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学園
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しおりを挟むそれは遡る事…大体10分前。
「ではお兄様、私はあちらの令嬢達に合流します。伝令役、お任せしますよ!」
「ああ。」
私とお兄様はガシッと腕を組んで、それぞれの位置に待機!私はターゲットに近いテーブルを確保、そこにいた令嬢数人に話し掛ける。
「ご機嫌よう、皆様。」
「マルガレーテ様!ご機嫌よう。」
まあ、グッドタイミング。その中に、お兄様に好意を寄せている伯爵令嬢がいたわ。その為彼女は、私にも好意的なの。将を射んと欲すれば…というやつね。
彼女が招いてくれたお陰で、スムーズに輪に入れたわ。女性の恋心を利用するのは気が引けるけれど、アシュリィ様の為…!
チラ…と後ろを見遣る。タンブル様は私とは面識が無いし…ナイトリー令嬢も、お兄様ばかりで私には興味が無い。精々「なんかウロチョロしてる」程度の認識でしょうね。私の名前も覚えてないと思うわ。
なのでちょっと声色を変えれば、アシュリィ様陣営のスパイが近くにいるなど気付かないでしょう。ま、念の為扇子で顔を隠しとこう。
「(あー…ゔっうん…!)今なんのお話をされてましたの?」バサッ
「あら?お声が…。」
「ふふ、先日風邪をひいてしまいまして。でもすっかり元気ですわ!声も明日には治っているでしょう。」
他愛のない話をしつつ、後ろも気にする。
「ええっ、獣憑きってそんなに高いんですか!」
「そうなんだよ。それに希少品だからね、いくら金を積んでも手に入らない時もある。」
「すっごーい!見てくださいよ、アシュリィ様の近くにいるカラスの人!あの人もすっごくイケメン…羨ましい~!私のパパも男爵なんかじゃなくて、魔王様だったらよかったのに。」
「ははは、面白い事を言うね。…実はね?あのカラスが売られている事を姫君に教えてあげたのは、私なんだよ。」
「え、うっそー!もうっ、私に教えて欲しかった!そしたら今頃、あのイケメンが私の物だったのにー!」
「(男爵家如きで購入出来るものでもないがな。私の話に目を輝かせている辺りは…好感が持てる)」
アシュリィ様の名前が出たので、ちょっとドキッとしたわ。あまり愉快な内容ではないけれど。
お兄様の位置を確認…「まだ動くな」と目配せをする。伝わったようで、お兄様は近くの給仕からグラスを受け取り壁際に控えた。
ターゲットはアシュリィ様から離れ、奴隷の話題で盛り上がってしまった。流れを変えないと…今だわ!!
「皆様。こちらには沢山の殿方がいらっしゃいますが…どうなんです?気になる方とか、いらっしゃいませんの?」
「「「ええぇ~!?」」」
「「………。」」
ふふ、食い付いたわ!令嬢達が弾んだ声を上げたので、ターゲットの意識が向いたのを肌で感じる。
「まあ、その反応!いますのね、どなたなんですの~?」
「も、もうっ!情報通のマルガレーテ様にお教えしたら、すぐ広まってしまいますっ!」
「そんな事ございませんわ?情報を扱う者とは信用が命ですもの。」
情報屋になったつもりはないけど。相手さえ分かれば、私が情報を持ってるかもしれない~とさり気なくアピール。まあお兄様を慕ってくださっている令嬢は、「貴女のお兄さんです」とは言えないでしょうけど!
私の目的はただ1つ。自然に…デメトリアス殿下のお名前を出す事!
「皆様恥ずかしがり屋さんですのね。では私から…。」
「「「いますのっ!?」」」
あら、私だって花の乙女ですわよ?好きな殿方の1人や2人…いないわね。
「実は私…デメトリアス殿下を好いておりますの…。」ぽっ
「「「まあぁっ!!」」」
うふふ、恥ずかしがるように扇子で顔全体を隠す。隙間から…チラッと。おっとナイトリー令嬢のお顔が真っ赤だわ。
「ちょ、ちょっとあんた!私のデメトリアス殿下よ、何言ってんの!?」
わー、予想以上の食い付き!ナイトリー令嬢は私の肩を強く掴んで引き寄せた。おとと、よろめいちゃった。顔を見られたけど、やっぱりヨハネスの妹だと気付いてなさそうね。さあ、演技続行!
彼女の手を軽く叩き、怖がるように後退ってみせた。お話していた皆様も、突然の乱入に驚いている。
「何をなさいますの!?」
「こっちのセリフよ!!デメトリアス殿下は私と結婚するの、そして私は皇后になるのよ!!」
彼女の脳内ではそこまで飛躍していたのね…って、魔国に行くって聞いてなかったの…?都合の悪い情報は抹消する、とことんお花畑ね。
「余計な邪魔はアシュリィだけでいっぱいだっての!」
段々とヒートアップしてきて、ナイトリー令嬢は殿下への想いを熱く語る。……半分以上妄想だけど。合っているのは、普段塩対応されているというとこだけ。
私も負けじと、いかに殿下をお慕いしているかを語ったわ。早口でね!すると…おおっ!タンブル様がイライラしているっぽい。腕を組んで指をトントンして、眉間に皺を寄せているわ。
「(…不愉快だ。あんな偽物が、こうも慕われているというのは。ああいっそバラしてやりたい。アレと婚姻を結んでも、皇后になどなれぬと…。ま、私はそこまで愚かではないがな)」
うーん、もう一押し?それとも私はここまでかな。出過ぎた真似をして、全てを破綻させるのだけはごめんだわ。
その時ふいに、獣憑きのお3方と目が合った。彼らはもう味方のはず…向こうもそう認識しているのか、私を真っ直ぐに見つめている。
アシュリィ様陣営は今回の作戦において…すでにデメトリアス殿下の事情を聞かされている。とっても驚いたけど、彼が皇子であろうとなかろうと関係無い。そう思えるのはきっと、あのお方のお陰よね。
昔の私達だったら…面白がって相手の心情も気にせずとことん追及したかもしれないもの…。
と、過去は過去!静かにやり取りを見ていたリアさんとフィオナさんが、小さく頷き合った。
「どうなさいましたの、ご主人様?」
「ああ…花の顔が台無しになってしまいます。」
フィオナさんが妖艶にタンブル様の腕を取り、リアさんは可愛らしく眉間の皺を指で突いた。するとタンブル様の頬はだらしなく緩み、2人の腰に腕を回した。
「はは、私の獣達よ。私がアンナ嬢に心を奪われたと、妬いているのかい?心配しなくても…後でたっぷりと可愛がってあげよう。」
「(我慢我慢よリア…!アシュリィ様のお力になる為!私は女優、今だけはこのクソ男を愛する健気な少女!!)うふふ、くすぐったぁい。」
「きゃっ。もう、ご主人様ったら。」
彼は2人の頬や首筋に唇を落とす…リアさんがこっそりと、拳をぶるぶる震わせている…。
うわ、フィオナさんのお尻触ってる。私含む周囲はドン引きだわ。
その間セルジュさんは、興奮するナイトリー令嬢に耳打ちをしている?
「お嬢様。あまり殿下のお話をされては…ご主人様が嫉妬に狂ってしまいますよ?もちろん、この俺も…ね?」
そして膝を突き、ナイトリー令嬢の手を取って甲にキスをした。令嬢は有頂天、空いてる手で自分の頬を押さえて、身を捩らせる。何言ったんだろう…。
「(イケメンが私を取り合う…!やっぱり私はヒロインなんだわっ!)えぇ~?アンナ困っちゃう♡」
3人が…頑張っている。上手くいきますように…!
「ね…ご主人様?何を焦っておいでですの?デメトリアス殿下より…貴方様のほうが、何倍も魅力的ですのに。」
「そうですわ。私達にとっての王者とは…この世にたったお1人ですの。」
「「「(そう…アシュリィ様だけ!!)」」」
3人の心の声が聞こえる気がする。それを読み取れないタンブル様は益々気を良くしている。
…そろそろかしら。お兄様!
「!」こくん
実はお兄様、さっき私が肩を掴まれた時からずっと怒ってる。間に入ろうとしたのを視線で制していたけど…全く過保護なんだから!さ、仕事をこなして頂戴!……♪
私の仕事も佳境ね。盛り上がっている5人に対して…他の方々に静寂を促す。
その直後。ついに…その時がきたっ!!
「ははは、困った獣達だ。ま…あの偽物皇子よりも、私のほうが」
「え、偽物皇子ってなんですか???」
?タンブル様の声は小さくて、私達までは届かなかったけど。近くにいたナイトリー令嬢には、ばっちり聴こえていたらしい。彼女がご丁寧に、よく通る声で復唱してくれた。
「あ。ア、アンナ嬢。今のはだね」
「いつもご主人様は、殿下の事をそう仰っているのですよ。」
「セルジュ!?お前、何を…!」
「そうですわね。」
「皇族の血を引いていない、偽物の皇子様…ですよね?」
「お前達まで!?ええい、余計な事を言うな、これは命令だ!!!」
「「「…………。」」」
タンブル様の顔に焦りが浮かんでいる。やった…!続かなきゃ!!と私が口を開こうとしたら。
「えーっ!?うっそー!デメトリアス殿下が偽物って、どうゆう事ですか!?」大声
「アンナ嬢!!しーっ!!!」小声
「やだ私、騙されてた!?やだあ!」超大声
騒めきをぶった斬る甲高い声。はい、前話のラストに繋がります。そこでズッコケてるアシュリィ様、後はお願いします!!!
こ…これは。なんともカオス。
「違う、私はそんな事言っていない!」
「確かに聞きましたもんっ!嘘でしょ、時間ムダにしたぁ!皇后様になれないのー!?」
いつの間に結婚してたの?揚げ足取りは必要無さそう…。
「タンブル令息?この騒ぎはなんですか、デムが…なんですって?」
「!ああ、姫君!(騒ぎを収束させるのは、誰よりも貴い姫君しかいない!)こちらのご令嬢が、何か勘違いをしていましてね。」
「あーーーっ!デメトリアス殿下、あなた皇子じゃないって本当ですか!?」
「アンナ嬢!!」
!タンブルがナイトリーの口を塞ごうとする、させるかっ!!
「な!?離せっ!!」
「うるせえ、少し大人しくしてろ。」
アシュレイがタンブルの腕を捻り、後ろで1つに纏めて拘束する。今のうちに、暴走特急を崖から転落させるぞ!
私の横に立つデムが、苦々しいという演技をし始めた。やったれ、今の貴方は俳優だぞ!!
「……誰に聞いた?」
「そちらのタンブル様からですっ!」
「間違いなく?」
「はい!」
「……タンブル。どういうつもりだ?」
「ですから誤解です!私は…!」
「いいえ、そちらのお付きの方々がはっきり仰いました。彼が普段から、デメトリアス殿下の事を「偽物の皇子」と呼んでいると。」
「……!」
ナイスアシストマルガレーテ!!彼女の言葉に数人が賛同した。タンブルは尚も違う!と主張するが…ニヤリ。
「では発言をしたという、彼らに問いましょう。タンブル様、貴方はそちらの3名に命じてください。「真実のみを語るように」と。隷属の首輪が作動して…主人である貴方の言葉を、彼らは拒めないでしょう?」
「!!い、いや…それ…は…っ」
タンブルは顔面蒼白になり、アシュレイの支えがなければ今にも倒れてしまいそう。私、何も難しい事は言っていないわ?
真実を語らせれば、待っているのは破滅。
黙っていても…それは肯定と同じ事。どうせ行き着く先は同じでしょう?
それを悟ったのか、ついに。タンブルは力無く座り込んだ…。
「今のお話はなんですかな?」
「第一皇子殿下が、皇子でないなどと…。」
「ご説明願おうか、タンブルとやら。」
おふぁー。アレンシア公、ブルジャス公、アギラール公の、我らが3公爵がタンブルを囲う。こりゃ怖いわ。とっくに観衆は下がっており、騒動を遠巻きに見ている。さて…。
そろそろ終わりかな。ベルディ殿下が一歩前に出た。そして俯くデムの肩に、ポンと手を置いた。
「デメトリアス…。」
「……ベルディ兄さん。いえ…王太子殿下。もう終わりですね…。
その男の言う通り、俺は皇子ではありません。デメトリアスという名も…元々は、俺の物ではなかったのです。」
デムの告白に、ざわっ!と一層騒がしくなる。そんな中、1つの声が響いた。
「違うよ。デメトリアスはデメトリアスだよ。」
「…アルバート?」
アル?
カツ カツ 靴音を響かせて、一体何を…
「血筋的には皇族じゃなくても。僕の知っているデメトリアスは、君だけだ。努力家で、家族想いで、とっても強くて優しい僕の友達。」
「……………。」
アルは言い切ると、にっこり笑ってデムの頭を撫でた。デムは唇を噛み、今にも泣いてしまいそう。
その顔は…とても演技には見えなかった。
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