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幼少期
過去編
しおりを挟む私が異世界、日本で目を覚まして十数年。現在の名前は神宮寺有朱だ。
最初は戸惑った。ここはどこ、私は誰!?ステータスも見えない、魔力を感じられない!というより体ちっさ…幼児じゃないこれ!?
そして私を見下ろす男女。どちらも黒髪黒目だし、肌の色も見慣れないな?…どこかに連れて行かれて…なんか建物の前に置かれて…ちらちら振り返りながら去って行く…?
どうやら有朱…私は親に置き去りにされたらしく、児童養護施設で育った。
前世…じゃなくて来世の記憶を持つ私は、中々周囲に馴染めなかった。どころか何度も魔法を使おうとしたり、向こうの言葉を使ったりして…今にして思えば、当時の私は「イタい子」だったんだろうな…!穴があったら入りたい…。
向こうの世界では、魂はあっても生まれ変わりという概念は無かったと思う。だから私は自分に何が起きているのか理解できず、他人の身体を乗っ取ってしまった!?と思った。実際乗っ取ったようなもんだよね。
そんな時、輪廻転生の本を読んだ。なるほど、死んであの世に行った魂がまた何度も生まれ変わる…ふむふむ。幽霊…妖怪…宇宙人…ふむふむ。つまり私はアシュリィが産まれる前まで戻ってしまったんだな、となんとなく理解出来た。
この世界で私が出来ることは何もない。魔法も魔族も禁書も、お父様も誰もいないから。私は数千年ぶりに、自由になった気がした。
というより…この世界には私が依存できる相手がいなかったんだろうな。私のことを無条件に愛してくれる、そんな人。…いなくて良かった。
もしもいたら、私は自分の異常性に気付けず…何も変わらないままだっただろうから。
そんな時、中学生になった私は運命の出会いを果たす。それは橋本愛斗と坂崎凛々。後に彼らとは、親友と呼べるまでの仲になる。
「なあなあ、この漫画読んだか!?すっげー面白いぞ。」
「ねー、このイベント一緒に行こう!この声優さんめっちゃ格好良くてー、あたし将来声優になって彼と結婚するんだ!」
彼らは、オタクだった。何故そんな彼らが私に話しかけてきたかと言うと…私の小学生時代の噂を聞き、同類だと思われたらしい…。こう、厨二的な…ね。
でも私は否定しなかったし、この2人と一緒にいるのは楽しかった。次第に私も漫画やアニメやゲームにハマり…うん、染まった。
私はあまりお金が無かったから、彼らに漫画とかを借りることが多かった。愛斗の家で暗くなるまでゲームして、凛々の家に泊まったりして。来世の世界でも、こんな風に友達と過ごしたことは無かったな…。すごく、楽しかった…お父様のことを、忘れかけてしまうほどに…。
高校生になり、私は大学用の資金を貯めるためバイトに明け暮れた。彼らとも疎遠になってしまう…と思っていたが、2人は私の休みの日に合わせて一緒にいてくれた。…嬉しかった。大体漫画読んでるだけだったけど。
そのうち自分達で創作するようになり、私は気まぐれに…来世の世界でのことを語ってみた。日本では有り得ないファンタジーな世界だから、まさかノンフィクションとは思うまい。というより、私にとってはこっちの世界のがファンタジーだけどね。
そしたら2人は、続きをどんどんせがんだ。私は考える振りをして、話した。2人共楽しそうに聞いてくれて、楽しかった。
ちなみに凛々が結婚する!と言っていた声優は私達が高校生の時一般女性と結婚した。その日の凛々は凄まじかった…。
朝のスマホでニュースを見て、人目も憚らず泣きまくった。授業中は呪詛を吐き、クラスメイトどころか先生の誰もが目を逸らす。放課後は私のバイトも偶然休みだったため、カラオケに愛斗と共に引き摺られていって。そして件の声優のキャラソン、主題歌メドレーを延々聴かされた…。
ちょっとだけ、面白かったのは秘密だ。次の日には別の声優の追っかけ始めてたし…強い。ちなみにその声優さんは私達が大学生の時に漫画家さんと…やめておこうか。
そうして私達は大学も同じところにした。学費の安い教育大学で、結構自由の利くところだった。私は寮に入り奨学金とバイトで生活をしながら…と思っていたら、入学してすぐに愛斗が提案してきた。
「なあなあ、卒業制作でゲーム創ろうぜ!!ほら、有朱が前言ってたファンタジーなやつ!」
「いやまだ入学したてだけど?そもそも学科が」
「いいねー!ストーリーは有朱で、あたしと愛斗で制作にする?」
「聞けやあんたら!!まだ早過ぎんでしょうが!」
「んなことないし、4年間みっちり時間掛けて超大作を創るんだ!!」
「さんせーい!キャラクター原案も有朱ね!」
「聞けっつってんだろうが!!?」
…この2人と一緒にいると、自然と私が突っ込みに回る。なんだか言葉使いも悪くなった気がする。でも、振り回されるのは悪くない。…ああ、楽しい、なあ…。
そうして私はストーリーを考えた。月光の雫に選ばれることの多かったランスとミーナを主人公にし(ついでに顔も良いので)、恋愛要素も入れた。悪役は自然とアルバートとリリーナラリスになったが…なかなかハマった。
私はお父様を助けるために徹底的に調査したから。アルバート、リリーナラリス、ランス、ミーナ、その他の経歴やら成績やら人間関係やらも網羅していた。それを基に、ストーリーを書き上げたのだ。
ハッピーエンドは私の完全ストーリー、ノーマルエンドは…かつて実際にあったこと。
私が16歳以上の先を生きた唯一の人生、最初の記憶。私は時間遡行魔法の開発をする傍ら、息抜きに他国に出掛けることもあった。
そこで見かけた2人の老婆。…リリーナラリスとミーナだった。私の知る2人は敵対していたはずだったが…とても楽しそうに笑い合っていた。彼女らにどんな心境の変化があったのかな…と思いながら書いた。
そしてトゥルーエンド。…一度だけあった、あの2人が命を落とす人生。それが真相に近い気がして、私は採用した。
ちなみにゲームにアシュリィ…魔王の娘はいない。自分をモデルにするとか、恥ずかしいので!!ストーリーをRPGゲーム風に改変し、半年かけて書き上げた。いやー、後半ノリノリで書いたった!!
ドキドキでストーリーを愛斗と凛々に見せると、絶賛してくれた。そしてこの悪役の2人が好き、と言ってくれたのだ。…違う世界だけど、そう言ってくれる人がいることが嬉しかった。
そうして3人で試行錯誤して色々改善したり要素を追加したり、時には他の人も巻き込んで…ついにPCゲーム「月光の雫」が完成。それを祝い、3人で打ち上げをした。
「いやー、やり切ったな!」
「本当にね!有朱もストーリーご苦労様!あんたのおかげだよ~。」
「3人で頑張ったからでしょーが。
…ねえ、もしもさあ…大切な人が…理不尽に死んでしまったら。2人だったらどうする…?
犯人を恨むことも出来ない、ゲームで主人公が悪役を斬った時のような、そんな状況で…世界平和の為に、自分の家族が犠牲になったら…。魔王が、大好きな自分の親だとしたら…?」
楽しい飲みの席で聞くことではない。それでも、どうしても聞いておきたかった。あの世界とは異なる価値観を持つ2人に。
私の急な問い掛けに、彼らは笑うことなく真剣に考えてくれた。
「俺だったら~…主人公を責めることは出来ないけど…受け入れるのも難しいだろうなあ。」
「そもそもあたし達は想像でしか語れないから…ただの理想になるよ?」
「理想?どゆこと。」
「綺麗事しか言えないってこと。口ではいくらでも言えるだろ。
俺は誰も恨みません!きっと父は世界の平和を喜んでいるでしょう、俺もそんな父を誇りに思います!とか?」
綺麗事、か…。もし本当に魔法なんてものがあって、時間を巻き戻せるとしたら?使う?
「「使わない。」」
「そう…なんだ。ちなみに理由は?」
「まず前提として…今は使わないって答えたけど、実際そういう状況になったら断言できないよ?」
「だよな。でもさあ…時間を戻した結果、更に酷い状況になりかねないよなー。」
「そもそもそんな凄い魔法が無制限で使えるとは思えないし。回数制限とか記憶の制限とかありそう!」
更に酷い状況か。…魔王が世界滅ぼしちゃうとか?
「そうそう。自分の選択のせいで…助かるはずだった人々が死ぬとかね。」
「なんにせよ、妄想でしか語れないからな。…でも、家族の死を受け入れられなくて、時間を戻したい程に焦がれて、塞ぎ込んでる人を…否定することは出来ないよな。」
「ね。かける言葉は分からないけど…元気出して、とかお父さんが悲しむよ!なんてこと軽々しく言えないよ。」
「でも…寄り添うことは出来る。もしも後を追おうとしたら、全力で止める。でも実際俺がその魔王の立場だとしたら…子供には自分の死後も元気に生きて欲しいと思うよ、きっと。」
「自分のことは忘れて…とは言えないね!良い人見つけて結婚したら、自分の墓前に報告して欲しいな。子供が生まれて育児に追われて…いつか、自分のことを孫に語って欲しいかも。」
その後も2人は色々意見をくれた。それはどれも…心当たりのあるものだった。
私…アシュリィの周りには、沢山の人がいたはずなのに。教会から始まり、魔国、寄宿学校…どうして私は、周囲に目を向けなかった?
『初めまして、アシュリィ。今日からここが貴女のお家ですよ。私達のことは家族だと思ってね。』
優しく声をかけてくれたシスター。
『見てみて、綺麗な花でしょう?教会の庭に咲いていたのよ。アシュリィにあげる!』
私が教会に馴染めるように率先して手を伸ばしてくれたベラちゃん。
『アシュリィ様、今日は天気が良いからテラスに出ませんか?籠ってばかりではいくら魔族といえど、身体に悪いですよ。』
お姉さんのように、私にいつも構ってくれて一番可愛がってくれたアンリエッタ。
『……一緒に寝ませんか?私、少し肌寒くて!』
不器用に、私を慰めようとしてくれていたドロシー。
『えーい、いつまで落ち込んでいる!さあ、一緒に筋トレするぞアシュリィ様!体を動かして、陛下を…陛下のことを…ううう…!!』
大きい体で涙脆い、自分も悲しいのに私を励まそうとしてくれたルーデン。
『………食事です。ほら、口開けて。私が食べさせてあげますから、何か召し上がってください…。』
常に寄り添ってくれた…最初の人生で、私の夫になったガイラード。
他にも、沢山。人間も魔族も、私に手を伸ばしてくれた人はいたはずだ。なんで私はその手を取らなかった?何故お父様しか見ていなかった?まさかお父様を男性として愛していた?…うん、それは無いな。無い無い。
何千年経っても、私はまるで成長していないんだな…。もう…誰かに依存するのはやめよう。今度は、お父様とも適度な距離を保って。辛い時こそ前を向いて…アミエルさんとアルバート殿下は、友達になってくれるかなあ…。
「「もう友達だよ。」」
「え?」
今、なんて?
「ん?俺今なんか言った?」
「あたしも?」
…いや、何も。
いずれ私はこの世界で死んだ後、また向こうの世界に渡るだろう。今度は…お父様が死んでしまっても時間は戻さない。戻したところで私は死ぬだろうし、お父様はきっと望まない。だから…その時は…さようなら、だね…。
ねえお父様。お母さんが死んだの…私のせいなんでしょう?人間の女性が、魔族の子供を身篭ったから、でしょう?
だってお父様がいつも話してくれたお母さんはパワフルで、病気なんて一切しなそうで。でも私の知るお母さんは最初から病弱で…私が、お母さんの命を奪ったんだよね。お父様も気付いていたよね…その上で、私に「生まれてきてくれてありがとう」と言ってくれた。
…うん。私はもう後ろを向かないよ。前を見て、歩いて行くから。だから。
「!?有朱、どうしたの?」
「どうした、唐辛子でも食ったか?ほれ水!」
私は、大粒の涙を流していた。今だけ、この2人の優しさに甘えていたい。そうしたら私はまた頑張れるから…。あと愛斗、それはあんたの麦焼酎だ…。
でもこの後…私達は卒業旅行で…恐らく事故に遭った。原因は、私達の乗る車に信号無視の車が突っ込んできたこと。少なくとも、私の記憶はそれ以上ない。せめて2人は助かって欲しいな…知ってんだぞ、愛斗と凛々が両想いなの。あぶれる私に気を使ったんだろうけど…ぶっちゃけモヤモヤするからとっととくっつけ!と思っていたよ。
私はお別れしたけど…どうか彼らが幸せになりますように。さようなら、ありがとう、私の親友。今度こそ向こうの世界でも、2人のような友人が出来るといいな…。
気が付けば、いつか夢に見た場所にいた。そしてそこにいるのは、神様っぽい白い人。
【その表現はやめなさい。…お前は今からアシュリィに戻る。その前に、お前の記憶を封印するよ。】
「記憶を?」
【いずれ、時がくれば次第に解ける。それまでは、全部忘れていなさい。忘れて…新しい人生を歩みなさい。お前は次に死んだ時、神の座に座ることになるだろう。時空の女神として。】
「いやなんで!?」
【神は生まれながらの者と、死後神になる者がいる。私もそうだ。お前も、強力な力を得過ぎたんだ。】
ああ、そうか…この人は…。ずっと私を見守っていてくれたんだな。
【可愛い子孫だからな。…さあ、お行き。またここで出会う時、沢山お前の物語を聞かせておくれ。】
はい…。行ってきます!初代魔王陛下にして、刑罰の神・ウラオノス様。
そうして私はアシュリィとしてまた生まれた。でも今度は…全然違う人生を歩んでいる。6歳で記憶が少し戻ったおかげだろう。お嬢様とも友達になれた。アルバート殿下も、他にも沢山。そして、アシュレイ…。
そして今、侯爵は禁術を使ってしまった。本来なら、私が15歳になってからのはずだが…未来が、運命が変わった結果だろう。絶対に止める。今ならまだ、お父様も他の誰も命を落とすことはない!
どうか見守っていてください、ウラオノス様。次に天空の箱庭に降り立つ時は、お茶とお菓子の準備をしておいてくださいね。私の物語は長くなりますから!
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