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幼少期
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しおりを挟む~その頃のアシュリィ~
全く、ひいじいちゃんめ。じいちゃんが過去にあんなことしたから、魔族が人間の国でなんかやらかしたら魔王直々に対処するようになったんじゃん!
まあ今回はお父様がいてくれて助かったけどさ!!?…ところで、私はいつ目覚めるのかな?
じいちゃんとの死闘も終わり、泣き疲れた私はそのまま眠ってしまったはず。そしたら夢の中でじいちゃんに引っ張られて…少しだけ、会話出来た。
じいちゃんが消えた後…だいぶこの辺漂っている気がする…!目が覚めると思ったのになー!?
ん…?急に目の前が明るくなり、ようやくかーと思ったら突如そこに吸い込まれた。おごごごごご。
眩しい光に目を閉じ、ゆっくり開けると…ここは…?
ディスター城…ここ、魔国?
見覚えのある内装だ。ここは、魔王の居住する城。私も住んでいたが…え?私寝てる間に移動しちゃった??
とりあえずお父様見つけて…って、なんか変だ。
なんで私は今立っている?ベッドで寝ていたんじゃ?それに、確かにここは私の部屋だったはずだけど…家具とか、前より可愛らしいというか…違和感。
すると…ベッドに誰か寝ていたようで、モゾモゾ動いた。話を聞きたくて声を出そうとしたら…。
声が、出ない?それどころか、ベッドに触れない…手が通り抜けてしまう。よく見たら、私の体浮いとる!
そしてベッドから起き上がったのは…私?
あれは、確かに私だ。でも…少し成長している。多分15歳くらいの時の姿だ。私は、未来にいる…?って、そんなに寝てたってこと!?…いやいや、私ここにいるし。私は私として私を見ている?意味わからん!
その時…部屋の扉が開く。入ってきたのは…
「アシュリィ、目が覚めたのね。」
「お母様!」
…お母さん…なんで、ここに…?
彼女達からは私の姿は見えないようで、お母さんは私の体をすり抜けてベッドに近付く。
「さあ、行きましょう。早くしないとお父様をお待たせしてしまうわ。」
「うぅ…はーい。」
?????全くわからん。メイドさんに支度された私(あっち)とお母さんは部屋を出た。とりあえず私もついて行こうっと。
見覚えのある廊下を進む。ただ…お母さんがいるのが不思議だ…。お母さんは、最期は痩せ細ってしまっていた。それを考えると今は健康的で昔より若返っている気がする。…なんだろう、お母さんに会えたのに…嬉しくない。
そして着いた先はダイニングルーム。そこには、お父様がすでにいた。
「おはよう、アシュリィ。さあ早くお食べ。」
「おはようございます、お父様!」
???????
全くわからん。私が限界まで首を傾げていたら、急に場面が切り替わった。ここは、ベイラー王国の寄宿学校?
「じゃあ、行ってきまーす!」
「「行ってらっしゃい。」」
お父様とお母さんに送り出された私(仮)。どうやら、4年生から編入するらしい。皆に挨拶し、先生に紹介されたのは…
「はじめまして、ウラオノス様。私はアミエル侯爵家次女、リリーナラリスと申します。何か分からないことがありましたら、遠慮なく仰ってくださいまし。」
「ありがとうございます。早速なのですが、校舎の案内をしていただけないでしょうか?」
「もちろんですわ。さあ、参りましょう。」
お嬢様…なんか違う…。目の前にいるお嬢様は、いつもよりお淑やかで令嬢っぽい。そしてやはり成長している。
そのまま私…ああもうややこしい!こっちはヴィスカレットとしておこう。ヴィスカレットはお嬢様と共に校舎を進む。
「やあ、リリー。そちらが例の?」
「ええ、そうですわ。ウラオノス様、こちらアルバート第二王子殿下です。私の婚約者様でもありますの。」
「ご機嫌よう、王子殿下。私はアシュリィ=ヴィスカレット=ウラオノス。本日よりお世話になります。」
「うん。君にとって楽しい学園生活が送れるよう、僕も尽力するよ。」
殿下…ちゃんと愛想笑い出来るようになったんだな…。私が言っといてなんだが、いつもの笑顔の方が、絶対にいいよ…。
「あらリリー。」
「お姉様!ウラオノス様、こちらは私の姉ですわ。」
「そちらは魔王陛下のご息女とお見受けします。ご紹介に与りました、アイニー・アミエルですわ。」
きっっしょ!!?こいつ偽物だ!!!
その後も見覚えのある人達とすれ違う。ランス様ミーナ様、ジェイド殿下トゥリン兄妹リエラ様。
そしてまた切り替わる。今度は…教会?
「まあまあ!お久しぶりですわ、リリーナラリス様!」
「ええ、私が寄宿学校に入ってからは全然来れなかったものね。本日は、お友達も一緒なの。」
「はじめまして、シスター。私はアシュリィと申します。」
シスター…カルマ、パイル。またまた切り替わり、舞台はアミエル侯爵家。
「どうか私の家族を紹介させてくださいな。」
紹介されたのは、侯爵と…レイチェル様。兄2人。なんなんだ、一体…。
今の侯爵家は、家族間の仲も良く理想的な家庭に見える。ヴィスカレットもその輪に加わり楽しそうにお茶にしている…。
切り替わる。ここ…ベンガルド社が経営するブティック…。
「ここのお洋服、素敵ですね。入ってみません?」
「ええ!行きましょうか。」
「…おや、アミエル侯爵令嬢、ようこそいらっしゃいました。そちらのお嬢様は?」
「伯爵様。はい、私のお友達ですの。折角ですから、お揃いの物が欲しいですわ。」
「それではこちらの…」
旦那様…奥には、ハロルドさんも見える。やめて、私は緑じゃなくて青が好きなの。知ってるでしょう…?
また、切り替わる。ここ…確かザイン領?随分と町並みが綺麗だし、お店も賑わってる…。そこにいるのは、ヴィスカレットとガイラード。
「アシュリィ様、ここで何かお買い物ですか?」
「特に予定は無いけど…折角見聞を広めるために魔国を出たわけだし、いろんな場所を見て回りたいの。」
「では、お供しましょう。…おっと。」
「あ!ごめんお嬢さん!オレ急いでて…。」
「いいよいいよ、ぶつかってないし。って、随分嬉しそうな顔だね?」
「ああ!オレな、さっき妹が産まれたんだ!そんで…えーと…何買いに来たんだっけ?」
「何それ!?」
「じゃあオレもっかい家戻る!じゃーな、お嬢さんとにーちゃん!!」
「…騒がしい少年でしたね。」
「あはは、そうだね。」
今…ヴィスカレットにぶつかりそうになったのは…間違えようもない、アシュレイだ!
彼は私とヴィスカレットの向かう先の逆方向に走って行く。こちらを振り返ることもせず…嫌…嫌だ…!待って!!行かないで!!!私は彼に手を伸ばし——
「アシュレイ!!!」
彼は、振り返らない。そうか…あの彼は…アシュレイじゃないんだ…。
そしてまた場面が変わる。というより…ここは…
【なんだか浮かない顔してない?貴女が喜ぶかと思ったんだけどなあ。】
「……どなた様?」
ここは以前ウラオノス様と会った天空の箱庭だろう。でも今は、私と…ゴスロリ風の美少女しかいねえ。
【わたしはエルフェリアスよ。】
…うん、運命の女神様ですね!?
【そうよー。わたしは運命の女神、貴女は時空の女神。今のうちにお近付きになろうかと思ってね!】
あ、そっすか。…それで、私が今まで見ていたものは…夢?それとも…。
【何処かで、あったかもしれない世界よ。貴女が望むのなら、向こうの世界で生きられるけど、どうする?】
エルフェリアス様の話によると…
あちらの世界ではお母さんはお父様と離れることなく私は魔国で生まれ育つ。お母さんは体調を崩すも亡くなることなく…アシュリィ=ヴィスカレット=ウラオノスはお嬢様扱いされながら健やかに成長。
アミエル侯爵家もレイチェル様が産後亡くなることはなく、家族間の関係も良好。問題のアイニーも最初こそは我儘娘だったが、レイチェル様の愛情のおかげで軌道修正できた。
殿下も家族間の確執とか一切無く、他の人々も幸せな暮らしをしている。
アシュレイは…元々ご両親は、重税に耐え切れず泣く泣くアシュレイをスラムに置き去りにしたらしい。その後どちらも栄養失調から病気になり他界。
でもザイン領は子爵も善良な貴族で、領民は平和に笑顔で暮らしている。アシュレイも両親のもとですくすく成長し、なんと妹が生まれた。
そして…魔族と人間が争っていたという歴史は存在しない。リンベルドは弱い者は守ってやらねばならん、という風に改心し姉リスティリアスを支え、今日に至るまで魔国は平和そのものだ。
私も含めて、誰もが幸せに暮らしている。
…流石神様。なかなかエグいことをしてくれる…。
「私は…望まない。大好きなお母さんも生きていて、お嬢様も家族で笑い合えていて、アシュレイも何不自由なく暮らしていても…あそこは、私の居場所じゃない!!」
たぶん…以前の私だったら迷わず向こうの世界を選んだだろう。でも…嫌だ…。
お淑やかなお嬢様なんて嫌だ。なんの魔法を使いたいかと聞けば攻撃一択!と答えるお転婆で勇ましいお嬢様がいい。
私に愛想笑いを向ける殿下なんて嫌い。私達には、無表情か本心の笑顔を見せて欲しい。あんなに紳士じゃなくて、悪戯っ子な殿下がいい。
アシュレイ…あんたの幸せは、向こうにあるかもしれない。だから、これは私の我儘。私のことを、お嬢さんなんて呼ばないで。走って行っちゃわないで、側にいて…。
【…そっかあ。人間って難しいね。まあ向こうは向こうで幸せに暮らすと思うよ。
じゃあ、貴女も目覚めなきゃね。死んだらまた会いましょう!】
…ま、まああれでも、本当に私を喜ばせようとしてくれたんだろう。…さあて、今度こそ起きる時間かな。景色が変わっていく、真っ白になっていく。
運命は変わった。私達は、自分の人生を生きる。
それでも…過去私の選択で不幸になった人々がいるという事実は変わらない。たとえそれが別の時間軸で…現在の私には一切関係ないことだとしても。
私だけは、忘れてはいけない。色んな出来事があって、出会いがあって別れがあって…。
私は全部背負って、歩き続けよう——…
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