私の可愛い悪役令嬢様

雨野

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学園

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 可愛らしく怒っちゃって、私から逃げて行くアシュレイ。
 私は今…彼になんて言おうとした?


 アシュレイが私に好意を寄せてくれているのなんて、ずっと昔から気付いてた。
 ただ…リリーやアルと同じ、友愛の類だと思ってた。


「……アシュリィ?」

「リリー。貴女はさ…アルの事好きだよね?」

「!…も、もちろんよ。」

 突然の質問に、彼女は頬をほんのり染めて目を伏せた。
 それは…友愛とどう違うんだろう。


「ララも、パリスも。ガイラードやトレイシーに対して…どんな感情になるの…?」

「「「……………。」」」

 3人は照れた表情で顔を見合わせる。
 うう…私の自慢の頭脳は、恋愛ごとでは幼児以下になるぅ…。


「…こほん。私は…アルビーの隣にずっといたい。私の話に笑ってくれたり、触れ合うと胸が高鳴るわ。
 私以外の女の子が近寄ったら嫉妬しちゃう。貴女とか…友人は別だけど。
 でもね?たとえアシュリィでも…挨拶のキスとかハグしたらモヤっとするわ!」

「わたしも…ガイラードさんにはわたしだけ見て欲しいです!
 だけど彼の近くには、アンリエッタさんやドロシーさん、アシュリィ様のような…素敵な女性がいっぱいで不安になります。
 皆さんに恋愛感情は無いと分かっていても、です。」

「ん~…ぼくは片想いですけど。魔国で、離れている間も…。
 今トレイシーは何してるのかな?ぼくの事…覚えてくれてるかな?まさか、彼女とかできてないよね!?
 会いたい。手を繋ぎたい。頭を撫でて欲しい。ぎゅっとしたい。
 ……好きって伝えたら。喜んでくれるかな?困らせちゃうかなあ…って。
 彼の事を想っていると、胸が温かくなります。」


 ………そっかぁ…。

 彼女達の話を聞き、自然と足が動き出す。
 どーせアシュレイの向かう先なんて、寮じゃなきゃトレイシーのとこかベンガルド邸だ。


「まだ、なんて言えばいいかわかんないけど。今はただ…。」


 ざっざっざっ、と。足早に廊下を進む。
 今は、ただただ。


「アシュレイの…顔が見たい…!」


 そう言葉にすると。必死に追い掛けてくるリリー達が…小さく笑った気がした。





「あ…アシュレイ…。」

 いた!予想通り職員室!
 アシュレイは私と目が合うと、明らかに動揺して固まった。だけど逸らす事はしない…。

 拳をぎゅっと握り締め。口を開こうとしたら…。


「あ…スプリングフィールド嬢…。」

 と、アルが思わずといった風に呟いた。


 恋愛ごとにまだまだお子様の私は…うっかりそっちに反応してしまった…!



「えっ、三月場所令嬢!?」

 パメラ・スプリングフィールド。
 私がいない間…友人達に大層迷惑を掛けてくれたとかいう侯爵令嬢。
 どんなツラをしてんのか拝んでやるぜ!と思っていたけど…。

 アルの視線を辿り、バッ!と振り向いた。
 すると背を向けていた女性が、「誰が大阪場所よ!!」と反論しながら私を見据える。



「あ…あなた。まさか、私と…?」

「………!」

 さっきの会話だけで互いに気付いたさ。
 彼女は…転生者だ!!


「アシュリィ、もしかして知り合いだったの?」

「リリー…。いや、初対面…なんだけど。」

 とにかく…彼女と2人きりになりたい。


「…初めまして。私はアシュリィ=ヴィスカレット=ウラオノス。貴女のお名前は?」

「!……スプリングフィールド侯爵家の娘、パメラと…申します。」

 彼女はスッとカーテシーをし、全身を震わせている。んー…。

「よかったら、2人でお話しませんか?」

「えっ!?…………は、い…。」

 私怖い顔してたかな…超ビビってる。
 いや、魔族が怖いのか?


「ごめんね、リリー、アシュレイ。私ちょっと用事が。」

「それはいいのだけど…。」

「アイル達も、先に寮に帰っててくれる?」

 三人衆は側にいる、と言ってくれたけど。
 ごめん、それだけは駄目なの。

 なんとか説得し、彼女を連れて学校の外に出た。
 私達の背中を見送る友人達にも、説明できなくて申し訳ないけど。





「ど…どうして街に、出たんですか…?」

「貴女、私の事怖がってるじゃん。」

 現在地はお客も多いカフェ。私なりの気遣いのつもりだったんだけどね。
 会話を誰にも聞かれないよう、遮音はさせてもらうけど。

 向かい合って座り、コーヒーで喉を潤す。さて…。


「単刀直入に聞くね。貴女…前世日本人?」

「…!そう、やっぱりあなたも!?」

「まあ…単なる転生とも違うけど、その解釈で概ね合ってるよ。」

 私はアシュリィありきの転生だからねー。そこは割愛させてもらう。
 だけどそれで彼女の警戒は大分和らいだのか、ようやく微笑んでくれた。


「よかっ…たぁ~…!
 私…私ね。いきなり…知らない世界に迷い込んだ、みたいで…っ。
 すっごく…不安だった…!」

「え…。」

 彼女…パメラは眉を顰めて、ポロポロと涙を流し始めた…。
 そっとハンカチを差し出せば…ぶびいぃぃんっ!!と鼻をかまれた…。


「……すみません、洗って返します…。ごほん。
 私、ね。今年の春に…高熱を出して生死の境を彷徨っていたらしいの。
 でも目を覚ましたのは…パメラ・スプリングフィールドじゃなくて、軍神アオイだったの。」

 ……強そうな名前だな。

「最初は本当に戸惑った。知らない人達が…私の両親を名乗るんだもの。」

 それは、うん。怖いよね。

「言われるがままに寄宿学校に行かされて、右も左も分からなかった。
 そこで…アルバート殿下を見掛けた時。
 唐突に…パメラの記憶が私に流れ込んできたの。」



 彼女が語ってくれたのはこうだった。


 パメラ・スプリングフィールドは…評判通り高飛車で、自分が社交界の華だと信じて疑っていなかった。
 アルを狙っていたのは、単にイケメンで『王子様』だから。
 王太子殿下はすでにご結婚されているし、年下のジェイドはストライクゾーンから外れているらしい。

 自分がリリーを蹴落として、アルに選ばれると…信じて疑っていなかった。
 その為に鳳凰会も乗っ取り、「未来の王子妃にそんな態度を取ってよろしいのかしら!?」という振る舞いを続けてきた。


「今は、私はそんな事考えてないわ…。
 王子様とか畏れ多い、天上すぎてどのくらい凄いのか分からないもの。」

 パメラは大きくため息をついた。
 そして両手で顔を覆い、穴があったら入りたい…と呟く。


「私はパメラの記憶を、全部持ってるのよ…。
 は…恥ずかしい…!勘違い通り越してイタすぎる…!
 殿下やアミエル令嬢に謝罪したいけど、私はもう顔を見せないのが一番じゃ…と思ってるの…。」

「……そっかぁ…。」

 嘘をついている風には見えない…本当に苦しんでいたみたいね…。

「私も口添えするから…とりあえず謝ってみる?」

「……いいの、かしら?アシュ…あ、アシュリィって呼んでいい?」

「うん、もちろん。」

「ありがとう。その…アシュリィの前世は?」

「……名前は神宮寺有朱。大学生の時、事故で死んだ。」

「死…。」

 ?パメラは顔を強張らせる。
 その後数分間沈黙が落ちるが…私は何も語らずにいた。


「……私。前世でお父さんはギャンブルとお酒に依存してて…お母さんが必死に働いたお金も巻き上げて。
 弟と妹がいて、2人にだけは苦労させたくなくて。私も中卒で働いて、学費にしてあげたかったけど。
 私のお給料も全部取られちゃって…ご飯も服も、満足に買えなくて…。」

「……………。」

「それで、あの日。私もう、我慢の限界で。お母さんと中学生の弟妹を連れて、家を出ようとしたの。
 お母さんはお父さんを恐れて動けなかったけど、なんとか説得したのに。
 酔っ払って寝ていたはずのお父さんが、運悪く起きちゃって…。」



 葵は職場の先輩に相談して、上司にまで掛け合ってくれたらしい。
 給料を前借り、という形でアパートを契約し、そこに移るだけだった。

 夜中に荷物を持ち、出て行こうとする4人。父親が悟るのは当然だろう…



「お母さんの足が恐怖で竦んじゃって、動けないうちに。お父さんは、包丁を持って、きて…。
 こっちに向かって走って来たの。私、咄嗟に前に出て。

 お腹に…冷たい何かが刺さった。それはすぐに熱さに変わって…っ!」

「…もういいよ。」


 パメラはお腹を強く抱き締めて蹲る。
 もういい。これ以上苦しまなくていい…。


「せめて、お母さん達は…っ、無事でいてくれたら、いいんだけど…!うあああああんっ!!!」


 彼女の横に移動して、そっと肩を支えれば。
 パメラは私を強く抱き締めて…大声で泣いた。
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