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学園
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しおりを挟む「ああ、そういう作戦?じゃあ…相手を引っ張り出さないとね。」
翌日アルに相談したら、どうにか夜会を開かなきゃ~と言った。
でも、国を超えてまで来るか…?何かいいエサ無いかな。
「そりゃ、シュリが呼んだら来るんじゃない?好かれてるんでしょ?」
「そ……うねぇ~…?」
ちなみに現在地、立ち入り禁止の屋上。理由?2人の気分が一致したから!
「じゃあ、私が夜会を開く?初めてだなー…。」
「もちろん僕達も手伝うよ。場所は…そうだ。旧アミエル侯爵邸でいいんじゃない?」
え、あの…私達がぶっ壊して、お父様達が直したあの屋敷?
アルとリリーが結婚したら、住む予定の…うわ懐かしっ。地下室まだあんのかな…?
その辺はリリーも入れて話したいから、そろそろ降りるか(そのリリーは現在、令嬢友達とお茶会中なのだ)。
私がアルをおんぶして、5年生の教室まで飛ぶ。…今、2人きりのこのチャンス。聞いちゃおうかな…。
「アルにとってデムって…どんな存在?」
デムが言っていた。アルは自分を…『皇子』でなく、1人の人間として扱ってくれた最初の人、と。
「僕の従兄弟で、デメトリアスっていう名前の男で、大切な友達。だよ?」
「……ん?」
それは、そうなんだけど。なんか言い方に違和感が。
まー、彼の言動を理解できないのは昔からだしね。はい、教室に到着っと!
タンブルの野郎を始末すれば、自動的にデムの問題も解決するし!
招待は確定として、その後どうするかも考えないと。リリーとも話し合ったけど、その日は答えは出ず。
近日中に各々案を出すという事で解散した。つまり…進展はまるでなし!
そして翌日は…月に1度のビッグイベントだ!!
「はい。皆お疲れ様でした!」
「「「わーい!」」」
へい!従者達のお給料日でござい!チャリ…と硬貨の入った巾着を4人に渡すと…
「……?アシュリィ様、これは…?」
「いや、貴方のお給料だけど。」
ラリーが目をまん丸にして、私と巾着を何度も見比べる。中を見て…更に驚いてる。
彼は年長者でも新人でまだ見習いだから、三人衆よりちと少ないけど。魔族の公家使用人として、それなりに高給なはずだが…?
「……これを、僕に。本当に…くださるのですか…?」
「え?まさか…私の事、無賃金労働させる系の輩だと思ってる…?」
泣くぞ、おい。
最近は仲良くなれたと思ってたの、私だけ?しゃがんで、床に指でのの字を書いていじけてみせると。
「……初めて…自分のお金を、貰いました…。」
ラリーは頬を染めて、巾着を胸に抱いて目に涙を浮かべた。…そっか。アホな演技やーめた。
「計画的に使いなね。必要な物や好きな物を買って、残りは貯金しとくといいよ。大体の相場は分かるね?」
「はい。」
まあ、何度かアイルと買い出しとか行ってるし。まだ夢見心地っぽいラリーの事を、3人は微笑ましげに見つめている。
「あ、そうだ。ラリー、貴方好きな色ってある?」
「え。あ…っと…灰色?」
…なんで私の頭を見ながら言うのかな?全く…もう。用意しておいた財布を魔法で灰色に染める。それをラリーに渡した。
「はい、あげる。巾着のままじゃ格好つかないしね。」
「えっ…。」
まあいずれ、自分の趣味で新しいの買いな。これはそれまでの繋ぎだよ…って言ってんのに。ラリーは財布をじいっと見つめて、全然聞いちゃいねえや。
今日は休日で、特に予定は無い。強いて言えば、タンブル対策を…なので。
「4人共、今日はお休みでいいよ。各々自由行動ね!」
「「「イエッサー!」」」
「い、イエッサー!」
お金。僕の…僕だけの、お金。自由に…使っていい…?…嬉しい。
「あー…ラリー。よかったら、一緒に買い物でも行くか?」
そう言ってくれたのは、使用人仲間のアイル。年下ながらに、頼りになるやつ。正直ありがたいので、こくんと頷いた。
パリスとララも…4人で学園を出て街に。いや待て。僕とパリスは目立つんじゃ…!?
「アシュリィ様もいないのに、出歩いて平気なのか!?」
「ん?ああ、いいの。」
「捕まったりしたら…!」
「大丈夫だよ。その時は…「ヤっていい」って、アシュリィ様から許可貰ってるもん!」
「え。」
ララが…可愛らしい笑顔で、指をゴキゴキと鳴らしている。どういう事だ…?
意外にも…僕達に対する好奇の視線は少なかった。どうやらこの街では、獣憑き=魔王の娘の特別、と知れ渡っているようだ。
けど人が多いな…あまり他人に、この翼は触ってほしくない。でもローブを羽織ると…背中が異様に膨らんで不恰好だし…仕方ないから出してる。
それは、いいけど。いくつもの店を外から眺めるが…何を買えばいいのか…分からない。
「…お前達は…最初の給料で、何買った?」
前を歩く3人に聞いてみた。やっぱ最初って、特別な感じするし。
「俺は本だったかな。」
「わたしは服だよ~。」
「ぼくはお菓子。でも…それよりも。」
「?」
3人が、過去を懐かしむようにふふっと笑った。
「俺達で金を出し合って…アシュリィ様にプレゼントをしたんだ。俺達を助けてくれて、愛してくれる大切なお方に。」
「え…。」
聞けば…恩返しがしたかった3人は、話し合いの末。アシュリィ様に色とりどりの花束を贈ったと。子供の知恵じゃ、それが限界だったと笑う。
「アシュリィ様、すっごく喜んでくれてな。半永久的に持続する保存魔法掛ける~!って泣いてくれて。それはやめてもらった。
でもいくつかは押し花の栞にして、俺達も貰ったんだ。」
「ぼくはまだアシュリィ様がいないと言葉が通じなくて、ほとんど2人にお任せだったけどね。」
「喜んでくれるかな…?ってドキドキだったけど。全然、杞憂ってやつだったね!今もお花に添えたメッセージカードを、大事に持っていてくれてるんだよ。」
「……そうか…。」
その時を思い出しているのか、彼らは幸せそうに語る。
…いい、なあ。僕も…
少し前の僕だったら。お金を貰ったら…全部貯金して。いずれ…逃げた後の資金にしようと、考えたはず。けど…
「…僕も。アシュリィ様に…プレゼントしたい…。」
僕とミラを見つけてくれて。見返りの無い…包み込むような愛情を教えてくれた、あの人に。
自分の物なんていらない。逃げる気なんて更々無い。ただ…彼女の喜ぶ顔を、見たい。
そう素直な気持ちを告げると。
パリスとララが、両側から僕の手を取って。アイルが先頭を歩いて…
「「「一緒に行こう!」」」
と…笑顔で走り出した。
僕もつられて笑顔になり、駆け出す。
……なんで僕は今、涙が出ているのだろうか。
獣憑きとして生まれ…物心ついた頃から隷属の首輪をされて。自分で死ぬ事もできない…まさに生き地獄の中、21年間歩いてきた。
今の僕は。誰かの顔色を窺う必要もなく。こうして…仲間と呼べる存在もいて。
周りの偉い人達も、皆僕を「人間として」扱ってくれる。何より…アシュリィ様。
彼女と出会う為に僕は、これまで頑張ってきた。今なら…そう信じられる気がする。
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