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学園
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しおりを挟む本来私に、彼女らに干渉する資格など存在しない。合法的に認められた奴隷とは、そういうものだから。どれだけ酷い扱いを受けようが…主人の命令ならば仕方ないものなのだ。
彼らは犯罪者の成れの果てや、借金を返せなかった者。親に売られたり…両親とも奴隷だったり。違法に当たる例で言えば、誘拐されて売られた場合か。
この3人も恐らく、親に売られたんだろう。ならば私に、タンブルに対して「奴隷に酷い事しないで」と言う事は出来ても止める権利は……ないけど、だから何?
私はアシュリィ。何者にも、私の行いを阻む事はできない!!
そっと床に膝を突き、泣き続けるリアちゃんの手を取った。
「…?」
もしも仮に彼らが犯罪者だとしても。もう…充分に罰は受けたはずだ。
「リアちゃん。遅くなったけど、貴女達は私が解放します。もう…何も心配しないでね。」
「……ほんとう、ですか…?」
「うん!」
首輪を破壊したお陰か、私に対して警戒心はほぼ無さそう。リアちゃんはぐすっとしゃくり上げながら、弱々しくも私の手を握り返してくれた。
「ふふ、そんなに泣いちゃ美人さんが台無しだよ?貴女の涙はとても美しいけど…やっぱり。
女の子は、笑顔が1番可愛いんだから!私に…貴女の可愛い姿を見せて?…ね?」
泣き腫らすウサギ美少女相手に、無意識に宝塚モードアシュリィに転身してしまう。自分でも大仰だな~と思いつつ、彼女の涙を指で掬い、髪の毛を1房手に取りキスをした。すると…
「………はい…♡」
よっしゃ成功!リアちゃんは泣き止み、私の胸元に頬を寄せて抱き着いてきた。可愛い~、お耳がピコピコ揺れてる、ウサ耳尊~い。
……ん?
「「「…………………。」」」
え、何。フィオナさんとセルジュさん含む、全員が私とリアちゃんを凝視しとる。
「(や…やりやがった、アシュリィ様!)」
「(きゃあ~!女の子もメロメロにしちゃうアシュリィ様、やっぱ素敵~!)」
「(だよね~。ぼくもトレイシーがいなかったら、多分アシュリィ様に惚れてたもの)」
「(またライバル増えた…!でもリアは女の子…うーん…)」
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「(うーん…人が恋に落ちる瞬間を、初めて目にしてしまったなぁ)」
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「「………………。」」
???フィオナさんとセルジュさんはどこか、ソワソワと落ち着きがない。ごほっと咳払いしたり、身の置き所に困っている感じ。
「アシュリィ様…よかったら、お姉様とお呼びしてもよろしいですか…?」
「え?あ、うん。いいよ!えへへ、可愛い妹ができちゃった?」
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ほ?リアちゃんはぷくっと頬を膨らます。いや可愛っ。私さっきから、可愛いしか言えねえ。
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「いいえ。お姉様の為なら、リアはどのような試練も乗り越えてみせます。」
「ありがとう!女は皆女優なのよ、貴女達はどんなステージにおいても主役なのよ!」
「はいっ!」
うし、行くぞ!っと、その前に。
「リアちゃん、そのお姫様みたいなドレスとっても似合うよ!フィオナさんのマーメイドドレスも、セルジュさんの礼服も!」
「お姉様…♡」
「あ…ありがとうございます。」
「このような上等な服を…。」
いや本当、私の見立てに間違いはなかった!なんかリアちゃんは私の腕に抱き着いて離れないけど、きっと今まで苦しい思いをした反動だろう。さあ…行くぞ!!
「あの…殿下。」
「…なんだ?」
皆で部屋を出ようとしたら…セルジュさんが、デムを呼び止めた。
「……今まで貴方が、俺達を案じてくれているのは存じておりました。助けたいと思っても、何も出来ず歯痒く感じている事も。
ですから…ありがとうございます。」
「…………。」
セルジュさんはスッと頭を下げた。それに倣って、リアちゃんとフィオナさんも。
「……礼ならアシュリィに。俺は何もしていない。」
「いいえ、貴方がアシュリィ様を連れて来てきてくださったのです。どれだけ感謝してもしきれません…そして、アシュリィ様。」
「ん?………ひょっ!?」
セルジュさんが…両の手と膝を突いて私の靴、つま先にキスをした。習慣なのだろう、流れるように…やめて…!
「今後そういうのはしなくていいっ!誰かに強要されたら、私にチクりなさいっ!」
「ならば…こちらによろしいですか?」
少々眉を下げながら、今度は私の手を取った。うん…せめてこっちにして…。
「ありがとうございます。このセルジュ、フィオナ、リア。俺達の髪の毛1本から心臓まで、全て貴女の御心のままに。」
「…………。」
彼は指先に口付けをした。フィオナさんとリアちゃんも続いて…こりゃ大変だ。ラリーの時もそうだったけど、彼らの認識を変えるのは時間が掛かるぞ…。
「……ちょっとセルジュ。アシュリィ様が寵愛する獣は僕だけで充分だから!」
「え。」
「何やっとんじゃ!!」
喧嘩売るな!!そもそも寵愛て。全くもう…!行くよ!
「ほら見てよ。彼女の髪飾り、僕の羽根を使ってるんだ。
……奴隷の贈り物を喜んでくれる主人なんて…あまつさえ大事なパーティーで。高価な宝石の中から選んで着けてくれる人…僕は、彼女しか知らない。」
「……ああ、そうだな。しかし困った…俺には何も差し上げられる物が無い。せめて…耳を1つ切り落とすしか…?」
「やめてーや!!!」
2人の会話は聞こえないフリをしてたのに!!狐耳を撫でるセルジュさん、恐ろしい計画はやめて!その耳でアクセサリーでも作られたら、最早嫌がらせだからな!!
「あ、戻ってきた。…わあっ!」
やっほーリリー。皆美しく着飾った3人に、目を輝かせて短く驚きの声を上げた。そりゃね、さっきまで水着程の布地しか纏ってなかったからね…。
「じゃあ3人共。また後で…もうちょっとだけ頑張って!」
タンブルに聞こえないよう、小声でエールを送る。彼らは力強く頷き、背を向けた…。
「ふん…お前達がいくら着飾ろうと、私の所有物に変わりはない。己の立場を勘違いするなよ。」
「「「…はい。」」」
「だがまあ…悪くはないな。」
うげ…舐め回すように、リアちゃんとフィオナの全身を見ている。キモ…っ。
「……ふう。ねえ、私達がいない間、何か変化あった?」
「「「……………。」」」
ん?リリー、アル、アシュレイが…無言でどこかを指差す。んー…?
「もうっ!デメトリアス殿下はどこよ!?」
きたーーーっ!!ナイトリー、予想通りすぎて拍手を送りたい!!話によれば、数分前突然現れたと。一応会場警備も万全なのに…すげえな。
すす…っとミーナの隣に立って影を繋げる。
「(ねえジェーン、彼女ある意味影に向いてんじゃね?)」ボソボソ
『無理無理です。上の命令を聞かない上に目立ちたがりなので、使い物になりませんのです。』
言えてるー。
もう1度、ナイトリーに目を向けた。
……ある日突然、貴族社会に足を踏み入れた女の子。貴族の常識が分からない…が通用する時期はとうに過ぎた。
彼女もある意味、被害者なのかもしれない。ずっと平民のままだったら…今のように、嘲笑されたり邪険に扱われたりする事もなかった?でも本人、気付いてないしー…。
デムも同じ事を考えているのかもしれない。実はいつもナイトリーに、若干の憐れみの視線を送っているから。普段の塩対応も多分、彼なりの気遣いだった。それ以上踏み込むな、出過ぎた真似をすると…お前は終わりだ、と。
もしもナイトリーが努力家で、己の分を弁える事ができていたなら。それこそ…物語のように、デムは恋に落ちていたかもね?アシュレイは駄目だけど!!
さて…行こうか。
「デム、貴方にお熱の令嬢がお待ちだよ?」
「……ああ。」
私はデムと手を取って、歩き出す。
カツ カツ カツ 皆が私達の道を開けて…あっという間に目的地に辿り着いた。
そこにはレモネードを一気飲みするナイトリー、私が声を掛けると渋々振り向いた。
「アンナ・ナイトリー男爵令嬢。」
「ん?何よ…デメトリアス殿下っ!って…なんでその人と手を繋いでるんですか!?」
…なんつーかこの人、崖と崖の間で綱渡りしながらファイヤーダンスする趣味でもあんのかな。こんな大勢いる場で、魔王の娘の事をその人呼びするとは。ま、言いたい事は山あれど。
「ナイトリー嬢。私は貴女を招待した覚えはないけど?」
「なんですか招待って、別にいいじゃないですか!」
はい、通じるとは思ってませんでしたよ!なのでスルー。
「はあ…まあ来たものは仕方ない、早く帰ってくださいね。
さ、デム。あっちでスイーツ食べない?」
「いただこう。」
「ちょ、ちょっと!?」
踵を返すと、ナイトリーが慌てたようにデムの腕を引っ張った。命綱が燃え始めたぞ、大丈夫か?
「なんだ、離してもらおうか。」
「なんだじゃありませんよ!だってその人、もう恋人いるんでしょ!?それなのに殿下にも手を出すなんて、浮気じゃないですかっ!!」
「「……………。」」
どの口が、と思ったけど。ここは穏便に…ね?
「あのね、貴女と一緒にしないでくれる?デムは卒業後、私と一緒に魔国に行くの。」
「な…っ!?」
「ああ、私の夫は別にいるけどね?彼は言うなればビジネスパートナー。」
「そういう事だ、今後一切俺に構わないでもらおうか。」
じゃ、そういう事で!あえて曖昧に情報を与えて…逃走!
「あ!!待ちなさいよー!!」
吠えてろ!!ちょいっと魔法を使えば、容易に振り切れるわ。
これで種蒔きは終了。ナイトリーとタンブルを警戒しながら、待つ事十数分。
「わっ!何あれ、獣憑きが3人もいるー!」
…掛かった!
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