私の可愛い悪役令嬢様

雨野

文字の大きさ
上 下
147 / 164
学園

60

しおりを挟む


 本来私に、彼女らに干渉する資格など存在しない。合法的に認められた奴隷とは、そういうものだから。どれだけ酷い扱いを受けようが…主人の命令ならばものなのだ。

 彼らは犯罪者の成れの果てや、借金を返せなかった者。親に売られたり…両親とも奴隷だったり。違法に当たる例で言えば、誘拐されて売られた場合か。

 この3人も恐らく、親に売られたんだろう。ならば私に、タンブルに対して「奴隷に酷い事しないで」と言う事は出来ても止める権利は……ないけど、だから何?


 私はアシュリィ。何者にも、私の行いを阻む事はできない!!



 そっと床に膝を突き、泣き続けるリアちゃんの手を取った。

「…?」

 もしも仮に彼らが犯罪者だとしても。もう…充分に罰は受けたはずだ。

「リアちゃん。遅くなったけど、貴女達は私が解放します。もう…何も心配しないでね。」

「……ほんとう、ですか…?」

「うん!」

 首輪を破壊したお陰か、私に対して警戒心はほぼ無さそう。リアちゃんはぐすっとしゃくり上げながら、弱々しくも私の手を握り返してくれた。

「ふふ、そんなに泣いちゃ美人さんが台無しだよ?貴女の涙はとても美しいけど…やっぱり。
 女の子は、笑顔が1番可愛いんだから!私に…貴女の可愛い姿を見せて?…ね?」

 泣き腫らすウサギ美少女相手に、無意識に宝塚モードアシュリィに転身してしまう。自分でも大仰だな~と思いつつ、彼女の涙を指で掬い、髪の毛を1房手に取りキスをした。すると…


「………はい…♡」


 よっしゃ成功!リアちゃんは泣き止み、私の胸元に頬を寄せて抱き着いてきた。可愛い~、お耳がピコピコ揺れてる、ウサ耳尊~い。

 ……ん?


「「「…………………。」」」


 え、何。フィオナさんとセルジュさん含む、全員が私とリアちゃんを凝視しとる。


「(や…やりやがった、アシュリィ様!)」

「(きゃあ~!女の子もメロメロにしちゃうアシュリィ様、やっぱ素敵~!)」

「(だよね~。ぼくもトレイシーがいなかったら、多分アシュリィ様に惚れてたもの)」

「(またライバル増えた…!でもリアは女の子…うーん…)」

 ?アイルは驚愕、ララは興奮、パリスはなんか深~く頷いて、ラリーは難しい顔で唸ってる。

「(俺は何を見せられているんだ…完全にリアの目がハートだ…)」

「(うーん…人が恋に落ちる瞬間を、初めて目にしてしまったなぁ)」

 ???デムは遠くを見て、ティモは若干頬を染めている。

「「………………。」」

 ???フィオナさんとセルジュさんはどこか、ソワソワと落ち着きがない。ごほっと咳払いしたり、身の置き所に困っている感じ。


「アシュリィ様…よかったら、お姉様とお呼びしてもよろしいですか…?」

「え?あ、うん。いいよ!えへへ、可愛い妹ができちゃった?」

「妹…。」

 ほ?リアちゃんはぷくっと頬を膨らます。いや可愛っ。私さっきから、可愛いしか言えねえ。
 まあ話はまた後で!申し訳ないけど、3人にはもう1度タンブルの所に戻ってもらう。彼らにも計画を話して、石から作った首輪を着けてもらう。嫌だろうけど…ごめんね。ここからは、タンブルの失墜とデムの解放の為に動く。付き合わせて申し訳ない…。

「いいえ。お姉様の為なら、リアはどのような試練も乗り越えてみせます。」

「ありがとう!女は皆女優なのよ、貴女達はどんなステージにおいても主役なのよ!」

「はいっ!」

 うし、行くぞ!っと、その前に。

「リアちゃん、そのお姫様みたいなドレスとっても似合うよ!フィオナさんのマーメイドドレスも、セルジュさんの礼服も!」

「お姉様…♡」

「あ…ありがとうございます。」

「このような上等な服を…。」

 いや本当、私の見立てに間違いはなかった!なんかリアちゃんは私の腕に抱き着いて離れないけど、きっと今まで苦しい思いをした反動だろう。さあ…行くぞ!!


「あの…殿下。」

「…なんだ?」

 皆で部屋を出ようとしたら…セルジュさんが、デムを呼び止めた。

「……今まで貴方が、俺達を案じてくれているのは存じておりました。助けたいと思っても、何も出来ず歯痒く感じている事も。
 ですから…ありがとうございます。」

「…………。」

 セルジュさんはスッと頭を下げた。それに倣って、リアちゃんとフィオナさんも。

「……礼ならアシュリィに。俺は何もしていない。」

「いいえ、貴方がアシュリィ様を連れて来てきてくださったのです。どれだけ感謝してもしきれません…そして、アシュリィ様。」

「ん?………ひょっ!?」

 セルジュさんが…両の手と膝を突いて私の靴、つま先にキスをした。習慣なのだろう、流れるように…やめて…!

「今後そういうのはしなくていいっ!誰かに強要されたら、私にチクりなさいっ!」

「ならば…こちらによろしいですか?」

 少々眉を下げながら、今度は私の手を取った。うん…せめてこっちにして…。

「ありがとうございます。このセルジュ、フィオナ、リア。俺達の髪の毛1本から心臓まで、全て貴女の御心のままに。」

「…………。」

 彼は指先に口付けをした。フィオナさんとリアちゃんも続いて…こりゃ大変だ。ラリーの時もそうだったけど、彼らの認識を変えるのは時間が掛かるぞ…。



「……ちょっとセルジュ。アシュリィ様が寵愛する獣は僕だけで充分だから!」

「え。」

「何やっとんじゃ!!」

 喧嘩売るな!!そもそも寵愛て。全くもう…!行くよ!


「ほら見てよ。彼女の髪飾り、僕の羽根を使ってるんだ。
 ……奴隷の贈り物を喜んでくれる主人なんて…あまつさえ大事なパーティーで。高価な宝石の中から選んで着けてくれる人…僕は、彼女しか知らない。」

「……ああ、そうだな。しかし困った…俺には何も差し上げられる物が無い。せめて…耳を1つ切り落とすしか…?」

「やめてーや!!!」

 2人の会話は聞こえないフリをしてたのに!!狐耳を撫でるセルジュさん、恐ろしい計画はやめて!その耳でアクセサリーでも作られたら、最早嫌がらせだからな!!






「あ、戻ってきた。…わあっ!」

 やっほーリリー。皆美しく着飾った3人に、目を輝かせて短く驚きの声を上げた。そりゃね、さっきまで水着程の布地しか纏ってなかったからね…。

「じゃあ3人共。また後で…もうちょっとだけ頑張って!」

 タンブルに聞こえないよう、小声でエールを送る。彼らは力強く頷き、背を向けた…。



「ふん…お前達がいくら着飾ろうと、私の所有物に変わりはない。己の立場を勘違いするなよ。」

「「「…はい。」」」

「だがまあ…悪くはないな。」

 うげ…舐め回すように、リアちゃんとフィオナの全身を見ている。キモ…っ。



「……ふう。ねえ、私達がいない間、何か変化あった?」

「「「……………。」」」

 ん?リリー、アル、アシュレイが…無言でどこかを指差す。んー…?


「もうっ!デメトリアス殿下はどこよ!?」


 きたーーーっ!!ナイトリー、予想通りすぎて拍手を送りたい!!話によれば、数分前突然現れたと。一応会場警備も万全なのに…すげえな。
 すす…っとミーナの隣に立って影を繋げる。

「(ねえジェーン、彼女ある意味影に向いてんじゃね?)」ボソボソ

『無理無理です。上の命令を聞かない上に目立ちたがりなので、使い物になりませんのです。』

 言えてるー。
 もう1度、ナイトリーに目を向けた。


 ……ある日突然、貴族社会に足を踏み入れた女の子。貴族の常識が分からない…が通用する時期はとうに過ぎた。
 彼女もある意味、被害者なのかもしれない。ずっと平民のままだったら…今のように、嘲笑されたり邪険に扱われたりする事もなかった?でも本人、気付いてないしー…。

 デムも同じ事を考えているのかもしれない。実はいつもナイトリーに、若干の憐れみの視線を送っているから。普段の塩対応も多分、彼なりの気遣いだった。それ以上踏み込むな、出過ぎた真似をすると…お前は終わりだ、と。
 もしもナイトリーが努力家で、己の分を弁える事ができていたなら。それこそ…物語のように、デムは恋に落ちていたかもね?アシュレイは駄目だけど!!


 さて…行こうか。


「デム、貴方にお熱の令嬢がお待ちだよ?」

「……ああ。」

 私はデムと手を取って、歩き出す。

 カツ カツ カツ 皆が私達の道を開けて…あっという間に目的地に辿り着いた。
 そこにはレモネードを一気飲みするナイトリー、私が声を掛けると渋々振り向いた。

「アンナ・ナイトリー男爵令嬢。」

「ん?何よ…デメトリアス殿下っ!って…なんでその人と手を繋いでるんですか!?」

 …なんつーかこの人、崖と崖の間で綱渡りしながらファイヤーダンスする趣味でもあんのかな。こんな大勢いる場で、魔王の娘わたしの事をその人呼びするとは。ま、言いたい事は山あれど。

「ナイトリー嬢。私は貴女を招待した覚えはないけど?」

「なんですか招待って、別にいいじゃないですか!」

 はい、通じるとは思ってませんでしたよ!なのでスルー。

「はあ…まあ来たものは仕方ない、早く帰ってくださいね。
 さ、デム。あっちでスイーツ食べない?」

「いただこう。」

「ちょ、ちょっと!?」

 踵を返すと、ナイトリーが慌てたようにデムの腕を引っ張った。命綱が燃え始めたぞ、大丈夫か?

「なんだ、離してもらおうか。」

「なんだじゃありませんよ!だってその人、もう恋人いるんでしょ!?それなのに殿下にも手を出すなんて、浮気じゃないですかっ!!」

「「……………。」」

 どの口が、と思ったけど。ここは穏便に…ね?

「あのね、貴女と一緒にしないでくれる?デムは卒業後、私と一緒に魔国に行くの。」

「な…っ!?」

「ああ、私の夫は別にいるけどね?彼は言うなればビジネスパートナー。」

「そういう事だ、今後一切俺に構わないでもらおうか。」


 じゃ、そういう事で!あえて曖昧に情報を与えて…逃走!

「あ!!待ちなさいよー!!」

 吠えてろ!!ちょいっと魔法を使えば、容易に振り切れるわ。



 これで種蒔きは終了。ナイトリーとタンブルを警戒しながら、待つ事十数分。



「わっ!何あれ、獣憑きが3人もいるー!」


 …掛かった!

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

処理中です...