私の可愛い悪役令嬢様

雨野

文字の大きさ
上 下
84 / 164
幕間

魔国での日々 夏

しおりを挟む


「海水浴に行きたい!」

「え?」


 え?じゃないよお父様。季節は夏!!ここは島国、ベイラー王国と違って海がある!!ならば海水浴するしかあるまいて。山でもいいが今日は海の気分!
 皆に日本では流行ってたよ~と言うが、どうにもピンと来ていないご様子。


「泳ぐ…つまり鍛錬か?ならばお供しましょう!」

 ルーデン、違う。そういう本格的なのじゃなくて、プカプカ浮かぶだけでもいいの。

「スイカ、割り?割ったら食べづらいでしょう、私が切って差し上げます。」

 ガイラード、違う。食べやすさなんざどうでもいいの。

「この絵は…水着というのですか?泳ぐための服…?海の魔物に襲われた時どうするのですか?我々はともかく、人間には装備として不適格なのでは。」

 アンリエッタ、日本…地球に魔物なんぞいないから。サメやらクラゲは要注意だけどさ。そもそも魔物って、魔族には絶対服従だよね。襲われることなんてナイナイ。
 でも私が描いた水着のデザイン自体は否定されないんだな。まあこの世界も、普通に足くらいは出してるしね。ドレスは大体長いけど。確か寄宿学校の制服は膝丈スカートだったかな。

「いや下着より布面積少なくない!?誰にでも見せちゃ駄目だからね!!?」

 お父様…うん、まあそうよね。でも身内がオッケーならいいのです。

「……楽しそうですね。」

 ドロシー!!分かってくれるのは貴女だけか、うんうん!





「という訳でドロシーと子供だけで行ってきます。」

「「「「駄目です!!!」」」」


 おとなはわかってくれない…。









 ……というやりとりをしたのがなんと2年前。現在アシュリィ11歳でっせ。結局この時は海に行けず…なぜ今年許可されたのかって?

 ふふ…凝り性でお洒落好きのアンリエッタが、「完璧な水着が出来るまで駄目です!!」なんて言うからだよ!!
 水着のデザインはともかく、原材料なんて私が知るか!!ナイロンだとかポリエステルだとか、合成繊維なんて分かるかバーカ!!!そんでも「速乾性とか耐久性も必要だけど…一番大事なのは伸縮性だね」って言ったらそれに当てはまる素材探しから始めよった!!
 最終的に…ファイバスパイダー(蜘蛛の魔物)の糸が最適だという結論に達し、蜘蛛狩りが始まって…地獄絵図でした。殺してはいない、ただ大量に糸を出させているだけで…。さながら強制労働所の如く蜘蛛さんたちが日夜働いております。

 ただしそんな苦労の甲斐あって、素晴らしいものが出来ました!!男性陣は普通にトランクスタイプ、女性陣はアンリエッタ以外はワンピースです。アンリエッタのダイナマイトボディでワンピースタイプは似合わねえ…無難にビキニにした。でもハイレグとかモノキニとか似合いそう。
 ただ…パリスは水が嫌みたいなので見学。残念、ケモミミに似合いそうな水着考えたのにい。いつもお風呂もぱぱっとシャワーで済ませてるみたいだしね、無理強いはせん。






 そんなこんなで最早お約束になりつつあるメンバー、私・お父様・四天王・従者トリオ。水着よーし、パラソル(作った)よーし、お弁当よーし、水分よーし、サングラスよーし!さあ、海にしゅっぱーつ!!



「おい、私を忘れるな!!」

 
 …おおう。ウッキウキで城を出た私達の前に立ちはだかったこの少年、名をディーデリック。成人前の54歳、彼も赤い目を持つ魔族だ。



 ディーデリックとの出会いは、私が魔国に来た日まで遡る。元老院召集になぜかくっついて来た。彼の父親が議会のメンバーだかららしいが…私を見るや否や

「陛下の奥方は人間だったはず、貴様は何者だ!」

 から始まり、

「魔族と人間の混血…?信じられるものか!」
「正体を現せ、その顔も魔法で誤魔化しているのだろう!」
「この私の目を欺けると思ったか!!」

 とか言うもんだから。

「ごちゃごちゃうるせーーー!!!」

「ぐぎゃっっ!!」

 すんごいイラッとしたから渾身のラリアットを喰らわせてやった。綺麗に吹っ飛んでいったぞ、やっぱり魔族相手には手加減が必要無くていいね!

 それ以来大人しくなり、私はなんか彼の父親に感謝された。息子が頑固で傲慢に育ちつつあって、アレでほぐれたらしい、と。
 そのまま父親は私の味方になってくれたのでした。



 その後反省したのかディーデリックは私に謝罪し、年が近くて同じ高位魔族ということで友人になったのだった。
 そんで海水浴のことも話したら一緒に行くと言っていたんだけど…。

「いや、忘れてないけど。家まで迎えに行く予定だったでしょうが。」

「………そうだった…。」

 アホの子かお前は。彼は少しせっかちなのである。まあ手間が省けたからいいか。

 いやあ、懐かしいなあ。大学の頃…3人で海水浴行ったなあ。…聖地巡礼で。バナナボートに3人で乗って全員振り落とされて…なんで?あれって振り落とされるようなもんだったけ?
 




 到着したのは、魔国の中でも南に位置する海岸だ。でも海水浴の習慣は無いから…誰もいない。貸し切り状態だがちと寂しいな。…いつか、皆を招待したいなあ。
 周辺地域を治める家に挨拶に行き、そのまま部屋を借りて着替える。うーん、我ながら凹凸の少ないボディですこと…くそう、リリーは今頃育ってんだろーなー!!スク水プレゼントしてやるんだから!!ゼッケン付きのやつ!!




「お待たせー。」


 海岸に行くと、男性陣はすでに揃っていた。やっぱ早いね、と思っていたら、アイルがむっちゃ怒ってた。

「アシュリィ様、騙したなー!!なんで俺だけフリル付いてんですか!!陛下もディーデリック様もルーデンさんもガイラードさんも付いてないじゃないかー!!?」

「ええー。自信作だったのにい。大体ねえ、フリルは女性と違って男性は大人になったら着れないんだよ。今だけよ、今だけ。」

 くっそ似合ってるわ。彼だけフリフリにしてやった。顔真っ赤にして地団駄踏む姿がまた可愛いやっちゃ。
 それにこの世界に水着の文化は無いんだから、私が常識だ。私が少年はフリルが標準装備だって言ったらそうなの!
 その隣では、ディーデリックも別の理由で顔を真っ赤にしていた。

「な…な…!!話には聞いていたが、布面積が少なすぎるだろう!そそそんなあられもない姿を!!」

 真面目か。…アシュレイも似たような反応しそうだな、なんか仲良くなれそう。
 まあそんな彼は放っておいて、まずは準備体操!!これを怠るんじゃねえぞ!!

「「イエッサー!!!」」

「イエッサ?」

 従者トリオにはいろいろ仕込んであるのさ!面白いから。さーて、身体もほぐれたところで…。

「突撃ーーー!!」

「「「おーーー!!!」」」


 パリスとドロシーを残して全員突撃じゃーい!!ドロシーは日焼けすると真っ赤になるそうなので、日が出ているうちは泳がないらしい。パリスと仲良く留守番よろしく!!



「アシュリィ様ー、わたし泳げません!」

「俺も。」

「私もだ。」

 …まあ、予想通りだよね。大人4人は軍人として鍛錬したようで、ものすっごい泳いでる。なんか勝負始めてるし…。
 私は泳げるけど、3人に同時に教えるのはなあ。とりあえず見込みのありそうなディーデリックから教えよう。彼の手を取り引いてみる。

「私が引っ張るから、バタ足…こう、してみ。」

「う、うむ…。」

 まだほんのりお顔が赤い。初よな~。だが彼はすぐにコツを掴み、少しなら泳げるようになった。



「おい、あの2人は人間だろう。あまり私達から離れすぎると、魔物に襲われてしまうのではないか?」

「大丈夫、魔物除けのピアスしてるから。あれを感知すれば大体の魔物は逃げるし、知性のある魔物は魔族の客人だって理解出来るんだって。」

 ほんと便利よね。おかげでアイル達も魔国で自由にできんのよ。
 その後私がララに、ディーデリックがアイルに泳ぎを教える。時間はかかったが…大分上達したぞ。折角なので競争しよう!と話していたら…何か、歌声が聴こえる…?


「ああ、この声はセイレーンだな。惑わすものではなく、純粋にただの歌のようだ。」

 へえ…。ディーデリックの言葉が本当なら害は無い。いつの間にか…皆聴き入ってしまっていた…。少しうとうとしてきたので、海から出てパラソルの所に戻った。まるで子守唄のようで心地良いな…。







 気付けば日も傾いてきたので、そろそろ今日お世話になる屋敷に戻ることにした。だが…

「お父様達、帰ってこないね。」

 あのメンツなら心配要らないだろうけど…どこまで泳ぎに行っちゃったんだ…?あれから何時間経つと思っているんだ。

「大丈夫ですよ、行きましょう。」

 とドロシーも言うので、とりあえず帰った。
 でもやっぱり海水浴は楽しかったあ!他の皆も同意してくれたので、また来ようね、と約束したのであった。


 その後夕食の時間になっても就寝時間になっても4人は帰って来なかった。「遅くても1ヶ月以内には帰ってきますよ」とはドロシーの談。いやまあ、彼女がそう言うなら…いいの…かな?


 だがその日の夜中。トイレからの帰り、廊下を歩いていたら…

「ふああぁ~……ん?」


 廊下の向こうから…何かぴちゃん…ぴちゃん…ひた…ひた…と聞こえてくる…。しかも、複数…!
 
 何事かと目を凝らすと…向こう側から…全身ずぶ濡れで…髪の長い女が歩いて来るじゃないか…!しかも、後ろには同じくずぶ濡れの男3人…!!
(この時寝ぼけていた私は、完全にお父様達のことを忘れていた)
 


「アシュリィ様ぁ…?起こして…しまいましたか…?」

 彼らはそのまま接近し、私に手を伸ばし…!

「ごめんねぇ…遅くなっちゃって…さあ…!」





「ぎ…ぎいやあああああああああ!!!!!」


「「「「ええええええ!!!?」」」」


 パニックになった私は、廊下を全力疾走した。だというのに、後ろから追いかけて来るうううう!!

「ぎゃあ!ぎゃあ!!ぎゃあああ!!!?」


「ま、待ってー!僕だよ、お父様だよ!?」



 どんだけ走っても追っかけてくるううう!!?そのうち1人がすっ転んで、廊下にあった花瓶を落っことした(多分ガイラード)。


 ガッシャアアン!!「ぐああああ!!!」



「な、なんだ今の音!?」

「あ"あ"あ"ーーー!!ディーデリックゥー!!」

「何……ぎゃーーー!!!幽霊いいい!!?」(寝ぼけている)


 合流したディーデリックと共に屋敷中を駆け回る。いずれ他の人をどんどん巻き込んだ追いかけっこは、ドロシーの鉄拳制裁によって終息を迎えた…







 もう二度とこの4人とは海に行かねえ!!!


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

結婚相手の幼馴染に散々馬鹿にされたので離婚してもいいですか?

ヘロディア
恋愛
とある王国の王子様と結婚した主人公。 そこには、王子様の幼馴染を名乗る女性がいた。 彼女に追い詰められていく主人公。 果たしてその生活に耐えられるのだろうか。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

処理中です...