私の可愛い悪役令嬢様

雨野

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学園

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 10分程でパメラは落ち着き、号泣したのが恥ずかしそうに目を伏せた。
 昔の…お屋敷で味方がトロくんしかいなかった頃。1人泣いていたリリーお嬢様を思い出して…放っておけないと感じてしまった。

 腫れ上がった顔を癒やすと、小さく「ありがとう」と言ってくれた。


「本当に…魔法って凄いわよね。」

「こんなの低級だけどね。」

「……アシュリィは、すぐこの世界に馴染めたの?」

「…私の記憶が戻ったのは6歳だったから。順応も早かったと思うよ。」


 嘘は言っていない。ね?


「でも、仲間がいると分かったら心強いわ。
 ねえアシュリィ、よかったら私の事は葵って呼ん──」

「パメラ。」

 それは、駄目。
 彼女は目を大きく開き、言葉を失っている。


「貴女はパメラ・スプリングフィールド。私はアシュリィ=ヴィスカレット=ウラオノス。
 軍神葵でも、神宮寺有朱でもないの。
 貴女の人格が葵のものでも、パメラの記憶と肉体を持つ貴女はパメラなの。」


 死者は蘇らない。
 自分の死を…受け入れなきゃいけない。
 貴女はずっと、パメラとして生きるのだから。


 まるで…昔の自分に言い聞かせているみたいで滑稽だね。


「厳しいかもしれないけど…」

「いいえ。その通り…よね。
 ありがとうアシュリィ、ハッキリと言ってくれて。
 …私はパメラ。侯爵令嬢として…生きる。」


 パメラは自分の手をじっと見下ろし、強く握った。
 うん、もうきっと大丈夫。



「それにしても、人を力士みたいに言わないでくれるかしら?」

「いやー、貴女の名前的にね。てかパメラ、大相撲詳しいな?」

 私達は席を立ち、会計を済ませて店を出た。
 道すがら…こういった軽口を叩き合う。前世に囚われるのは駄目だけど…こういうネタで盛り上がるくらい、いいよね?

「まだ小学生の時はね、放課後や休日はお爺ちゃんちに行ってたの。
 お爺ちゃんとお婆ちゃん…常に炬燵に座って、テレビでお相撲しか見てなくて…。
 私も一緒になって見てたのよ…。」

「あらまー。
 ところで…どうして貴女は魔族を怖がるの?」

「!!!………だって魔族って、人間を襲って食べちゃう怖い種族なんでしょ!?」

「ファッッッ!!?」

 ななななんつー風評被害!!
 よかった、周囲に人がいなくて!!


「…友達が「もうやらないから」って言って本体ごとくれたゲームがあって。
 それが…主人公が魔族に家族を殺されて、世界平和の為に魔王を倒す話なの。
 魔族は人間を生きたまま食べて…!ってやつ。」

「や…それはフィクションって、分かってるよね…?」

「もちろんよ!でも…現実にいると、少しは怖いじゃない!?
 しかも殿下は魔王の娘と親友だなんて聞いて…!ひーーー!!
 今までさんっざん迷惑かけて…食べられるうううっ!!って怖くてぇ…!」

「ふ…………ふはっ!」

 あっははは!何それおっかしい!
 彼女は本気で怯えてるけど、普段の魔族を知る私からしたら笑い話だ。
 だって皆…確かに力は強いけど、なんら人間と変わらないもの。


「ま、ゆっくり慣れていこうか。もう私は平気でしょ?」

「まあね…。もう1人のウラオノス様は怖いけど…。」

 ディードか。彼も優しいヒトだけどなあ。




 そうしているうちに寮まで帰ってきた。私達は同じアスル寮だから、一緒に行こう。


「いたいた。ただいまー。」

「あっ、アシュリィ!と…スプリングフィールド、令嬢…。」

「アミエル令嬢…。」

 友人達は男女共用スペースである、談話室に集合していた。
 パメラは無意識なのか、半歩下がって顔を曇らせる。さて…約束は守りますぜ。

「ねえアル、リリー。今は何も聞かないで…彼女の言葉を聞いてあげてくれない?」

「「…………。」」

 パメラの1番の被害者であろう2人。
 彼らは顔を見合わせるも、私を信じて頷いてくれた。

 私もパメラに微笑みかけ、頑張れ!と心の中でエールを送る。
 彼女はごくりと喉を鳴らし、意を決して前に出る。


「だ…第二王子殿下、並びにアミエル侯爵令嬢に、申し上げます。

 その……すみませんでしたああっ!!!」

「「えっ!?」」


 パメラは勢いよく腰を直角に折って、大声で謝罪した。

「今まで本当にごめんなさい!!!愛し合うお2人の邪魔をしたり、色々ご迷惑おかけしました!!!
 許されるとは思っておりません、望まれるのなら二度と視界に入らぬよう退学致します!!」

「いや~…えーっと?」

 おお、アルが珍しく戸惑ってる。

「というか第三王子殿下や、アレンシア様…アギラール様にも多大なご迷惑を!あああ謝る人が多いい!!もう学園中謝罪行脚待ったなしじゃない!?」

「おお、付き合うよー。」

 そんときゃ2人で僧侶のコスプレでもすっかー。
 私以外の全員は目がまん丸。でしょうね。

「…んと。君は…僕の事好きだったの?」

「…………はい、お慕いしておりました…。ですが、その…。」

「んー。アル。」


 この数時間言葉を交わし、パメラは素直な人なんだと分かった。
 だから、パメラの罪も全て背負おうとしているのだろう。

 それは見てるこっちが苦しいから。ズルかもしれないけど、お節介しちゃう。


「彼女はね、夢から醒めたの。
 もうあんな愚かな真似はしないよ、私が断言する。」

「アシュリィ…。」

 ゆっくりと顔を上げたパメラは、苦しげで居た堪れない気持ちになる。
 アルはうーんと少し悩み…。


「うん、いいよ。」

「え…え?」

 ぺかっと笑って、許してくれた。


「本当に反省してるみたいだし、アシュリィもそう言うし。
 事情はサッパリわかんないけど、もういいや。
 あ、でもここにはいない双子にも謝罪してあげて?彼ら伝統に拘るタイプだから、鳳凰会をめっちゃにされたのは超怒ってたからねー。」

「は…はいっ!必ず!」

「ふふ…私も謝罪を受け入れます。」

「アミエル令嬢…!あり、ありがとうございます…!」

 パメラは胸の前で手を組み、泣きそうな顔で何度もお礼を言う。
 アシュレイも、ジェイドも。怒ってないよ、と言ってくれた。

 まだまだ遠慮はあると思うけど。少しずつ…歩み寄れたらいいよね。





「でも貴女、その…綺麗なお顔をしてましたのね。
 失礼ながら…今までのお化粧で、ご自分の魅力を潰してましたわよ?」

「え…いっいえいえいえっ!
 リリーナラリス様こそお美しいです!それにスタイルもよくて…憧れてしまいます。」

 うん、パメラは美しいと私も思う。
 腰まである艶やかな黒髪。スラっと背は高く、スレンダーでモデルさんみたい。それでいて胸もあるし……チクショウ!!!

 何より今まで厚化粧と扇で隠していたという顔。
 リリーが女神であると言うならば、パメラは妖精って感じ?癒し系のような、笑顔がとっても可愛い!



「ところで…お前はどうして魔族を恐れる?」

「…えーと…。」

 男子も混じって雑談していたのだが。ディードがぶっ込んできた。
 まあ彼からすれば、本気で疑問なんだろうけど。

「そのぉ…えっと…!」

 パメラは青い顔でぐるんぐるん目を泳がせる。
 そりゃね…「食べられるぅ!」なーんて思ってたとか、恥ずかしくて言えないよね。

「?アシュリィに対しては普通のようだが…私はどうなのだ?」

「ひ…ひいっ!?」

 ディードがずいっと顔を近付けると、パメラは肩を跳ねさせて情けない声を上げる。うん、ビビってるね!
 ソファーから滑り落ち、ずざざざっ!と尻もちをついた体勢で逃げた。

 その反応に驚いたのか…ディードは追い掛ける。おいコラ、変態にしか見えんぞ。


「何故逃げる?私は別に、お前に危害を加えるつもりはないが?
 まさか…以前魔族に何かされた事が!?誰だ、相手は分かるか?」

「あわ、あわわわ…!」

 ディードは普段高位魔族として…敬われ、畏れられ、羨望の眼差しを送られる事が多い。
 パメラのように、純粋に「怖がられる」のは初めてなのだろう。そもそも魔国を出たのも最近だし。


「ちょっと…ディード、その辺で…!」

「きゃあ~!きゃああ!あっ!?」

 魔族としての責任感からだろうが、やり過ぎだ!
 壁際に追い詰められ、両肩を掴まれたパメラは…


「…た……食べないで~…ひいい…。怖いいぃ…。」

「あ…。」


 ついに泣いてしまった。
 静かに、ポロポロと。号泣ではないが…ガチでいらっしゃる…!


「おい…ディード…?」

「う…!すま、すまない、その。ぐあっ!!?」

 ディードを蹴っ飛ばし、膝を突きパメラをそっと抱き締める。
 すると彼女は私の背に腕を回し、すんすん言いながら泣く。


「ディーデリック…貴方…。」

「「ディーデリック様、サイテー。」」

 壁にめり込むディードに、リリー、ララ、パリスが軽蔑の眼差しを向ける。
 男性陣も「ないわー。」といった顔をしている。


「ディーデリック…流石の俺も引くぞ…。」

 デメトリアスが言うってよっぽどだぞ。



 その後猛省したディードは…パメラに誠心誠意謝罪して。
 パメラも恐怖は拭えないものの受け入れて。

 私達は、友達となる事ができたのだ。


 最初はアンナ・ナイトリーに並ぶ問題児だと思っていたけれど。
 こうして分かり合えて…本当によかった。今は心からそう思うよ。

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