私の可愛い悪役令嬢様

雨野

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学園

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 私達は集団から少し離れた所にやって来た。令嬢達の姿は見えるし、会場警備の騎士はすぐ近くに待機している。これならいいでしょう。
 休憩用のベンチに並んで座り、私から訊ねる。

「デムは…あまりご家族と上手くいってないようですね。
 ステファニー殿下は、彼の事をどう思いますか?」

「………………。」

 彼女はチラ…と遠くにいる陛下を見る。
 言っていいのか迷ってる、って事か。

「私は彼の力になりたいと思っています。このままではデムは、ご家族と遺憾を残したままお別れする事になってしまいます。」

「……実は。お母さまやお父さま…家族はみんな、デメトリアスお兄さまの事を…『ニセモノ』だとおっしゃるのです。」

 ピクリ 口の端が引き攣るのが自分で分かった。


「…どういう事でしょう?」

「あの…わたくしにとっては、大好きなお兄さまなのですが。
 他の家族も、侍女も…全員、あまり近づいてはならないと言うのです。
 お兄さまはいずれいなくなる。それが本来の…正しい家族のあり方だと。」

「そうですか…。」

 駄目だ…微笑みを絶やすな。この子は恐らく何も知らない。だから…不安にさせちゃいけない。
 さり気なく聞き出すも、デムと交流が少なすぎて、それ以上有益な情報は無かった。

 いや、充分だ。彼がこの国で、どういう扱いを受けていたのかは痛感した。


 では戻りましょうか、と手を伸ばす。殿下は私の手を取りながら…「あっ」と声を上げた。

「あの…デメトリアスお兄さまなのですが。なんだか、玉座の間を恐れているようなのです。
 扉の前を通るのも、その階に足をふみ入れるのもイヤがっています。ティモも同じです。」

「玉座の間…?」

「はい。その為、大切な式典などにも参加できず…だからニセモノなのでしょうか…?」

「………お話、ありがとうございます。」


 笑顔でお礼を言い、今度こそ令嬢達の輪に戻る。
 陛下は私を気にしている、娘が変な事言ったんじゃないかって不安なのだろう。
 だから私は、視線に気付かない振りをして。優雅にお茶を飲んだ。




 暫くすると、陛下はお仕事で席を外した。
 歳の近い子達と話しているが…1人の令嬢が、恐る恐る私に話し掛ける。

「あの…姫君は、獣憑きの少女を連れていましたが。奴隷…ではないのですよね?」

「ええ、彼女は私の大切な従者ですよ。」

 聞かれると思った。笑顔で答えれば、令嬢はほっとした様子だ。
 彼女を皮切りに、他の子も話に入る。


 パリスは…タンブル令息の奴隷達と違い。
 仕立ての良い服だし、私を心から慕ってるのが分かる笑顔ですって。照れるやん…。

「あの…正直言いまして。私…タンブル様は好かないのです…。」

「私もです。この国では奴隷が認められていますが、それは基本的に屋敷の下働きとしてですの。」

「あんな風に…見せ物にするなんて、彼らをなんだと思っているのでしょうか…!」

 ふむ…魔族わたしが怖くて同調してるのか、本心でそう思ってるのか。
 後者だと信じたいが、やっぱあいつ非常識なんだな。ニヤリ…。


「実は私…タンブル令息より、パリスを譲ってくれなどと言われてしまいまして。」

「まあ…!なんて事を!」

「もちろんお断りしましたが。彼が連れている…セルジュさん。彼と交換したい、と。」

 ざわざわ。ふふ…あの発言を聞いた人もいる事実だし。

「それで、少々2人きりになり。「獣憑きは見た目が愛らしいだけで、皆と同じ人間なのです。見せ物にするのはやめてください」と申しました。
 ですが聞き入れてもらえず…オススメの獣憑きがいますよ、などと見当違いな提案をされてしまって。」

 悲し気に目を伏せて言えば、令嬢達は嫌悪感を露わにした。
 ふふ…評判の悪い侯爵令息と、魔王の娘。皆がどっちを信じるかなど、一目瞭然!

 オススメの者とやらを保護した事、私の従者にする事。魔族は獣憑きに偏見は一切無い。
 いずれ目標ができたら、自由にしたい事。見かけても…好奇の視線で見ないであげて欲しい、と言っておく。


 ふう…こんなとこか。こんだけ奴を落とせればよし。
 私はリリーと一緒に、お先に失礼しまーす。

 



 部屋に戻れば、ミラはお昼寝中。あらやだっ可愛い~!

「お帰りなさいませ、お嬢様。」

「おうよ…。」

「離れている間、寂しかったです…どうか慰めてください…。」

「………よしよし。」

 ラリーが跪くので、頭をぽんぽんしてあげる。物足りなそうな顔されても…。
 アイルに聞けば、私がいない間ずっと床に座り、帰りを待っていたらしい。忠犬か。


「……ラリー。」

「はい、お嬢様。」

「あのね。私は絶対…絶対、貴方を見捨てないから。」

「………なんのお話でしょう?」

 彼は目が笑っていない状態で、口角を上げる。
 分かってるよ。私に捨てられたくないから、好かれる努力をしているの。なんというか、私はギャルゲーのヒロインの1人で、攻略されてる気分になる。
 まあ、すぐには変われないか…。

「とにかく、私を信じて欲しい。それだけ…さ、帰るよ。」


 もうこの国での用事は済ませた。
 また何泊かしつつ、王国に帰るのだ。

「帰る…?僕を、置いて…?」

「いやなんでだよ。連れてくに決まってるでしょうが。」

 貴方の服とか、きちんとサイズ測って仕立てないとね。あと部屋…どうしよう。
 アイルの部屋に、ベッドもう1つ置けるはず…と思案する。


 お世話になりました~と陛下にもご挨拶。
 陛下は「またおいで」と言ってくれたが…デムには一言も声を掛けなかった…。



 帰りはラリーが…どうしても私と一緒がいいと言うので。
 私、アシュレイ、三人衆、ラリーで同じ馬車。残りは後ろの馬車でございます。
 私を挟み、アシュレイとラリーが睨み合い。私の為に争わないで~!なんてね。
 ラリーのは好意とは違うから、虚しいだけさ。

「アシュリィ様…あの子達は、どうでしょう…?」

「タンブル家の3人ね。考えてはいるけど、私は策略とかそういうの苦手だからなぁ…。
 アル達と相談してるとこ。でも絶対助け出すから、心配しないで!」

「はい、そこは心配してません。お願いします…。」

 パリスは本当に苦しそう…。
 一番は…タンブルを失墜させる事。どうにか大勢の前で、ヘマをするように仕向けたい。





 国に帰ると…なんと王宮にお祖父様がいた。

「やあ、その子が?」

「うん、ミラだよ。」

「よろしくね~、ミラちゃん。おじさんと一緒に魔国に行く?」

「うん!」

 その言い方、不審者っぽいなあ。
 ミラには前もって言ってあるから、すんなりお祖父様の手を取った。
 2人はテリココット様に乗り、ふよふよ浮かぶ。


「じゃあ一旦帰るね。そっちの彼はどうする?」

 ああ、ラリーか。彼は私と一緒にいるよ、と答えればお祖父様はニコニコした。

「いやあ、僕の孫娘はモテモテだねえ。旦那さんがいっぱいだねえ。」

「何言ってんのお祖父様…。」

 ほら、アシュレイが頬をめっちゃ膨らませてるぞ。
 大体重婚する気ないし…。

「ほっほっほっ。ライナスも、妻が沢山おったのう。」

「もう~テリココット、何百年前の話をしてるのさ。」

 ……え?なんの話?
 ぽかんとしていたら、ばいばーい!と言ってお祖父様は逃げた…。

 今度会ったら聞いてみよう。そう決意した。



 日常に戻り、授業を受け…芸術祭に向けた練習もし。
 放課後、デム達の特訓も継続中、なんだが。

「あれ、ディード。双剣使ってるの本格的じゃん。」

「まあな。」

 彼愛用の双子剣…練習用だけど、それでアシュレイと手合わせをしている。


「ぐ…っ!」

「踏み込みが甘い!!陛下はこんなものじゃないぞ!!」

「分かって、らあっ!!」

「っ!今のはよかった、その調子だ!!」


 ガキン キィンッ! 金属がぶつかり合う音が、周囲に響く。
 すると…大体現れるのだ、奴が。


「殿下~♡お疲れ様ですう、タオルどうぞ♡」

「…結構だ。」

 はい出たナイトリー!なんだが…あら?
 彼女はデムにばかり、差し入れやらハートを飛ばしたり…アシュレイ達はガン無視。

 いやいいんだけど。デムが可哀想…彼にロックオンしたのか?ディード達も首を傾げて…よし!!


「情報班!!」パチィンッ!

「「はいっ!!」」ガザッ!

 指を鳴らせば、どこからともなくトゥリン兄妹参上!!

「何従えてんだお前…。」

「気にすんなって。で、何か情報は?」

「もちろん仕入れてございます!
 結果から言いまして、彼女はアシュレイ様達から手を引きました。」

 ほう?マルガレーテの言葉をヨハネスが引き継ぐ。

「切っ掛けはあの決闘ですね。ナイトリー嬢は…「あんな野蛮人達、私に相応しくないわ!腕が飛んでも笑ってるって正気じゃないでしょ!?」と憤っていました。
 なので残念ですが…あの場にいなかった、デメトリアス殿下を「私の気持ちを分かってくれる殿方」と認定したようです。」

「「「あちゃあ…。」」」

 私、アシュレイ、ディードは同じポーズで天を仰いだ。次から次へと…デムに降り掛かる災難よ。


 しかし…彼女は喧しいだけで実害は無かったから放置してたけど。
 最近は不法侵入とかしてるし…いい加減どうにかすっか。


 ああ…考える事が多いなあ、と。私は遠くを見るのであった。


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