私の可愛い悪役令嬢様

雨野

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学園

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 従者三人衆…むーん。4人組になったから、名称を変えねば!だが四天王は売約済み。うむむ…。

「という訳で。従者ズの新しい呼び名を募集します!!」

「いやなんでだよ。」

 デムの冷めた突っ込みが、鳳凰会のサロンに響いた…。



 メンバーは私、アシュレイ、アル、リリー、ディード、デムである。
 円卓に座り顔を突き合わせ、私が主催する夜会についての話し合い。

「だって…これまで通り三人衆だと、ラリーが仲間外れじゃん。今も4人仲良くお買い物行ってんだよ?」

「名称は必要なのか…?」

 おうともさ。だってそのほうが格好いいからね…!あーでもないこーでもない、アルと意見を出し合っていたら。

「もういい面倒だ!四天王Jr.にしとけ!!!」

 デムがブチ切れたので強制終了。まあ…私が魔王Jr.だし、それでいっか!


「あ、提案なんだけどさ。夜会に…ナイトリー嬢も呼ばない?」

「「うげ…。」」

 丁度私の向かいに座るアルが、律儀に手を挙げてから発言。
 デムとリアクション揃っちゃった。多分同じ表情もしてると思う…なぜよりによってあの問題児呼ぶの…?

「ん~…正直さ、夜会滅茶苦茶にしてもいいんでしょ?」

「まあね。」

「だったら。問題児タンブル令息問題児ナイトリー嬢を掛け合わせたら…なんか面白そ、変化起きそうじゃない?」

 面白い化学反応期待してる?下手したら毒ガス発生するかもよ?


 けど…ちょっと見てみたいかも?タンブル令息って、私は生理的にアウトで殺意が湧くレベルだけど。一般的には…美形と言える部類の顔ではある。
 対してナイトリーは、イケメンとお金持ち大好き。タンブル令息もストライクゾーンに入るだろう。それに以前…パリスに興味を持っていた。向こうには男性のセルジュさんもいる。

 十中八九、ナイトリーはタンブル令息に接触するだろう。その結果…何が起こるのか。


「……やってみるか。心底嫌だけど、招待状送るか~…。」

「送んなくていいんじゃない?多分、デメトリアスで釣れると思うよ。」

「俺は撒き餌か、この野郎。」

「あははっ!」

 …アルとデムがふざけ合っていると…なんか安心する。ふふっ。
 しかしここで、リリーが難色を示す。

「招待状送ったほうが確実じゃないかしら?」

「オレもそう思う。なんかダメな理由でもあんのか?」

「夜会だから、他にもお客さんいっぱい呼ぶでしょ?それこそ学園の生徒もいると思う。
 僕らが普段、ナイトリー嬢を避けてるのバレバレなのに。政治的に交流が必要な家でもなし、急に呼んだら変だよ。気にしすぎかもだけど。」

「「「………………。」」」

「だったら「呼んでもないのに来た」ってほうが自然じゃない。「なんだ、またやらかしただけかぁ…」なんてね。」

 い…意外と考えてる…!全くもってその通りで、私達はアルの提案に従う事にした。その他細かい打ち合わせもして…と。



「で、メインの獣憑き3人ですが!私としては…一刻も早く助けたい。できれば今回の夜会でカタを付けたいんだけど…。」

 今も彼らは、見せ物にされたり苦しい思いをしている。考えたくもない…やっぱ誘拐するか…?
 私はテーブルに肘を突いて、難しい顔をしていたんだろう。ディードが「何を考え込んでいるんだ?」と訊ねてきた。

「前から疑問だったんだが。お前はどうして、タンブルとやらに遠慮している?」

「………へ?」

 私が、なんて?ディード以外が首を傾げた。ディードも、不思議そうに傾げた。


「いつも自分で言っているだろう。私は世界最強の魔王の娘だ、と。
 魔王とはなんだ?」

「え…と。世界一強くて、魔族と魔物の王様…かな。」

「それだけではない。魔王とは…
 この世界で最も自由な存在だ。何物にも縛られず、道を拓く者。誰も行動を阻む事はおろか、前を行く事すら許されない。」

「あ…。」


 そうだった。お父様は普段、四天王やクラリスに小言を言われる印象があるけど。
 実際…お父様が命じたら、誰も止められる者はいないんだ。止められるのはそれこそ…娘の私や、歴代魔王くらいか。

 お父様が穏やかな人柄だから…私含め、勘違いしがちだけど。


「その通り。だからこそ魔王の資格は厳しいんだ。
 赤い目は生まれ持ったもの。レベル15以上は、魔族ならまあ普通だな。最上級精霊との契約…これは精霊と心を通じ合わせるか、屈服させるか。後者は高確率で死ぬ。
 最後に、神々の加護。神というのは直接関わって来ずとも、この世界の守護者だ。ならば…世界の均衡を壊すような思想の持ち主に、力を与える事は決してない。リンベルドが授からなかったのは当然だ。」

 ふむふむ。私達が「人間うぜー、滅ぼしちゃおうぜっ☆」な考えを持っていたら、神は見向きもしないのね。

「ここには魔王の愛娘と。自他共に認める次期魔王…私がいる。たかだか人間の貴族の子供に、何を臆する事がある?
 お前はただ、タンブルを指してこう言えばいい。」

 ディードは私を指差し、威厳に満ちた表情をしてみせる。それは紛れもなく…王者の風格だ…。


「お前の後ろ。セルジュ、フィオナ、リア。私はその3人が欲しい…と。」

「……!」


 …それはお願いじゃない。

 命令だ。
 平民が貴族に逆らえないのと同じ。相手が善良な貴族なら、私は絶対に使わない手だけど…ね?



「……ふ。ふふっ。」

 急に笑い出した私を、皆がやや引きながら見ている。
 そうだ…それでこそ私だ!!!解っていたはずなのに、人間の感性が邪魔をしていたようだわ。

「私はアシュリィ=ヴィスカレット=ウラオノス。ええ、そうよね。私がルール…やってやるわ!!」

 私は…何物にも縛られない!!我が道を征く、ありがとうディード!完全に目が覚めたわ!!
 椅子から立ち上がり、私は拳を顔の前で握り締める!

「いい皆!当日は目一杯着飾って、汚れたり破けても私が直してあげる!!」

「「「(暴れる気だ…)」」」

「他人の評価なんぞ知るか!!お父様だって夜中に王宮に、アポ無し訪問しやがる迷惑極まりないタイプだしね!相手の都合なんざ知ったこっちゃねえ、そうよねディード!?」

「ああ…そういう事だな。」

「それでこそアシュリィだぜ!!」

 ディードはくすっと笑い同意してくれた。アシュレイは目を輝かせ、興奮気味に頬を染めている。っしゃあい!!
 最初は穏便にお金で解決を試みる、相手が渋るなら実力行使!!札束ビンタをしてや…駄目だ、硬貨しかねえわ。ばら撒いて「拾え愚民」とか?それは悪趣味だな…。とにかく殴る!!!


 いえええーーーい!!腕をぐるんぐるん回し、やる気を充填!!
 よく分からんハイテンションに身を任せ、会議終了!さあ解散!…というところで。なんだか…デムが渋い顔をしている?

「…どうしたの?タンブルなら作戦通り、失墜させるつもりだよ?私が魔法で奴に化けて、貴方の噂を広めまくればいいんだから。」

「いや…そっちじゃなくて…。
 ……さっきの、話。お前達は…神々の加護を授かっているのか…?」

 え、そこ?ディードと顔を見合わせた。

「うん。私は運命の女神エルフェリアスの加護をね。」

「私は破壊と再生の双子神デリテッサとワズトッサからだ。」

 それが何か?

「……ふはっ!いや、そうだな。俺には今更、意味の無い事だ。
 ではよろしく頼んだぞ。俺達はこれで、一蓮托生だからな。」

 ???デムは小さく吹き出し、先にサロンを出て行った。何事?


「……あ。そういえば…デメトリアス殿下も、神々の加護を授かってるはずよね?」

「え?そうなの?」

 人間にしては珍しいね?でも…どうしてリリーは知ってるの?


「だって…グラウム帝国は…──」








「…………………。」

 夕方になり…私は寮の廊下を1人歩く。
 ふう…色々考えすぎて疲れちゃったかも。早くお風呂に入って…その前にご飯か。部屋の扉を開けると…

「あ!お帰りなさい、アシュリィ様!」

「ただいま皆。貴女達もお帰りなさい…ってラリーは?」

 そこにはラリー除く3人がいて、ララが笑顔で出迎えてくれた。

「ラリーくんはお部屋です。夕飯はいいって言うから、ぼく達だけでいただきましょう。」

「そうなの?一応声掛けを…」

「「「いいからいいから!」」」

 えー!?従者達の部屋は向かいなんだが、3人に背中を押されて食堂に連行されたあ。いいのかな…?



「どう、買い物楽しかった?」

「はい。それで…ラリーがすごく注目されてまして。特に若い女性は、彼と目が合うと顔を真っ赤に染めてましたよ。」

「格好いいもんね~。」

 ラリーだけでなく…この3人も超美形だ!なんせ幼いながらに、オークションに出されるレベルだからね…。
 そりゃ街娘は見惚れちゃうよね。私だってつい目で追っちゃうと思うよ。

 何を買った、どこに行った!と色々教えてくれて。楽しい食事の後…部屋に戻るとラリーがいた。私の姿を見て、何かを背中に隠した?

「あ…アシュリィ様。お帰りなさいませ。」

「うん、お帰り。夕飯いらなかったの?」

「ちょっと…作業を…。」

 なんの?彼は今日、自分の買い物はしてないって聞いてたけど。
 何か言いたげなので、無理に促す事もせず彼の言葉を待つ。数分後…意を決したように、何かを私に突き出した?


「こ…これを!受け取ってください!!」

 へ?彼はぎゅっと目を瞑り、震える手に持っているのは…ラッピングされた細長い箱?
 まさか…私に、プレゼント…?

 ……やば、嬉しい。あの…警戒心MAXだったラリーが…私に…!?

「あ…ありがとう…!ねえねえ、今開けてもいい!?」

「ど、どうぞ…。」

 わーい!!いそいそと開けると、そこには。

「……黒い、羽根?の…髪飾り?」

 素敵…これまさか、ラリーの羽根?むしったの!?

「むしったというか、抜けただけです。それで…僕が差し上げられるのは、これくらいで…。
 よ、よかったら、使っていただきたくて…。貴女の美しい髪に、よく似合うと思います…。」

 ラリーが指をもじもじさせている…可愛い…!
 私は自然と胸が温かくなり…そんな彼の手を取った。


「ありがとう、嬉しい!大事に使うね!」

「あ……。」

 ?あ…あれ?ラリーが…固まった?
 じわじわと…耳から首まで真っ赤に染めて。若干涙目になって…「あ…あう…」と…声を漏らして。
 私は気付けば…繋いでいたはずの手を離され、ラリーの腕の中にいた。
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