私の可愛い悪役令嬢様

雨野

文字の大きさ
上 下
62 / 164
幼少期

62

しおりを挟む

 少しだけトレイシーがどう戦うのか観察していたけど…巨大斧か。それを自在に振り回す姿…不覚にも、ときめいた…!!
 くそう、格好いいじゃんか…!!血塗れだけど、足下に死体転がってるけど!!あの姿にときめく私やっぱ普通じゃないのかな?落ち着けアシュリィ、あれはただのハゲだぞ!!…ぐああああ!!!


 
 トレイシーと合流したら、服に包まれた子供を渡された。これ…犬耳!?ケモミミしっぽ!獣人!?あ、獣憑きってやつか!


 獣憑きとは。私も本で読んだだけだし、絵本の中の話だと思っていたが…遥か昔のどこかの王国で。一匹の美しい狐がいた。その子は神の御使で、神獣として敬われていた。
 だが当時の女王が「あの美しい毛皮で襟巻きを作りたいわ」なんて言っちゃった。女王のお願いを叶えられれば、素晴らしいご褒美が貰える。臣下達は張り切って神獣を殺して女王に献上した。
 当然怒るのが神様。人間の世界に降り立ち、「私の狐を殺したのは誰か」と問い掛けた。すると誰も彼もが「女王様です!!!」と答えた。
 怒った神様はその女王を殺してしまい、更に国民を獣の姿に変えてしまった。しかし年端も行かない幼子は難を逃れたのだが、それ以来彼らの子供孫子孫に稀に、獣の姿で生まれる子供が現れたそうな…。

 うーん、先祖返りみたい?この子もその1人か。ただの御伽話じゃなかったんだな、流石ファンタジー世界。
 彼らは数が少ない上に、その愛らしさからこのように売られることも少なくない。もしくは穢らわしい、関わると神罰が下ると迫害されもするらしいが。…今は眠っている、目が覚めたら、この子の言葉を聞こう。


 それよりも、遂にこの計画も佳境を迎える。観客共が騎士に次々捕縛されているのだ。私も参加したいが今はこの子の安全が優先だ。トレイシーはアシュレイ達がいる方に向かうと言って去って行った。
 子爵は…いた。縛られてボンレスハムみたいになっとる…。しかしなんかスムーズすぎない?もっと苦戦するかと思ってたのに。まさか私達は罠に嵌ってしまい、この建物ごと爆発させる仕掛けがあるとか!?


「ないないです。自分達も微力ながらお手伝いしましたので。」

「うおっ!?…あ!半人前の影!!」

「その覚え方ですか…。」

 私の背後にぬっと現れたのは、ミーナ様付き予定の影!!お手伝いって?


「ああ、お金は発生してないのでご心配なく。お頭は貴方に借りでも作りたいんでしょうかね。我々の訓練も兼ねて、この逮捕劇に参加させていただきました。そろそろ撤収致しますので、またお会いしましょ」

「喋り過ぎだ。」

 あ、ゲンコツ…。先輩と思われる影に半人前は連れ去られた。相変わらず口軽いんだから…借り、ねえ。まあ助かったし、覚えておきましょう!


 私は子供を抱えて逃げ回っていたが…もうこの騒動も終わりだな。会場内はすでに制圧完了。中にいるのは騎士か死体か捕縛された者のみ。他はどうなったかな…。



※※※※※※※


「あ、いたいた。チェルシー、あれ捕まえてえ。」


 ジュリアの言葉に彼女の精霊、チェルシーは植物の蔓で逃亡者を吊るす。ジュリアは今、リュウオウに乗り上空にいる。

「結構逃げるもんねえ。まったく男共の仕事は荒いんだから。でもさっきから捕まえる前に気を失ってるの多いわね。協力者でもいるのかしらあ?
 あ、また。チェルシー、あっちも。」


 こちらは異常無し。




※※※※※※※



「おい!!商品はどうした!」

「それが強力な結界に阻まれて、手が出せません!!ここは諦めて逃げましょう!」

「クソがあ!!あれだけの逸品を集めるのに、どれだけの時間と金を掛けたと思っている…!!
 仕方ない、撤収しろ!オークションを滅茶苦茶にしてくれた奴…許さんぞ…!必ず地獄に叩き落としてやる…!!」



「そりゃこっちの台詞だ。」

 
 抜け道を走る連中の前に現れたのはセイドウ、アシュレイ、他数名。予想通り、支配人及び数名の護衛、スタッフはここから逃げようとしていた。


「貴様らか犯人は!!よくもやってくれたな、貴様らのせいで私の人生はもうお終いだ!!
 信用も失ったし大切な商品もだ!!貴様らが邪魔さえしなければ、私はまだまだこの社会で幅を利かせられていたというのに!!」


 まるで自分たちは完全なる被害者で、こちらが悪人だという物言いにセイドウ達は呆れ顔だ。

「俺らも良い人じゃないスけど、こいつらにゃ負けまスね。」

「あー、お前ら。大人しく捕まるのであれば手荒な真似はしない。だが抵抗するというのであれば…」


「黙れえっ!!お前ら、こいつらを皆殺しにしろ!!」

 
 支配人らしき男の命令で、護衛が飛び出す。人数的には護衛が不利だが、狭い通路なので勝算アリと踏んだのだろう。その判断は間違いだが。
 護衛とセイドウ達が剣戟を繰り広げる中、支配人達に忍び寄る影がひとつ。
 


「みーつけた。」

「は——ぐぎゃっ!?」


 護衛が何事かと振り向いた瞬間、セイドウの剣がその身体を捉えた。戦場においては一瞬の隙が命取り。というより…護衛が主人から離れた時点でもう駄目じゃねえか、とセイドウは思った。


「会長すげえ血塗れじゃねえか。怪我してんのか?」

「だからしてねえーっての。」


 セイドウ達とは反対側からやってきたトレイシーが、残りを全て捕縛したのだ。ここじゃ狭くて斧使えねー、と愚痴りながらもロープでぐるぐる巻きにする。

「オレなんもしてない…。」

「はっはっは、俺もだ!全部嬢ちゃんやトレイシーに持って行かれたなあ!!」

「そりゃわりーな。とにかく俺は残党探しに行ってくる。あんたらはお嬢と合流しな。」

 そう言い残しトレイシーはまた移動した。あいつは働き者だなあ、実に頼もしい!と笑うセイドウ。


「(負けた…)」


 まあ、アシュレイまだ子供ですから。



 そんなこんなでオークション会場は拍子抜けするほどあっさりと制圧した。だがまだまだ…夜は長いのである。

 
 この長い夜が、アシュリィ達の運命が変わる日になる。







※※※※※※※


その頃。王宮にて。


「…頭が痛い…。」

「お気持ちは分かりますが、ご理解ください。昼間のトゥリン家でのお茶会にて、アシュリィ様がアミエル侯爵家に宣戦布告したとの報告です。
 証人達の言葉は全て一致しており、真実かと。」

 そう淡々と説明するのは宰相。アルバートの予想通り、話は国王まで伝わっていた。予想よりも早かったが、国にとっては一大事。

「(ハルク…お前はもっと賢いと思っていたのにな)」


 アルバートがリリーナラリスと婚約したいと言ってきた時、国王はじめ周囲は戸惑った。なにせ相手は悪い噂の絶えない令嬢だ、完璧な侯爵家の唯一の汚点とまで言われていた。
 故に我が子が可愛い国王はリリーナラリスについて調査した。そうしたら結果として、リリーナラリスの悪評は噂しか無かった。実際に横暴な振る舞いを見たと言う者は家族しかおらず(特にアイニー)、それどころか教会の子供達に慕われているという。

 何かおかしい…しかしあの優秀な臣下であるハルク・アミエルが、と思ってしまった。これまでの功績もあるし、不当に娘を虐げているなど断定は出来ずにいた。


「(茶会でのやりとりはすでに社交界に知れ渡っている。もっと早く、リリーナラリス嬢の話を聞けば良かった…。)」

 過ぎた事を悔やんでも仕方ない。こうなった以上アミエル家を捜査し、然るべき処置をしなくてはいけない。魔国に、我々に敵意はないと証明する為にも。


 国王がそう指示をしようとした時、執務室にノックもせず飛び込んできた1人の騎士。そして急ぎ礼をとり、「ご報告申し上げます!」と言った。本来なら厳罰ものだが、緊急事態のようだ。そう感じ取った国王及び宰相は、次の言葉を促す。




「そ…その…現在!!ま、魔王陛下がお見えになっております!!
 高貴なお方専用の応接間にお通し致しましたが、至急国王陛下にお越し頂きたく存じますっ!!!」


「「……………。」」

 開いた口が塞がらない2人。だがこの騎士の様子からして偽りではなさそうだ。こんな嘘ついたら厳罰ものだが。
 というより、罰しないから「冗談でーす!!!」と言ってほしい。今なら国王も宰相も「んもぉー、ビックリしたー!!」と答えるから。




「……オスカー。」

「……なんですか、陛下。」

「気絶してもいいか?」

「今すぐ向かいなさい!」


 いいから早く向かってくれ!!!と思っている騎士であった。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜

月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。 だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。 「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。 私は心を捨てたのに。 あなたはいきなり許しを乞うてきた。 そして優しくしてくるようになった。 ーー私が想いを捨てた後で。 どうして今更なのですかーー。 *この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

女性が少ない世界へ異世界転生してしまった件

りん
恋愛
水野理沙15歳は鬱だった。何で生きているのかわからないし、将来なりたいものもない。親は馬鹿で話が通じない。生きても意味がないと思い自殺してしまった。でも、死んだと思ったら異世界に転生していてなんとそこは男女500:1の200年後の未来に転生してしまった。

処理中です...