私の可愛い悪役令嬢様

雨野

文字の大きさ
上 下
127 / 164
学園

40

しおりを挟む


〈5年生チーム、ディーデリック=レイン=ウラオノスが敵将アシュリィ=ヴィスカレット=ウラオノスを確保した!
 この試合、5年生チームの勝利!本年度のテリッカドク、これにて終いだ!!〉



「そんな…くそおっ…!」

 オレは両手を地面に突き歯軋りをする。目の前にいたのに、アシュリィを奪われた…!!


「あー…負けたぁ。ちょっと、もう下ろしてよ。」

「いや…このまま戻るぞ。」

「下ろせっつの。」

 !!ディーデリックはオレに一瞥をくれた後、アシュリィを横抱きにして背を向ける。
 悔しい…悔しい…!!魔法勝負とか関係ねえ、完全に負けた!!

「ちょっと待って、アシュレイが…」

「そっとしといてやれ。」

「?」

 地面を強く握り締める。なんだよ…オレに必要なものって!!剣か?剣さえあれば、オレだって…!!



「……いや。剣があっても…勝てない…。」

 さっきの攻防でそう理解しちまった…。
 両目から涙が溢れる。なんだよ…オレの8年間はなんだったんだ!!?
 魔王陛下はディーデリックよりも強いだろうに…なのに!!!


「く…うぅ…!」

「……ゲームで負けただけにしては、酷い悔しがりようだな。」

 …?蹲っていたら、上から声が落ちてきた。デメトリアス殿下…?なんでミニアシュ頭に乗っけてるんだ?

 彼は呆れたように息を吐き、手を差し伸べてくれた。
 手を取り立ち上がるも、足が動かない…。


「土まみれになっている暇があったら反省会でもするぞ。」

「そんな暇…ありません!!もっと鍛えないと…!」

「……………。」


 オレに何が足りない?レベルか?
 だがレベルは…5を超えると途端に上がりづらくなる。今年に入って、やっと6に上がったくらいだし。人間は…7レベルが限界だなんて、聞くし…!
 アシュリィは現在13レベルだと本人が言っていた。ディーデリックはそれより上と仮定して…どうしろってんだよ!!?やっぱり人間は、魔族に勝てないのか!?


「…全く。アシュレイ、お前は以前…「魔王陛下に勝つ事を、幼い頃自分に誓った」と言っていたな?」

「……はい。」

 もちろん本気だった。でもそれは…子供の戯言だと、今なら分かる…。
 大人になればなる程世間を知って。いかに自分が…無知で無力なのか思い知らされる。



「レイ。お疲れ様。」

「負けちゃったわね。ごめんなさい、こっちも手一杯で手助けに来れなかったわ。」

「アル…リリー。」

 なんで集合すんだよ。こんな…情けないツラ見せたくねえのに。

「言ってる場合か。早く出ないとフィールドを閉じれないだろう。」

「そーそー、デメトリアスもたまには正論言うね。」

「いつもだろうが!!」

「はいはい、喧嘩しないでくださいな。」

 な!?両側を殿下達に掴まれ強制移動。前をリリーが、後ろからティモが心配そうについて来る。うう…抵抗する気も起きねえ。
 なんとか涙は止めると、腫れた顔をティモが癒してくれた。ごめん…ありがとう。



 外に出れば…大歓声が。やめてくれ…健闘したのはアシュリィだ…!
 そのアシュリィは………は?


「いつまで抱いてるの?」

「お前は私の戦利品だろう?」

「貴方、ついに狂ったか…?」

 オレらはポカンとした。ディーデリックは…アシュリィを膝に乗せたまま、ベンチに座ってた。どゆこと?せんりひん…?どうやら歓声は、彼らに向けていたらしい…。


「ディーデリック~。戦利品なんてルールないよ?」

「知っているさ。だが…アシュレイ。」

「っ!!」

 なんだ…?背筋が凍るというか、足が竦む。ディーデリックは…いつもと変わらない声色なのに…!


「お前は…私と真剣勝負をして、勝つ自信はあるか?」

「……!」


 昔なら。「絶対勝つ!」と即答していただろう。だが…
 拳を握り俯くと…ピシリ と音が聞こえた気がした。



「お前は…まさか。私にすら勝てぬというのに…
 敬愛する我が魔王陛下を降すなどと…戯言を抜かしていたのか…?」



 じり… 無意識に後退さる。ディーデリックが…怒りを露わにしている…!
 感じ取ったのか、客席にどよめきが広がる。この…空気が肌を刺激する感覚。全身の血が凍りつくような圧。喉を鳴らす音が頭蓋骨に響く…。


「ちょ、ディード!アシュレイに威嚇しないで!」

「お前も甘やかすな。だから彼は陛下に宣戦布告など愚かな真似をするんだ。」

「………宣戦…布告…?何それ?」

 え。アシュリィ…知ってたんじゃないのか?


「オレが昔魔王陛下に「あなたを倒してアシュリィを迎えに行く」って…宣言したの。」

「そ…そんな事言ってたのあんた!?」

 あ?アシュリィは顔を真っ赤にして手で頬を押さえた。
 いやだって…知ってたから、好きなタイプに「私の為にお父様に挑んでくれる人」って言ったんだろ?

「あああれは!!その…お父様が、自分より弱い男に娘はあげないよ!なんて言うから!
 だから…その。……そんな男性がいたら…嬉しいなって…。」

 ついには頭から煙が。え…あらやだ、オレってば早とちり。

 …穴があったら入りたい。



「(でもまずい。アシュレイの気持ちはすっごく嬉しいけど…。魔族からすれば、尊敬する魔王陛下を侮辱する発言に捉えられるものだ…!
 だから怒ってるのか。私を好きとかじゃなくて、アシュレイの覚悟を確かめる為に)待ってディード。昔って、8歳の時でしょ?そんな子供の発言…」

「16歳の今でも同じなんだ。もう成人なのだろう?ならば発言の責任を取るべきだ。
 …子供の戯れなら、それでよかった。もうアシュレイは引き返せない。お前を娶るというのであれば、陛下に勝利する以外道は無い。」

「へ…アシュレイ…?」


 アシュリィが目を丸くしてオレを見る。はい…言いました。でも。


「……オレが馬鹿なのは認めるけど。それでも…
 決して、後悔はしていない!!オレは…!!」


 オレは。アシュリィの事が好きだから…ずっとずっと、一緒にいたいから。

 その言葉は…まだ、言えない…!!
 代わりにディーデリックを睨みつける。



「……離してディード。もうテリッカドクは終わったんだ…力を抑える必要はないんだよ?」

「ああ…そうだな。」

 アシュリィは額に青筋を浮かべて、ディーデリックの肩を掴む。2人の周囲に…何かが渦を巻いている。あれは…昔見た、魔力の具現化。
 ビシ ベキ パキン… 魔力刃が空間を切り裂く。止めないと…!


「ディーデリック。離さないなら…!」

「カル・ア・イルデン。」

「なっ!?」

 アシュリィが動いた瞬間。彼女の身体が宙に浮いた。
 いや、違う。誰か…抱き上げられている!?


「なんだディーデリック。久しぶりに呼んだかと思えば。」

「すまないな。彼女を抑えていてくれ。」

「仕方ない。アシュリィ嬢、悪く思うな。」

「!カルさ…ま…。」

 アシュリィ!?そのが彼女の目を手で塞ぐと…意識を失ったように手足を投げ出した。
 誰だお前は!!!と叫びたい心を必死に抑える。あれは…魔王陛下にも引けを取らない、この威圧感は…!!気を抜くと膝を突きそうになる。負けるなよ、オレ!!


「紹介しておこう。私の契約する最上級精霊、カル・ア・イルデンだ。」

 やっぱり、精霊!人型だが…言葉では尽くせない程に美しい男性だ…。
 オレら含め、男も女性も見惚れている。ナイトリー嬢すらも声が出ないレベルだ。

 ディーデリックは立ち上がり、精霊様を伴い歩き出す。待て…!


 フッ…と周囲が暗くなる。そして上空から…透き通るような声が落ちる。


「おい…ディーデリックよ。何故妾の友が、眠りについておる?」

「……………。」


 今度はなんだ!?突如黒い雲が発生したと思いきや、そこから美しいドラゴンが姿を表した!!確か…すんごいブレス吐いた精霊!!

「グ…グレフィール様…。」

 リリーが座り込みながら呟く。その声に、グレフィールと呼ばれたドラゴンが目だけでこっちを見た。すっげえ威厳…格好いい…!!


「ふむ…カル・ア・イルデン。アシュリィを妾に寄越しなさい。」

「断る。こちらも友の頼みだからな。」

「「………………。」」


 なんか…状況悪化してねえ…?2体の最上級精霊が睨み合っている。なんて考えていたら。
 ガアァン!! と圧だけで地面が抉れた!?ヤバい、生徒がパニックになり始めた!!


「「「きゃあああああっ!!」」」
「逃げろ、早く!!」
「おい押すな!!」

 このままじゃ怪我人が出る!ディーデリックどうにかしろ!!

「分かっている。
 カル、グレフィール様と争うのはやめてくれ。」

「僕は望んでいない。彼女が敵意を剥き出しにしているだけだ。」

「ほう…?その余裕…いつまで保つか。試してみせようか…?」

「無理か…。諦めて避難しろ。」


 ディーデリックてめええええっ!!!余計やる気満々にしてやがる!!
 すでに先生方が客席の避難誘導をしている。そしてリリー、アル、デメトリアス殿下、ティモは周囲に結界を張っている。気休めだが、やらないよりマシだ!と。


 つかアシュリィ!まだ眠ったまま、精霊様に抱かれている。どうにか助けないと…!
 だが…本能で感じる。これ以上あの2体に近付けば、八つ裂きにされると。
 どうしよう…誰か…アシュリィを…!!




「うーん、ちょっとごめんね。
 ここは魔国じゃないんだから、暴れちゃ駄目だよ。」


 何…?オレの頭に、温かい手が乗せられた。その誰かは精霊様に怯む事もなく…静かに声を発した。誰…。


「「「ライナス様っ!?」」」

 三人衆がそう叫ぶ。知り合い…魔族か?ディーデリックすらも目を見開いている。
 どことなく…アシュリィや魔王陛下に似ている、ような。


「カル・ア・イルデンくん、グレフィールさん。ちょっと子供達が怖がっているからさ、退いてくれるかい?」

「「……………。」」

 うそ、最上級精霊にそんな口利いていいの!?


「はあ…分かった。」

「其方が言うのであれば…。」

「ありがとうね。」

 言う事聞いた!?このおじさん何者だよ!!!
 男性は一歩退がり、ドラゴンはこっちに寄ってきて…地面に座った。


「収めていただき感謝致します、ライナス様。」

「偶然通り掛かったからね。」

 ディーデリックが礼をして…頭を上げると、オレに視線を寄越した。


「アシュレイ。3日時間をやる。その間に答えを出し、私に挑みに来い。
 それまでアシュリィは預かっておく。」

「はっ!?」

「3日後、私の全力でお前を叩き潰す。いいな?」

「おお、若いねえ。じゃあ僕が結界張ってあげるね。思う存分やるといいよ。」

「ありがとうございます。」


 オレ返事してないけど。
 バイバーイ、とライナス様とやらは手を振る。いや…アシュリィ連れてかれちゃったじゃん!!
 ララとパリスが頷き合い、アイルと目配せをする。2人はディーデリック達を追った…任せて大丈夫かな…?

「ええ、心配いりません。ディーデリック様にとって俺達は庇護の対象ですし…精霊様も女性には無害なので。」

 女好きの精霊って事か…不安。
 それよりもアイル、こちらの魔族さんを紹介してもらえるか?


「はい。こちらは…ライナス=ユリウス=アルデバラン様。魔王陛下のご尊父であり、アシュリィ様のお祖父様にあたります。」

「初めましてだね。いやー、夏は会えなくて残念だったよ。僕その時、魔国にいなかったからさ。」


 え。


「孫がお世話になってます。それと息子が迷惑掛けただろうに、ごめんね?
 何より…父上と伯母上が色々やらかして…申し訳ない。討ってくれて、本当にありがとう。」


 おじさんはそう言って頭を下げる。え……




「「「「えええええええぇぇっ!!!?」」」」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

あなたの嫉妬なんて知らない

abang
恋愛
「あなたが尻軽だとは知らなかったな」 「あ、そう。誰を信じるかは自由よ。じゃあ、終わりって事でいいのね」 「は……終わりだなんて、」 「こんな所にいらしたのね!お二人とも……皆探していましたよ…… "今日の主役が二人も抜けては"」 婚約パーティーの夜だった。 愛おしい恋人に「尻軽」だと身に覚えのない事で罵られたのは。 長年の恋人の言葉よりもあざとい秘書官の言葉を信頼する近頃の彼にどれほど傷ついただろう。 「はー、もういいわ」 皇帝という立場の恋人は、仕事仲間である優秀な秘書官を信頼していた。 彼女の言葉を信じて私に婚約パーティーの日に「尻軽」だと言った彼。 「公女様は、退屈な方ですね」そういって耳元で嘲笑った秘書官。 だから私は悪女になった。 「しつこいわね、見て分かんないの?貴方とは終わったの」 洗練された公女の所作に、恵まれた女性の魅力に、高貴な家門の名に、男女問わず皆が魅了される。 「貴女は、俺の婚約者だろう!」 「これを見ても?貴方の言ったとおり"尻軽"に振る舞ったのだけど、思いの他皆にモテているの。感謝するわ」 「ダリア!いい加減に……」 嫉妬に燃える皇帝はダリアの新しい恋を次々と邪魔して……?

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

処理中です...