私の可愛い悪役令嬢様

雨野

文字の大きさ
上 下
110 / 164
学園

23

しおりを挟む


「あーっ、アルバート様あ♡ディーデリック様も!休暇の間、全然お会いできなくて寂しかったです~!」

 うわ、出た。くねくねくねくね歩いて来るナイトリー嬢…その歩き方凄い、器用だね。

「あのあの、この後お時間ございます?」

「「無い。じゃっ。」」

 ディーデリックと揃ってシュバッ!と手で制し、ナイトリー嬢に背を向け猛ダッシュ。
 なんか後ろから「もーぉ、照れ屋さん♡」とか聞こえるのは幻聴かな。



「はあ…アレはすごいな。魔族にはいないタイプだ。」

「いや人間にも滅多にいないからね?勘違いしないでよね。」

 アレが人間の基準だと思われたら堪らないからね。


「あら、殿下にディーデリック様。」

「お疲れのようですね。」

 お。今度は正面からトゥリン兄妹参上だ。
 僕ら今からリリス達に会いに行くの、と言ったら一緒に行くって。
 魔国楽しかったねー、とか雑談をしつつ移動。その時…。


「あ…。」

「…?っ!!!」バタンっ!!

「?今の令嬢は?」

 とある教室から出て来たと思ったら、すぐ引っ込んだ…スプリングフィールド嬢だ。

「今のがか?よく見えなかったが…。」

「見なくていーよ、行こう。」

 彼女には散々付き纏われたからねー。今はこのディーデリックのお陰で平和平和。


「「おーい、殿下ー!」」

 ん?後ろから声を掛けられた。今日はやたらと知り合いに遭遇するな。


「「ろーほーろーほー、朗報です!」」

 彼らは…2年生でアギラール公爵家の息子、リオネル&エイベル兄弟だよ。顔立ちも髪型も声もそっくりで、両親以外見分けに苦労するんだ。
 でもジェイドも完璧に判別できるんだ…なんでだろ。えーと、どっちがどっち?

「もう、僕がリオネルですよっ!」

「僕がエイベルです!」

「わ、ごめんね。」

「いや逆だろう。」

「「「えっ?」」」

 ディーデリックの発言に、その場の全員が注目した。


「?今リオネルと言ったのがエイベルだろう?」

「「うそ…なんで分かったんですか…?」」

 あ、騙したな!んもー、彼らはこういう事するんだから!
 でもディーデリックは彼らと知り合って、まだ数度しか顔を合わせていない。なのになんで…。

「なんでって……勘?」

 えー…。何それ、魔族凄い。

「正確には「彼は今嘘をついている」と感じたからだ。すまないが、それ以上表現できん。
 それより朗報とは?」

「「あっ!そうだった!

 鳳凰会に平和が戻ってきたんですよー!!」」


 …え?思いがけない言葉に、僕らは返事もできなかった。

 双子曰く…スプリングフィールド嬢が、気付けば顔を出さないんだと。
 それで調べてみたら、春の時点で鳳凰会を脱会してたとか。自動的に、彼女の紹介で入った令嬢も皆同じ。
 どういう事?トゥリン兄妹の出番だよー。

「そうですね…鳳凰会については、私達にはなんとも言えませんが。
 確かに最近の彼女は大人しくなっています。」

「私を…魔族を避けていたんじゃないのか?」

「そのはずなんだけど…。」

「んと…『成績はいいけどマナー最悪』って評価は、実は去年のものなんですの。今は取り巻きの令嬢も連れてないし…人が変わったように静かなんです。
 でも元々があの性格ですから、今は魔族を恐れて猫被ってるだけ…と言われていますわ。」


 ???それ以上の情報が無さすぎて、全員で首を傾げるばかり。
 ここは…兄妹に調査を任せる。


「「とにかく!これで殿下達も鳳凰会に戻れますね!」」

 まあそうだね。彼女が牛耳ってなければ、放課後アシュリィ達とのんびりお茶できるし。そうだ、兄妹も入会してもらおうかな?
 またサロンに行くよ、と言って双子とは別れた。




 4年生の教室にやって来た。でも…まだ授業終わってないの?賑やか。

「今日はオーディションと言っていなかったか?」

「長引いてるのかな…。」

 オーディション…見てみたい。
 ディーデリックに飛んでもらい、僕は背中にくっついた。そして壁の上部にある、換気用の窓から覗いたら…。



「アシュリィ、そのブラシ取ってちょうだい。」

「はーい。口紅何色にする?」

「そうね…真っ赤は避けたいわよね。」

「アシュレイ様は髪の毛綺麗ですねえ。セットし甲斐があります!」

「眉毛はちょっと整えるだけでよさそうですね。」

「……………。」


 何この状況。レイを囲うリリス、アシュリィ、ララ、パリス…羨ましいっ!!
 じゃなくて。なんでレイをメイクアップしてるの…?



「かんせーい!
 …ヤバい、可愛い…。意外とアリかも…。」

 僕はナシかなー。どういう状況?


 それで…なんかデメトリアスとアシュリィが騎士の演技をする。どっちも上手い、けど。

「うーむ…やはりアシュリィは身長が足りんな。」

「ねー。しかも姫?のレイがデカいし。」

 と言うか、レイはデメトリアスよりも身長あるんだけど。どうしてこうなった?

「予想だが…アシュリィが騎士役をやりたがって、恋人になりたいアシュレイが姫を望んだんじゃ?」

 その線が濃厚だろうね。
 結果は予想通り…デメトリアスが騎士に選ばれた。アシュリィとレイは床に両腕を突いて落ち込んで、リリス達は腹を抱えて笑ってる。



「ふ…やはり主役は俺様にこそ相応しい。しかし姫がな…。
 まあ安心しろ。相手が誰であろうと手は抜かん。」

「姫は辞退します!!!」

 あ。レイがメイクをゴシゴシ落とし、膝を抱えて教室の隅っこに収まった。



 もういいかな?そう思い床に降り、扉をノックしてから開けた。

「ねえねえ、何があったの?」

「あ、アルビー。それが…かくかくしかじか。」

「え。クラスメイトが揃ってる中で、告白っぽい事しちゃったの!?」

「ううう~~~…!!」

 この子は、またなんて事を…ぶふっ!!
 お相手のアシュリィは、困ったように唇を尖らせ頬を染めている。


「あの…アシュレイ。わ、私。今回は…その。」

「!!!さっきのは忘れろ!!」

 レイは顔を真っ赤にして、ばひゅんと教室から逃げた。あーあ。


「ねえデメトリアス。騎士役代わってあげれば?」

「断る。最初からエントリーしなかったあいつが悪い。」

 だよねー。
 でも、ちょっとだけレイが可哀想に思えてきたぞ。もしこれで振られちゃったら…うむー。


 とりあえず僕とディーデリックでレイを追いかけた。どこかなー。

「あの2人、上手くいくかなあ。」

「え?アシュリィはどう見ても、アシュレイを好いているだろう。」

「え?」

 あらびっくり。君の目にはそう見えるの…?


「以前アシュレイには言ったが…彼女は不誠実を嫌う。
 もしもアシュレイに恋心など微塵も無ければ、とっくに振っているさ。相手に気を持たせるような愚かな真似はしない。
 つまり…自分の感情に気付いていないんだろう。それも時間の問題だとは思うがな。」

 そう、なの?

 それが本当なら…嬉しい。




 レイが行きそうな場所…僕の勘が正しければ。

「何やってんだ大将…?」

「………うるさい…。」

 やっぱいた。職員室…トレイシーの机の下にいる。


「あ、殿下。今度は何が…?」

「んっとねー…むっ。」

「なんでもないっ!!邪魔したな!」

 僕が説明しようとしたら、レイに口を塞がれた。もごご。
 いや、今更彼に隠すようなこと?

「他の先生方もいんだろうが…!」

 なるほどー。

 お邪魔しましたー、と職員室を後にする。


「あ…アシュレイ…。」

 丁度その時、アシュリィ達が前からやって来た。今日このパターン多いな。

 でも…アシュリィは珍しく目を伏せて、もじもじしてる。なんか…本当に脈アリっぽい…!?

「(ここは気を利かせるべきかな?)」

「(そうしましょう、さり気なく去りましょう。)」

 リリスとアイコンタクトを取り、他の皆にも目線で合図する。そ~…っと離れようとしたら。



「あ…スプリングフィールド嬢…。」

「え…ひいっ!?」

 失礼な。彼女は引き攣った表情をして、逃走を図る。本当に変わったな…。
 前だったらこうして、偶然を装って僕に声を掛けてくるのが当たり前だったのに。



 だけどスプリングフィールド嬢に誰よりも反応したのは、アシュリィだった。



「えっ、三月場所令嬢!?どこどこどれ!?」

「誰が大阪場所よ!!せめて人間に喩えなさいよね!!」

「じゃあ明石志賀之助?」

「誰が初代横綱よっ!!」

「あははっ!………は?」

「え……。」

 え?アシュリィとスプリングフィールド嬢は何を言ってるの?全然ついていけないんだけど。
 それは僕だけでなく、その場の全員。


 当の本人達は…目を大きく開き、呆然としているようだ。

しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。

素顔を知らない

基本二度寝
恋愛
王太子はたいして美しくもない聖女に婚約破棄を突きつけた。 聖女より多少力の劣る、聖女補佐の貴族令嬢の方が、見目もよく気もきく。 ならば、美しくもない聖女より、美しい聖女補佐のほうが良い。 王太子は考え、国王夫妻の居ぬ間に聖女との婚約破棄を企て、国外に放り出した。 王太子はすぐ様、聖女補佐の令嬢を部屋に呼び、新たな婚約者だと皆に紹介して回った。 国王たちが戻った頃には、地鳴りと水害で、国が半壊していた。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

全部、支払っていただきますわ

あくの
恋愛
第三王子エルネストに婚約破棄を宣言された伯爵令嬢リタ。王家から衆人環視の中での婚約破棄宣言や一方的な断罪に対して相応の慰謝料が払われた。  一息ついたリタは第三王子と共に自分を断罪した男爵令嬢ロミーにも慰謝料を請求する… ※設定ゆるふわです。雰囲気です。

処理中です...