135 / 164
学園
48
しおりを挟む私達が入場すると、扉の外まで聞こえる程賑やかだったのが、嘘のように静まり返った。
楽団の演奏がよく聞こえる、いい腕前ね。
左右から視線を感じる…ふっ。思う存分ご覧あれ。だって私に、恥じる要素は欠片も無いもの!
装いもお父様そっくりな顔も、隣を歩く男性も。後ろをついて来る従者達も。
「わ…噂には聞いていたけれど、あれが魔国の衣装?」
「素敵…。」
「大きな魔石ね、初めて見たわ!」
「獣憑きの奴隷…?いえ、首輪を付けていない?」
予想通りの反応ではあるな。
だがよ、もうちょい主役に興味持ちなさいよね。
用意された席の前までやって来て、くるっと振り向く。
「皆、本日は俺の為に集まってくれて感謝する。
どうか心ゆくまで、楽しんでいってくれ。」
デムの言葉を合図に…パーティーは始まった。
代わる代わる、貴族が挨拶にやって来る。
やっば…誰一人分からん。まあいいや、微笑んどきゃよかろう。
デムは全て笑顔で対処している…飽きたなー。
魔国のパーティーだったら、この辺で乱闘が始まるのになー。ちょっとあそこの令息2人、急に決闘とか始めてくんないかなぁ…。
私は思考が飛んでいるのがバレないよう、扇で口元を隠す。いやあ、令嬢ってこういう時ラクだわ。
その時…。
「お誕生日おめでとうございます、殿下。姫君にはお初にお目に掛かります。」
「……ええ。」
20歳前後と思われる青年が挨拶に来た。ふむふむ、タンブル侯爵家の息子ね。
彼は…猫耳の妙齢の女性と。兎耳の成人前の少女と。狐耳の…20代後半くらいかな、線の細い男性を連れている。
女性は胸元と腰を、男性は腰回りを隠すだけの、踊り子のような服を着て。全員首輪を付けて…仮面のように、微笑みを張り付けている。
デムと目を合わせると、彼はこくりと頷いた。
だよね、前に大嫌いって言ってた貴族ね。
青年を観察するが…容姿は悪くないのだが。どうにも嫌悪感が拭えない…生理的に受け付けないタイプだ。
「こちらの者共が気になりますか?私自慢の愛玩奴隷でして。
姫君にはお分かりいただけると思いますが。」
何を勘違いしたのか、馴れ馴れしいなこの男。
特にパリスを舐め回すような視線で見る。目え潰すぞクソ野郎。
ぶっ飛ばしてやろうかと思ったが、次の貴族が挨拶に来た。ふう…冷静になろう。
それからも、数人は私の後ろを気にしている。やんのかゴラァ。
ひと段落ついた頃、後ろを向いてパリスに話し掛ける。
「パリス…大丈夫だった?やっぱり貴女は部屋で…。」
「ありがとうございます、でもぼくは全然!
それより…。」
彼女はチラッと会場に目を向ける。つられて見た先には、獣憑きの3人が。
「…パリス。彼らにとって今の環境は、良いと思う?」
「いいえ。」
彼女はキッパリ言い切った。
「彼らもぼくと同じで、水が苦手だと思うんです。
なのにあんなに長い髪で…日々ストレスでしかないでしょう。」
うん…あの3人は、男性も背中まで髪を伸ばしている。綺麗なのは確かだけど…。
あの男の趣味だろう…愛玩って言い切ってたし。
「お疲れ様~。そろそろダンスじゃない?」
「アル。本当だ、音楽が変わった。」
主役のデムと、私がファーストダンスを踊る。従者達には、ディードがついてくれるから大丈夫。
デムと手を取り、中央に進む。
「おお…貴方、上手いじゃん。」
「当然だ。どれだけ練習したと思っている。」
…以前だったら。「俺様に不可能は無い!」とか言いそうだけど。
素直になったなー、このこの!
くるくると、音楽に合わせて私は舞う。パーティーってのは退屈だけど、踊るのは好き。というか、体を動かすのは基本的に好き!
曲が終わり、デムの手を離して互いに礼をする。
主役のファーストダンスが終わったので、各々踊り出すだろう。
早速アル&リリーも手を取り中央に…。
「レディ。オレと踊っていただけませんか?」
「…はい、喜んで。」
アシュレイが、ずずずいっと手を伸ばしてきた。
何故だろう、ふいに。かつて…ベンガルド伯爵家で修行した日々が頭に浮かんだ。
『エスコートの練習。付き合ってくんね?』
そう言って、辿々しく手を差し伸べてくれた。
あの時のアシュレイ…可愛かったなあ。
「…ふふ。」
「?」
今はスマートに女性を誘えるようになったけど。
私の中では…変わらず、やんちゃなアシュレイのままなんだよ。
アシュレイ、ディード、アルと踊り。これ以上は必要無い…けれど。
デムの弟…第二皇子殿下に誘われてしまった。流石に断れず、手を重ねて歩き出す。
「姫君は兄と親しいとお聞きしました。」
「ええ、大切な友人です。」
「そうですか。…兄の秘密を、ご存知ですか?」
「……ふふ。なんの事でしょうね?」
デムが皇族を抜けたら…第二子であるこの皇子が、皇太子になるのだろう。
だから、私と恋仲なのか気になるんだね?
「まあ…彼にどのような秘密があろうとも。私はデメトリアスとティモの味方です。」
肩に置く手に力を込める。殿下は青い顔で喉をヒュッと鳴らし、それからダンスが終わるまで会話は無かった。
パーティーは進む。多くの貴族が私に話し掛けてくるが…適当にあしらった。
ディードも、特に令嬢が群がってたけど。一言二言で会話を切り上げていた。
「どうして人間は、やたらと褒めてくるんだ?初対面の私の、何を知っているんだ?」
それを言っちゃあお終いよ。
魔族に気に入られたいんなら、社交辞令は逆効果なのさ。
結局他国に来ても、いつものメンバーで集まる。そこに…。
「やあ、令嬢。今よろしいですか?」
「…なんでしょう?タンブル侯爵令息。」
にこやかに、まるで知己のように笑顔で寄って来るこの男。
一方的に話すのを、黙って聞いているが…獣憑きコレクターだと自称している。
で、私もお仲間だと思われてるな。うーん…。
「いやあ、貴女の奴隷も美しい。どうですか?こちらのセルジュと交換などは?」
はっはっはっ、と狐耳の男性を私の前に跪かせる。
セルジュと呼ばれた男性は、私の靴にキスをしようと…。
「セルジュさん、結構です。ほら立ってください。」
「え、え…?」
彼は本気で戸惑っている。アイルが手を貸して、なんとか立ってもらった。
「おっと…お気に召しませんでしたか?」
「…………。」
ここで、挑発はいくらでも出来る。
人前で屈辱的な行為をさせて…奴隷に人権はあるとご存知無い?
侯爵家は財政状況がよろしくないから、彼らにまともな服を与えられないのかしら?とかね。
「ふふ。交換を、と言われましても。私はこの子達を愛しく思っておりますので、本人の意思に反して解雇など致しません。」
笑顔でパリスの頭を撫でると、彼女は頬を染めて微笑んだ。
こんなにも可愛いのに…どうして酷い扱いが出来るの?
正直に言おう、私はあの3人を救いたい。
以前パリスが…
『ぼくはお嬢様と出会う幸運に恵まれましたが。まだ…多くの仲間が世界中で苦しんでいます。
…獣憑きの数が少ないのは。産まれてすぐ…両親が殺す場合もあるからです。
この子は将来、必ず不幸になる…それなら。今のうちに…!と涙を流しながら。
ぼくのように生きているのは、親が「ラッキー!これは大金になるぞ!」と喜んだ場合。つまり…。
殺されるのが愛情で、生かされるのは欲望によるものなんです。
奴隷とは多くが借金の形だったり、犯罪者の成れの果てですよね?でも、ぼくらは違うんです。ただ…産まれてきただけ、なんです。
ぼくは…少しでも多くの仲間を救いたい。
でも、ぼくのように良い環境にいる可能性もあるんです。だからそれ以外の…。
見せびらかす愛玩用だったり、暴力を振るわれていたり、せ…性奴隷だったり。そういう仲間を…見捨てられません…。』
そう、言っていた。私も同意見で、お父様にも相談した。お父様は人間が好きだから、真面目に話を聞いてくれたよ。
手始めに…あの3人に望む暮らしをしてもらいたい。だが…この男は、自分のコレクションを手放さないだろう。
何万セキズつぎ込んだか知らないけど、金では動くまい。
「そうですか、残念です。気が変わりましたら、お声がけくださいね。」
と、一応下がったが…あの顔は諦めてない。どうしてもパリスが欲しいのね…。
「……令息。ちょっとあちらで…お話しませんこと?」
ならば。こいつから情報を搾り取った後…彼らを解放する。
私は欲張りだからな。自分の願いを叶えるため、世界すらもねじ曲げる女だ。
だから…デムの安寧も獣憑の自由きも、どっちも手に入れてみせる。
0
お気に入りに追加
3,547
あなたにおすすめの小説
逃げて、追われて、捕まって
あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。
この世界で王妃として生きてきた記憶。
過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。
人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。
だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。
2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ
2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。
**********お知らせ***********
2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。
それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。
ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。
嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜
𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。
だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。
「もっと早く癒せよ! このグズが!」
「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」
「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」
また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、
「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」
「チッ。あの能無しのせいで……」
頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。
もう我慢ならない!
聖女さんは、とうとう怒った。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった
凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】
竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。
竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。
だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。
──ある日、スオウに番が現れるまでは。
全8話。
※他サイトで同時公開しています。
※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
素顔を知らない
基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。
聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。
ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。
王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。
王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。
国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。
音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。
だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。
そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。
そこには匿われていた美少年が棲んでいて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる