンヒュンと扱っている…見た目通りの筋力じゃねえな。
「アンリエッタはあらゆる武器を使いこなす。その分魔法は他の3人に比べれば不得手だが、あくまで魔族基準。決して侮るなよ。」
ディードの冷静な声に、一層気が引き締まる。6人揃っての戦闘は初だな…よっし!総員構えろ!!
「お前達、援護しろ!!」
そう叫び、エヴィがハルバードを構えて地面を蹴った!全員で斬りかかっても互いに邪魔になるだけだ、彼女の大剣とリーチで負けないエヴィをメインにする。
ガギンッ! 2つの武器がぶつかった瞬間、ディードが背後を取った!だがアンリエッタさんは余裕で大剣を翻し、ディードの双剣を受け流す。
「チッ、流石の瞬発力だな。」
「ふふ。そちらにディーデリック様もいらっしゃる以上、私に遊びも油断もありません!」
…っ!今までの2人とは桁違いの威圧感…!その優雅な微笑み、透き通るような声に、どうしてか腕が震えてしまう。
「お前達!アンリエッタはこう言っているが、彼女のレベルは私より上だ!私にばかり期待するなよ!!」
「分かってらあっ!!」
最初っからそのつもりだ!!
ディードは単独なら、四天王にもギリギリ勝てると本人が言っていたが。オレ達に気を遣いながら戦っているからな、そもそも本気を出せまい。
キィンッ!
「っ!!」
「ぼーっとしてちゃあ駄目よ、アシュレイちゃん!」
「誰がっ!!」
なんだこの人の余裕!?エヴィとディードの猛攻を振り切ってオレに斬りかかってくるなんて!
「うらあっ!!!」
「ふふ。」
会長の渾身の一振もひらりと躱し、斧が地面にめり込んだ。アンリエッタさんは一瞬動きが止まった会長を狙う。
「させるかっ!!」
間一髪セーフ!2人の間に滑り込み、剣を盾で弾くのに成功した。「助かった!」「おうよ!」と短く声を掛け合い、再び地面を蹴る。
「全員下がって!!」
アルの声に、オレ達は弾かれたようにアンリエッタさんから遠ざかる。次の瞬間…
「落ちろ…『雷霆発破』!!!」
「!!!」
カッ! ドカァンッ!!
うわ…!アンリエッタさんに特大の雷が落ち、次の瞬間爆発した!!あれは以前公開授業で見た、アルのとっておき!!あん時より威力が増している。
エヴィと会長を背に隠し、盾で爆風を防ぐ(ディードは自分でどうにかすんだろ、と思ってたら吹っ飛んでった)。
流石に、あれを直撃したら…
僅かに警戒を解くと、慌てて戻ってきたディードが叫んだ。
「油断するな、上だ!!」
「「「!!」」」
全員反射で顔を上げると…ディスター城を背に、アンリエッタさんが浮かんでいる。服が若干焦げている程度で、ダメージもほぼ無さそうだ。
それよりも問題は。彼女が両手で構える大剣が…バチバチと音を立てて魔力を集めている事だ…!
「ふふふ…喰らいなさい!!
アシュリィ様命名!!『アンリエッタビーーーム』!!!」
げえええっ!!?ふざけた技名だが、リリーの大砲を遥かに凌ぐ、高濃度のエネルギー波が剣から発射された!!
「盾を構えろレイ!!」
「!全員オレの後ろに退避っ!!」
盾を地面に突き刺すと、ディードとエヴィがありったけの魔力を注ぐ。アルとリリーも咄嗟に障壁を張り…
カッ!! と周囲が目映いばかりの光に包まれると同時に。盾に、物凄い衝撃が…!負けてたまるか!!!
「う…っおおおおおおおおぉぉっ!!!」
絶対に…耐えて…っ!
アシュリィを、迎えに行くって決めてんだああああっ!!!
0
お気に入りに追加
3,550
あなたにおすすめの小説
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
王太子の子を孕まされてました
杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。
※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる