133 / 164
学園
46
しおりを挟む皆何話してんのかなー。
なんでか私は除け者…寂しくなんかないやい!と1人寮に帰り、ベッドにダイブ!!
枕をアシュレイ、クッションをディードとトレイシーに置き換えてボスボス殴る。アルとリリーは無罪放免ね。
…ふんだ!!グレてやるー!部屋を飛び出した。
「アシュリィ様、どちらへ?」
「アシュレイ達が集まってる教室!」
アイルを連れて廊下をずんずん歩く。彼らは授業終了後、学園内の普段使われていない部屋を占拠したのだ。
邪魔してやる!その前に盗み聞きしてやるう!と半泣き状態で歩く。
「(もしかして、サプライズの計画を立ててる!とか思わないのか?…意外と寂しがりなんだな)」
後ろを歩くアイルは微笑む。私からは見えないが、般若の魔族と菩薩な従者が歩く様は、さぞ異様な光景だろう。
誰もが両脇に寄り道を譲ってくれる。ごめんね!
「あ…おい、アシュリィ。」
「なにゅ!?」
「なにゅ?何怒ってるんだお前…。」
横から名前を呼ばれて、ぐりん!と首を捻る。
そこにいたのは、いつも通りティモを連れたデメトリアスだった。
「アシュリィ、ヨッス!」
「あれ、まだ残ってたんか。」
頭の上にはミニアシュが。シュバっと手を挙げた、なんか語彙増えた?
しかし全員ディードに消されたと思ってた。胸に手を当てて集中すると…あ、1人動いてんの分かるわ。
「こっちおいで。」
「イヤ!デム、イッショ!」
ええ~…?チラッとデメトリアスに視線を送る。
彼はコホンと咳払い、好きにさせとくと言う。まあ…貴方がいいなら別に、ね。
「…少し話がある。時間をくれ。」
うーん。なんか眉を下げて深刻そうな顔。
そういえば、バタバタしてて後回しにしてたけど。私も…彼と話したいと思ってたんだよな。
了承してカフェに移動。
「なーに、話って?」
「…………………。」
ティモとアイルは隣の席に待機。私の背中側ね。
それぞれ注文し、私はコーヒーを一口飲む。
ミニアシュはテーブルに座り、クッキーをさくさく頬張ってる。飲食するんか…初めて知った。
デメトリアスは…ティーカップの取っ手をいじいじ、目を伏せて小声で何か言った?
「……て、くれ…。」
「……ん?もっかい言って…?」
「…だから。来週…帝国で俺の誕生日パーティーがある。
そこに出て欲しい…パートナーとして。」
「……へ?」
誕生日なの?おめでとう!と言えなかった。
だって、パートナーって…私をエスコートして、一緒に入場するって事でしょ?
親族以外でそれやったら…特別な存在って言ってるようなモンだけど!?
ガタッ!
ん?なんか近くで、椅子を蹴るような音が?
キョロキョロ見渡すが不審な人物はいない…。
「(この馬鹿、気付かれるだろう!)」
「(いてて…すまん。ディード、隠密系の魔法掛けて!)」
「(全く…)」シュンッ
「「(……何してるのかな、この人達…)」」
どうやら…隣のテーブル、従者達の足元に侵入者がいたらしい。私達は気付かなかったがな。
「その、さ。意味分かってる…よね?」
「当たり前だ。
少し自分語りになるが…俺は留学終了後、国に帰る気は無い。…帰る、場所が無い。」
「……!」
いきなりぶっ込まれて、反射的に息を呑んだ。
…アイルいるけど、聞かせていいの…?
私が後ろを気にしていたら彼も察し、構わないと笑った。
「お前の従者は、人の秘密を言い触らす真似なんぞしないだろう。」
「……ありがと。」
従者を褒められるのは、自分が認められる何倍も嬉しい。
でも念の為…4人がいる空間(実際は6人だった)を包むように遮音を掛ける。
それを確認すると、デメトリアスは「ありがとう」と呟いた。
「…お前も気付いているだろうが。俺とティモは両親を同じくする兄弟だ。」
「………………。」
後ろで、アイルが小さく「えっ?」と声を漏らした。
きっとティモは苦しげな顔をしているだろう…私の目の前にいる、デメトリアスと同じように。
「それ以上は言えないが。
一部の者を除き…帝国民や諸外国でも俺は第一皇子という認識だ。
だが…陛下は俺に、自然に皇室籍を抜けて欲しいと願っている。」
それは…無意識に、拳を強く握る。
女帝…キャンシー陛下はこの国の王妃、カリナ殿下のお姉様。
親友の母の姉だから…と、私は勝手に一方的な親近感を抱いていたが。
デメトリアスに、こんな顔をさせるなんて。許せない…!!
「……それで、どうして私をパートナーに?」
落ち着け私、もう子供じゃないんだ。そりゃ最終手段はグラウム帝国にカチコミだけれど、まだその時じゃない。
「…自然に皇族から抜けるには、何が最適だと思う?」
「?そりゃ…臣籍降下?あ、いや…国を出たいのか。なら……死の偽装…。」
「俺もそう思う。」
彼は力無く笑った。初めて会った時の…自信満々のドヤ顔からは想像もつかない。
なんだか目の下に隈も見える。私がグースカ寝てる間、何があったんだ…。
それは、かつてリリーナラリスが…家族の愛を求めていた頃と重なって。お節介だろうが、デメトリアスの助けになりたいと願ってしまう。
「だがな、死も簡単ではない。
例えば…俺が馬車の事故で死んだとして。間違いなく御者も処刑されるだろう。…ティモもな。」
「……うん。」
「実は…今回の留学が決まった時。魔国からお前が来ると知り…これだ!と思った。」
「は?私?」
私が、何?言葉の真意がまるで読めず、眉間に力が入る。
「……人間の中で、皇族・王族より立場が上な者はほぼいない。
だが魔族は違う。その中でもお前は…魔王陛下の御息女。恐らく陛下すらも、頭を垂れる存在だ。」
「…まさか?」
「そうだ。もしも俺とお前が…恋仲になったら?
魔族の姫君がお相手ならば仕方ない。涙を呑んで…陛下は俺を、魔国に送り出すだろう。」
「な……ゆ、ほど…。」
言えてる。魔王の1人娘が、お婿に来て!と望んだら。皇子だろうと、無下にはできまい。
「陛下も同じ事を考えていたようでな。俺を送り出す時…何度も「姫君に失礼のないように」と仰っていた。」
「…自分で言うのもなんだけど。貴方最初から、私に喧嘩腰だったよね?
その…そういう事情があったなら。嘘でも私に気に入られようと、甘い言葉を囁くよね?」
でも貴方、むしろリリーを口説いていたよね?
そう突っ込めばデメトリアスは、汗を流して顔を逸らした。
「だから…お前の後ろに…パリスがいたから。前も言ったが…そういう趣味なのかと、勘違いして。その瞬間、この計画はナシだ!と脳内で破り捨てた。
帝国に…奴隷を好む貴族がいてな。俺は大嫌いな奴なんだが…そいつも、獣憑きを3人連れ歩いているんだ…。」
「な…!?」
彼の勘違いについては、この際どうでもいい。
獣憑きが3人て…!そういえば帝国は、奴隷が認められていたな。
……大体理解した。
「それで、私を連れてって。皇帝陛下を騙したいの?」
「…お前とアシュレイが想い合っているのは分かってる、邪魔をする気はない。
ただ…そうだな。利用しようと思っているのは否定しない。
俺達が何かしなくても…周囲が勝手に勘違いするかもしれないな?」
「デメトリアス…。」
彼は悔しそうに唇を噛み締める。アシュレイとはそんなんじゃないやい!と照れる気にもなれない。
……いっそ。
「…本当に、魔国に来ない?」
「は…?」
ごんっ!!!
ん?なんか、テーブルに頭突きするような音が?アイルか?
「(いてて…)」
「(阿呆が!隠密を掛けていても、物を動かせば音は出る!)」
「(だって!!魔国に連れてくって…愛人!?それとも魔国って重婚可!?)」
「(……魔国は…結婚に関する法律は無い。
人間とは恋愛に対する価値観が大きく異なるからな、政略結婚は必要無いし。「好き!」「じゃあ結婚するか!」「飽きた!」「じゃあ離婚するか!」で終わりだ)」
「(……ひゃわわ)」
まあいいか。デメトリアスは目を見開いているので、軽く説明した。
「実はさ、極秘って訳でもないけど。魔国で今、とあるプロジェクトが進行中なのよ。
お祖父様が世界中飛び回ってんのも、それと関係があってね。
そこの…責任者というか、やってみない?もちろん、ティモも一緒においでよ。」
「……魔国…に…。」
「無理は言わないけど。それなら…私の我が儘で、絶対にデメトリアスを連れてく!って陛下に言うよ?実際そうだし。
興味があるなら、詳しく説明するけど。」
「………少し、考えさせてくれ。お前はパーティーに来てくれるのか?」
「むーん。返事はアシュレイに相談してから…でいい?」
「ああ。」
必然的に、アシュレイにも貴方の事情を話す事になるけど。その許可も貰い、一旦お開きに。
ミニアシュは相変わらずデメトリアスにくっ付く…もう好きにせい。
「…アシュリィ。」
「んー?」
従者2人が後ろを歩き、全員で寮に向かう。帰る方向一緒だし、別々に行く必要無いよね。
そしたらデメトリアスが、ぴたっと足を止めた。私は振り返り、彼と目を合わせる。
「……例えば俺が、初めて会った時に。お前に…「一目惚れしました」とか言ったら。
お前、俺と付き合ったか?」
「………………。」
そんな事、言われても。全ては終わった事だし…何より。
「私には、アシュレイがいるもの。最近まで自覚してなかったけど…子供の頃から、大好きなの。」
「……そうか。」
そうだよ。さ、馬鹿な事言ってないで帰ろう。
その時、私達の後ろを…隠密状態のアシュレイとディードが歩いていたそうな。
「(好き…大好き!?オレを…子供の頃から!!!
わああああん!オレの片想いじゃなかったあああぁっ!!!)」
「(私は最初から、勝ち目は無かったという事か…)」
というのを翌日全て、ディードに聞かされた。
「は!?じゃあ盗み聞きして…って!大好きって、聞いてたの…!?」
「そうだ。レイは喜びすぎて熱を出して、今日は休みだ。」
「ひゃああ…。」
今度は私が、頭から煙を出す番だった。
それでも恥ずかしい心を押し殺し、アシュレイと顔を合わせて。
「聞いてたらしいけど…デメトリアスと、パーティーに参加したいんだけど。
…アシュレイは、どう思う?」
「いいよ!でも…お前の好きな奴は、別にいるんだよな?」
「……いじわる。」
分かってるくせに。
唇を尖らせて横を向けば、アシュレイは心臓を押さえてその場に倒れた。何事ーーー!?
アイルが言うには「不治の病です」って。駄目じゃんそれ!?
というおふざけは全部落ち着いてからにして。アシュレイに許可も貰ったし…こうして私は、グラウム帝国に行く事が決まったのである。
0
お気に入りに追加
3,549
あなたにおすすめの小説
異世界で神様になってたらしい私のズボラライフ
トール
恋愛
会社帰り、駅までの道程を歩いていたはずの北野 雅(36)は、いつの間にか森の中に佇んでいた。困惑して家に帰りたいと願った雅の前に現れたのはなんと実家を模した家で!?
自身が願った事が現実になる能力を手に入れた雅が望んだのは冒険ではなく、“森に引きこもって生きる! ”だった。
果たして雅は独りで生きていけるのか!?
実は神様になっていたズボラ女と、それに巻き込まれる人々(神々)とのドタバタラブ? コメディ。
※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
有能なメイドは安らかに死にたい
鳥柄ささみ
恋愛
リーシェ16歳。
運がいいのか悪いのか、波瀾万丈な人生ではあるものの、どうにか無事に生きている。
ひょんなことから熊のような大男の領主の家に転がりこんだリーシェは、裁縫・調理・掃除と基本的なことから、薬学・天候・気功など幅広い知識と能力を兼ね備えた有能なメイドとして活躍する。
彼女の願いは安らかに死ぬこと。……つまり大往生。
リーシェは大往生するため、居場所を求めて奮闘する。
熊のようなイケメン年上領主×謎のツンデレメイドのラブコメ?ストーリー。
シリアス有り、アクション有り、イチャラブ有り、推理有りのお話です。
※基本は主人公リーシェの一人称で話が進みますが、たまに視点が変わります。
※同性愛を含む部分有り
※作者にイレギュラーなことがない限り、毎週月曜
※小説家になろうにも掲載しております。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
幼女公爵令嬢、魔王城に連行される
けろ
恋愛
とある王国の公爵家の長女メルヴィナ・フォン=リルシュタインとして生まれた私。
「アルテミシア」という魔力異常状態で産まれてきた私は、何とか一命を取り留める。
しかし、その影響で成長が止まってしまい「幼女」の姿で一生を過ごすことに。
これは、そんな小さな私が「魔王の花嫁」として魔王城で暮らす物語である。
愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!
春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前!
さて、どうやって切り抜けようか?
(全6話で完結)
※一般的なざまぁではありません
※他サイト様にも掲載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる