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学園
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しおりを挟む夜会の前日。私達…いつものメンバーは会場となる旧アミエル邸にいた。
アルが人が住めるよう、すでに色々整えておいてくれて。夕飯も済ませた後…私はアシュレイと手を繋いで、色んな所を歩いた。後ろにはジャイアントパンダ・ラッシュもいるよ。他の皆はそれぞれの部屋で休んでるはず。
「お。お嬢様の部屋だ。見てみて、私がつけたゴツい鍵がそのままだ。」
「こっちが使用人部屋だったよな。トロの部屋がそこだったか。」
ぎゅっと、指を絡めて強く握る。昔…一緒に歩いた時は、同じくらいの身長だったのに。アシュレイはすっかり大きくなって、男の子から男性に成長している。
「さ…最近さ。ラリーとか…どうなんだ?」
「ラリー?どうと言われても…皆と仲良くしてるよ?」
「お、おう…それはよかった…(最近のオレ…なんか影薄いんだよな…!アシュリィはデメトリアス殿下やラリーに構ってばっかだし。彼らは今が大変な時期だから…仕方ないけども!)」
「?」
なんだ一体、もにょもにょと。気にせず探索を続ける。ちなみにだけど、地下室への扉は無くなっていた。お父様が…塞いだのかもしれない。アルとリリーには必要ないし…ね。
最後にやって来たのは、私達が住んでいた屋根裏部屋。アシュレイが大きいからか、前より狭く感じる。パンダもいるしね!
ラッシュは邪魔しちゃなんねえっつってディードのとこに行った。じゃじゃじゃじゃまじゃねーし!!
「けほっ。ここは掃除してねえのか。」
「まあ、下だけで今日は足りるからねー。昔お世話になったし、ちょっとホコリ飛ばそっか。」
魔法で綺麗に…と思ったら。アシュレイに腕を掴まれて止められた。
「なんかさ…自分達の手で綺麗にしたい。ただの気分だけど…。」
「……うん。わかった。」
そだね。ちょっと…魔法でビューン、は味気ないかもね。私達の…思い出が詰まった場所だし。
窓を開けて、ランプの灯りを頼りに大掃除。腕まくりをしてハタキやホウキ、雑巾で…完成!
「「イエーイ!」」
ハイタッチー!なんだろうね、この達成感!額の汗を拭っていたら、綺麗な布団を運んできたベッドにアシュレイが座る。私も並んだ。
「…公爵家の養子になってから。こうして…自分で掃除とか、した事ないんだ。久しぶりでも…身体が覚えてるもんだな。」
「…………。」
「人生、何があるか分かんねえよな。両親に捨てられて、傷だらけになりながらスラムで暮らして。追われて…誰かに助けられて、拾われて。お前と出会った。
…捨てられた時は、本当に悲しかったけど。そうしなきゃ…オレ達の人生は、交わる事はなかったんだろうな。」
「それ…は…。」
ふいに…女神エルフェリアスの見せた、別の世界が頭を過ぎる。アシュレイはもちろん、リンベルドすらも…誰も涙を流さない幸福な世界。アシュレイは…もしかしたら…
「ねえ、アシュレイ…。」
「ん?(なんだ…震えてる…?)」
怖くて顔を上げられない、けど。知りたい。卑怯なのは重々承知だけど、アシュレイにこっそり魔法を掛ける。
嘘をついたら…そうだな。頭の上にタライが降ってくるよう、真実の魔法を。
「も、しも。こことは違う…最初から皆が幸せな世界が存在していたら。そこで…生きたかった…?」
「…?皆が幸せ…ピンとこないな。オレ達はどうなってる?」
「私は…お父様とお母さんに愛されて魔国で育って。ザイン領も平和そのもので…アシュレイはご両親の元で育って、妹が産まれて。」
「(やけに具体的だな…?)それで?」
「アルは、家族の確執なんて一切なく。リリーもレイチェル様がご存命で、幸せ家族で暮らしていて。リンベルドも真っ当な魔族として生きていて…世界そのものが平和で。
けど…私とアシュレイは、道端ですれ違う程度の接点しかなく」
「え、じゃあやだ。」
「へ。」
即答?驚きすぎて、ガバッと顔を上げてしまった。
アシュレイ…彼の宝石のような紫の瞳が、私を捉えた。そう気付いた瞬間、心臓が大きく跳ねて顔に熱が集まる。
知ってか知らずかアシュレイは、私の手を取って指先にキスをした。
「オレはアシュリィと一緒にいたいんだ。確かに昔は…死ぬ思いを何度もしたし、両親を憎んだりもした。けど…今は…。
……その平和な世界は。きっと理想郷ってやつなんだろうよ。でも…オレは、お前と出会えない人生なんて嫌だ。今のオレ達が、何かの犠牲の上に成り立っているとしても。」
「ア…アシュレイ…。」
じわじわと、目頭が熱くなる。私の頬を涙が伝うと…アシュレイが戸惑いながら、指で掬った。
「あ…!(無神経だった…!アシュリィのお母さんとか、多くの人が亡くなったのに。全員が生きて幸せなら、オレの感情なんて二の次だ!……よな…?)…わ、悪い。やっぱ…えっと…。
オレってば、根っから庶民だし。身の丈に合った生活をして…最初からお前と出会わなければ、恋焦がれる事もなかったわけだし。それなら…そっちのほうが、良いに決まって…だっばあっ!!?」
ヒュー…ン ガァンッ!!! ガラン! ガランガラン…
あ。タライが降ってきた。アシュレイの頭を直撃し、大きな音を立てて床を転がる。
じゃあ…今のは…嘘?どんな暮らしをしても…私と出会って、恋をしたかった?
「おぐうぅ~…!な、なんだぁ…!?」
アシュレイは頭を抱えて、ベッドの上をのたうち回る。そっと頭を撫でて治すと…「サンキュー…」と言いながらヨロヨロと起き上がった。
「アシュレイッ!」
「ぎぇえっ!?」
失礼な!!?私は嬉しさのあまり、アシュレイに抱き着いてベッドに2人で倒れ込んだ。するとアシュレイはカエルが潰されたような声で叫びよった!
なんだよ、ちゃんと手加減したし!と思い…アシュレイの顔を見ると。
「……………。」
アシュレイが…初めて見る切ない表情をしている。見惚れてしまって動けない私の頬に手を添えて…そっと唇を重ねてきた。
「「………………。」」
気まずさはない。けど…そのまま自然に横になった。
「掃除したし…シャワー、浴びないと…。」
「明日早起きすりゃいい。」
「き…着替え…。」
「…上着だけ、脱げばいい。」
「「……………。」」
上着だけで…いいんだよ、ね?アシュレイはジャケットを脱ぎ、その辺に引っ掛けて。同じく上を脱いだ私に手を向ける。その手を取ると引っ張られて、2人で布団に潜った。
……ドキドキと…聞こえるのは心臓の音ばかり。私はアシュレイに正面から抱き締められている。
「…おやすみ。」
「ん…おやすみ…。」
私も…彼の背中に腕を回して、目を閉じた。こんなん眠れる訳ない!って思ったけど。アシュレイの鼓動と温もり、匂いに…安心しちゃって。
まあ…同意も無しに、手を出すタイプじゃないし…と。最後に額にキスをされて、私は寝入ってしまったのでした。
「ね…寝た…。オレもう、成人してるのに。まだ…抱き枕扱いなの…?」ぷるぷる…
そうじゃねーよ!!!
翌朝。ほぼ同時に目を覚まし…互いに顔を真っ赤にして、無言でハシゴを降りて。それぞれの部屋に行って…
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「なにゆえっ!?」
アイルが目尻を拭う仕草をする!!ラリーもどことなく遠い目で、ララとパリスはきゃーきゃーと可愛らしくはしゃぐ。
「僕的にはライバルですけど…アシュレイ様に同情します…。」
「ライバル…?ど、同情って何!?」
男2人は顔を見合わせて、同時にため息をついた。
「蛇の生殺しって知ってます?」
「馬鹿にしてんのか!!?」
「「(伝わってないなー…)」」
従者達が仲良くなったのは嬉しいけど、その「へっ」と笑うような顔ムカつく!!
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