私の可愛い悪役令嬢様

雨野

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学園

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 翼に包まれた状態だが、2人を保護した経緯を語り、皆納得。
 で、全員自己紹介をしてもらった。

「従者仲間だね!ぼくはパリス、よろしく!」

 特にパリスが大喜び、満面の笑みで握手を求めた。

「え?あ…その…よろ、しく。」

「?よろしく…。」

 ラリーは戸惑いながらも応える。いい加減離れようか?
 ミラもびくびくしつつ、優しそうなお姉さん達に囲まれて笑っているぞ。

「こっちのアイルが皆のリーダーだよ。なんか分からない事があったら頼るといいよ。」

「アイルです。よろしく、ミラとラリー…さん?」

「ララです!私達も全員、アシュリィ様に助けてもらったの!」

 おいおい照れるやん。あれはベンガルド家の力もあって…って今はいいか。
 三人衆はもちろん、アル達も皆受け入れてくれた。だ・が!!!


「……事情は分かった。今まで苦労してきたんだな…でも!!!
 アシュリィから離れろ!男として使用人として、適度な距離を保て!!」

 ぐいっ!と腕を引っ張られ、私はアシュレイに抱き締められた。
 ちょ…!皆見てる!!

「アシュレイ…!」

「彼女に触れていい男はオ………オレだけ、なんだからにゃっ!!!」


 …………最後、噛んだ?

 顔は見えないが…私を抱く腕が震えている。
 そしてラリーとミラ以外、全員顔を伏せてしまった。


「…ですが。僕の存在意義は…女性を悦ばせる事。
 昨夜は拒まれてしまいましたが、きっとご満足いただけるかと…。」

「……さ、く、や?アシュリィ…昨夜、何かあったのか…?」

「……………………。」

 ラリー、ちょっと黙って?
 あの、ちゃんと説明するから。でも恥ずかしいので…こっち来て、と私の泊まっている部屋に移動した。



「ラリーさん、アシュリィ様はすっごく優しいよ。
 存在意義とか、細かい事気にしなくていいの。」

「…お前も獣憑き、なのに。なんで…そんな笑顔が出来るんだ…?」

「えへへ~。あなたもすぐ分かるよ。」

「……………。」

「ミラちゃんはちっちゃいね。お仕事どうするのかな。」

「うーん…俺達と違って、無理に働かせる事もないんじゃないか?」

「ミラ、おじゃま…?」

「「「そんな事ないっ!」」」


 後ろから、従者達の会話が聞こえてくる。
 仲良くなってくれると嬉しいな。




 で。アシュレイと2人きりになったところで。
 ソファーに並んで座り…昨夜、何があったのか包み隠さず説明した。
 アシュレイには、なるべく嘘をつきたくない。男性に関する事なら尚更。

「え…裸見せられて夜這いされて、一緒に寝たの!!?」

「よば…っ未遂だ!!」

 大体私だったら、返り討ちに出来るって分かるでしょ!!
 だというのに…アシュレイは目に涙を溜めて、唇を結んだ…。


「あ…あの、言い訳になるけど。
 彼は…ずっとそうして生きてきたの。それを真正面から否定したら、壊れちゃいそうで…。
 だから…時間を掛けて、普通の生活を送れるようになって欲しくて。」

「………………。」

 私の言葉は届かなかったのか、アシュレイは俯いてしまった。
 ポタポタと、膝に涙が落ちる…。

「……ごめん。私…自分の方が強いからって…軽く考えてた。
 本当にごめんなさい…。」

 自分が情けなくて泣きそう…。
 そうだよね、好きな人が…異性と同衾したら嫌だよね。


 猛省しても遅い。アシュレイ…。
 膝の上で拳を握り、なんとか声を発する。

「……私の事、嫌いになった?ふしだらな女だって、思」

「思わない。その状況でお前があいつを拒んだら、狂っていてもおかしくない。
 分かってる、だけど。もう…しないでくれ…。」

 アシュレイは、私をソファーに押し倒して。
 固まる私の頬を撫でて…大粒の涙を流しながら、顔を近付けて。

 これは…私が目を閉じると、唇に柔らかくて温かいものが触れた。


 数秒後…アシュレイはゆっくりと離れる。
 

「…これで、許す。」

「……ん。」

 もう涙は止まっており、互いに真っ赤な顔を逸らす。


「「…………………。」」


 ソファーに座り直すが、沈黙が。
 すんごい…鼓動が聞こえるんだけど。私のものなのか、アシュレイのものなのか分からない。


「……なあ。」

「っ…何?」

 沈黙を破ったのはアシュレイで、私の手を握った。

「…今日、オレと一緒に寝て欲しいって言ったら。
 どうする…?」

「………ふぇ。」

 それは…つまり?

「……何もしないって、約束してくれるなら…いいよ。」

「………そっか。じゃあやめとく…。」


 アシュレイはそう言って、立ち上がり部屋を出て行った。



 …………したいって事なのね!!?
 いやあああああ!ちょ、ちょおおおおいっ!!!

 まだまだお子ちゃまだと思ってたアシュレイが…!!ぎゃあああああっ!!!




 ドガッ ミシ… ドスン、バタン どだだだだ…



「ん?地震?」

「いや、シュリが暴れている音だな。」

「え。レイ…死ぬんじゃない…?」

 ガチャ

「誰が死ぬって?」

「あ、アシュレイお帰りなさい。じゃあ…あの子は1人で何してるの…?」

「………………知らん……。」


 結局私が落ち着くまでに、部屋は半壊した。
 魔法で全部直したから許して…。




 それから、改めてラリー達と話をする。
 私の部屋にデム&ティモ以外が集まり、彼らの今後をどうするか意見を出し合う。

「私としては、ラリーはディードに仕えるのがいいんじゃないかなって。」

「私に?それは、構わないが…。」

 ん?ディードはチラッとラリーを見る。
 そのラリーは、変わらず無表情…と思いきや。若干眉尻が下がってる…?


「……お嬢様の決定なら従います。でも…貴方は僕にどっちの役割を望みますか?」

「どっち、とは?」

 ラリーは何を言っているんだ?彼以外が頭に疑問符を浮かべる。

「僕がご奉仕するのか、僕をお使いになるのか…。」


 …………そういう意味か!!!!


「???お前は何を言っている?」

 あ゛あ゛あ゛ーーーっ!!!通じてしまう自分がイヤ!!!これも全部凛々のせいだあああっ!!!
 というかリリーにも通じてるっぽい。頬を染めて口の端を震えさせているから。


「ラリー!!貴方はその…ディードのお世話をすればいいの!!!」

「はい。ですから…」

「外出に同行したり!着替えの手伝いをしたり!!お茶を淹れたり、屋敷の通常業務をするの!!」

「…?それでは、使用人と同じでは…。」

「使用人だよ!!もう奴隷じゃないって言ってんじゃん!
 首輪は無いし、契約書も破棄した!!だから…!」


 貴方は自由なの!!望むのならば、私から離れて行きたい所に行ってもいい!!
 と、言葉にするのはまだ早い。
 それでも伝わったのか、ラリーは目を丸くして、裾を握り締めた。


「ラリーさん。自分の意見があるなら言っていいんだよ?
 アシュリィ様は絶対怒らないし、むしろ隠されたら泣いちゃうよ。」

「そうだぞ泣くぞ!もうわんわん泣くよ!!」

 流石パリス、分かってるぅ!!
 おらおら、言いたい事あったら言えい!!
 誰も急かす事はせず、ラリーの言葉を待つ。数分後…。


「…僕は。お嬢様にお仕えしたいです…。」


 と、確かに言ったのだ。
 ふむ。じゃあ…アイルの補佐をしてもらおうかな。正直やってもらう仕事がないんだが…なんとかなるか!


「それと…夜は一緒に寝て欲しいです。」

「却下!!!!」

 うお、アシュレイが額に青筋浮かべて、腹から声出してら。

「温もりが無きゃ寝れないって!?じゃあオレが一緒に寝てやる!!!」

「………………………お嬢様がいい…。」

 ラリー…!こんな短時間で、はっきりと意見を言えるように…っ。
 感激ものだが、内容がよろしくない。


「ラリー、それは駄目。」

「……どうしても、ですか?」

「どうしてもだ!!!大体お前、アシュリィの胸触ったらしいな…!
 オレもまだなのに!!」

「いえ小さすぎて、胸の感触は無かっ」

「いい加減にせいや。」

「「はい…。」」

 もうやだこの男達。
 アシュレイはテーブルにめり込ませ、ラリーには優しくアイアンクロー。



 ていうか…胸あるし!!?

「アイル、パリス、ララ!」

「「「はいっ!」」」

「アシュリィの胸は!?」

「「「可能性の塊です!」」」

「10年後は!?」

「「「ダイナマイトセクシーです!」」」

 よし完璧。ドヤァ。
 ラリーよ、私に仕えるならこのノリをマスターすんだぞ。


「お前は従者に何を言わせているんだ…。」

「(10年後も同じ事言わされてそう~。って言葉にしないあたり、僕も大人になったんだなあ)」

「(貧乳でもオレは好きなのに…気にしてるの可愛い…)」

 男連中が三者三様の顔してる。
 はいラリーの今後は決まった、次ミラ!!


「この子は仕事できる歳でもないし…魔国に行ってもらおうと思う。」

 冬も帰省するつもりなんだけど。その時はまだ、魔法陣の半年間というインターバルが明けていない。
 なので地道に空路で帰る予定、その時まで私が面倒を見よう。
 で…暫くは普通の女の子として暮らせばいい。もしかしたら誰か、養女に迎えたい人がいるかもしれんし。

「ねえミラ。私の実家にね、優しい人が沢山いるから。
 そこでのんびり過ごそう?」

「……ミラ、おなかいっぱいたべていい?」

「もちろん。」

「だれも、ミラのことぶたない?」

「うん。そんな人がいたら…お姉さんに言いなさい。」

 生まれてきた事を後悔させてやるからね。
 根気強く笑顔で諭せば、ミラは控えめに頷いてくれた。


 そうだ、もしかしたらお祖父様がまだ近くにいるかも。
 手紙を書いて、二つ折りにし。お祖父様を思い浮かべながら、『ライナス=ユリウス=アルデバラン様』と宛先を記入、魔力を流す…

「『伝書鳩ピジョンレター』」

 するとあら不思議、手紙が鳩に変身!
 窓から外に飛び出して、北の方角に飛んだ。あっちか…。


「ねえシュリ、今の魔法何?」

 む?アルを筆頭に、皆が私に注目してる。

「簡単に言えば、特定の人物に手紙を飛ばすだけ。どれだけ魔力を込めたかによって最大飛距離が変わるの。
 今は目一杯流したから、魔国にまで届くレベルだよ。スピードは鳩だから、時間は掛かるけどさ。
 で、相手に届いたら鳩が手紙に戻るの。雨に濡れても大丈夫なんだ。
 けど確実に届くとは断言できないから…大切な手紙は飛ばさない方がいいね。」

「「へえ~!!」」

 アル、リリーが目を輝かせてる。
 多分…アシュレイレベルだと、半径5kmが限界かなー。精鋭レベルならベイラー国内程度は、どこでも飛ばせると思う。

「すごいわシュリ!私にも教えて!」

「僕も!というか、皆知りたがると思うよ。」

 え、うーん。まあ、いいけど。
 ただそうなると、私が詠唱決めなきゃ。文字に魔法を乗せて発動するからね。




 考えとくよ、と約束。そして…
 伝書鳩魔法は大流行し、十数年後には…世界中で老若男女が扱う事になるのだが。
 この時の私はまだ知らないってね。




 お祖父様には「近くにいたらでいいから会いに来て、保護した女の子を魔国に連れてってー」といった旨を書いた。

 さて…今日はお茶会があるのだ。陛下と皇女殿下2人と、数人の貴族令嬢が集まる。
 私とリリーもご招待されたので、気合を入れて支度する。
 従者は連れて行けないので、ディードとアシュレイにお願いした。特にラリーをね。


「僕も連れて行ってください。
 僕はこういう時にお役に立ちます。お嬢様が自慢できる、愛玩用として…」

「いや無理だっつの。…確かに自慢したいくらい格好いいと思ってるけど、見せびらかしたくないの。」

 そもそも獣憑きが駄目なんじゃなくて、招待客以外は護衛すらも入れない茶会なの。
 ラリーは俯き…そっと私の裾を離した。いい子で待ってろよ!



「いらっしゃい、どうぞこちらの席へ。」

「お招きいただき、ありがとうございます。」

 陛下に軽く挨拶をして、席に座る。
 リリーの隣には第一皇女殿下、私の隣には…ステファニー殿下だ。

 うふふ、おほほと令嬢のお茶会が始まった。
 この国は女性の地位も高いので、結構商売の話とかもしてて面白いな。

 リリーも皇女殿下とにこやかに話している。さて、私も…。


「あの、アシュリィさま。」

「はい、なんでしょうステファニー殿下。」

 先にステファニー殿下から話し掛けてくれたので、にっこり笑って対応する。
 その時…陛下と第一皇女殿下が聞き耳を立ててるなー、と直感で分かった。


「…デメトリアスお兄さまが、国を出るとお母さまから聞きました。
 本当なのですか?」

「「っ!!」」

 …陛下達が、僅かに肩を震わせた。
 ステファニー殿下もこの話題は、デリケートなものだと分かっているのだろう。小声なので私達5人にしか聞こえまい。

「どうして私に、お聞きになるのですか?」

「だれも…教えてくれないのです。アシュリィさまや、アルバート兄さまならご存知かと思ったのです。」

「……実はデムは…私と共に魔国に行く、と明言しましたの。」

「そうなのですか…!?」

 私は敢えて声を普通サイズにしたので、近くに座っていた令嬢にも聞こえたようだ。
 わあっ!と盛り上がる人と、騒つく集団に別れる。

 陛下は…残念そうな顔をしてみせた。それが本心なのかは分からない。




 私はついさっきの会話を思い出す。
 皆解散して、部屋には魔国組だけ残されて。
 そろそろ支度するかな~、と伸びをしていたら。ラリーが私の服を脱がせようとして…アイルに連れて行かれた直後。

「シュリ。今いいか?」

「デム?いいよ~。」

 ララとパリスが、ミラも混ぜてドレスを選んでいた時。
 デムがティモを連れ立って、訪ねてきたのだ。

「でもごめん、これから皇帝陛下のお茶会だから。あまり時間は…」

「すぐに済む。
 …昨日の返事だ。」

 あ…魔国に、来るかって話か。ならきちんとお茶でも飲みながら…


「俺とティモを、魔国に連れて行ってくれ。」

「え………うん、分かった。」

 ララとパリスが「えっ?」と小さく言ったが、すぐに通常に戻る。空気読んでくれてありがとう。


「じゃあ、私が留学終わる時…一緒に帰ろうか。
 陛下にはどう報告する?」

「…俺から言うが、お前からもさり気なく伝えて欲しい。」

「任せよ。
 ……ねえ、デム。」

「ん?」

 私に気遣ってか、要件を伝えた彼は部屋を出ようとする。


「途中で、何かやりたい事が見つかったら。
 私の事は気にしないで、好きに生きなよ。」

「………また後でな。」

 バタン と扉が閉まる。
 従者達は何か言いたそうにしているので…支度をしながら、全て説明した。


「そうですか、殿下が魔国に…。」

「きっと…大丈夫ですよ!わたしもガイラードさんと一緒にお支えします!」

 うん…頑張ろうね!




 そんなやり取りがあったのだが、陛下にそこまで言う気は無い。

「お兄さまが…魔国に…。」

「……………。」

 ステファニー殿下、悲しんでる?彼女だけは、他の皇族と何か違う…。

「殿下、よろしければ…あちらでゆっくりお話しませんか?」

「は、はい。」

「姫君っ!
 ……っと、ステファニーはまだ、マナーが不安で…」

「ご心配なく、陛下。魔族はマナーをそれ程重視しませんの。」

 魔国じゃ場合によっては、魔王陛下をガチで攻撃すっからな。


 私がステファニー殿下をエスコートし、移動を始めると。第一皇女殿下が立ち上がる気配がしたが…。

「殿下。私達はこちらでお話しません?それとも…。
 アシュリィが、信用ならないとでも…?」

「い、いえ…そのような、事は…。」

 ナイスだリリー!という訳で。
 デムを苦しめる最大の原因は何か。探らせてもらおうかね。

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