私の可愛い悪役令嬢様

雨野

文字の大きさ
上 下
60 / 164
幼少期

60

しおりを挟む

 ゾクリ……

 なんだ?今なんか…ものすごい寒気が…?武者震い、かな?これから大事な作戦開始なんだから、気合入れてかなきゃ!


 オークション会場はザイン領の端にある。周囲に民家は無く、すぐ側には深い森が広がっている。ここでなら多少魔法をぶっ放しても大丈夫だろう。
 会場より離れた場所、集合場所に丁度騎士達も到着したらしい。そこで団長は作戦を伝える。あらかじめ地図を見ながら、待機場所は決めていた。その周辺を私とアシュレイが調査する。もしも見張りなんかがいたらやばいからね。
 ん、なんで私達なのかって?そりゃ私だったら相手を音も無く落とせるし何より…。




「おい坊主共、何してんだ?」

「ん?僕達この辺初めて来たんだけど、迷ったみたいなんだー。」

「おじさん道知らねえ?俺ら近くの町にいたはずなんだ。」

「ったくしょうがねえな…あっちに真っ直ぐだ。もうこっちに来んじゃねえぞ。」

「「ありがとー!」」




 
「ここには見張りが2人いました。眠らせて成り代わるか、この場は捨てるかしないといけませんね。」

「よし、了解。始まるまでは荒事は避けたい、全員ここは気を付けろ!」

 とまあ、見つかってもとぼけられるのさ!この格好からして男の振りになるが…まあいいさ。他にも方法はあるけど、これが確実で簡単なんだ。
 さて…下準備も終わったところで、潜入開始!正装に身を包むトレイシー…は、まるで貴族だな。こりゃすごい。そして私は身体を透明にし、肩車!!話し合いの結果このスタイルに落ち着いた。トレイシーは自然に歩けるし、私も高い所から周囲を見下ろせる。それに透明になってるだけだから、触られたらバレるし。ここになんかある!って。だから他人と接触しないこの高さがいい。



「では行ってきます!」

 作戦開始!!






「ようこそおいでくださいました。招待状を拝見致します。」

「どうぞ。」

 トレイシーが受付のような所で招待状を渡す。それをじっくり見た受付は笑顔で仮面を差し出す。

「はい、確認されました。それではこちらをお着けになって、あちらの扉からお進みください。」
 
「ありがとう。」


 第一関門突破!進んだ先には…薄暗いホール。誰も彼もが仮面を着けている。うーんそれっぽい…。
 どうやら席は決まっているみたいで、トレイシーは良い席のようだ。舞台に近く、私も行動しやすい。ありがとうシャリオン伯!!
 トレイシーが私の左足を叩く。左を見ろってことね…エイス・ザイン!!うわ、実物見たの初めてだけど、本物のカエルよりカエルらしい。あれ仮面意味ないな、バレバレじゃん!!

 そんな発見もしつつ、歓談する仮面の紳士淑女を通り過ぎ席に座る。…ん?子爵がこっち来る…ん…んん!?

「「(お前席隣かよ!!?)」」

 嘘でしょ、そんな奇跡ある!?しかも話しかけてきやがったあああーーー!!!



「いやあ、相変わらずここの空気は肌に合う。今宵の商品が楽しみでたまりません。そうは思いませんか?」

「…ええ、まことに。何度足を運んでも、年甲斐もなく心躍るというもの。貴殿も同様と見受ける。」

 武士かお前は!なんでシャリオン邸のように振る舞えないのさ!!あん時感心してたのに、お前はこの場でどういうキャラを通す気だ!ああほら、カエルにも引かれてんじゃん!
 だが幸いにもそれ以上の会話は無く、ステージが騒がしくなってきた。


 私の仕事は、盛り上がってきた中盤で舞台裏に侵入すること。落札された物もその場で客に渡すのでなく帰る前らしく、それまでは保管されている。
 なので私が商品を全て保護したところでトレイシーに合図する。合図を受けたトレイシーが大暴れ、会場をめちゃくちゃにする。
 だが騎士が突入するまで1人でも逃したくないので、ジュリアさんが巨大な結界を会場全体に張る。
 トレイシーが外に合図したらジュリアさんが魔法を解き、騎士突入…の流れである。


 なので暫くは、大人しくオークションを見ていようっと。ちょっと興味あるしね。…奴隷とかは嫌だけど。この国奴隷禁止だし。




「それではお集まりの紳士淑女の皆々様。ご来場いただきありがとうございます!」

 お、始まった!

「…それでは挨拶もそこそこに、早速競りを開始致しましょう!今回も素晴らしい商品が揃っておりますよ!」

 会場内が拍手に包まれる。バレなそうなので私もイエーイ!!と言いながら拍手する。貴様ら全員数時間後にゃブタ箱だぜえ!!今のうちにはしゃいどきなあ!!!…足をつねられた。


「さあまずは小手調べ。最近発掘された剣でして…年代物で美しい装飾が施されてはおりますが、いかんせん斬れ味が悪い。格安価格でスタート致しましょう!」

 おお、剣!!どんなかな!…とわくわくしながら待っていたのだが…。



「ほああああっっ!!?」

 会場内の歓声と共に、つい私も叫んでしまった…!ああ、周囲の視線が…!!

「あの…失礼。今の可愛らしい声は貴方でしょうか?」

「………あっははは!これは失礼した。私は興奮するとついこのような声が出てしまうのですよ。いやあ素晴らしい剣だあっはっはっは!!!」

 いてててて!!!ごめんごめんってば!!そんなにつねんないでー!!



 いやだって、あれ…「月光の雫」じゃねーか!!なんでこんな所に…!?発掘されてんじゃねーよ、用があるまで埋まってろ!!
 ただ覚醒はしていないな。まあゲームでもあと数年先だし…最優先でとっとこう。


「それでは、30セキズから!スタートです!!」


 やっっっす!!!300万円相当かよ、300億でも足んねーよ!馬鹿かお前ら、そいつに値なんか付けらんねえよ!?伝説どころか幻の逸品だよ、これだから素人は!!!
 トレイシーの頭を3回叩く。買え、という合図だ。もちろん払わんが。オークションの参加者になりきるため、何回かは競りに参加するつもりだったんだよね。さっきトレイシーは素晴らしい剣って言ってたし、周囲には怪しまれまい。


「…50セキズ!!」

「はい、50セキズ出ました!他にはいらっしゃいませんか!?…それでは、そちらの紳士様50セキズで落札でーす!!」

 会場内が盛り上がってきた。落札したトレイシーに係員が近付き、カードを渡す。落札の証だ。


 その後もオークションは進み、そろそろ動こうかな…。トレイシーの頭を撫でる。作戦開始の合図だ。僅かに頷いたのを確認し、ステージ上に飛び移る。足音を立てないよう、そーっと、だ。
 そのまま商品が出てくる幕の裏に…おとと、新しい商品が出てきちゃった。少し避けて商品に目を向けると…人間、か?シーツが被さってるけど、僅かに中が見えた。…後で、必ず助けてあげるからね。そう決意しながら裏に進む。







「さあーて、お次は目玉商品ですよ!!この国では見られない、獣憑きの子供です!!5千セキズからスタート!!!」

しおりを挟む
感想 172

あなたにおすすめの小説

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

よくある父親の再婚で意地悪な義母と義妹が来たけどヒロインが○○○だったら………

naturalsoft
恋愛
なろうの方で日間異世界恋愛ランキング1位!ありがとうございます! ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 最近よくある、父親が再婚して出来た義母と義妹が、前妻の娘であるヒロインをイジメて追い出してしまう話……… でも、【権力】って婿養子の父親より前妻の娘である私が持ってのは知ってます?家を継ぐのも、死んだお母様の直系の血筋である【私】なのですよ? まったく、どうして多くの小説ではバカ正直にイジメられるのかしら? 少女はパタンッと本を閉じる。 そして悪巧みしていそうな笑みを浮かべて── アタイはそんな無様な事にはならねぇけどな! くははははっ!!! 静かな部屋の中で、少女の笑い声がこだまするのだった。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

処理中です...