私の可愛い悪役令嬢様

雨野

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学園

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 魔法イベントなんだが…クラスの中で2チームに別れる。チーム分けは、私、リリー、ランスが一緒!珍しい組み合わせだねえ。
 なんだか…昔の特訓思い出すなあ。


「さて…お嬢様?今日から暫く、放課後は魔法の特訓です。何をすればいいのか…言わずともお分かりですよね?」

「(これは…アシュリィ執事モードね…!)ふっ…愚問だわ。
 そう、魔法は…1に攻撃2に攻撃!!3・4に溜めて5に爆発!!!一欠片の慈悲も無く、攻めて攻めて攻めまくる!!!」

「ヒューウ!!!やっぱりお嬢様はこうでなくっちゃねっ!!!」

 パァン!!と互いの手の平を打つけ合う、これで勝つる!!!


「お…俺がしっかりしないと…!!」







 仲良しメンバー内で新たなカップルが誕生したからか。なんだか…パリスも気合を入れている。

「アシュリィ様!そのぅ…お願いが…。」

「オッケー、トレイシーに会いたいから一緒に行って欲しいのね?」

「なんで分かるんですかっ!?」

 いや…なんでって。
 手には綺麗にラッピングされた手作りお菓子。普段付けないペンダントやらヘアアクセも装備。
 そして極めつきに。頬を染めて…意を決したような表情をしているからね。


「なになに、パリスもそろそろ告白しちゃう~?」

「……はい!ぼく、やっぱりトレイシーが好きです。初めて会った、あの日から…。」

 …そっか、頑張れ!では善は急げ、トレイシーを探しに行くか!と思ったら。
 パリスが…私の裾をちょんとつまんでいる?


「……アシュリィ様は。トレイシーの事…どう思ってますか…?」

「私…?」

「はい。アシュリィ様にはアシュレイ様がいるけど。トレイシーの事も…特別に想ってますよね…?」

「………………。」

「多分トレイシーも…ぼくより、アシュリィ様が好きなんだと思います。だから…もしそうなら、ぼく…。」

「パリス。……それは。」

 彼女は泣きそうな顔をして、私を真っ直ぐ見つめる。耳がペタッとして可愛いなあ。
 可愛いから、ぎゅーっと抱き締めちゃう!


「自分でもよく分かってなかったけど、トレイシーは私の初恋なんだと思う。」

 パリスは腕の中でビクッと肩を跳ねさせた。最後まで聞きんさいよ。


「でも、ご存知の通り…私はアシュレイが好き。それも最近じゃない…ずっと昔から。」

「え。そうなの…ですか?」

 うん。全く自覚してなかったけど。



 アシュレイを好きだって認めてから、「ああそうか」って納得する事が増えたんだよね。
 ディードを結婚相手に見れなかったのも、心の底でアシュレイを想っていたから。
 トレイシーも同じ…最初から、格好良い年上のお兄さんでしかなかった。いや初対面はヒゲ面のハゲだったけど。


「(言うなれば、イケメン俳優にときめく感じかな…)だから、初恋ってのも違うんだけど…それが一番近い表現なの。言葉の無い感情って難しいねえ。
 ともあれ、私はトレイシーもパリスも好き。だから、好きな人達が幸せになってくれたら嬉しい!ね?」

「アシュリィ様ぁ…!」

 パリスは私の胸に顔を埋めて泣いた。おうおう、このまな板でよければいくらでも使いんさい!


 数分後、顔を上げたパリスは晴れやかな表情をしていた。

「よっし、頑張るぞ!」

「その意気だ!!」

 腕をガシッと組み、意気揚々と廊下を歩く。
 確か今日は…アシュレイとデメトリアスの相手をしているはず!



 お、いたいた。剣でなく、それぞれ得意の武器を持っているな。


 声を掛ける前に…少し距離を置いて、観察する。
 トレイシーは…鍛えられた肉体、特に斧を振るう腕が逞しくて。汗をかいて拭う仕草や、水を飲む姿…思わず目で追ってしまう。
 綺麗な銀髪に、端正な顔立ち。歳は離れてるけどそれを感じさせない若々しさがある(ぶっちゃけ初対面時のが老けて見えた)。

 初めて会った時は即戦闘になったけど。私を気遣って、一切攻撃はしてこなかった。
 自分自身も苦しい人生を歩んできたはずなのに。何より仲間を大事にして、傭兵の仕事も信念を持って請け負って…。


 ……あ。私今、少しドキドキしてる。
 なんだろうな、これ。


 頭を振って、パリスと共に歩きを再開する。トレイシーはいち早く気付き、斧をズン…と地面に置いた。

「おう、お嬢にパリスか。」

「やっほー。アシュレイもデメトリアスも、鍛錬の邪魔してごめんよ。」

「いや、気にすん「いんや、丁度良かったわ。」

 何が?首を傾げると、デメトリアスが前に出て来た。遮られたアシュレイは、鬼の形相でトレイシーを睨む。


「武器が壊れた。新しいのが欲しい。」

「……………おうよ。」

 その手には、斧の部分が砕けたハルバード。いや、修理はいいんだけども。
 なんつーか…コイツ、人にお願いすんの下手だな。「直せ」っていう命令ではなく。「直して」って言うの…慣れてないんだろうな。


「無理強いはせんけどさ。「お願い」って言われたら、私は嬉しいな。」

「………!?」

 いや、何その顔。目をまん丸にして、鱗落ちたぞ。


 デメトリアスは…暫くうだうだ考えて。

「…………修理してくれ、頼む…。」

「任せんさい!」

 満面の笑みでハルバードを受け取れば、彼もちょっぴり口元を緩めた。
 ん?なんかポケットから折り畳まれた紙を取り出した?


「それで。今度はこんなデザインで…。」

「準備いいな!ってか絵上手い!誰が描いたん?」

「ティモだ。」

「隠れた特技!お願い今度私の絵描いて!!」

「断る。」

「いや貴方に聞いちゃいねー。」

【はい、俺でよければ喜んで】

 ティモって一人称俺だったの!?意外~!と大笑いしてしまった。
 よーし、それではご要望通りに作ってしんぜよう!



「あ、あの、トレイシー!ちょっと今、いい?」

「んあ?(あー…こりゃ、ついに来たか)あいよ、ちっと移動すっか。」

「うん!」


 アシュレイも入れて、4人でわいわいハルバードを作る。「違う、斧はもっと大きく!」「ここの装飾は…」「細けええええっ!!」と大騒ぎ。素材足んないや、鉄増やそう。

 だから…パリス達がいなくなっても、私は気付かなかったよ。





「トレイシー。ぼく…あなたが好き!あの日…ぼくを助けてくれて、暖かい上着を掛けてくれた時から。」

「………おう。ありがとうな。」

「…ただの憧れじゃないよ。あなたの…お嫁さんになりたいの!ぼく、まだまだ子供だけど…すぐ大きくなるから!!」

「…………俺は──…」





 何度も作り直して、よ~うやくデメトリアスの満足する品が出来ました…。

「おお…!…………ありがとう…アシュリィ。」

「どういたしまして。」

 でも今度は、正面向いてお礼言って欲しいかな!


「では早速…あれ、師匠(※トレイシー)はどこ行った?」

「会長?そういや…あっ、いた。」


 帰ってきたか。……ん?なんか…雰囲気甘くない…!?
 トレイシーは穏やかに微笑み、パリスは顔を火照らせて、ぎゅうっと手を繋いで歩いて来る。これは…上手くいったか!?
 彼らの空気が変わった事に、全員気付いたらしい。4人で顔を見合わせ…。


「…今日は疲れたからもう帰る。行くぞ、ティモ。」

 デメトリアスは、会釈するティモを連れて寮へ向かい。

「な、なあ。あの2人…もしかして…!?」

 アシュレイも頬を染めて耳打ちしてくる。見りゃ分かんだろう、お子ちゃまめ。
 背中を蹴っ飛ばしてやれば、「オレも用事思い出した、帰るっ!」とダッシュで逃げた。さて…私も!


 気配を消して離脱。最後に…トレイシーがこっちをじっと見つめていた。
 





 その日パリスは、わりとすぐ寮に帰ってきた。おやおや、もうちょっとのんびりしててもよかったんだが~?

 なんて揶揄うのも可哀想かな、と思い。私からは何も言わずにいた。パリスも何故か、にこにこするばかりで……上手くいったんだよね…?
 微妙に不安になりながら、ふいに夜中目が覚めた。いつも朝までぐっすりなのに…。
 なんとなく散歩に行く、3人は起こさないように…と。



「…わお、綺麗な星。」


 魔国も満天の星空を見れるけど、また違った景色だ。



「お嬢。」

「え…。」


 玄関を出てのんびり歩いていたら、どこからか。私を呼ぶ声がした。


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