私の可愛い悪役令嬢様

雨野

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学園

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 わざわざ国を越え、魔国の姫君が主催するパーティーへ足を運んだ理由は1つ。
 彼女ともっと親しくなり、社交界で幅を利かせる為だ。私の高尚すぎる趣味には誰もついて来れず、敬遠されがちだからな。
 そこで…姫君が私側につけば話は変わる。更に上手くすれば、姫君と恋仲になれるかもしれない。同じ趣味を分かち合える上に、中々に美しい女性だ…そして。あのパリスという獣憑きにも手が出せる。

 だが姫君には、すでに恋人がいると風の噂で聞いた。ふん…あの偽物皇子かと思ったが違うらしい。まあいい…高望みしすぎて、全てを失う訳にはいかない。
 やはり今回は、セルジュとパリスを交換してもらえればそれでいい。望むのなら、追加で金も払おう。

「セルジュ。お前はどんな手を使ってでも、姫君に気に入られるようにしろ。」

「…はい。」

 もうこの男に利用価値は無い。
 姫君は私が教えた商人から、早速カラスの獣憑きを購入したらしい。魔族と言っても所詮は女だ、見目麗しい男に迫られれば落ちるだろう。


 ベイラーでは奴隷が禁じられているのは知っている。だがそれは、あくまで売買と契約のみ。私のように他国から持ち込み、連れ歩くだけならば問題はない。それでも疎まれるのは仕方ないが…。
 今回は、同志である姫君が主催のパーティーだ。ならば私は、堂々としていればいい。


 そう思っていたのだが…








 ざわざわ…
 タンブルが姿を現すと、会場にどよめきが広がる。

「何あれ…奴隷?」
「なんて非常識なのかしら…。」
「どうしてあのような者がここに…?」

 何せ奴は…今日もあの3人を、見世物のように連れ歩いているからな。どうせ私が庇うとでも思ってんだろうな。

「お待ちしておりました、タンブル令息…ですが。
 お連れの方々は少々、場にそぐわない装いをしていらっしゃいますね。」

「え、あ…そ、そうでしょうか?ですが…」

「ふふ…貴方は私の顔に…泥を塗りたいのですか?」

「!?いえっ、そのような事は決してございませんっ!」

 おうおう、必死になっちゃって。残念ながら、もうお仲間の演技はおしまい。夜会の品位を下げるのは、主催者の私に喧嘩を売ってるって事。分かってんのか…?

「まあ仕方ありません、間違いは誰にでもあるものです。」

「あ…ありがとうございます(なんだ…?前回と雰囲気が違う…?)」

 私だけでなく、後ろでディードとアシュレイも睨みを利かせているから恐ろしかろう。さーて、と。計画始動だ!!


「こんな事もあろうかと、皆様のお洋服を用意してございます。どうぞ、そちらのお3方はいらしてください。」

「姫君!」

「あ゛?」

「ヒッ!?」

 お前に拒否権は 無い。ピンポイントで威嚇してみせれば、タンブルは青い顔で声を引き攣らせた。

「お…お気遣い、ありがとうございます…。」

「いえいえ。さ、どうぞ。」

「では、自分も同行を…」

「あら?セルジュさんはともかく…女性の着替えをご覧になるおつもりで?」

「…!!」

 私の発言に、タンブルはカアァ…と顔を染めて拳を握った。何を言っても不利になると悟ったのか、歯を食い縛った後笑顔を向けてきた。

「これは失礼を。ではよろしくお願い致します。
 ……余計な事は言うな、いいな?」

「「「…はい。」」」


 超小声で3人に圧を掛けるけど、聞こえてまーす。
 という訳で、一旦3人を連れ出す事に成功じゃ!

 会場はディードに任せて、私は従者ズ+3人で奥に引っ込んだ。ただデムが心配そうにウロウロしていたので、首根っこ掴んで連行した。






「うし!まずお着替えしましょうかね。どの服にしよっかなー。」

「アシュリィ様!リアちゃんにはこっちのピンク似合いそうですよ。絶対可愛いです!」

「フィオナさんは大人の女性って感じだし、落ち着いた青とか素敵かも。」

「セルジュさんは黒とか格好いいんじゃない~。」

「(むっ)アシュリィ様。僕のほうが黒似合いますよね?ね、ね?」

「何を張り合っとんじゃラリー…。」

 この日の為に用意した服を広げて、女子で盛り上がりながら選ぶ。ラリーがちょいちょい翼で突ついてくるのが、構ってもらいたい犬みたいで可愛い…。


「とりあえず選んでみたけど…どう?気に入った?」

「「「…………。」」」こくん

 お?3人は無言で頷く、好きに発言していいんだよ?

「アシュリィ様、恐らく…首輪の効果かと。」

 アイルが耳打ちしてきた。成る程…「余計な事は言うな」で、発言を禁止されているんだな。

「ふむ…首輪の効力で、声自体が出せないのね。ソイヤッ!!」バギンッ!

「っ!?」

「躊躇え!!!」

 やなこったい。リアちゃんの首輪を引き千切ると、デムが思わずと言った風に声を出した。

「何よ、どうせ遅かれ早かれこうするつもりだったっつーの。」

「俺はお前のクソ度胸と行動力にびっくりだぞ。計画的に動く予定だっただろうが、首輪を破壊は後半で…」

「ふんっ!」バキッ!

「聞けよ!!」

 しゃーない、身体が動いちまったのでな。そんなん言いつつ…デムも安堵したように微笑んでいる。首輪が取れたリアちゃんとフィオナさんは、呆然と自分の首をさすっている。

「最後、セルジュさん。かがんでかがんで。」

「……。」スッ

 よっしゃ。男性で首の太い彼は、特に見ていて苦しそうだ。今…どっせい!!


「うーっし!そんじゃそれぞれの部屋で着替えてね!」

「「「は、はい。」」」

 セルジュさんにはアイルとラリー、女性2人にはパリスとララがお手伝いします。さて…残された私とデムとティモ。



「……この後どうすっか!!」

「ほら見ろ!!」

 しまったな。予定では「獣憑き3人を寄越せ」というのは終盤のはずだった。その為一旦はタンブルのとこに帰すつもりだったんだけど…。
 デムは怒りたいけど怒れず、ふん!と鼻を鳴らした。ティモはずっと満足げに笑っている。
 ん?ティモが何か…

【デムの武器を作ってくださったように、魔法で首輪の偽物を作れませんか?】

「ナイスアイデア!!」

 材料、なんか素材探さにゃ!元々の首輪は魔法を弾くし、使いたくないので却下。

「鉄を使って…軽量化の魔法を掛けようか。」

「では鉄を探してくる。」

「無かったらなんか硬いものでよろしく。石でもいいよ。」

 分かった、とデムとティモが部屋を出る。3人の着替えもそろそろ終わるかな…と思っていたら。パリスが困ったように戻ってきた。

「アシュリィ様、リアちゃんが…。」

「どうかした!?」

 まさか倒れたとか…!?慌てて隣の部屋に行くと!



「う…うあああぁぁ…わああぁん…」

「リア…。」

 あ…着替え終わったリアちゃんが…床に座り込んで、声を上げて泣いている。そんな彼女を抱き締めるフィオナさんも、頬を涙が伝っている。

 そこに…同じく着替えたセルジュさんが顔を出した。彼も目に涙を浮かべて、2人を眺めている…。



「…………すまなかった。」

「え?」

 なんて声を掛けていいか分からず、突っ立っていたら。私の後ろに…大きな石を持ったデムがいた。


「俺は今まで…見ているだけで何も出来なかった。そいつらが苦しんでいるのは分かっていた、なのに…。
 …助けを求めるのが、遅くなってごめん…。」

「デム…。」


 …私は…なんて答えるべきだろう。それは分からない、けど。
 この後どうするべきかは…決まっている。


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